王者の死んだふり グザビエ・マリスvsロジャー・フェデラー 2012年ウィンブルドン4回戦 その2

2021年11月07日 | テニス

 前回(→こちら)の続き。

 2012年ウィンブルドン4回戦。

 ロジャーフェデラーと、ベルギーのグザビエマリスとの戦いは、思わぬアクシデントの発生で観戦者は騒然となった。

 フェデラーが、試合中にフォアハンドを、まったく打てなくなってしまったのだ。

 の違和感のせいだが、最大の武器であるフォアを、ただ当てて返すしかできないとは、明らかな異常事態である。

 これを見て、私は思わずため息をついた。
 
 こりゃロジャーは負けるな。

 それどころか、あんな手打ちしかできないんじゃあ、途中棄権という、最悪のシナリオも考えられる。

 逆にマリスからすれば、こりゃあもう、願ってもないような大チャンスである。

 あとは、相手の弱点をついていけば、楽勝のプップクプーで栄光のウィンブルドンベスト8進出だ。

 と思いきや、ここから試合はおかしなことになりだす。

 マリスが、なぜか突然に乱れ出したからだ。

 それまで、気持ちいいほど躍動していたはずの彼のテニスが、敵の不備を見て、それに合わせるようにおかしくなるのだ。

 相手のスローボールのような、打ちごろのフォアハンドに、おつきあいするかのような、ゆるい球を返す。

 サービスが入らなくなる。ネットに出るタイミングが、いかにもおかしい。

 チャンスボールも叩いていかない。なんだか、こわごわとプレーしているように見える。

 それを振り払おうとするように「えいや!」っと強打をおみまいすると、それをネットにかけてしまう。プレーが、どうにもちぐはぐになってしまったのだ。

 これは、だれがどう見ても、フェデラーのケガが原因である。

 ふつうに考えれば、こうなってしまえばフェデラーのフォアをねらえば、ポイントは好きなだけ取れる。

 そらそうだ。当てることしかできないのだから。

 野球でいえば、上位打線が全員バントしかできないようなもの。

 将棋なら飛車落ちで戦うとか、ともかくもそんな大ピンチを超えた、崖っぷちに追いこまれたわけだ。

 だが、マリスは、そこで足を止めてしまった。

 それどころか、フェデラーを助けるような自滅を開始したのだ。

 ここでのマリスの心境というのは、なんとなく想像できる。

 フェデラーのフォアがおかしくなった瞬間、すぐに感づいたはずだ、

 「おいおい、ロジャーはケガしてるぞ」と。

 次におそらく、「なんと気の毒に」と考えたのではあるまいか。

 フェデラーといえば、無敵の王者として君臨する時代が長かったが、このころはといえば、ライバルのラファエルナダルノバクジョコビッチの突き上げにあい、世界1位から陥落

 グランドスラム大会でも2年間優勝がなく、

 

 「フェデラーの時代は終わった」

 

 このところ、ずっといわれ続けてきたのだ。

 松岡修造さんなど、ハッキリと、


 「もう引退の時期かもしれない」

 
 それだけに、得意であり、もっとも愛着のあるウィンブルドンでは、再起をかけてきたであろう。

 それを、4回戦なんかでケガで負けてしまうとは、あまりにも、あまりである。

 あくまで推測に過ぎないが、プレーを見るかぎりは、同情がわき上がるのを押さえられなかったのは、たしかだろう。

 この間の彼の葛藤は、いかばかりか。

 

 「勝てる、チャンスだ!」

 

 という想いと、

 

 「でも、相手はケガしてるのに、そんなことでいいの?」

 

 おそらくは「勝負師」と「ひとりの人間」として、その天秤は揺れに揺れたはずなのだ。

 勝負は不思議な闇試合に突入した。

 お互いにふらつき、行く先が見えなくなったこの試合だが、その後なんと、予想もしえなかった結末をむかえるのである。

 

 (続く→こちら

 


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