前回(→こちら)の続き。
キタヤマ先輩のおごりで、お好み焼きを食べに行った私とクミコちゃん。
そこで大将が「マヨネーズはどうします」というのに、キタヤマ先輩が「あ、ボクはええですわ」と答えたのに、大将は「え!」という驚きの声をあげると、みるみるとけわしい顔になり、
「お客さん、どうしていらないんですか?」
にらみつけるような目ですごまれ、先輩はやや動揺したようだが、
「どうしてって……マヨネーズ苦手なんですよ」
と答えた。すると大将は、やはり眉をしかめたままで、
「でもウチのはおいしいですよ」
「いや味の問題じゃなくてマヨ自体がダメなんです。受けつけへんのです」
「……一度、食べてみてはいただけませんか?」
「すんませんけど、なしで」
先輩のかたくなな拒否がショックだったのか、それとも気を悪くしたのか、大将はそのまま無言で厨房へと戻っていった。お好み焼きはたいそうおいしかったが、大将は勘定の時も終始無言であった。
それからしばらくして、「オタフク別働隊」は再びお好み焼きを食べに行った。やはりキタヤマ先輩のオゴリである。
クミコちゃんはすっかりタダメシの味を占めたのであるが、これはこの女が腹黒いのか、それとも下心が無くもないであろうキタヤマ先輩にも責任があるのか。この男女問題については議論は分かれるところであるが、とりあえず私はまたお好み焼きが食べられて漁夫の利であり幸いである。
鉄板で焼かれるイカ玉やモダン焼きにツバを飲みこむ我々3人。焼き上がって
「マヨネーズはいかがいたしましょう」。
前回、先輩はいらないといったが、実をいうと大将オススメの自家製マヨネーズはかなりおいしかった。食べられないのは仕方がないが、それはちともったいないとも思ったものだ。
クミコちゃんなど「大盛!大盛にしてください!」と野球のグローブぐらいの大きさに盛りつけてもらっていた。私もたっぷりとぬりつけてもらうと、大将はその渋面を少しほころばせた。笑うと大将は、ちょっとばかりかわいく、意外と女子中学生とかに人気が出るのではないかなどと思った。
で、キタヤマ先輩が「ボクはいいです」と言おうとし、「ボクはい」とまでいったところで、その言葉は悲鳴に変わった。
なんと大将は先輩の言葉を無視して、いきなり大量のマヨネーズを先輩のお好み焼きに投下したのである。
「おいこら待てオッサン、なにしとんねん!」。
当然抗議の声を上げる先輩だが大将はさらにマヨネーズを投下する。先輩のお好み焼きはまっ白に。普段温厚な先輩、この狼藉に怒りまくり。
「コラ人の話聞け。マヨネーズいらんのや!」
「食ってみろ、ウチのはウマいから!」
「味やなくて、これ自体食べられへんのやいうてるやろ!」
「ウチのは食える。黙って一口やってみろ!」
などと押し問答がはじまった。なんだかマヌケな展開に私とクミコちゃんは笑いをこらえるのに必死。しまいに先輩はなにを思ったか、
「オレはマヨネーズを食うと死ぬ体質なんだ!」
などと主張。マヨネーズを食うと死ぬ!どんな体質なのか。適当にしゃべりすぎではないのか、とあきれたが、これに対しては大将も
「ウチのマヨネーズでは死なん!」
などと堂々たる返答を発し、ついにクミコちゃんが耐えきれず腹をかかえて爆笑した。食べると死ぬ根拠も不明だが、ウチのでは死なないというのも、どういう自信なのか。まさに売り言葉に買い言葉である。
それでも屈するつもりのなかったキタヤマ先輩は、なんと盛りつけられたそれを、すべてヘラでこそぎ取ってクミコちゃんのミックスモダンに移し替えたのであった。断固たるマヨネーズ拒否宣言。なんという意志の固さ、なんというプライド。というか、そこまでやるか。どっちも意固地である。黙って食うたらよろしいやん。
そんなマヨネーズをめぐる竜虎の対決が行われていたキタヤマ先輩と大将だったが、おいしかったのと先輩のオゴリなので、それからもちょくちょく店には食べに行った。
ある日いつものようにお好み焼きを焼いてもらうと、ついに大将は「マヨネーズは」といわなくなった。キタヤマ先輩のかたくなな拒否にとうとう身を引いたのか。ついに決着かあ。壮絶な戦いであったなあ。国破れてサンガリアいうやつかあ。
となど強者どもが夢のあとに感慨にふけっていると、キタヤマ先輩がブタ玉を一口食べて「うっ!」とうめき声を上げたのである。
みるみる顔がゆがみ、どうしたのか一服もられたのかと心配したが、キタヤマ先輩は口の中のものを無理矢理に飲みこんで一言、
「や、やられた……」。
どういうことかと、ちょっと一口と先輩のブタ玉を口に運んで謎が解けた。
なんと大将はソースの中にあらかじめマヨネーズを大量に投入していたのである。
油断してそれに気づかなかった先輩は、とうとう大将の力業によって自家製マヨネーズを食べさせられたのである。大将、そこまでして食べさせたかったんかい!またも大爆笑な我々である。
「勝ち負けでいえば負けや」
と肩を落とす先輩に味のほうをたずねてみるとつぶやくように、
「悔しいけど、うまかったわ……」
ということであり、やはりここでも私とクミコちゃんは爆笑。
「負けたなあ」と肩を落とす先輩に、私はせめてものなぐさめに、「でも、大将も半分反則みたいなですよ」というと、先輩は遠い目をしながら、
「シャロン君、強いモンが勝つんやないんや、反則でもなんでも勝ったもんが強いんやで」
と、シュナイダー選手のようにつぶやいたのだが、それがうまく名言ぽく決まっていたかどうかに関しては歴史の判断を待ちたいところである。
キタヤマ先輩のおごりで、お好み焼きを食べに行った私とクミコちゃん。
そこで大将が「マヨネーズはどうします」というのに、キタヤマ先輩が「あ、ボクはええですわ」と答えたのに、大将は「え!」という驚きの声をあげると、みるみるとけわしい顔になり、
「お客さん、どうしていらないんですか?」
にらみつけるような目ですごまれ、先輩はやや動揺したようだが、
「どうしてって……マヨネーズ苦手なんですよ」
と答えた。すると大将は、やはり眉をしかめたままで、
「でもウチのはおいしいですよ」
「いや味の問題じゃなくてマヨ自体がダメなんです。受けつけへんのです」
「……一度、食べてみてはいただけませんか?」
「すんませんけど、なしで」
先輩のかたくなな拒否がショックだったのか、それとも気を悪くしたのか、大将はそのまま無言で厨房へと戻っていった。お好み焼きはたいそうおいしかったが、大将は勘定の時も終始無言であった。
それからしばらくして、「オタフク別働隊」は再びお好み焼きを食べに行った。やはりキタヤマ先輩のオゴリである。
クミコちゃんはすっかりタダメシの味を占めたのであるが、これはこの女が腹黒いのか、それとも下心が無くもないであろうキタヤマ先輩にも責任があるのか。この男女問題については議論は分かれるところであるが、とりあえず私はまたお好み焼きが食べられて漁夫の利であり幸いである。
鉄板で焼かれるイカ玉やモダン焼きにツバを飲みこむ我々3人。焼き上がって
「マヨネーズはいかがいたしましょう」。
前回、先輩はいらないといったが、実をいうと大将オススメの自家製マヨネーズはかなりおいしかった。食べられないのは仕方がないが、それはちともったいないとも思ったものだ。
クミコちゃんなど「大盛!大盛にしてください!」と野球のグローブぐらいの大きさに盛りつけてもらっていた。私もたっぷりとぬりつけてもらうと、大将はその渋面を少しほころばせた。笑うと大将は、ちょっとばかりかわいく、意外と女子中学生とかに人気が出るのではないかなどと思った。
で、キタヤマ先輩が「ボクはいいです」と言おうとし、「ボクはい」とまでいったところで、その言葉は悲鳴に変わった。
なんと大将は先輩の言葉を無視して、いきなり大量のマヨネーズを先輩のお好み焼きに投下したのである。
「おいこら待てオッサン、なにしとんねん!」。
当然抗議の声を上げる先輩だが大将はさらにマヨネーズを投下する。先輩のお好み焼きはまっ白に。普段温厚な先輩、この狼藉に怒りまくり。
「コラ人の話聞け。マヨネーズいらんのや!」
「食ってみろ、ウチのはウマいから!」
「味やなくて、これ自体食べられへんのやいうてるやろ!」
「ウチのは食える。黙って一口やってみろ!」
などと押し問答がはじまった。なんだかマヌケな展開に私とクミコちゃんは笑いをこらえるのに必死。しまいに先輩はなにを思ったか、
「オレはマヨネーズを食うと死ぬ体質なんだ!」
などと主張。マヨネーズを食うと死ぬ!どんな体質なのか。適当にしゃべりすぎではないのか、とあきれたが、これに対しては大将も
「ウチのマヨネーズでは死なん!」
などと堂々たる返答を発し、ついにクミコちゃんが耐えきれず腹をかかえて爆笑した。食べると死ぬ根拠も不明だが、ウチのでは死なないというのも、どういう自信なのか。まさに売り言葉に買い言葉である。
それでも屈するつもりのなかったキタヤマ先輩は、なんと盛りつけられたそれを、すべてヘラでこそぎ取ってクミコちゃんのミックスモダンに移し替えたのであった。断固たるマヨネーズ拒否宣言。なんという意志の固さ、なんというプライド。というか、そこまでやるか。どっちも意固地である。黙って食うたらよろしいやん。
そんなマヨネーズをめぐる竜虎の対決が行われていたキタヤマ先輩と大将だったが、おいしかったのと先輩のオゴリなので、それからもちょくちょく店には食べに行った。
ある日いつものようにお好み焼きを焼いてもらうと、ついに大将は「マヨネーズは」といわなくなった。キタヤマ先輩のかたくなな拒否にとうとう身を引いたのか。ついに決着かあ。壮絶な戦いであったなあ。国破れてサンガリアいうやつかあ。
となど強者どもが夢のあとに感慨にふけっていると、キタヤマ先輩がブタ玉を一口食べて「うっ!」とうめき声を上げたのである。
みるみる顔がゆがみ、どうしたのか一服もられたのかと心配したが、キタヤマ先輩は口の中のものを無理矢理に飲みこんで一言、
「や、やられた……」。
どういうことかと、ちょっと一口と先輩のブタ玉を口に運んで謎が解けた。
なんと大将はソースの中にあらかじめマヨネーズを大量に投入していたのである。
油断してそれに気づかなかった先輩は、とうとう大将の力業によって自家製マヨネーズを食べさせられたのである。大将、そこまでして食べさせたかったんかい!またも大爆笑な我々である。
「勝ち負けでいえば負けや」
と肩を落とす先輩に味のほうをたずねてみるとつぶやくように、
「悔しいけど、うまかったわ……」
ということであり、やはりここでも私とクミコちゃんは爆笑。
「負けたなあ」と肩を落とす先輩に、私はせめてものなぐさめに、「でも、大将も半分反則みたいなですよ」というと、先輩は遠い目をしながら、
「シャロン君、強いモンが勝つんやないんや、反則でもなんでも勝ったもんが強いんやで」
と、シュナイダー選手のようにつぶやいたのだが、それがうまく名言ぽく決まっていたかどうかに関しては歴史の判断を待ちたいところである。