前回(→こちら)の続き。
浪人時代、予備校に通わず自力で勉強する自宅浪人(略称「宅浪」)を選んだ私。
そこの情報面でお世話になったのが、エール出版社の『大学受験合格作戦シリーズ』だった。
ネットもない時代、おススメ参考書や勉強法など大いに活用したものだが、このシリーズは読み物としても、なかなかおもしろかった。
特に難関大学を目指してバリバリやっている人というのは、私のような関西の私立文系というぬるま湯受験生と違って、ほとんどスポ根のノリ。
たとえば、勉強時間など、だいたいが「平均10時間」とか書いてある。
私の浪人時代など、10時間寝ることはあっても、10時間も机に向かうことなど、1回もしたことがない。
それを10時間。なにかの「プレイ」なのか。
また、勉強内容もハンパではない。
私立の難関校というのは、落とすための試験であるため、いわゆる「悪問」が出る傾向があるのだが、これへの対策として、
「『世界史用語集』を丸暗記しました」
世界史用語集といえば、受験生ならおなじみだろうが、山川出版から出ている辞書である。
これが、サイズはコンパクトだが、ページ数はかなりボリュームがある。
それを、「あ」から「ん」まで(「ん」があるかどうかは知らないが)すべて暗記。神業ある。
だって辞書だよ、辞書。
普通なら解けないような、重箱の隅をつつくような悪問対策に、世界史用語ローラー作戦。
できるできない以前に、そもそも、やってみる気にもならない。
また、志望校にかける想いというのも、一流大学をねらう受験生は熱い。
中でもすごいなあと思ったのが、早稲田大学に行きたいという、ある男子。
彼は子供のころから早稲田の中2病……じゃなかった「在野の精神」にあこがれ、早大一本にしぼっていた。
だが、1浪の末、すべての学部で不合格が決定してしまう。
そこですべり止めの某大学に入学したのだが、夢は絶ちがたかった。
なんと彼はその大学に真面目に通い、学生をやりながら三度早稲田を受けるべく、勉強をはじめたというのだ。
こういうケースを「仮面浪人」というそうで、なんだか特撮ものに出てくるサムライヒーローのようでカッコイイ。
が、実際に大学の勉強をしながら受験勉強をするという、二足のわらじは大変だそう。
彼もその苦労を語っていたが、そもそもそんなことをするだけの情熱と、早稲田への愛というのがすごい。
そこまでやるかというか、そもそも彼が仮面で入っている大学も、明治だったか法政だったか忘れたが、私からすれば充分に立派な大学だ。
なら「いいじゃん、それで」と思うのだが、こういうボーッとした人間は、受験戦争では勝てないのだろうなあ。
実際、この早稲田青年は、
「くじけそうになったら『都の西北』を聴いてがんばった」
そうであり、「そこまでいうてるんやから、早稲田もケチケチせんと合格させたれよ」と思ったものである。
なかなかいないよ、志望大学の学歌知ってるって子。
志望校というより、ほとんどファンというか追っかけだ。
そこまで入れこんでも、なかなか受からないのだから、受験というのは大変である。
などなどと、実用的にも読み物的にも興味深かった自慢話、じゃなかった『合格作戦』シリーズだが、惜しむらくは、「関関同立」編がなかったこと。
関西では、国公立受けない子は、とにかくここを目指すんですが、なぜか無かった。
こっちでは有名でも、全国レベルで見たら、全然マイナーなんですね、関関同立も。
ま、受けるのが一流校でもマイナーでも、とにかく、しんどい時期はあと少しだけ。
受験生の皆さん、ラストスパートがんばってください。
(続く→こちら)