今日は時節にちなんだ小説を紹介したい。
8月15日は敗戦……じゃなかった終戦記念日たということで、大槻ケンヂさんの『ユーシューカンの桜子さん』と『イマジン特攻隊』の2編。
オーケンといえば、知らない人には
「たまにテレビで見るマイナーなタレント」
くらいの意識だろうが、本業はミュージシャン。
ロックバンド筋肉少女帯(数年前に再結成を果たした)のボーカルで、同時にエッセイスト、小説家としても活躍中。
プライドだけは人一倍高いが自分が何者か見いだせずモンモンとしているボンクラ少年必読の『グミ・チョコレート・パイン』。
バンドブームの悲喜こもごもを愛情を持って描いた自伝的小説『リンダリンダラバーソール』。
他にも星雲賞を取った『くるぐる使い』や『のの子の復讐ジグジグ』など、作家としてもその評価は高い。
中2病的悩みに煩悶する若者には、ぜひ手に取っていただきたいもの。
以下、作品紹介。
■『ユーシューカンの桜子さん』
ゴスロリ専門誌『ゴシック&ロリータバイブル』に連載されていた小説。
小説のネタ探しに、なんとなく靖国神社に向かう作家である主人公の「僕」。
そこに「彼氏にドタキャン食らって暇なんだもん!」という、ゴスロリ衣装の妹、桜子がくっついてくる。
併設された、戦没者や軍事関係の資料などを展示している遊就館を見学する二人。
日清、日露、大東亜戦争にまつわる様々な展示物が並ぶ中、桜子が興味を示したのが「菊子」という名の花嫁人形だった。
大戦末期、海軍は連合軍の本土上陸作戦に対抗するため、「伏龍特攻隊」を結成した。
伏龍隊の任務とは水中で待機し『棒機雷』という竹槍に機雷をくくりつけたシロモノで、敵艦の底に特攻するという絶望的な自爆戦術だ。
その部隊で命を落とした若き少年兵。恋も知らずに死んでいった彼に
「若くして天に召されたあなたのために、母は、日本一美しい花嫁の菊子さんを捧げます」
奉納されたものだ。
服やら男やらにしか興味のないはずの桜子は、その花嫁人形に魅入られるよう立ちつくしている。
やがて彼女はいう、
「私、帰らない」
桜子に、なにが起こったのか。
そこに心霊探偵である滝田が現れる。彼によって語られる真実とは……。
オチの「これは……」が爆笑であるが、その後は「おもろうて、やがてかなしき」な掌編。
■『イマジン特攻隊』
同じく、伏龍隊の話。
訓練のため海に潜っていたある少年兵は、水中で眼鏡をかけた西洋人の姿を見る。
彼は言う「歌を歌いなさい」。
正体のわからぬまま訓練を続ける少年。ただひとり海の底で、棒機雷を持って待機する。
呼吸のタイミングを間違えただけで即、死が待っている発狂者さえ出る過酷な状況で、少年は正気を保つために歌を歌う。
軍歌を、童謡を、猥歌までも。
それらの曲を『遅い』『楽しくないな』と感じた少年は、そこである発見をする。
自分の呼吸音と、心臓音、それに自分の指で鳴らすリズムを合わせると、『しっくりくる』ということに。
スーハートンタントンタン。キサマトオーレートーハー・トン・ドーキノサークーラー・タン・トンタントンタンスーハースーハー……。
自分が「発見」したものの正体がわかった瞬間、少年は親友にむかって叫ぶ。
「待て吉森! 棒機雷を捨てろ。俺たちは武器よりずっと強いものを手に入れたんだ。この音楽だ。そしてその名は……」
彼が何を見つけたのかは、ラスト一行に書いてある。
特攻隊をゴスロリや音楽に結びつけて物語にできるなどオーケンの奇想には感心することしきり。
この2編は『ゴスロリ幻想劇場』『ロコ!思うままに』で、それぞれ読むことができる。ちなみに、このふたつの短編はスピンオフしている。
戦争話といえば思い出すのは、子供のころあの有名な『岸壁の母』という曲のことをずっと『完璧の母』だと思いこんでいた。
中身がよくわからないなりに、
「絶望的状況でもあきらめずに、子供の帰りを待ち続ける、このお母さんの愛情深さパーフェクト!」
なんて、エド・ウッドのごとく考えていたのだろうか。
同じようなカン違いをしていた阿呆な子供はけっこういたと思うが、推測するに、私の場合は当時
「パーフェクトガンダムのプラモデル」
をほしがっていたことが原因だと考えられる。