久保利明と元祖「さばきのアーティスト」 大野源一vs升田幸三 1962年 十段戦

2020年10月14日 | 将棋・名局

 『大野源一名局集』をぜひ出版してほしい。

 平成の将棋界で振り飛車の達人といえば、藤井猛九段、鈴木大介九段らとともに「さばきのアーティスト」こと、久保利明九段の名前があがるだろう。

 そんな久保の将棋に、決定的な影響をあたえた棋士に大野源一九段がいて、それはまさに「元祖さばきのアーティスト」と言うべき、あざやかな振り飛車なのだった。

 そこで前回は、「20歳で名人挑戦」という大記録を成し遂げた加藤一二三を「さばき倒した」将棋を紹介したが(→こちら)、今回もまた大野の華麗な振り飛車を。

 

 1962年十段戦(今の竜王戦)。

 大野源一八段と、升田幸三九段との一戦。

 大野の三間飛車に、升田は5筋の位を取ると、居玉のまま▲66角▲77桂と、早めに跳ねだす趣向を見せる。

 

 

 図は升田が、▲34歩と突き出したところ。

 角取りだから、とりあえず△51角と逃げておいて……。

 ……と普通はなりそうなところだが「元祖アーティスト」は、この瞬間をチャンスと見るのだ。

 

 

 

 △65銀と出るのが、強気の一手。

 角取りを放置する怖い手で、『将棋世界』で久保と対談していた中田功八段

 

 「これは大野先生、怒ってるね」

 

 ▲同桂なら、△同歩、▲55角△同飛と切りとばして、▲同銀にそこで△51角と引くのが呼吸。

 

 

 これで次に△73角と、飛び出す味が絶品で、居飛車は押さえこめない。

 なので本譜は升田も、強く▲33歩成を取り、△66銀▲34角と反撃。

 

 

 ▲56の銀にヒモをつけながら、飛車取りという攻防手だが、大野は△77銀不成

 ▲同金にかまわず△56飛と切って、▲同角に△55角が天王山の角打ち。

 

 
 それこそ久保と並ぶマイスター中田功八段の将棋といえば、この中央で幅を利かす角打ちがトレードマークではないか。

コーヤン流三間飛車」で、イビアナ相手に何度、▲55角という手を見たことか。

 久保だけでなく、有形無形に「大野の振り飛車」を受け継ぐものは多いのだ。

 ▲66歩と金取りを受けたところで、△46角と出て、▲37歩の受けに△33桂と、ここでと金を払う。

 

 

 この△55角△33桂のコンビネーションは、先日の対加藤一二三戦でも出てきたが、八方にらみの角と左桂がさばければ、振り飛車大成功の図。

 すべての駒が働いて、手つかずの高美濃の美しさも神々しく、先手の居玉もたたって、飛車桂交換(!)の駒損などモノの数ではない。

 先手は▲32飛と打ちこむが、△45銀とかぶせて、▲47銀と、かわしたところに△57角成

 ▲67金△56銀、▲同銀、△45桂と跳ねる手の気持ちよさよ!

 

 

 まさに全軍躍動という図で、鈴木大介九段あたりなら、

 

 「振り飛車必勝でしょう。《投了してください》という手つきで△45桂と跳ねます」

 

 くらいのことは、言いそうな局面なのだ。源一先生、カッコよすぎや。

 以下、升田も必死のねばりを見せるが、大野は△62金打と、さらに玉を鉄壁にするという、盤石の勝ち方で圧倒。

 

 

 

 これこそまさに

 

 「固い、攻めてる、切れない」
 
 
 の見本のような流れ。強すぎますわ!

 いかがであろう、この大野の将棋。

 さばきのあざやかさも、さることながら、△65銀△45銀のような武骨で力強い手なども、われわれアマチュアの参考になりそうなところがある。

 やはり出版社は今すぐ『大野源一名局集』を出すべきである。

 絶対、売れると思うんだけどなあ。

 

 

 (本田小百合が加藤桃子に放てなかった鬼手については→こちら

 

 (大野源一の他の名局は→こちら


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