冬は受験のシーズンである。
そこで前回(→こちら)、エール出版社から出ている『大学入試合格作戦』シリーズを浪人時代読んでいた話をした。
このシリーズには姉妹編に『学部・学科選び成功作戦』という本があって、こちらも当時参考にしていた。
主に『合格作戦』に投稿した受験生たちが、今度は見事合格を果たした、そのキャンパスライフについて書いたもの。
あこがれの大学に入学してからの後日譚。マンガや小説で言うところの「外伝」である。
基本的にはやはり
「第一志望受かってサクラサク、今は超ハッピーっす」
という明るいものばかりなのであるが、中には、
「大学選びを間違えた」
「転科したい」
「あのとき第一志望を妥協しなければよかった」
などなど、理想と現実のギャップをうったえるシビアな内容のものもあって、なかなかリアルであった。
中でも印象的だったのが、某超有名大学の工学部に通って科学の勉強をしているというキタセンリ君(仮名)の投稿であった。
まず冒頭。
「この文章を書き始める前に、まず皆様に謝っておきたいと思います、どうもすみません」
いきなり謝罪されてしまった。
一体、どうしたというのか、キタセンリ君。
とにかく、まず謝る。戦後民主主義教育世代のわれわれらしくの、自虐史観というやつかもしれない。
基本は楽しいキャンパスレポートが集まる中、なかなかインパクトのあるつかみだが、ではなぜ開口一番に土下座外交なのかと問うならば、
「それは、数年前に投稿した合格体験記が、完全にただの自慢話だったからです」
言ってしまった。
なんてストレートな。読者のだれもが思っていても、大人の態度でスルーするその言葉。
考えてみたら、受験生といえば18歳くらいで、そんな少年少女が一流大学合格して
「人生勝ったも同然」
みたいに浮かれてるときに書いた原稿である。
そらまあ、大なり小なりというか、超ビッグに自慢話であろうが、それをいっちゃあ、おしまいである。
そら、そんなもん数年経って読み返したら、
「ごめんなさい! やめてー、勘弁してえェェェェェェ!」
頭をかかえたくなるような、若気の至りオーバードライブ的過去になっていることは、まあかなり高い確率である。
そら、つらいですわなあ。
「だから今回はできるだけ自慢に聞こえないように書きたいと思っているのですが、そう読めてしまったらすみません」
どこまでも謙虚というか、自虐的なキタセンリ君。
ここまで平身低頭されてしまうと、なんだか太宰治の小説みたいだ。生まれてすいません。
そこから、キタセンリ君のキャンパスライフが語られるわけだが、彼は大学の勉強にあまり興味が持てなくて悩んでいるようなのだ。
というのも、彼は元々職人的「物作り」に興味を持っていたそう。
志望大もそれに合わせて、そういったことを勉強できる某超一流国公立大学に設定していた。
ところが、センター試験で思うような点が取れなかった。
その時すでに一浪していて、剣が峰のキタセンリ君。
悩みに悩んだ末、第一志望はあきらめて、合格圏内の今の大学に願書を出したのだそうな。
その際、志望学科も、当初との変更を余儀なくされた。
そんな背景もあって、
「今の勉強に興味が持てない」
「努力が足りなかった」
「どうして、あのとき妥協してしまったのか」
など内容的には、非常に後ろ向きなものになっており、なんだか読んでいて気持ちが盛り上がらないことこの上ない。
それでも、なんとかポジティブに生きようと、そこからは、
「でも今さら言っても仕方がないし、あたえられた状況でがんばっていきます」
前向きな結論に向かうことになっており、こちらとしてはホッとしたものだ。
そうだよなあ。決まってしまったことを、後悔しても仕方がないもんなあ。
悩むこともあるだろうけど、がんばれ、キタセンリ君。
自分はまだ流浪の受験生だったのに、人生の先輩目線ではげましそうになったが、そんな彼は、
「受験生の皆さんは、後で後悔しないよう努力を怠らないようにしてください」
受験生たちに、体験をふまえたシビアなエールを送り、
「自分の体験を自分の思ったままつづってみました。もし受験生の皆さんのお役に少しでも立てれば幸いです」
としたあと、
「最後に、もう一言。できるだけ、そうならないよう気をつけましたが、もしこれもまた自慢話に聞こえてしまっていたら謝ります、すみません」
やはり最後の最後も土下座で、キタセンリ君のキャンパスライフのレポートは終了した。
もう、ページを繰りながら
「そこまで卑屈にならんでも」
と言いたくなることしきりだったが、若気の至りを大いに悔やむキタセンリ君の恥ずかしい気持ちも、大人になった今では大いに理解できるところもある。
私も無事受験を終えたあと、後輩などに勉強のアドバイスを求められたこともあるが、そこで大事なのは、
「目標をしっかり持つこと」
「結果が出なくても、くさらずにコツコツと続けること」
といったことなどでは、もちろんなく、
「合格後、自慢話には気をつけろ」
キタセンリ君が教えてくれた人生の真理をこそ、しっかりと伝えておいたのである。