前回(→こちら)の続き。
「誕生日には、おたがいが嫌がるプレゼントを贈りあおう」
桜玉吉さんのマンガに影響されて、そんな気ちがいのような協定を結んだ私と友人サカマチ君。
そこで前回の3月9日、ここに発動された「メイガス作戦」により、私の誕生日にはおたがいに
「通天閣の置物」
「高校時代に体育の授業で使っていた柔道着」
を贈り合い、これでもかと嫌な気分になった我々であった。
時は7月11日。今度はサカマチ君の誕生日である。
友の記念日は、最高の日にしてあげたい。その努力を怠ったとき、私の中の大和魂は死ぬ。彼のために極上のプレゼントを用意して、家におじゃますることとなった。
しばらくはワインなどいただきながら優雅に「おめでとう」「ああ、どうもありがとう」などとやりあっていたが、いよいよやってきたのがプレゼントタイムである。そこで私が「よかったら」ときれいにラッピングされた箱を彼に手渡した。
「開けてもいいかい」「もちろんさ」といったやりとりのあと、箱の中にあったのはズバリ、
「ローマ法王のブロマイド」。
これはイタリアを旅行したときバチカン市国で見つけて、科特隊のイデ隊員のごとく、こんなこともあろうかと買っておいたのである。
私はサカマチ君のテレビの上に置いてあった写真立てを手に取ると、
「いかんなあ、こんな軟弱な物を飾っていては」
彼がガールフレンドと一緒に写っている写真を床に放り投げ、代わりにヨハネ・パウロ2世の写真をそこに差し入れた。
「どうだい、なんだか敬虔な気分になるじゃないか」。
さらには部屋中に、両面テープで法王をの写真を貼り付けていった。これで360度、どこを向いてもヨハネである。
サカマチ君は引きつった笑顔で、
「いいね、なんだかこういう部屋だと神の存在を実感できるね」
などといっていたが、その目は全力で
「こんなん、ただのジジイやんけ」
と訴えていた。ちなみにサカマチ君の家は浄土真宗である。
そんなサカマチ君の姿を見て私は勝利を確信した。
さあ、そっちはどんなカードを切ってくるんだい、と「余裕のゆうちゃん」といったいにしえのフレーズな風情ですわっていたら、彼は「僕からのプレゼントはこれさ」と、やおらアコースティックギターを取り出したのである。
そしていうことには、
「キミに捧げる曲を作ってきたんだよ」。曲名は「愛する友よ」。
そしてサカマチ君はギターを弾きながら歌いはじめた。なんやら妙ちきりんなバラードで、その歌詞も、
「ああ~キミに出会えてよかったあああああ」
「永遠の友情ををををを~」
「あああ、来世でも出会えたら素敵さああああああ」
みたいな中身ゼロの内容で、それを谷村新司の『昴』を歌うおっさんのように情感たっぷりに歌い上げてくれるのだ。
これはかなりの破壊力であった。しまった、完全に油断していた。奇襲攻撃を食らった私は思わず
「勘弁してくれ!」
悲鳴を上げそうになったが、そこは丹田にぐっと力を入れて耐えた。土俵際のねばり腰である。
ようやく曲が終わって、ゆがんだ笑顔で拍手をし、
「ありがとう、うれしいな、キミと出会えてホントに良かったよ」
と、かろうじて答えることはできたが、友に
「これ、実は2番もあるんや」
といわれて腰が抜けそうになった。
その後、やはりくだらなさ大爆発の2番も静聴させていただいたあと、この曲をサンプリングしたというテープまでいただいた。
いらん、こんなもん金もらってもいらんわ!
まったく、私の友というのは油断ならない連中が多い。テープを受け取るなり、
「ありがとう。家に帰ったらすぐさま上から子門真人「ゴジラとジャガーでパンチパンチパンチ」をダビングしてすべて消させてもらうよ」
そう宣言すると、彼は
「こちらこそ、全然いらんけど微妙に捨てにくい物をくれて、感謝の言葉もないさ」と答えた。
友の良き日に、こんなひきつった笑顔を見られて私も満足だ。
おたがいがおたがいを、こんなにも微妙な気分にさせる、両者すばらしいファイトであった。
今日もまた、どちらもゆずらず決着はつかなかったが、それもまたよしか。
しめくくりに笑顔で
「あんたやるな」と手を差し出すと、友もまた笑顔で「フ、お前もな」とその手のひらを強く握りしめてきて、我々はあらためてその固い友情を確認しあったのであった。