前回(→こちら)の続き。
「絶妙手のマエストロ」ともいえる谷川浩司の「光速の寄せ」メドレー第2弾。
今回も、また谷川-羽生戦から。
1993年、第62期棋聖戦5番勝負の第1局。
打ち歩詰めもからんだ、超難解な終盤戦となったこの勝負。
▲48飛の攻防手で、後手玉は相当に危ないうえ、詰みはなくとも次に▲78飛と銀をはずせば、もう一勝負できそうだ。
だが、そんな手を谷川はゆるすはずがなく、ここで「創作次の一手」のような手を用意していた。
△47角が、絶妙の中合で後手勝ち。
▲78飛は、△同飛成、▲同玉に、△47角の利きで△69銀と打てば簡単に詰み。
▲同飛と取るしかないが、△51玉、▲53香、△62玉と逃げて、なんと角を渡しても後手玉に詰みはない。
一方、飛車の横利きが消えた、先手玉に受けはない。
以下、羽生は▲42飛成、△71玉まで指して投げた。
トリを飾るのは、やはりこの一手であろう。
1996年、第9期竜王戦の第2局。
羽生善治が七冠王から、ひとつ失ってまだ六冠だったころの将棋。
馬の力が強く、いい攻めがないと押さえこまれそうだが、ここで谷川浩司の代表作ともいえる、あの手が飛び出す。
のちに「光って見えた」と語られる、その地点とは……。
△77桂と打ちこむのが、「谷川ダイナミック」ともいえる必殺の一撃。
▲同桂は△76歩と取るのが、桂当たりのスピードアップとなる仕組み。
単に△76歩と取りこむ形とくらべると、勢いも速度も段違いだ。
▲77同桂では、つぶされることを察知した羽生は、▲59飛と逆モーションで角の方を取る。
後手も△63飛と馬を取り返して、先手も▲54角と反撃。
そこで飛車取りを放置して、△68角とさらに打ちこむのが、先手の厚みを突破する右ストレート。
これだけのパンチを続けざまにもらっては、羽生もたまらず、その後は谷川が圧勝する。
無敵時代の羽生の足を止めた、まさに伝説の絶妙手だ。
(森内俊之編続く→こちら)