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BL小説・風のゆくえには〜パズルがはまる

2025年02月07日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【慶視点】

 1月1日に浩介の実家、2日もしくは3日にうちの実家に行く、というのが、帰国一年後(2016年)以来の正月の過ごし方になっている。コロナ禍で行けなかった年もあるが。

 2025年は、おれが2日が仕事になったため、1日は浩介実家、3日にうちの実家に行くことになった。浩介は「2日は一人で東京観光しようかな」なんて言っていたのだけれども、

「明日も来てちょうだいね」

と、1日の夜にお母さんから頼まれ、2日連続で実家に帰ることになった。浩介も「これは明日も来るしかない」と、納得の上だ。なぜなら……

 1000ピースのジグソーパズルが、完成しなかったからだ。



 1月1日の昼前に、例年通り浩介実家を訪れたおれたち。

「片付けをしていたら、ジグソーパズルが出てきたの」

という、お母さんの発言から、「今からやれば、出来上がるかも?」と、話が進み、軽い気持ちではじめたジグソーパズル。

 枠になるパーツをよけて、色分けして……までは良かったのだけれども、スイスの山々と空は、思いの外、色に差がなく、厄介だった。

 ジグソーパズルは、子どもの頃、京都の祖父母の家に行った際に、いとこたちと一緒に何度か完成させたことがある。そのときに似たようなパズルをやったけれど、こんなに大変じゃなかったような……

 そう話すと、浩介のお父さんが仏頂面でボソッと言った。

「歳を取ると、色の差が分からなくなるって、前に何かで読んだな……」
「うわ、そういうことかっ

 思わずのけぞってしまった。こんなことにも老化の影響がっ

「確かに。最近、黒と紺の見分けがつかないかも……」

 浩介はブツブツ言いながらも、手を休める様子はない。こういう地道な作業、好きだもんな……。

「私はもうダメだわ。お節の用意しますね?」
「え、おれも!」

 お母さんが、苦笑気味に言って立ち上がったので、これ幸いとおれも立ち上がる。

「用意、手伝います!
「え、慶、おれが……っ」
「いや、いいからいいから」

 慌てたように立ち上がりかけた浩介の肩を押して座らせる。

「パズル頑張れ」
「…………」

 何か言いたげな様子に、パンパンと肩をたたいて返し、リビングを出た。

 お父さんと二人きりにさせることが少々心配だけれども、ジグソーパズルという「やること」があるから大丈夫だろう……と判断したのだ。

 その判断が正しかったかどうかは分からないけれど、とりあえず、その日は問題なく過ごせたし、翌日また来る約束までしていたし、帰宅後も、

「ジグソーパズルって面白いよね。久しぶりにやったけど、またハマりそう」

 なんて、機嫌よく話していたので、正しい判断だったのだと思う。

 浩介の「両親とのわだかまり」は完全に溶けたわけではない。
 でも、お母さんとはほとんど普通に接することができている。あとは、お父さんとも……と思ってしまうのは、おれのエゴでしかないのは分かっている。それを押し付けてはいけない。

 それでも、ああ見えて実は、浩介との時間を望んでいるお父さんの希望を、無理のない範囲で叶えたいと思ってしまう。人間の命は有限だ。永遠の別れがきたときに、浩介が少しでも後悔しないように……と思ってしまう。


 翌日。

「パズル、完成したよ」

 仕事から帰ったおれに、浩介がニコニコしながら見せてくれたスマホの画面には、美しいスイスの山々の風景のパズルが写っている。

「のり付けまでした。乾くのに24時間かかるっていうから、明日、慶の家の帰りに、もう一回寄ってもいい?」
「おお。もちろん」

 聞くと、パズルの枠も、3人で一緒に買いに行ったそうだ。浩介の家から徒歩圏内に大型ショッピングモールがあるのだ。

「すごい混んでたよ。しかもみんな福袋持ってるから、余計に通路が狭くなってる感じ」
「あー、それはそうなるな」

 そんな中、浩介と浩介の両親が一緒に買い物をしている姿がある、ということに感動さえ覚える。けれど、そんなことを言って意識させるのは嫌なので、普通の顔をしてうなずく。

 そんなおれの様子に気が付いた様子もなく、浩介は実家から持って帰ってきたのであろう料理を食卓に並べてくれながら、言葉をついだ。

「うちの両親、時々行くらしくて、館内の構造に詳しくてびっくりしちゃった」
「へえ。あそこ近くていいよな」
「ね。たまたま偶然、近くにできただけなんだけどね」

 おれ達が日本を離れている間に、浩介の実家の近くにあった大手企業の事業所が閉鎖され、その跡地に建設されたのだ。昔とは、様々なことが変わった。風景も、つながりも。

「なんかねえ、あそこのお茶できるようなお店に片っ端から行って、珈琲とケーキ食べてるらしくて。凝りだすと止まらない母に、父が付き合わされてる感じ」
「へー。仲良いなあ」

 思わず言うと、いつもは複雑な表情になる浩介が、今日はなぜか、笑った。

(え、笑った?)

 思わず二度見してしまった。両親の話でこんな表情になるなんて!

 でも、浩介はちょうど汁物を運ぶ最中でこちらをみていなかったので、なんとか驚きの表情を隠して見つめ直す、と。

「おれも……ちょっと、それ、思ったの」
「それ?」
「うん」

 浩介が穏やかな表情で話を続けた。

「ジグソーパズルが最後の1ピースってなったときにね。父がわざわざ台所仕事してた母のことを呼びつけたの。で、その最後のピース渡して、はめなさいって」
「最後の1ピース……」

 覚えがある。最後の1ピースをはめたときの達成感。パチンって感じ。子どもの頃、いとこたちとパズルをしていた時も、最後の1ピースをはめる人はジャンケンで決めたりしていた。

「母は遠慮したんだけど、父が、いいからって」
「へー……」
「はめたら母がすごい喜んで、父も口元緩んでて嬉しそうで。なんか……仲良いなあって、ちょっと思った」
「…………そうか」

 …………。

 …………。

 胸の奥の方から温かいものがあふれ出してきて、苦しいくらいだ。

「…………浩介」

 我慢できなくて、椅子に座った浩介の頭を撫でながら、そっと口づける。

「慶?」

 きょとん、とした瞳の横にも口づける。と、浩介がふふっと笑った。

「仲良しの対抗?」
「そうそう」

 額にも口づける。

「ご飯冷めちゃうよ?」
「だな。続きはメシ食ってから」

 もう一度、唇に落としてから、ぎゅっと抱きしめる。

 両親を認めるような言葉を浩介の口から聞けた。笑顔で話してくれた。

 少しずつ、少しずつ、完成に向かうパズル。
 出来上がっても、壊れやすくて、取り扱いには注意が必要だけど。

 でも、はまる。パズルが、はまっていく。




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お読みくださりありがとうございました!
一か月遅れのお正月の話でございました。

二人が日本に帰国してから10年たつということに気がついて驚愕しております……。
そして、浩介が体調崩してバレンタインフェアに行けなくて、
「来年まで我慢しろ」って言われたのが5年前の今頃のことでした。
あの時は、まさか翌年のバレンタインフェアがコロナで中止になるとは思いもしなかったですね……

何があるか分からない世の中。
浩介の両親と浩介も少しずつでもいいからわだかまりが解けてくれることを祈るばかりなのです。

寒い日が続いておりますが、皆様くれぐれもお身体おいといください。

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「風のゆくえには」シリーズ目次1(1989年~2014年) → こちら
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