ティム・バートン『マーズ・アタック!』はデートで観に行ってはいけません

2017年01月20日 | 映画
 『マーズ・アタック!』はカップルで観ると気まずい作品である。
 
 世にはデート家族連れで観に行くと失敗する映画というのが多数存在するもの。
 
 ガンマニアの友人タマデ君は『プライベート・ライアン』を観に行って、
 
 
 「さすがスピルバーグや! ミリタリー野郎のオールタイムベストに入る傑作やで!」
 
 
 などと大盛り上がりだったが、周囲では冒頭の血みどろシーン連発から観客がみな真っ青になっており、館内は異様な雰囲気に。
 
 上映終了後、となりのカップルが、
 
 
 「これって、スピルバーグの感動作品のはずだよね……」
 
 
 なんて、ドン引きしながらパンフレットを確認していて、思わず、
 
 
 「いやいや、スピルバーグってもともと《こういうヤツ》やから」。
 
 
 そうアドバイスしそうになったそうだが、他の友人からも
 
 
 『バトルフィールド・アース』
 
 『スターシップ・トゥルーパーズ』
 
 『尻怪獣アスラ』
 
 
 などを女の子と見て、なんとも微妙な空気になったという被害報告も届いており、それは自業自得というか、ほとんどわざとやっているのではないかというか、ともかくも私のダイナミックな友人関係が知れるラインアップである。
 
 かくいう自分も、韓流ブームのころ、
 
 「これにのっからない手はない!」
 
 とばかりに、『グエムル―漢江の怪物』を猛プッシュして、女子に総スカンを食らったことがあるので、全然人のことは言えないんだけど、中でも『マーズ・アタック!』の破壊力もなかなかのものであった。
 
 『マーズ・アタック』は、ティム・バートン監督のSF映画。
 
 ストーリーは……特にない。緑色の火星人が地球にやってきて、けったいなビームガンでひたすら地球を攻撃する。そんだけ。
 
 でもって、容赦なく人が死ぬ、死ぬ、死にまくる
 
 ジャック・ニコルソンロッド・スタイガーダニー・デビートピアース・ブロスナングレン・クローズ
 
 などなど、出演者にむやみやたらとネームバリューはあるが、出た端からばっすんばっすん殺される
 
 ホラー映画で、ジェイソンなど怪物にまっ先に殺されるのは、たいてい人目かまわずイチャイチャしまくる頭の悪いカップルだが、ジャックとかももほとんどそのあつかい。
 
 名優なのに、大見得切って出てきて秒殺。火星人大爆笑。なんじゃそりゃ。
 
 まあ、そういう映画です。
 
 フレドリック・ブラウンの傑作怪作『火星人ゴーホーム』を思わせる、B級SFテイストたっぷり。はっきりいって悪趣味
 
 そんな、若干人を選ぶ『マーズ・アタック!』であったが、圧巻なのがクライマックス。
 
 ネタバレになるので、未見の人はここで総員退避していただきたいというか、たいしたオチではないので知っていても問題ないと思うけど、火星人に皆殺しにされそうになった地球人は絶体絶命
 
 あとは座して死を待つのみ。地球最後の日はすぐそこに。
 
 というところで、ある田舎の民家に火星人が押し入る。そこでは頭のぼけたおばあさんラジオを聴いていた。
 
 やはり笑いながらをかまえる火星人だが、なんとそこで流れていたウェスタンソングが奴らの弱点だった!
 
 この曲を耳にした火星人は、いきなり脳みそが風船のようにふくらんで爆発
 
 これを広めることによって、世界中にいた火星人が次々脳みそバーンで死亡。あっという間に侵略者全滅
 
 まさに急転直下で、地球の平和は守られたのだった。バンザーイバンザーイ!
 
 ……って、わけがわからん
 
 というのもこのラスト、元ネタは『怪獣大戦争』という、日本の特撮というかゴジラ映画。
 
 その証拠に途中登場人物がゴジラ映画を見ているシーンがある。いわゆるオマージュというやつ。
 
 『怪獣大戦争』では地球侵略にきたX星人が、怪獣を自在にあやつり人類を追い詰めるも、弱点が痴漢撃退用防犯ブザーの音であることがバレ、それによって敗れる(トホホ……)のだ。
 
 そのこと(と、あとウェルズの『宇宙戦争』とか)を知らないと『マーズ・アタック!』のラストは、まったく意味不明なのである。
 
 さすがは、怪獣大好きティム・バートンである。しかもエンディングは、
 
 
 「世界が滅亡して、生き残ったのがオレナタリー・ポートマン
 
 
 というナタリーが
 
 
 「こんなゲスいオッサン知らんわ!」
 
 
 とドン引きしまくった『レオン』を撮ったリュック・ベッソンも、裸足で逃げ出す中二妄想で、あきれることしきり。
 
 まあ、ゾンビものもそうですが、ボンクラ男子の考えることなんて、洋の東西を問わず、同じようなもんなんですねえ。 
 
 もう、ティムと同じボンクラで怪獣好き男子としては
 
 
 「このラストは正しい!」
 
 
 大いに満足して映画館を出ようとしたのだが、そこで聞こえてきたのが、前にすわっていたカップルたちの声。
 
 まだ高校生くらいであろうか。最初は肩を寄せ合って、
 
 
 「映画、楽しみだね」
 
 「うん」
 
 
 なんてささやきあっていたのだが、今ではエンドロールを見ながら
 
 
 「…………ねえ、ヒロ君、これどういうこと?」
 
 「いや、そんなんいわれても、オレもわからへん……」
 
 
 などと呆然としていた。そりゃそうだわなあ。
 
 ティムといえば、当時一番知られていた作品は『シザーハンズ』で、彼らはおそらく、そういったすてきなロマンス映画(あの映画が本当に素敵なロマンスかは個人的には異論があるが)を期待していたのだろう。
 
 そこへもってきて、火星人大暴れな、ただの制作者の趣味映画
 
 ラブラブムードは胡散し、残ったのは合わせて3000円ちょいの出費のみ。
 
 二人は無言のまま映画館を後にした。男の子はうなだれ、女の子が床にツバを吐いているのが見えた。
 
 これには私もさすがに爆笑……もとい同情を禁じ得なかった。
 
 すまん、あいつは愛情たっぷりに『エド・ウッド』を撮るようなやつや。こればっかりは、宣伝にだまされた君たちがが悪いですわ。
 
 この後の二人がどうなったのか杳として知れないが、こういうことがあるから、デートで観に行く映画というのは選択がむずかしい。
 
 とりあえず、最近でいえば『ゴーン・ガール』は絶対にカップルで観ちゃダメ!
 
 もうね、終わったあとの映画館の空気といったら……。
 
 
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする