空飛ぶ桂馬 久保利明vs豊島将之&豊川孝弘 2018年 第67期王将戦 2010年 第68期B級1組順位戦

2021年07月17日 | 将棋・好手 妙手

 桂馬というのは、終盤で威力を発揮する駒である。

 動きが他の駒よりも変則的なため、うまく使えば、相手の駒を飛び越え、連結を無効化させたりできる。

 かつて「桂使いの中原」と呼ばれた中原誠十六世名人によると、桂馬の威力に目覚めたのは、大山康晴十五世名人の受けの力に苦戦したことがきっかけ。

 「受けの大山」の金銀スクラムを突破するには、飛び道具を磨くのが良かろうという判断だったとか。

 一度は谷川浩司九段に取られてしまった名人を、奪い返す原動力となる「中原流相掛かり」も、桂が絶大な威力を発揮したものだった。

 そこで前回は大山康晴十五世名人が見せた、受けの自陣飛車を紹介したが(→こちら)今回は、桂馬の寄せを見ていただきたい。

 

 2018年、第67期王将戦

 久保利明王将と、豊島将之八段の一戦。

 1勝1敗でむかえた第3局は、第1局に続いて相振り飛車に。

 豊島がまだ1日目から、果敢に戦端を開いたが、2日目の封じ手あけすぐの手が「一手バッタリ」に近い疑問手で、久保が優勢に。

 むかえた最終盤。

 

 

 攻め駒が豊富で、一目先手が押しているが、後手陣も△93にある守備力が意外と高く、一気の寄せとなると、これがなかなかむずかしい。

 後手がまだ、ねばっているようにも見えるが、ここで久保が、さわやかな決め手を放つ。

 

 

 

 

 ▲74桂と打つのが、スマートな寄せ。

 △同歩と取られて、にわかには意味が分かりづらいが、それには▲62金と打つ。

 △同金▲同銀成△82玉と進んだとき、▲73桂成という軽妙手があるのだ。

 

 

 このとき、桂打ちがないと、△同玉から、後手は△74、△85へと脱出ルートが見えてややこしいが、▲74桂△同歩としておくと、そこに逃げられないという仕掛けだ。

 

 

 

 この2つの図をくらべてみてほしい。

 整理すると、▲74桂、△同歩、▲62金、△同金、▲同銀成、△82玉、▲73桂成の図)で、▲同玉は△74に逃げられないから、▲72金で詰み。

 △同桂▲72金と打って、△92玉に桂を跳ねさせた効果で、▲81銀と打てるので詰み。

 一方、▲74桂で、この地点を埋めつぶしていないの図は、△73同玉▲72金△74玉から脱出されてまぎれる。

 やむをえず、豊島は▲74桂△同歩▲62金△82玉と逃げるが、以下、▲72金△92玉▲73桂成から押して、先手が勝ち。

 2枚の桂の連係プレーが光る、見事な久保の寄せ。

 シリーズも4勝2敗で、久保が難敵相手の防衛に成功するのだった。

 

 久保の華麗な桂使いを、もうひとつ。

 2010年の、第68期B級1組順位戦

 久保利明棋王と、豊川孝弘七段の一戦。

 勝てば昇級が決まるという、久保の三間飛車に、豊川は趣向を凝らして力戦に持ちこむ。

 中盤の、この局面。

 

 

 

 先手の久保が、▲77角と銀取りに打ったのに、豊川が△31角と打ち返したところ。

 飛車角が、さばけそうな先手が指せそうだが、この角も銀取りを受けながら、飛車取りにもなっている切り返し。

 ▲76飛のように逃げると、後手も△75歩と押さえたり、どこかで△85飛などと活用できそうだが、ここで久保が見せたのが、軽い好手だった。

 

 

 

 

 ▲64歩と突くのが、すこぶるつきに筋のよい手。

 飛車取りを受けながら、△同歩でも△同角でも▲45飛と、急所の桂馬を払って先手が優勢になる。

 終盤も見事だった。

 

 

 豊川も、△99角成と取って、なんとか中段玉でヌルヌル逃げたいところだが、次の手が決め手になった。

 

 

 

 

 ▲77桂と飛ぶのが、さわやかすぎる軽妙手。

 角道を止めながら、後手の上部脱出の夢を砕く跳躍。

 本譜の△同馬にも、▲73角成△54玉▲74飛王手馬取りになって、勝負あり。

 

 以下、懸命にねばる豊川を冷静に押さえて、見事久保が、3期ぶりのA級復帰を決めるのだった。

 

  (羽生善治の大悪手3連発編に続く→こちら

 

 


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