川上健一『宇宙のウィンブルドン』を読む。
野球なら、あさのあつこ『バッテリー』、陸上は佐藤多佳子『一瞬の風になれ』、自転車ロードレースは近藤史恵『サクリファイス』などなどなどスポーツ小説に傑作は数あるが、テニスといえば好きなのがコレ。
西暦2060年、世界のテニス選手たちはせまい地球を飛び出した。
従来のアメリカやヨーロッパから、ツアーの舞台はついに宇宙空間に。トッププレーヤーたちはロケットや宇宙船に乗って各惑星を転戦する。
気温の上限500度という過酷な条件で戦う、体力勝負の金星オープン。火星の赤い砂で行われる「マーズ・レッドクレー・カップ」。重力6分の1という「軽い」条件を生かせるか、塵で覆われた月の地表に、科学の粋を凝らして緑の芝を敷いた「ムーンブルドン選手権」。
宇宙服を着たアスリートたちが、無重力テニスや、真空における空気抵抗ゼロサーブなどを駆使し、グランドスラム制覇を目指して今日も激戦を繰り広げる……。
などといった壮大な話かと思いきや、読みはじめていると、なんのことはない。ただ単に主人公が「杉本宇宙」という名前だっただけなのであった。
宇宙君が主人公だから、宇宙のウィンブルドン。なんだそれはと拍子抜けなことこの上ない。
と、ついつい、いいたくなるところであったが、これが読み進めると、なかなかにイカれた内容だったから油断がならない。
宇宙君のウィンブルドンはSFでこそなかったものの、荒唐無稽さではそこいらのサイエンスフィクションに、全然負けていないのだ。
まず主人公の設定からしてぶっ飛んでいる。
なんと、ウィンブルドン目指してがんばるはずの杉本宇宙君は、サービスしか打てない。
テニスのショットはストロークやスマッシュなど数あれど、彼はフォアハンドもバックハンドもボレーも、なにもできない。
打てるのはガチにサービスだけ。
んなアホなという話だが、本当の本当に、宇宙君は作中サービス以外のショットはまったく打たない(打てない)のである。
ただし、そのサービスが、だれも返すことのできないスーパーサーブであることが、この物語のキモ。それだけを武器に、ジャパンオープンやウィンブルドンで次々と勝ち上がっていくというのだから、その「ハッタリ力」は相当なもの。
なんとも無茶な小説であるが、それをやりきる姿勢がすばらしい。作者は正気か、と
それに、ひとつ冷静に考えてみれば、たしかにテニスというのはサービスポイントを100%取れれば、理論的には、いずれは必ず勝てるスポーツなのである。
野球でいえば、ピッチャーが相手バッターを全員を延々と三振で討ち取っていけば、こちらの攻撃で一度もバットを振らなくても、いつかはかならず勝てる(フォアボールとかボークとか怪我人が出て試合続行不可能になるなど)みたいなもの。
サッカーでいえば「未来永劫ゴールをゆるさないキーパーがいる」みたいなものか。この「理論上絶対負けない」選手に、世界の強豪たちは一敗地にまみれていくわけだから、そのぶっ飛びぶりはなかなかのもの。
極論だが、それを最後まで突っ走しらせる面の皮(ほめ言葉)が最高だ。
「極論に、屁理屈をのせていく」
という阿呆気な発想は個人的には大好きである。
また、こんなおかしな小説を天下の『テニスマガジン』で連載していたというのがまたいい。シャレがわかってるなあ。
野球なら、あさのあつこ『バッテリー』、陸上は佐藤多佳子『一瞬の風になれ』、自転車ロードレースは近藤史恵『サクリファイス』などなどなどスポーツ小説に傑作は数あるが、テニスといえば好きなのがコレ。
西暦2060年、世界のテニス選手たちはせまい地球を飛び出した。
従来のアメリカやヨーロッパから、ツアーの舞台はついに宇宙空間に。トッププレーヤーたちはロケットや宇宙船に乗って各惑星を転戦する。
気温の上限500度という過酷な条件で戦う、体力勝負の金星オープン。火星の赤い砂で行われる「マーズ・レッドクレー・カップ」。重力6分の1という「軽い」条件を生かせるか、塵で覆われた月の地表に、科学の粋を凝らして緑の芝を敷いた「ムーンブルドン選手権」。
宇宙服を着たアスリートたちが、無重力テニスや、真空における空気抵抗ゼロサーブなどを駆使し、グランドスラム制覇を目指して今日も激戦を繰り広げる……。
などといった壮大な話かと思いきや、読みはじめていると、なんのことはない。ただ単に主人公が「杉本宇宙」という名前だっただけなのであった。
宇宙君が主人公だから、宇宙のウィンブルドン。なんだそれはと拍子抜けなことこの上ない。
と、ついつい、いいたくなるところであったが、これが読み進めると、なかなかにイカれた内容だったから油断がならない。
宇宙君のウィンブルドンはSFでこそなかったものの、荒唐無稽さではそこいらのサイエンスフィクションに、全然負けていないのだ。
まず主人公の設定からしてぶっ飛んでいる。
なんと、ウィンブルドン目指してがんばるはずの杉本宇宙君は、サービスしか打てない。
テニスのショットはストロークやスマッシュなど数あれど、彼はフォアハンドもバックハンドもボレーも、なにもできない。
打てるのはガチにサービスだけ。
んなアホなという話だが、本当の本当に、宇宙君は作中サービス以外のショットはまったく打たない(打てない)のである。
ただし、そのサービスが、だれも返すことのできないスーパーサーブであることが、この物語のキモ。それだけを武器に、ジャパンオープンやウィンブルドンで次々と勝ち上がっていくというのだから、その「ハッタリ力」は相当なもの。
なんとも無茶な小説であるが、それをやりきる姿勢がすばらしい。作者は正気か、と
それに、ひとつ冷静に考えてみれば、たしかにテニスというのはサービスポイントを100%取れれば、理論的には、いずれは必ず勝てるスポーツなのである。
野球でいえば、ピッチャーが相手バッターを全員を延々と三振で討ち取っていけば、こちらの攻撃で一度もバットを振らなくても、いつかはかならず勝てる(フォアボールとかボークとか怪我人が出て試合続行不可能になるなど)みたいなもの。
サッカーでいえば「未来永劫ゴールをゆるさないキーパーがいる」みたいなものか。この「理論上絶対負けない」選手に、世界の強豪たちは一敗地にまみれていくわけだから、そのぶっ飛びぶりはなかなかのもの。
極論だが、それを最後まで突っ走しらせる面の皮(ほめ言葉)が最高だ。
「極論に、屁理屈をのせていく」
という阿呆気な発想は個人的には大好きである。
また、こんなおかしな小説を天下の『テニスマガジン』で連載していたというのがまたいい。シャレがわかってるなあ。