「不思議流」と「受ける青春」 中村修vs羽生善治 1990年 棋聖戦

2021年12月21日 | 将棋・好手 妙手

 「自陣飛車」というのは上級者のワザっぽい。
 
 飛車という駒は攻撃力に優れるため、ふつうは敵陣に、できれば成ってにして暴れさせたいもの。
 
 そこをあえて、自陣で生飛車のまま活用するというのは難易度が高く、いかにも玄人という感じがするではないか。

 前回は谷川浩司九段の手の見え方を紹介したが(→こちら)、今回は「駒をしても受け切ってる」という、ちょっと不思議なしのぎを見ていただきたい。

 

 1990年の棋聖戦、羽生善治竜王中村修七段の一戦。

 後手番になった中村の向かい飛車に、羽生は銀冠で対抗。

 7筋の位を取る先手の積極的な駒組に、振り飛車は機敏に対応し、自分だけを作って、見事なさばけ形を作る。

 不利におちいった羽生だが、そこからなんやかやと手をつくして、勝負形に。

 むかえた、この局面。

 

 

 

 羽生が9筋に味をつけてから、▲86桂と打ったところ。

 「美濃囲いは端歩一本でなんとかなる」

 と言われるように、次に▲94歩と打つ手が受けにくい。

 また▲74歩のコビン攻めもからめて、▲62歩のタタキとか、振り飛車がイヤな形だが、ここからが「受けの中村」の腕の見せ所だった。

 

 

 

 

 △54飛と打つのが、うまい自陣飛車。

 横の利きで、▲94歩▲74歩の筋を、同時に受けている。

 いかにも「不思議流」中村修らしい、やわらかい手だ。

 とここで、筋いい方なら

 「あれ? これ攻めがつながってね?」

 身を乗り出すところであろう。

 羽生は▲23馬と歩を補充し、△39角と馬を作りにきたとき、▲94歩と香取りに打つ。

 一回△66角成と王手して、▲77桂に、飛車がいるので△94香と取れるが、そこで▲74歩と突くのが手順の妙。

 

 

 

 △同歩なら、飛車の横利きが消えるから、▲94桂と王手で取って調子がいい。

 先手がうまく手をつないだようだが、ここで中村は、見事なしのぎを見せるのだ。

 

 

 

 

 

 △74同飛と取るのが、「受ける青春」本領発揮のカッコいい手だった。

 ▲同桂と取るしかないが、△同歩と取り返した形がサッパリしてて、これ以上攻め手がない。

 

 

 

 先手は二枚飛車こそあるが、存外に使う場所がない。

 後手陣は厚みがあって、不思議と手をつけるところが、見つからないのだ。

 ▲69香と打って、△55馬▲86飛(!)と、非常手段的な手で局面の打開を図るが、冷静に△45歩を封じられて、後続がない。

 

 

 

 

 ▲65香△64歩▲84歩、△同歩、▲同飛と特攻をかけるも、△83金と、はじき返されて切れ筋。

 手段に窮した羽生は、▲83同飛成から、バンザイアタックを仕掛けるしかないが、以下、中村はあっという間に、先手玉を仕留めてしまった。

 美濃囲いの弱点にゆさぶりをかけられて、イヤな気分のところを、△54飛の自陣飛車から、△74同飛で先手の攻めをかわしてしまう。

 駒は損しても、これでしのいでるという発想がスゴイ。

 まさに妙技ともいえる手順で、「受け将棋萌え」の私はもうウットリなのである。

 

 (谷川浩司の受け編に続く→こちら

 

 


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