ネットのない時代、大学受験の情報はエール出版社の『合格作戦』シリーズでした

2017年01月11日 | 時事ネタ

 この季節といえば思い出すのが、エール出版社の『合格作戦』シリーズである。

 1月2月といえば、受験生にとって最後の正念場だが、私にもかつてそういう時期があったもの。

 もっとも私の場合、根が競争社会に適合できないボンクラなもんだから、試験に関しては

 「まあ、あんなもん最後はしだいやし」

 と、開き直っているのか、人間がでかいのか、はたまた人生をなめまくっているのか。

 そこは自分でもわからないが、いたって気楽にかまえていたものだった。

 本番が近づき、皆が顔を青くして追いこみをかけている中、一応それなりに勉強はしていたが、空いた時間にを読んだり映画を観たり。

 はたまた朝までファミレスで浪人仲間とくっちゃべっていたりと、フリーダムな浪人ライフをエンジョイしていたのだ。

 そんな過ごし方ができたのは、自分の底抜けっぷりもあると思うが、それともうひとつ、予備校に行っていなかったことが、大きかったかもしれない。

 高校時代の私は、曲がりなりにも「伝統校」「進学校」と自称する(本当に「自称」だけど)学校に通っていたにもかかわらず、部活以外はロクに学校に行かった。

 代わりに図書館ゲーセンに行くか、同じようなドロップアウト組の仲間の家で、たむろったりといったフーテン生活を送っていた。

 別に青春の蹉跌的なにかがあったわけでもないけど、ともかくも毎日のように制服を着て、死ぬほど退屈な授業を、延々と聞き続けることに耐えられなかったのだ。

 そんな私であるので、卒業式の日は、



 「これでもう、学校などというところに、金輪際二度と通わなくてええんや!」



 という思いで一杯となり、となれば、わざわざ高い金を払って予備校たるところに通うわけもなく、一人気楽な自宅浪人生活に突入したのである。

 岸田秀先生言うところの「強制収容所」なんかに、誰が戻りたいもんかと。

 そんな自宅浪人は、自分にとってすこぶる快適だった。

 朝は起きなくていいし、制服は着なくていい。

 尊敬できない教師に、偉そうな顔されることもないし、苦手な理系科目やダルイ体育もやらなくていいし、まさにパラダイス

 本来ならば、もっとも暗い季節であるこの時期が私にとっては、もっとも気楽で楽しいものだったというのだから、われながら、おかしなものである。

 よほど学校という存在に、ウンザリしていたのだろう。

 そんな自宅浪人生は、収容所における強制労働から解放されて気楽だが、反面で苦労するのは情報の面。

 いくらフリーダムでお気楽とはいえ、それはあくまで受験勉強という義務を果たしてのこと。

 結果など、しょせん賽の目次第とはいえ(だって同じくらいの学力の若者が集まって、7人に1人くらいしか受からないとか、もうの世界だよ)、それまでの過程をしっかりしておかないと、ダイスを振る権利さえあたえられず足切りだ。

 だがいかんせん、こちらは誰にも教わらずに独学

 勉強のやり方や、使える参考書模試、志望校の問題の傾向対策など、すべて自分で調べなくてはならない。

 そんなとき役に立ったのが、『大学入試合格作戦』シリーズであった。

 これは、実際に志望大学合格を果たした受験生たちが、自らの勉強法などを記した自慢話……じゃなかった生の合格体験記。

 東大をはじめとする国公立医学部早慶大から他の私立文系中堅大学

 などなど幅広い範囲を扱っているが、受験勉強開始前に、まずこれをレベルを問わず、かたっぱしから読んだ。

 便利な参考書、英単語や年表の暗記法まとめノートの作り方。

 志望大学の傾向と対策などなど、使える情報が満載で、ネットのない時代、実に重宝した。

 とまあ、なにかと使えたこの合格作戦シリーズであるが、実用面以外でも、読み物としてもなかなかおもしろいところもあった。

 なんといっても、家にいてはわからない受験生の、それも「詰めこみ教育世代」という、ある種イカれた人種の学歴協奏曲。

 これが部外者(?)である私にとって、非常なる人間喜劇として楽しめたのである。



 (続く→こちら



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