大人が子供をボコボコに負かしてはいけません ボンクラ将棋上達法 ガチすぎ道場編 その2

2021年08月07日 | 将棋・雑談

 前回(→こちら)の続き。

 通っていた将棋道場「南波クラブ」(仮名)で、

 「勝たせてくれない大人」

 からボコボコに、のされる日々を送っていた、小学生時代の私。

 棋力が6級では、しょうがないかもしれないが、それにしても、みな容赦がない。

 さらに「大人は勝たせてくれない」に、タナベさんという人もいた。

 棋力は三段で、アオバさんほどではないが強豪である。

 この人というのが、ダンディーで寡黙なアオバさんとちがい、子供好きで、すこぶる愛想のいい方。

 強いうえに、ニコニコしたオジサンとなれば、今度こそ棋力向上に役立ってくれそうな先生だったが、これまた申し訳ないがハズレであった。

 やはり、タナベさんもまた「負けてくれない」のだ。

 明るい笑顔で、

 

 「坊や、オッチャンと将棋しよか」

 

 声をかけてくるのだが(もちろん平手だ)、これがまー、また全然勝てない。連戦連敗である。

 またタナベさんの悪いところは、最初はリードさせてくれるんである。

 中盤の駒がぶつかったところくらいでは、ゆるめておいて、明らかに、こちらが勝ちそうな終盤戦を作ってくれる。

 もちろんこれはワザとで、その後の伏線だ。

 ただでさえ6級の終盤力なんて、水鉄砲くらいの威力しかないのに、有段者となれば非勢の局面から、あれこれとねばる術を、それなりに心得ているもの。

 その「ごまかし」の魔術をぬってゴールするなど、絶望的に不可能であり、圧倒的リードは、数手の悪手でアッサリくつがえされる。

 投了し、ガッカリするこちらを見て、

 

 「どうやボンボン、オッチャンもこう見えて、なかなか強いやろ」

 

 エッヘンと胸をそらして、ケラケラ笑うのである。憎らしいやっちゃ。

 といっても、タナベさんは意地悪をしているのではなく、子供をからかって

 「楽しくじゃれている

 というつもりなのだが、やられたほうは絶対に愉快ではないわけで、どうも、そこがよくわかっていなかったらしい。

 私など、頭のネジが抜けてるから、遊ばれても

 

 「いつものやつかー。子供を伸ばすためには、絶対に勝たせた方がええねんけどなー。わかってへんなー」

 

 なんて、ボンヤリしてたけど、他の子は下手すると、それで泣いちゃうんだよなあ。

 圧倒的優勢の局面をひっくり返されて、唇をかんでくやしがっているところに、ニコニコ顔のタナベさんが、

 

 「ボン、こんなヘボに負けるようでは、まだまだ修行が足りんなあ。みそ汁で顔洗って、出直してこなあかんで、カッカッカ!」

 

 なんて軽くあしらった日には、まじめに将棋をやってる小学校低学年はワンワン泣きます。

 また、タナベさんは、その口惜しがる様子を「かわいい」と思って、

 

 「やーいやーい、よわむし、けむし。泣いてすむなら、警察いらんでえー」

 

 なんて歌った日には、もうエンジンみたいに大泣き

 当然、その子は二度と道場にあらわれないのだが、状況を理解していない「子供好き」のタナベさんは、

 

 「こないだ指したケンタ君、あれから来てないの? なんでやろ。また将棋、教えてあげたいのになー」

 

 さみしそうに、そう漏らすわけで、もうコチラとしては苦笑するしかない。

 だれのせいやと、思てますねん!

 でも、こちらも立場的に、

 

 「子供には負けてあげたほうがいいよ」

 

 とはいえないしなあ。お子様ランチはツライよ。

 ホントなあ、このときばかりは、大人はなんもわかってないよと、フランソワ・トリュフォーの気分になりましたね。

 ハッキリ言っちゃいますが、世のオジサン(おお、私もいつの間にかこっち側だ!)が思う

 

 「おもしろい」

 「冗談」

 「からかって遊んでる」

 

 これらは、まあまあの確率で、やられた方はイラッとしてます。

 セクハラとか、若者が飲み会を嫌がる場面とか、お笑い芸人のマチズモや、政治家の下品な失言とか、なんでもそう。

 本人は「冗談」「ノリ」でも、受け取る側との温度差が絶望的で、またそれが、まかり通ったのが「昭和」という時代でもあった。

 道場のおじさんたちは、みな基本的にはいい人だったんですけど、これはもう「悪気」の有無の問題でもなくね……。

 他人の取った金メダルを噛むとかですね、もう頭を抱えます。

 「ウケる」と思ったんだろうなあ……。

 「南波クラブ」に、私以外の子供がいなかったのは、きっとこんなところに理由もあったのだろう。

 おかげで、ちっとも同年代の将棋友達ができなかった。

 以前、石井健太郎六段がNHK杯に出場したとき、解説が師匠の所司和晴七段だったんだけど、そこでやはり、

 

 「石井君が道場に来たとき、大人がからかってメチャクチャに負かしたうえで、泣いてるところを笑うんですよ。

 もちろん、大人は【一緒に楽しく遊んでる】つもりなんですけど、これじゃダメだと、別室に読んで指導することにしました。そこでは、とりあえず、たくさん負けてあげるところからはじめました」

 

 みたいな内容のことを語っていて、観戦しながらタナベさんのことを思い出したものだ。

 いずこも同じだなあ。

 

 (続く→こちら

 

 


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2 コメント

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Unknown (soborut)
2021-08-07 17:37:48
 ちょっと話題が異なりますが、誹謗中傷も同じ感じがします。やった側が「軽い気持ち・冗談半分・俺は一般人等々、なんだから本気にするな!」みたいな論理ですね。
 俺はこういう気分、こういう人間なんだから、それに則した受け取り方を、人類普遍に対して期待しているように思います。
 謝れ!謝罪しろ!と言われたら何でも従うというのも極端すぎますが、「ウケ狙い」を含めた無意識レベルの加害行為って、本当に厄介ですよね。
 「上手いこと言ってやった、大衆とは違う俺カッケー!」が癖になったらヤバい(確信)。
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Unknown (シャロン)
2021-08-07 22:33:51
soborutさん、いつもコメントありがとうございます。


〉ちょっと話題が異なりますが、誹謗中傷も同じ感じがします。やった側が「軽い気持ち・冗談半分・俺は一般人等々、なんだから本気にするな!」みたいな論理ですね。


 あるでしょうねえ。

 こういうのは、やっているほうは「楽しい」し、本人に自覚もないどころか、下手すると

 「正しいことをやっている」

 と思っているから、改善がむずかしい。

 なにより、おそろしいのは、

 「自分もまた、同じ罠にかかっている可能性、結構、大」

 自分が同じことやっても、自分では気づかないのが、本当に怖いです。

 「さっきから言うてるの、それ、おまえのことやろ?」って。

 その点でいえば、道場のおじさんも、「気づいて」くれさえすれば、もうちょっと色々、やりようもあったんですよね。

 子供の上達や興味の持続のため、少しはゆるめてみたり、子供が泣いたらフォローするとか、なんとか。

 でもそれは、そういう時代だったから、しょうがない気もします。

 今は指導のやり方も変わっているでしょうし、多くの子供や女性の方に、将棋を楽しんでくれたら、うれしいですね。
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