この季節といえば思い出すのが、エール出版社の『合格作戦』シリーズである。
1月2月といえば、受験生にとって最後の正念場だが、私にもかつてそういう時期があったもの。
もっとも私の場合、根が競争社会に適合できないボンクラなもんだから、試験に関しては
「まあ、あんなもん最後は運しだいやし」
と、開き直っているのか、人間がでかいのか、はたまた人生をなめまくっているのか。
そこは自分でもわからないが、いたって気楽にかまえていたものだった。
本番が近づき、皆が顔を青くして追いこみをかけている中、一応それなりに勉強はしていたが、空いた時間に本を読んだり映画を観たり。
はたまた朝までファミレスで浪人仲間とくっちゃべっていたりと、フリーダムな浪人ライフをエンジョイしていたのだ。
そんな過ごし方ができたのは、自分の底抜けっぷりもあると思うが、それともうひとつ、予備校に行っていなかったことが、大きかったかもしれない。
高校時代の私は、曲がりなりにも「伝統校」「進学校」と自称する(本当に「自称」だけど)学校に通っていたにもかかわらず、部活以外はロクに学校に行かった。
代わりに図書館かゲーセンに行くか、同じようなドロップアウト組の仲間の家で、たむろったりといったフーテン生活を送っていた。
別に青春の蹉跌的なにかがあったわけでもないけど、ともかくも毎日のように制服を着て、死ぬほど退屈な授業を、延々と聞き続けることに耐えられなかったのだ。
そんな私であるので、卒業式の日は、
「これでもう、学校などというところに、金輪際二度と通わなくてええんや!」
という思いで一杯となり、となれば、わざわざ高い金を払って予備校たるところに通うわけもなく、一人気楽な自宅浪人生活に突入したのである。
岸田秀先生言うところの「強制収容所」なんかに、誰が戻りたいもんかと。
そんな自宅浪人は、自分にとってすこぶる快適だった。
朝は起きなくていいし、制服は着なくていい。
尊敬できない教師に、偉そうな顔されることもないし、苦手な理系科目やダルイ体育もやらなくていいし、まさにパラダイス。
本来ならば、もっとも暗い季節であるこの時期が私にとっては、もっとも気楽で楽しいものだったというのだから、われながら、おかしなものである。
よほど学校という存在に、ウンザリしていたのだろう。
そんな自宅浪人生は、収容所における強制労働から解放されて気楽だが、反面で苦労するのは情報の面。
いくらフリーダムでお気楽とはいえ、それはあくまで受験勉強という義務を果たしてのこと。
結果など、しょせん賽の目次第とはいえ(だって同じくらいの学力の若者が集まって、7人に1人くらいしか受からないとか、もう運の世界だよ)、それまでの過程をしっかりしておかないと、ダイスを振る権利さえあたえられず足切りだ。
だがいかんせん、こちらは誰にも教わらずに独学。
勉強のやり方や、使える参考書に模試、志望校の問題の傾向と対策など、すべて自分で調べなくてはならない。
そんなとき役に立ったのが、『大学入試合格作戦』シリーズであった。
これは、実際に志望大学合格を果たした受験生たちが、自らの勉強法などを記した自慢話……じゃなかった生の合格体験記。
東大をはじめとする国公立や医学部、早慶大から他の私立文系や中堅大学。
などなど幅広い範囲を扱っているが、受験勉強開始前に、まずこれをレベルを問わず、かたっぱしから読んだ。
便利な参考書、英単語や年表の暗記法、まとめノートの作り方。
志望大学の傾向と対策などなど、使える情報が満載で、ネットのない時代、実に重宝した。
とまあ、なにかと使えたこの合格作戦シリーズであるが、実用面以外でも、読み物としてもなかなかおもしろいところもあった。
なんといっても、家にいてはわからない受験生の、それも「詰めこみ教育世代」という、ある種イカれた人種の学歴協奏曲。
これが部外者(?)である私にとって、非常なる人間喜劇として楽しめたのである。
(続く→こちら)