「なんなら『ゆるパッカー』っていうマンガ描いて、一発当てたら?」
近所の肉バルで一杯やりながら、そう笑ったのは友人オクモト君であった。
話の発端はもちろんのこと、アニメもヒットした人気マンガ『ゆるキャン△』。
私は文化系オタク型男子だが、その嗜好は「特撮」「怪獣」に偏っており、世間でいうオタクのメジャーなイメージである「アニメ」「マンガ」「ゲーム」には、とんとくわしくない。
なので、たまに読んだり観たり遊んだりすると、「うわー、今ってこんなもんあるんやー」と新鮮なおどろきを感じられることも多く、今回は『ゆるキャン△』をすすめられてハマったのである。
そのオススメの主というのが、なにをかくそうオクモト君であり、
「いやー、このマンガのなにがええゆうたら、外国に旅行行ったときのノリを思い出すのよ」
「せやろ。そこはボクも思たんや。このゆるい感じって、キミの旅行の話と同じやもん。《ゆるパッカー》やねん」
私はキャンプはやらないが、海外を旅行するのが好きな、いわゆるバックパッカーというやつである。
といっても、海外旅行に興味のない人がイメージしがちな、『深夜特急』を代表とする沢木耕太郎的ダンディーな世界観や、
「インドの安宿で1年沈没」
みたいなディープなものではなく、なんともお気楽なもの。
バイトなどしてためた金で格安航空券(今ならLCCか)を買って、休みになると、ひとりでノープランのまま出かける。
そこには「ガイドブックにたよる旅など、本当の旅ではない」的ストイックさは皆無で、観光はするし、それに飽きたら公園で本を読んだり昼寝をしたり。
スーパーのお惣菜や屋台で食事して、あとは安宿やユースホステルで仲良くなった旅行者がいたら、雑談や情報交換しながら安物のワインで乾杯したり、意外とやっていることは地味なもんである。
そもそもバックパッカーと言っても、そのほとんどが「ただのゆるい旅行好き」であって、欧米の旅行者なんか学生でもリタイアしたおじいさんおばあさんでも、たいていがザック背負って旅行している。
たまに「シベリア鉄道走破」「ユーラシア横断」といった「猛者」のような人にも出会わないこともないが、そういう人だって案外肩ひじ張ってなく、マイペースにやっている人がほとんど。
これは雑誌『旅行人』の編集長である蔵前仁一さんも言ってたけど、
「3泊4日の遊びの旅行も、2年かけた世界一周も、やることや持っていく荷物は案外同じ」
ということが、旅行をしないタイプの人には、なかなか理解されないのだった。
そんな《ゆるパッカー》からすると、『ゆるキャン△』の空気感は共感できるところ大で、わざわざ遠くまで出かけてテントも張って、やっていることといったらボーっとしたり、あとは読書とか、
「シーズンオフ最高」
なんてセリフも、思わずニンマリしながらうなずいてしまうところだ。
もちろん「ゆる」だから、友達とも行くし、「自分探し」なんてしないし、予算の範囲内でたまに贅沢もする(まあ、夜行列車を簡易寝台から二等にする程度だけど)。
将棋のプロ棋士である先崎学九段は、
「旅先では思いっきりミーハーした方が楽しい」
エッセイの中で書いていたが、これに「そうやよねえ」とうなずくくらいだから、「ゆる」もここに極まれりである。
といった傾向を受けての『ゆるキャン△』推薦で、さすが友人というのはよく見ているものである。
となると、ここはやはりオクモト君の言うように『ゆるパッカー』でマンガ界に打って出るべきではないか。
私のようなイケメンでもない男子ではしょうがないから、かわいい女の子に変換して、
「自由旅行にはあこがれるけど、アヤシイ宿や危険な地域を歩くのは怖いかも」
「お金をかけずリーズナブルな旅をしたいけど、貧乏くさくなるのはイヤ」
といった人たちに、「ゆるい」バックパッカー旅をレクチャーする。
それいいなあ。だれか、かわいい絵をかける人と、取材費出してくれる人はいないかしらん。
舞台はどこだろ。パリとかアムステルダムとかいいけど、やっぱ近いアジアかな。
私の時代はタイが人気だったけど、今は台湾か、若い子ねらいなら韓国か。
取材行ったら、楽しすぎて帰ってこなかったりして。