前回(→こちら)の続き。
クラスの人気者タカツ君のギャグに、大爆笑するタナコちゃん。
これに対して彼女の友人セリコちゃんは
「どんなおもしろいことを言ったのか」
当然そこを問うわけだが、その答えというのが、思いもかけないものだった。
タナコちゃんは、大口を開けたまま首を振ると、
「わからん、うるさくて、なに言うてるか、聞こえへんかってん」
これを耳にしたとき、私は大げさでなく、座っていたイスから転げ落ちそうになった。
な、な、なんやてえ?
なにをいっているのか、聞こえてないのに、
「めっちゃ、おもろい」
と爆笑。まさかの展開。
あまつさえ、セリコちゃんの問いを受けて、
「ねえねえタカツ君、さっきなんてギャグやったの? 聞こえなかったから、教えてよ」
そこでもう一回、「ギャグ」を再現してもらって
「あらためて笑い直す」
という行為をするにおよんでは、これはもう、ヤングの笑いというのが、センスや理屈じゃないことは、火を見るよりも明らかである。
そう、彼女らにとっては、男子のギャグがどうとかトークがどうとかは、心底どうでもいい。
タカツ君はなにをいっても、それこそ「布団がふっとんだ」でもいいのだ。
きっと、それでも山をも揺るがすくらいに笑ってくれる。
聞こえなかったギャグで爆笑し、もう一度確認しなおして、笑いなおすくらいやもの。
なんてシュールな光景なんや……。
男前ならどんなギャグでも、果ては、
「聞こえてなくてもOK」
なのだ。まるで達人が放つ、空気投げみたいではないか。
当時はそんな言葉なかったけど、これには思わず
「リア充おそるべし」
うなったものである。
かように、男前というのは、笑いに対するハードルが、凡人やブ男よりも相当に低い。
愛があるから、なんでも笑ってくれる。
そこで生まれるのが例の、
「オレは、笑いのセンスがある」
という、関西でありがちなカン違いである。
よく、非関西圏の人らが、
「関西人は、自分のことをおもしろいと思っているのがウザイ」
なんて眉をしかめることがあるけど、これはまったくその通り。
同じ関西人でも、しんどいときが多いのです。
特にダウンタウン出現以降は、
「結局、笑いのセンスがあるヤツが、一番カッコイイ」
という価値観が支配的になったので、そのめんどくささも倍増だ。しかもこれは、今では関西以外にも伝播したくさいし。
そのカン違いに「男前特権」が、大きく貢献していることは間違いないだろう。
なんでもOKになると、その人のポテンシャルは育たない。
野球でいえば、棒球しか投げないのに、それをチームメイトが
「ナイスボール!」「今日も走ってるよ!」
しか言わなければ、それ以上のボールを投げる必要もない。
そこを「実力」とカン違いした男子は、目も当てられない。
お笑いコンビ、キングコングの西野さんや、関西で一時期あった「小劇団ブーム」のときの中島らもさんは、人気絶頂のときに
「なにを言っても爆笑する女子」
に悩まされてきたそうだが、こういう人たちはそれが「幻想」であることが、理解できる知性の持ち主だ。
一方で、「甘やかされた」男前の人気者は、このような事情があって、ずーっとおもしろくないまま成長してしまうのだ。
今田耕司さんはかつて、男前でさわやかで、なんのてらいもない人気者だった、若手のころの石田靖さんを見て、
「一番、この世界に入ってきたらアカンやつや思った」
とおっしゃっていたが、いいたいことはよくわかる。
「だれもつっこまない」
ことによって、レベルが低いまま、という意味では、彼らのやることは「オヤジギャグ」と並列の存在。
それをそのまま「男前特権」の効かない、それどころか、多くはマイナスに作用するわれわれ男子にぶつけられると、もう地獄である。
でも、スルーすると女子から
「顔がいいのをねたんで、あえて笑わないなど、なんと醜い心の持ち主なのか!」
とか責めたてられたりして、もうどうしたらいいのやら。
(続く→こちら)