私の本棚には『日本の絶景、癒しの旅100』という本がある。
ここに、四万十川が載っているのだ。佐田の沈下橋とともに。
「四万十川は最後の清流といわれているんだって。すごくキレイよね。ここにも行こう」
るるぶと絶景本を見比べながら、娘に話しかけた。タクシーで回って写真を撮り、美味しい魚料理をいただく計画が浮かんでくる。
ところが、彼女は別のページを見ていた。
「四万十川でカヌーができるって書いてある。やってみようよ」
「ええ~、カヌー?」
暇さえあればスマホを触ってばかりで、内臓脂肪をためこんでいる娘が、まさかアウトドアに目覚めるとは。
「よし、せっかくだから行くか」
体験施設に電話をかけたら、希望日の午後に、すんなり3人分の予約も取れた。カヌーに必要なものをキャリーに詰める。
「えーと、水着とクロックスとTシャツ、帽子にサングラスだね」
お尻は絶対濡れるので、最初から水着を着ていたほうがいいのだとか。上からはおるTシャツは、乾きにくい綿を避けるそうだが、私は綿以外持っていない。
「あっ、これどう?」
「やだ、それ、ミキの高校時代の体操着じゃない。袖に名前も入ってるよ。恥ずかしいな」
「だって、デサントだよ。着心地いいし乾きやすくて最高。これにする」
「勝手にして」
ふと、母が私の高校時代のジャージを履いて、農作業をしていたことを思い出した。しょうもない母親だと呆れていたが、私も同じことをしているではないか。まぎれもない親子である。
今年は、やたらと雨が多い。幸い、カヌー当日は昼過ぎから晴れて暑くなった。
ラッキー! 半袖から伸びる腕には、しっかりと日焼け止めを塗った。
「帽子の上からヘルメットをかぶってください。ライフジャケットはすき間のできないように、ひもを引っ張って」
2人乗りのカヌーは、めったに転覆しない構造になっている。しかし、1人乗りは違う。岩などに頭を打ちつける危険性があるから、ヘルメット着用が必須のようだ。心配になって、インストラクターに聞いてみた。
「どのくらいの割合で転覆するんですか」
「そうですね、午前に1人、午後に1人といったところですよ」
思ったよりは少ない。転覆するのは、ほとんどが大人の男性と聞いて驚いた。
「重いからでしょうね。バランスを崩すとひっくり返ります。子どもは軽いから、まず大丈夫」
午後の部は1時開始だが、最初の1時間はパドルに慣れるため、施設近くの浅瀬で練習する。その後、四万十川を3kmほど下り、ツーリングに出発する。川から上がったらバスに乗り、3時半ごろ施設に戻ってくるという段取りだ。
手漕ぎボートの経験があれば、カヌーにもすぐ慣れる。進むのは簡単だからナメていたら、止まったり、方向転換をしたりするのが難しく、他のカヌーにぶつかってしまった。思った以上に力がいる。始めて15分後には、腕が疲れてきた。
スタッフが体験中の写真を撮ってくれるので、終了後に購入したのだが、仏頂面の写真ばかりでガッカリした。夫と娘は笑顔が多い。カメラ写りを考えて、作り笑いぐらいすればよかったと反省する。
人物だけでなく、風景もしっかり写っていた。
目で見た景色が一番とはいえ、砂利まで見える四万十の澄んだ水、濃い緑、青い空、綿菓子を散らしたような白い雲は忘れがたく、写真に残ったことが嬉しい。
平成17年9月には、台風による大雨で四万十川も氾濫したという。当時の水位を記録した杭は、背丈よりもはるかに高かった。
さて、ツーリングには一か所、水流の速いスリリングな場所がある。
「じゃあ、ここから1列に並んで下りましょう。あまり間隔を空け過ぎないようにお願いします」
水面にも段差ができていて、吸い込まれそうな勢いで水が流れている。転覆するならここだなと思っていたら、前を行く夫が早速やらかした。一瞬のうちに体が沈み、ひっくり返ったカヌーの船底が見えたところで、再度、ライフジャケットの力を得て浮上してきた。
私は「大丈夫かしら」と顔を曇らせたのに、薄情な娘は「うわっはははは」と大口を開けてバカ笑いをしている。まったくのセオリー通り。一番横幅の大きな男が、午後の回では1人だけ転覆した。おそらく、インストラクターには、未来が見えるに違いない。
「ひっくり返っちゃったけど、楽しい!」
全身ずぶ濡れになった夫は、予想に反して喜んでいた。暑いから、水遊びができてよかったのかもしれない。残りは穏やかな流れの中を、のんびりとパドルを動かし進んでいった。
「ねえ、この写真、facebookにいいと思わない?」
東京に帰ってから、購入した写真をチェックし、どれをアップするか決める。
「ダメダメ。ミキの体操着だってすぐわかるじゃない。別のにして」
「ああ、そうだ~、忘れてた……」
これなんかどうでしょうね。
↑
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
ここに、四万十川が載っているのだ。佐田の沈下橋とともに。
「四万十川は最後の清流といわれているんだって。すごくキレイよね。ここにも行こう」
るるぶと絶景本を見比べながら、娘に話しかけた。タクシーで回って写真を撮り、美味しい魚料理をいただく計画が浮かんでくる。
ところが、彼女は別のページを見ていた。
「四万十川でカヌーができるって書いてある。やってみようよ」
「ええ~、カヌー?」
暇さえあればスマホを触ってばかりで、内臓脂肪をためこんでいる娘が、まさかアウトドアに目覚めるとは。
「よし、せっかくだから行くか」
体験施設に電話をかけたら、希望日の午後に、すんなり3人分の予約も取れた。カヌーに必要なものをキャリーに詰める。
「えーと、水着とクロックスとTシャツ、帽子にサングラスだね」
お尻は絶対濡れるので、最初から水着を着ていたほうがいいのだとか。上からはおるTシャツは、乾きにくい綿を避けるそうだが、私は綿以外持っていない。
「あっ、これどう?」
「やだ、それ、ミキの高校時代の体操着じゃない。袖に名前も入ってるよ。恥ずかしいな」
「だって、デサントだよ。着心地いいし乾きやすくて最高。これにする」
「勝手にして」
ふと、母が私の高校時代のジャージを履いて、農作業をしていたことを思い出した。しょうもない母親だと呆れていたが、私も同じことをしているではないか。まぎれもない親子である。
今年は、やたらと雨が多い。幸い、カヌー当日は昼過ぎから晴れて暑くなった。
ラッキー! 半袖から伸びる腕には、しっかりと日焼け止めを塗った。
「帽子の上からヘルメットをかぶってください。ライフジャケットはすき間のできないように、ひもを引っ張って」
2人乗りのカヌーは、めったに転覆しない構造になっている。しかし、1人乗りは違う。岩などに頭を打ちつける危険性があるから、ヘルメット着用が必須のようだ。心配になって、インストラクターに聞いてみた。
「どのくらいの割合で転覆するんですか」
「そうですね、午前に1人、午後に1人といったところですよ」
思ったよりは少ない。転覆するのは、ほとんどが大人の男性と聞いて驚いた。
「重いからでしょうね。バランスを崩すとひっくり返ります。子どもは軽いから、まず大丈夫」
午後の部は1時開始だが、最初の1時間はパドルに慣れるため、施設近くの浅瀬で練習する。その後、四万十川を3kmほど下り、ツーリングに出発する。川から上がったらバスに乗り、3時半ごろ施設に戻ってくるという段取りだ。
手漕ぎボートの経験があれば、カヌーにもすぐ慣れる。進むのは簡単だからナメていたら、止まったり、方向転換をしたりするのが難しく、他のカヌーにぶつかってしまった。思った以上に力がいる。始めて15分後には、腕が疲れてきた。
スタッフが体験中の写真を撮ってくれるので、終了後に購入したのだが、仏頂面の写真ばかりでガッカリした。夫と娘は笑顔が多い。カメラ写りを考えて、作り笑いぐらいすればよかったと反省する。
人物だけでなく、風景もしっかり写っていた。
目で見た景色が一番とはいえ、砂利まで見える四万十の澄んだ水、濃い緑、青い空、綿菓子を散らしたような白い雲は忘れがたく、写真に残ったことが嬉しい。
平成17年9月には、台風による大雨で四万十川も氾濫したという。当時の水位を記録した杭は、背丈よりもはるかに高かった。
さて、ツーリングには一か所、水流の速いスリリングな場所がある。
「じゃあ、ここから1列に並んで下りましょう。あまり間隔を空け過ぎないようにお願いします」
水面にも段差ができていて、吸い込まれそうな勢いで水が流れている。転覆するならここだなと思っていたら、前を行く夫が早速やらかした。一瞬のうちに体が沈み、ひっくり返ったカヌーの船底が見えたところで、再度、ライフジャケットの力を得て浮上してきた。
私は「大丈夫かしら」と顔を曇らせたのに、薄情な娘は「うわっはははは」と大口を開けてバカ笑いをしている。まったくのセオリー通り。一番横幅の大きな男が、午後の回では1人だけ転覆した。おそらく、インストラクターには、未来が見えるに違いない。
「ひっくり返っちゃったけど、楽しい!」
全身ずぶ濡れになった夫は、予想に反して喜んでいた。暑いから、水遊びができてよかったのかもしれない。残りは穏やかな流れの中を、のんびりとパドルを動かし進んでいった。
「ねえ、この写真、facebookにいいと思わない?」
東京に帰ってから、購入した写真をチェックし、どれをアップするか決める。
「ダメダメ。ミキの体操着だってすぐわかるじゃない。別のにして」
「ああ、そうだ~、忘れてた……」
これなんかどうでしょうね。
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
義母の故郷である高知・四万十。結婚した時に嫁の親戚に顔を見にせ行った時が最初で最後です。もちろん再訪を希望するほど素敵な土地柄でした
しかし親子3人とても仲良しですね。私は子供の頃父親は仕事人間で日帰りの旅はあっても泊りがけで旅行など1度もなかったので羨ましい限りです
最近は嫁とも休みが合わないので、お出かけも別々...あ!来月は数ヶ月ぶりにある1日だけあるけど日帰りかぁ
ご愛読いただき、本当にありがたいです♪
なるほど、高知にご縁があるんですね。
高知は東西に長いので、四万十の方だと室戸岬まではかなり遠いようです。
今回は足摺岬も室戸岬も行きませんでしたが、再訪して立ち寄りたい気持ちです。
私の父も仕事人間でした。
やはり、高度成長期を支えた人たちは、休むことに罪悪感を持っていますね。
定年後に何をしたらいいかわからない戸惑いも理解できますよ。
秋は日帰りでハイキングなど楽しめる時期ですね。
夫は山も歩くことも嫌いなので、姉を誘おうかしら……。
(前回は受験の付添だったので、高知城くらいしか観光しませんでした)
みなさんのように、1人用のカヌーを操る自信ないです。
超下手な鳥人間のように、一瞬にして転覆しそう。
いつか行けても、岸から見るだけにしようと思います。
夏だから、転覆してもオッケーなんですよね。
これが冬だったら……。
2人乗りなら安定性が高いので問題なさそうです。
カヌーだけでなく、ラフティングなんかも楽しいでしょうね。
でも、きゃしゃな白玉さんがライフジャケットをまとって、パドルを持つ姿は想像できません(笑)
色鮮やかな団扇を持って、浴衣を着ているイメージがあります。
岸辺から手を振ってくださいね♪
たぶん、一年中やっていると思います。
初心者でも余裕ですよ。
浅瀬で練習できますから、すぐに漕げるようになります。
ただし、日焼けがすごかったです。
日差しが強いんでしょうね。
カヌーにくくりつけたペットボトルの水が、1時間後にはお湯になっていました(笑)
日焼け止めを塗っても、腕は微妙に焼けていてショック。
沈下橋をくぐるとき、橋の上から人が見ていて、「いいだろ~」と思いました(笑)