これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

寒い朝

2021年01月10日 23時09分34秒 | エッセイ
 二度目の緊急事態宣言が発出される前から、週末は、ひたすらステイホームで過ごす。
 もちろん来客はない。
「なんか、アサリが食べたくなっちゃった。お昼はボンゴレにしようかな」
「いいね! ボンゴレか」
 夫も喜び、メニューが決定した。スーパーでは殻から身を出し、元気そうなアサリを買い、冷蔵庫に保管する。いざ調理しようと、取り出してみて驚いた。
「あれえ、アサリが動かないよ」
 冷え切った水の中で、どのアサリもダランと体を伸ばしたまま、固まっている。これはマズい。死んでしまったのだろうか。砂抜きしようと、塩水に浸けても、姿勢はそのまま変わらない。



「寒くて仮死状態なのかも。様子を見てみよう」
 1時間後にザルに上げたときは、警戒して体を殻に引っ込める動作をしたので、死んではいなかった。ホッとしてフライパンに並べ、無事にボンゴレが完成した。



「いただきまーす!」
 このところ、日本海側は大雪だし、東京でも最高気温が6度とか7度とかで、やたらと寒い。こういうときは、真冬に羽化したキアゲハを思い出す。
 小学生だった頃だ。庭で見つけたキアゲハの幼虫を、姉や妹と飼っていた。エサはパセリ。スーパーで買ってきて、せっせと食べさせたものだ。数匹いたが、成長のスピードには個体差があった。
「あ、もうサナギになってる」
 リズミカルな動きをするイモムシも、だんだんスローになっていき、朝起きたら一匹また一匹とサナギ化していく。ついには、全部の幼虫がサナギとなり、これまた順番に羽化していく。
 蝶になったら庭に放し、どこかに飛んでいくのを見送った。ところが、最後のサナギだけ、なかなか羽化しないまま、冬を迎えてしまった。
「寒いからかな。春になったら蝶になるのかも」
 姉とそんな推測をしていたのだが、ちょうど年明けの寒い頃、暖房をつけて暖かくなった部屋で、サナギに変化が表れた。
「え? 蝶になってるよ」
「春と間違えたんじゃない?」
 何と、最後のサナギは真冬に蝶となってしまい、私たち姉妹を大いに困惑させた。外に放すわけにもいかず、狭い虫かごの中で砂糖水をエサに、キアゲハをどうにかして飼わなければならない。夜になり、人気のなくなった居間に虫かごを置いて、私たちは部屋に引き上げた。
 ところが、翌朝、居間に様子を見に行くと、キアゲハが死んでいる。
「かわいそうに。寒かったんだね」
「あとでお墓を作ってあげよう」
 そんな相談をして朝食を終えた頃には、室温が上がっていた。虫かごにも太陽の光がさんさんと降り注ぎ、ちょっとした小春日和になっている。すると、さっきまで死骸のように見えたキアゲハが、大きな羽を動かし、窮屈そうにかごの中を飛び始めたのだ。
「あれっ、生き返った」
「死んでなかったんだ」
 おそらく、寒さで仮死状態になっていたのだろう。その後も、朝は死んでいるが、暖かくなると動き出すことが続いた。やがて寿命を迎えたのか、暖かくなっても、ついに動かなくなる日が来た。ひと月までは生きなかったけれど、よく頑張ったと思う。
 冬至から2週間が過ぎた。これからは、どんどん日が長くなるはずだ。
 コロナ禍で制限された毎日が続くけれど、春になれば虫たちも元気に家までやってくる。
 来客のない今は、それを楽しみにしようかな。


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コメント (8)
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