「阪田流向かい飛車」の名局 阪田三吉vs土居市太郎 1919年(大正8年) 木見金次郎七段 昇段祝賀会

2022年03月22日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 阪田三吉とか、関根金次郎って、すげー強かったんやなあ」


 なんてことを、今さら感じたりしている昨今今日此の頃。

 言うまでもなく、ここのところよく取り上げている、


 関根金次郎vs阪田三吉


 この二人の激戦だが(→こちらなど)、阪田の将棋と言えば、やはりこれを取り上げないといかんでしょう、ということで、まずはこの局面。

 

 


 そう、阪田流向かい飛車

 長らく、めったに指されることのない戦法だったが、近年では糸谷哲郎八段菅井竜也八段が、いろんなところで採用したことによって、すっかりメジャーに復帰した印象である。

 で、これからお見せするのは、だれあろう、まさに「阪田流」の本家、阪田三吉の「阪田流向かい飛車」。

 相手は、これまたAI推奨の「土居矢倉」で復権した土居市太郎八段で、舞台は1919年木見金次郎七段(関根金次郎の弟子であり、大山康晴や升田幸三の師匠)昇段祝賀会と言うのだから、大正8年

 ちなみに、阪田流を開発したのは三吉ではなく、そのルーツは江戸時代までさかのぼるそうで、阪田が指したのもわずか1度だけらしい。

 へー、知らんかったなー。

 将棋の方は、阪田が右玉風にかまえて、△54角と八方ニラミの自陣角を放つが、これがパッと見、どうにも様子がおかしい。

 


 図は土居が△55の位に、▲56歩と合わせて、△同歩▲同金とくり出したところ。

 この局面、先手のが手厚いのとくらべて、後手のが丸く、いかにも責められやすい形になっている。

 なので、手の流れは△64金として、▲55歩には△63角くらいかなというところだが、なんと阪田はここで、とんでもない手を指したのだ。

 

 

 


 △76歩▲86銀(!)、△同銀▲同歩△85歩

 なんと、角頭放置して、8筋から攻め立てたのだ。

 当然、土居の次の手は▲55歩

 これでなんと、角がお亡くなりになっている。

 どういうこと? 死んでるんスけど……。

 そんな声もかまわず、阪田は△81飛車を回り、8筋を制圧。

 


 この△54銀と上がった形は、金銀の連結もよく、厚みと駒の勢いも十分で、阪田の「どや」という顔が見えるような美しさだ。

 まさに、指がしなる銀上がりである。

 駒台さえ見なければ。

 そう、なにやら「これにて後手優勢」みたいな雰囲気を出しているけど、この局面、なんと後手が丸損

 なんぼなんでも、こらあきませんわ阪田センセ。

 なんて、話が終わりになりそうだが、あにはからんや。

 そこからしばらく進むと、ずいぶんと後手の攻めが深く入っている。

 

 


 いや、△56桂と急所に決められたところでは、すでに先手が相当に勝ちにくいのではないか。
 
 流れ的には、むしろ後手優勢と言っていいかもで、これには、こちらも自分の不明を恥じることとなる。

 なーるほどー、これが阪田三吉の将棋か。

 中盤で角損になり、まいったと見せかけて、実はそれが深い読みの入った局面。

 気がつけば後手必勝とは、なんという、すごい大局観なのか。

 あそこで角を取らせて、それで勝てるという判断が、すさまじいではないか。まさに棋神

 なんて、感動することしきりだったが、阪田の孫弟子にあたる内藤國雄九段によれば、どうもこれは阪田のウッカリではないかと。

 はえ? あ、そうなの?

 というのも、後手が△76歩と打ったところで、▲86銀と出たのが土居の冴え。

 

 

 

 これが、見事なスマッシュで、後手の角損が確定してしまったのだ。

 △76歩▲88銀と引くと、△64金、▲55歩、△63角というさっきの手順で後手も十分。

 それが阪田の読みだったのかもしれないが、土居が指した▲86銀△同銀▲同歩だと、△64金▲55銀で中央を制圧され、押しつぶされる。


 

 


 このあたりをとらえて、内藤は、



 「錯覚するところがあったのだろうと思います」



 
 昔の将棋は、資料が残ってないことが多く、実際のところはわからないそうだが、




 ▲8六銀の反発をくってからは後手どうしてもいけません。

 △7六歩と打たず△7四金と立てば角は助かっていました。本譜よりその方がやはり良かったでしょう。




 内藤もハッキリ「後手不利」と言っているのだから、やはりなにか誤算があったのは間違いないだろう。

 ただ、結果的には土居にミスが出て、阪田が勝ったわけで、これには、




 棋勢は、あるいは見かけほどには離れていなかったと見るべきかもしれません。




 ということなので、運が良かったのもあるが、その後の阪田のリカバリーは、決して悪くなかったということだろう(棋譜はこちら)。

 つまりは、阪田強いわけで、うーん、こりゃマジで『阪田三吉名局集』買うべきかなあ。

 で、さっそくアマゾンで検索と。

 古本が、送料込みで5300円

 あー、天から札束、降ってけーへんかなー。

 

 (修羅場で飛び出した「順位戦の手」編に続く→こちら

 


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