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BL小説・風のゆくえには〜ありがとうを伝えたい

2024年12月20日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【浩介視点】


 2024年12月。
 とうとう、新型コロナウィルス感染症に罹患したようだ。(「いままで感染していないなんて珍しい」と周りからは言われたけれど、うちは慶もまだかかっていない)


 月曜日。少し咳の出ている生徒と、長時間の面談を行った。
 火曜日。その生徒が高熱で学校を欠席。コロナ陽性の検査結果が出たそうだ。
 水曜日の夜、若干、喉に違和感が……

(もしかしたらもしかするかも……)

 そう思って、念のため、月曜の夜から慶と寝室を別にしていて大正解だ。

 木曜日の朝、微熱がでたので、念のため、仕事を休んだ。
 大人しく横になって様子を見ていたら、あれよあれよと熱が上がっていき、昼過ぎには、体温計に39.8度と表示されて驚いた。

(39.8って、あと0.2で40度じゃん……)

 ひどい頭痛と金縛りにあっているような固さで、体が動かない。

『水分だけは取れよ?』

って、朝、出勤前に言っていた慶の声が頭をよぎる。

(水分……無理。取りにいけない……)

 まだ元気な午前中のうちに枕元に用意しておけばよかった……
 それか、持ってくると言ってくれた慶のお言葉に甘えて、用意してもらえばよかった……

(だって、朝はまだ元気だったんだもん……)

 こんな数時間で、こんな急激に悪くなるなんて……。これがコロナ。恐ろしい……

(慶には絶対にうつしたくない。今晩からホテルに泊まってもらおうかな)

 以前、おれがインフルエンザになった時には、高校の友人の溝部の部屋に泊まりにいってもらった。でも溝部は結婚したので、さすがにそれは無理だ。ホテルにでも……

(でも……)

 でも。慶……

(会いたい)

 頭が痛すぎるし、動悸もするし、このままこれが続いて心臓止まってしまったら、慶にもう会えない。そう思ったら……

(伝えないと)

 ふいに切迫した感情に囚われた。

(ありがとうって、伝えないと……)

 今までたくさん「好き」って気持ちは伝えてきたけれど……

 感謝の気持ちを伝えきれていない。

 日頃の……例えば、お風呂洗ってくれてありがとう、とか、買い物してくれてありがとう、とかそういうことは言っているけれど。
 そういうことではなくて、

(慶のおかげでおれは………)

 おれは。

 慶がいたから、生きてこられた。
 慶がいなかったら、今、この世にはいないだろう。

 慶……おれのすべて。

(慶……会いたい)

 ありがとうを伝えないと……

 でも、うつしたら大変だから、帰ってきちゃダメだ……

 朦朧とする中、眠りかけては辛くて起きるということを繰り返し……



 人の気配にぼんやり目を開けた。

(…………慶?)

 ぼやけた視点の中に愛しい姿が見える。

「浩介」

 優しい……優しい慶の声。
 涙が出そうになる。

 慶、今朝していたものと同じネクタイだ。マスクもしてる。外はまだ明るい。もしかして早退してきてくれた……?

「大丈夫か?」

 そっと手を取られた。

 いつでも包んでくれる、優しい、温かい手。
 何ものにも代えられない、慶のぬくもり。

 嬉しくて、愛おしくて、涙が出そうになる。

(…………慶)

 心をこめて、口には出さず名前を呼び、見つめ返し、その手を……と?

「?」

 パチリ、と何か人差し指に感触があった。
 見ると、小さな機械がはめられてる……

「96……、大丈夫そうだな」

 慶はボソッと言うと、機械を外し、布団の中におれの手を戻して立ち上がった。

「飲み物持ってくるからちょっと待ってろ」

 …………。

 …………。

 …………。

(ですよねー……)

 はあ……と大きなため息をついてしまった……。

 手を取られて、甘い気持ちになっていたおれ………

(バカだなー……)

 これはあれだ。酸素飽和度を測る機械だ。一時期テレビでよく取り上げられてたから見たことがある。

(あーあ。この状況で慶が手を握ってくれるなんて、あるわけないもんなー)

 ちぇーと、思ってしまうくらいには、なんだか元気になってきた。慶という特効薬は何よりも効く。

「とりあえずこれ飲め。それから着替えるぞ」
「…………」

 戻ってきた慶にコップを差し出された。慶はこういうとき、とことん事務的だ。余計なことをしたら怒られるので、大人しく言うことをきくことにする。

「大丈夫か? 身体拭くぞ」
「…………」

 世話を焼いてくれる慶の温かいぬくもりを感じて、心がホカホカしてくる。


(治ったら…………)

 ありがとうを伝えよう。

 そう、心から思った。

 あなたは、おれのすべて。すべてだと、伝えよう。



終 



---

お読みくださりありがとうございました!
「この人はおれのすべてだ」って、高校生の時にも思った浩介君。何十年たっても、変わらない思い。

さてさて。
実は新しいお話を書き始めております。
主人公が4人いまして、それぞれの視点の1回目を書き終わったところなのです。
でもこれ、4人それぞれ話がてんでバラバラなので、1回目を順番にあげていったら、訳わからんくなる?って気がしてきた……
ので、1人数話ずつ進めていこうかな、と思い直しました。
ということで、しばらく書きためてから、あげていこうと思います〜。

ということで…
読みに来てくださった方、ランキングクリックしてくださった方、本当にありがとうございます!


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「風のゆくえには」シリーズ目次1(1989年~2014年) → こちら
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コメント (3)
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