「泥沼流」の顔面受け 米長邦雄vs谷川浩司 1984年前期 第44期棋聖戦 第2局

2022年09月27日 | 将棋・好手 妙手

 「助からないと思っても助かっている」


 
 というのは、大山康晴十五世名人の有名な語録である。
 
 将棋の終盤というのは混沌としており、「勝った」と思ったところから妙にねばられたり、逆に「やられた!」と覚悟を決めたら案外耐えていたりと、最後までわからないものなのだ。
 
 私のような素人レベルなら、ほとんどの場合「たまたま」助かっているだけだが、これが達人レベルになると、
 
 
 「助からないと思っても(読み筋だから余裕で)助かっている」
 
 
 というケースも多々あって、その強さに舌を巻くことになるのだ。
 
 
 1984年の前期、第44期棋聖戦米長邦雄棋聖(王将・棋王)に谷川浩司名人が挑戦した。
 
 「名人」と「三冠王」の対決ということで、注目を集めたこのシリーズは「前進流」谷川の攻めを「泥沼流」米長が受け止めるという展開になる。
 
 第1局は谷川が先攻するも、持ち歩の数を間違えるという誤算があって、米長が勝利。
 
 続く第2局でも、後手番ながら谷川が飛車を捨てて猛攻をかけ、主導権を握ろうとする。
 
 むかえたこの局面。


 
 
 
 
 
 
 △68銀と打って、谷川「光速の寄せ」がヒットしているように見える。
 
 自然な▲48玉△77とと引いて、▲75金直△同角▲同金△67とと寄って受けがむずかしい。
 

 
 
 
 
 

 かといって、▲68同飛は先手玉が薄すぎて、とても受け切れない。
 
 谷川はこれで勝ちを確信していたようだが、ここで米長が力強い受けを見せる。

 

 


 
 
 
 
 
 ▲58玉と上がるのが、「泥沼流」本領発揮の顔面受け
 
 この手の意味は△77とと引くと、▲75金直△同角▲同金△67とと寄ることができない。

 

  

 

 
 解説されれば、なるほどだが、あのと金に近づくような手は、どう見ても指しにくいではないか。
 
 谷川は△77と▲75金直△同角▲同金△同歩と取ったが、これが疑問だった。
 
 ここでは△67金と打つべきで、▲49玉△57銀成と取っておいて、難解な勝負だった。

 

 


 
 とはいえ、いかにも重い手で「光速の寄せ」にはふさわしくないし、そもそもと金で行けたところに持駒を投入するなど、バカバカしくて指す気にはなれないところだ。
 
 △75同歩▲26桂と打って、ついに攻守が逆転

 

 


 
 △33金右▲25歩と打って、そこで遅ればせながら△67金だが、これは「証文の出し遅れ」で、以下米長の鋭い寄せが決まった。
 
 これで2連勝となった米長は、第3局も谷川の切っ先をいなして3連勝防衛を決める。
 
 その後、中原誠から十段を奪取し四冠王となり、
 
 
 「世界一将棋の強い男」
 
 
 の呼び名をほしいままにするのだった。

 

 (米長の強すぎる見切りはこちら

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

 


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