私の家庭教師の桜井浩介先生には、男の恋人がいるらしい。
でも、ウソなんじゃないかな、と思う。
だって、成績が上がったら会わせてくれるっていったのに、いまだに会わせてくれない。約束してからもう半年以上もたってるのに。
先生はいつも優しい。いつもニコニコしながら私のこと見てる。絶対に私に気があると思う。
デートにも誘われた。一応理由はその恋人の都合が急に悪くなってチケットが余ったからってことだけど、それはウソで、ただ単に私とデートしたいんじゃないのかな、と思う。
チケットっていうのは、先生の知り合いが出るという舞台のチケット。
私が中学の時に一時期演劇部に入っていた、という話を憶えていて誘ってくれたらしい。
舞台自体は、すごく良かった。引き込まれた。特に相手役の男の子がハスキーボイスで素敵だった。隣に先生がいることも忘れて夢中になってしまった。
スポットライトを浴びる快感を思い出して、終わってからもしばらく夢うつつで、先生に促されてロビーに出るまでぼんやりしてしまった。
ロビーでは出演者たちが挨拶に出ていた。あちらこちらで笑い声がする。楽しそう。
そんな中で、
「こーすけセンセー」
こちらに向かって手を振りながら近づいてくる長身のすごい美人がいる。
浩介先生も、「ああ」と手を振り返した。
誰?
何? すごい親しそう。
まさか……彼女?
「…………」
思わず、ジーーーっとその女性を見上げていたら、女性の方がふっと笑った。華やかな笑顔。
「希衣子ちゃん、ね?」
「え?」
名前を言われてビックリして後ずさろうとしたところ、いきなり両手を掴まれた。
「浩介センセの話通り!すっごいかわいいじゃないの!」
「え?」
「二年後が楽しみだわ~」
「え?」
二年後??
ハテナ?ハテナ?としていたら、浩介先生が「ちょっと!」と割って入ってきた。
「あかねサン? いくら希衣子ちゃんがかわいいからって手出さないでよ?」
「分かってるわよ。だから二年後って言ってるでしょ」
「二年後でもダメ!」
「なんでよっ18歳になったら法律的にはOKでしょっ」
「そういう問題じゃ……」
なんだかよくわからない言い合いをしている浩介先生と、美人なお姉さん。
でも、浩介先生が私のことを「かわいい」って言ったことは聞き逃さなかった。やっぱりそう思ってるんだ。やっぱりね。
それにしても、この美人、いったい誰なの?
「あのー……」
「ああ、ごめんね。希衣子ちゃん」
浩介先生が美人を制して、私に向き直った。
「この人、木村あかねさん。おれの友達」
「……ってことは」
出てたってことだよね? こんな人出てたっけ?
他の出演者は衣装のままロビーにでてきてるけれど、この美人は普通の格好しているから役柄が分からない。
きょとんとした私に、あかねさんはニッコリと、
「私、ジミー役で出てたのよ?」
「ええ?!」
あの、ハスキーボイスの男の子がこの人ってこと?!
「衣装でいると役柄引きずっちゃうから、速攻で着替えてきたの。だって嫌じゃない?あんなテンション高い男」
「えええ、そんなことないですっ。すごいかっこよかったですっ」
「あら、ありがとう」
正直な感想を述べると、あかねさんは嬉しそうに笑った。
本当にすごい美人だ。こんな人が彼女だとしたら、どうあがいても太刀打ちできない。
不安に思いながら浩介先生を見上げると、浩介先生は真面目な顔をして、
「希衣子ちゃん、気をつけてね。この人かわいい女の子に目がないから。連絡先とか教えちゃダメだよ?」
「ちょっと浩介センセー? 人を色情魔みたいに言わないでくれる?」
あかねさんが浩介先生の肩をグーで叩く。浩介先生があははと笑う。2人はすごく仲が良いみたいだ。
なんだかよくわからないけれど、先生、私のこと「かわいい女の子」って言った。彼女に対して他の子のこと可愛いなんて言わないよね?うん。やっぱりただの友達なんだね。
うふっと思ったところに、次の浩介先生の言葉がガツンと頭に衝撃を走らせた。
「ケイからの花束、受付に預けたんだけど無事届いてる?」
「あ、そうそう、ありがとう。休憩の時にチェックしたよ。なんかすごい豪華なのいただいちゃって……くれぐれもよろしく伝えてね」
「ケイ、こられなくて残念がってたよ。次は是非って」
そうか……。
ケイっていうのが、先生の恋人の名前ってことね。ふーん……本当にいるのか……。
でもケイって……本当に男?
翌週。
「男でも女でもどっちでもいいんじゃない?」
親友の由美ちゃんがあっさりと言った。
渋谷で映画を見て、ご飯食べた帰りの電車の中。
浩介先生とのデートの報告をしたところ、由美ちゃんはふむふむとうなずいて、
「ようは、希衣ちゃんが取っちゃえばいいって話でしょ。脈ありそうなんでしょ?」
「うん」
私のことを見る浩介先生の目はとっても優しい。それに私のことかわいいって言った。絶対に脈はある。
「来月クリスマスだしねーチャンスじゃん」
「うん。がんばる」
由美ちゃんちの最寄り駅で下車する。うちの最寄り駅は一つ先なんだけど、少し遅くなってしまったので、由美ちゃんのママが車で迎えにきてくれることになったのだ。
「あ!!!」
改札を出るための列にならんでいたところ、改札の先の端っこのほうで本を読んでいる男の人の姿が目に飛び込んできた。
浩介先生だ!!
「え、なになに? もしかして、浩介先生? あの人?」
「うん。なんでいるんだろう?」
「大学、ここなの?」
この駅の近くには有名な大学がある。でも、浩介先生の通っている大学ではない。
「違うけど……」
「まあ、なんでもいっか。ラッキーじゃん。紹介してよー」
にやにやと由美ちゃんが言う。
「先生、背、高いね」
「177くらいって言ってた」
「へ~。希衣ちゃんいくつだっけ?」
なんてことを話しながら改札からようやく出たところで……
「…………………あ」
先生のいるところに向かおうとした足を止めた。由美ちゃんの息を飲む音が耳に入った。
浩介先生の横に現れた男の人………
(ケイ、だ)
言われなくても分かった。小柄できれいな顔をした男の人。
そして何より………
「先生………」
ケイを見る、先生の瞳。なんて……なんて愛おしそうなんだろう。
私を見る先生の瞳の優しさが1だとしたら、ケイを見る瞳の輝きは百でも千でも一万でもない。数え切れないほどの溢れる愛。
読んでいた本をカバンにしまいながら何か話している。何か面白いことを言われたのか、先生がクスクスと笑いながらケイの頬に軽く触れた。ケイも笑う。天使のようにきれいな人。
そして2人並んで改札を通って行ってしまった。私にはまったく気がつかずに。
「…………」
脈がある、なんてとんでもない勘違いだ。
先生のあんな顔、一度だって見たことない。これからも一生、見ることはできない。
切なくて、悲しくて、涙が出てきた。
「希衣ちゃん……大丈夫?」
「由美ちゃん……」
人の目も気にせず、私は由美ちゃんに抱きついてわんわん泣いた。
------------------
希衣子ちゃん、初期ルーズソックス世代です。
改札も今と違って有人なので出るまでに時間がかかるんですね。
希衣子ちゃんの失恋により、色々とまわりが動き出します。
次ももう一回希衣子ちゃん目線の話。
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女の子の情報網は恐ろしいほど素晴らしい。
サークルの女の子達に『カウンターの君』の情報を求めたところ、名前、通っている大学名、バイト先まで調べてくれた。
彼が所属するボランティア団体まで紹介してくれ、話の流れから、私もそのボランティアに参加することとなった。
日本語が不自由な子供たちを集めて塾のようなことをしている団体らしい。私が頼まれたのは、絵本の読み聞かせだ。
紹介してくれた女の子も、一度このボランティアに参加したことがあるそうで、
「『カウンターの君』の印象変わりますよ……」
と、ガッカリしたように言っていた。
どういう意味だろう?という疑問は、会場についてすぐに分かった。
喫茶『アマリリリス』にいるときの彼は、寡黙で物憂げで影のある青年、という印象。
でも、ここでの彼は、元気で明るい。子供好きなんだろう。皆に囲まれて楽しそうだ。
「浩介先生ー、ちょっといいー?」
今日の責任者の中年女性が『カウンターの君』を呼んでくれた。
「はーい」
思ったよりも若干高めの声。アジア系のかわいい女の子を腰にぶらさげたままこちらに歩いてきた『浩介先生』は、
「…………げ」
私を見て、「げ」と言った。絶対言った。なんなんだ!?
「今日読み聞かせに入ってくれる、木村あかねさんよ。浩介先生、色々教えてあげて」
「はい」
げ、と言ったことはなかったことのように、にっこりと返事をした浩介先生は、はりついた笑顔のまま、私の方に振り返った。
「よろしくお願いします。桜井浩介です」
「……お願いします」
そして。これからの流れをザーッと説明してくれると、そそくさと行ってしまった。
何となく、避けられている気がする。だいたい、あの「げ」は何だったんだ。
その後も、見られている気配を感じて、そちらを見るとパッと視線をそらされるということが数回。その視線も友好的とはいいがたいものだから余計に気になる。思い返してみれば、喫茶『アマリリリス』にいるときも、これと同じような視線を感じたことがある気がする。
なんなんだ……という疑問の答えも出ないまま、読み聞かせの時間になった。
頼まれた本は「白雪姫」。
私の古傷に抵触する話なのでできればご遠慮願いたかったのだけれど、プロとしてそんなこと言わない。完璧にやってみせる。
はじめはソワソワしていた子供たちが、すぐに物語に引き込まれていくのが分かった。他のボランティアさん達も食い入るように見てくれている。
私は演じることが大好きだ。別人になれる瞬間。
娘に嫉妬する母親。純真無垢な白雪姫。姫を崇拝する小人たち。そして、姫を生き返らせてくれる王子様(死体にキスをする変態王子だ)。
白雪姫が王子と結ばれるハッピーエンド。
読み終わると、わっと拍手が起こった。子供たちの目がキラキラしている。
(子供って、かわいいな)
初めて生まれた感情だった。
でもそのあと、子供たちにさんざんまとわりつかれて、若干辟易してしまったことは内緒にしておく。
ボランティア終了後、帰路につこうとしたところで呼び止められた。浩介先生だ。
「あかね先生!今日はありがとうございました!」
打って変わった友好的な笑顔。元気な声。
「おれ、すっごい感動しました!また是非よろしくお願いします!」
「はあ……」
あまりもの変わりように毒気を抜かれてしまう。こいつ、どの顔が本当の顔なんだろう?
「あの……」
気になることはすぐに解決しないと気が済まない。ニコニコしている浩介先生に直球を投げる。
「今日、はじめに私を見て『げ』って言いましたよね? 何でですか?」
「…………」
うっと詰まったような顔をした浩介先生は、頭を深々と下げ、
「……スミマセン」
「いや、謝ってほしいわけではなく、理由を知りたいんですけど?」
浩介先生の目が一回転する。
「……スミマセン。理由は言えません」
「はああ?!」
意味が分からん!!!
「もしかして、私が渋谷慶君をデートに誘ったから?」
「…………」
イエスともノーとも言わない。困ったように天を仰いでいる。……ムカつく。
再び超直球を投げてやる。
「あなたたち、付き合ってるんでしょ?」
「…………」
すると、すっと視線が下りてきた。驚くほど冷静な瞳。怖いくらい。
「付き合ってません」
「ふーん?」
まあ、いいや。今日はこのくらいにしておいてあげよう。
「これから『アマリリリス』行く? 一緒に行かない?」
「行きますけど、あなたと一緒には行きません。失礼します」
ぷいっと浩介先生は行ってしまった。どうやら怒らせてしまったらしい。なんだかキャラのつかめない奴だ。ますます興味がわいてきた。
浩介先生とは初めはギクシャクしたものの、ボランティアでしょっちゅう顔を合わせるようになってからは、普通に話しをするようになった。ボランティアの仲間の一員として認められた感じだ。アマリリリスにいるときと違って、ボランティア活動での浩介先生は明るく饒舌だ。
夏休み。
2人が申込みしていた自動車免許の合宿に私も参加することにした。締切日ギリギリの申し込みだったけれど、無事に同じ日程で予約を取ることができた。浩介先生が渋い顔をしていたことには気がついていないことにする。
合宿は、免許を取る、という同じ目的を持つことによる連帯感からか、参加メンバーたちとはすぐに打ち解けることができた。仲良くなった十数人で毎晩のように宴会を行ったりして、なかなか楽しい日々。
で。一週間ほどたった、ある夜の宴会中、2人が別々にコッソリと集会室を抜け出したのを、私は見逃さなかった。スリッパを脱いで、足音を立てないように2人を探していたら……すぐに見つかった。
いや。見つかった、どころではない。めちゃめちゃ激しいキスシーンを目撃してしまった。
「見ーーーちゃった♪」
声をかけると、慶君が転がるように浩介先生の膝から飛び降りた。浩介先生も呆然としている。
「これで言い逃れできないわよ?浩介先生? 前聞いたときはきっぱり否定したけど、本当は2人、付き合ってるんでしょ?」
「…………」
浩介先生がムッと押し黙る。
すると。慶君が、え? と浩介先生を振り返った。
「お前、否定したの? 意外……」
「だって」
ムーっとしたまま、浩介先生が言う。
「安倍に言われたじゃん。店の客には絶対にばれないようにしろって」
「ヤスが? ああ、そういえばそんなこと言ってたな」
ヤス、というのは、アマリリリスの店長の甥っ子で、慶君を紹介した人物らしい。
「だから浩介先生、お店では全然しゃべらないの?」
「……………うん」
ポリポリと頬をかく浩介先生。
「しゃべるとボロがでそうで……」
「なるほどね……」
寡黙で影のある青年の正体ここにあり。
「あ、『げ』は? やっぱり私がデートに誘ったから?」
「まだその話覚えてたの?あかね先生、しつこいね……」
「失礼ね。気になってるのよっ」
「げってなに?」
かわいく眉を寄せた慶君に、ボランティア初日に「げ」と言われた話をすると、慶君は呆れたように浩介先生を小突いた。
「おっ前、初対面の人に失礼だなー」
「だーーーって!それは!」
ぷうっとふくれ顔を作る浩介先生。また、初めて見る顔だ。
「慶が悪いんでしょーっ」
「なんでおれが……っ」
「だって……」
口を尖らせたまま浩介先生が言う。
「一番はじめ、慶があかね先生に……」
「それはっ」
「え? 私?」
なんだなんだ?
「慶がデートに誘われることなんてしょっちゅうだから気にしてないよ。誘われても慶はいつも断ってくれてるし。でもあかね……」
「お前っ本人目の前にっ」
慌てたように慶君が白い手で浩介先生の口をふさぐ。
「え? なになになに?」
「何でもない何でもないっ」
三人でわらわらとしていたところに、宴会メンバーが飲み物を買いにおりてきたので、この時はこれ以上は聞けなかった。
で。後日、浩介先生を問い詰めたところ、なんとか白状した。
なんでも、私が初めてアマリリリスを訪れた時に、慶君が私にみとれたそうで。それで浩介先生は私に対して一方的に敵愾心を持っていたらしい。
「慶君、かわいい~~~。男でなければ襲っちゃうんだけどな~~」
そういったら、浩介先生にものすっごい殺意のこもった目で睨まれた。怖い怖い……。
私も同性愛者であることをカミングアウトしたら、浩介先生はボランティアの行き帰りなどに慶君の話をよくするようになった。今まで誰にも話せなかったから話せて嬉しいらしい。のろけ話ばかり聞かされるのもしゃくに触るので、私も綾さんの話をしている。考えてみれば、私も綾さんのことは誰にも話していないので話せて楽しい。
そのうち浩介先生に綾さんのこと紹介してあげよう。
--------------
あかねターン終了!!
次回からは、希衣子ターン。
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「あれ? この2人、もしかして付き合ってる?」
そう気がついたのは、私が初めて慶君に話しかけた日から一か月ほどたったある日。
偶然見てしまったのだ。
お釣りを渡す慶君の指が、受け取った桜井浩介の手をほんの一瞬、キュッと掴んだところを。
喫茶『アマリリリス』
私の通う大学の横浜キャンパスの最寄り駅近くの、少し横道に入ったところにある喫茶店。
私は二年次から都内のキャンパスに通っているので、本来はここまで来る必要はどこにもない。
でも。サークルの女の子達に連れてきてもらって以来、すっかり常連の一人となってしまった。
外国映画に出てくる山小屋のような雰囲気。珈琲の香しい匂い。女子大生の華やかな笑い声。包容力のある瞳をしたふくよかな女店長。
そして。女の子たちが密かに『アマリリリスの天使』と呼んでいるアルバイトの美少年(青年?)。
それから。カウンターの片隅でいつも本を読んでいる寡黙で影のある大学生で、密かに『カウンターの君』とあだ名されている常連客。
まるで舞台の一幕のよう。
私が常連になったことで、「『氷の姫』がキャストに加わったわね」と、現在進行形の恋人、国中綾さんに言われた。
氷の姫、というのは、私達が所属している演劇サークルの昨年の舞台での私の役柄。その舞台以来、みんな私のことを『姫』と呼ぶ。
役柄同様、私は男嫌いで有名だったので、アマリリリスの天使をデートに誘った話は瞬く間に広がり、綾さんにまでバレてしまった。
綾さんと付き合っていることはみんなには秘密にしている。同性の恋人が偏見の目にさらされることは今までお腹いっぱい味わってきた。私はそれでも構わないのだけれど、就職活動中の綾さんに迷惑がかかることだけは避けたい。それに秘密の恋というのもなかなかそそられるものがあって、それはそれでおいしかったりする。
綾さんも私も束縛しない主義なので、お互い適当に遊びつつも良い関係を続けている。綾さんはどこからどこまでもまさに理想の相手だった。
憧れの監督の舞台のオーディションを「男性経験がないから色気がない」ということを理由に落とされ、それなら男と付き合ってやる!と意気込んでいたところに、アマリリリスの天使の噂を聞いた。同じ大学の一年生。名前は渋谷慶。ファンになって通い詰めている子達も多いらしい。
実際に見てみて納得した。天使というだけあって中性的できれいな顔立ちをしている。おそらく身長も165cmない。
この子なら男男していないから拒否反応起こさず付き合えるかな?と思って、さっそく声をかけてみたけれど、あっさりと振られてしまった。好きな人がいるそうだ。
でも、店の雰囲気が気に入ったこともあり、ちょくちょく珈琲を飲みにいくようになった。
はじめは気まずいかな?と思ったけれど、天使はそんなことがあったとは露とも思わせない営業スマイルで出迎えてくれる。そこも気に入った。
そんな中、『カウンターの君』の存在も気になりはじめた。
自分自身も秘密の恋をしているせいか、カウンターの君が背中いっぱいで天使の動向を感じようとしていることに気が付いてしまったからだ。
(こいつ。天使に片思いしていて、ここに通いつめているんだな)
そう結論づけたのも無理もないことだと思う。だって。この2人、店内では一切話したりしない。ほとんど目も合わせない。
だから。レジで一瞬手を握ったシーンを見られたのは奇跡的だった。
あの日。店が急に混んできて、新たな客が来た際にはもう満席だった。すると、来たばかりだったはずのカウンターの君が、珈琲を一気飲みして、サッと立ち上がったのだ。おかげでその客はカウンターに案内され入店でき、そして……
「ありがとうございました」
天使が極上の笑顔でカウンターの君に釣銭を渡したのだけど……
その時。その白い指がキュッとカウンターの君の手を掴んだ。ほんの一瞬だったけれど、絶対、掴んだ!
掴まれたカウンターの君は、少し目を見開き、それから柔らかい幸せそうな微笑みを浮かべた。
この反応。片思いの奴のする反応じゃない。
これは。両想いの、恋人同士のやり取りだ。
------------------
ダメだ。時間がないからここまで。
うーん。ダラダラと書いちゃったよー。
もっとコンパクトに分かりやすく書けないもんかなあ私。
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珈琲を入れてくれる綾さんの後姿を見ながら、その白いうなじにもう一度しゃぶりつきたい衝動にかられる。
でも。我慢我慢。
前に一度それをやって「今度同じことしたらもう二度とやらせない」と猛烈に怒られたのだ。たった一度の衝動でこれから何百とあるはずの快楽を手放す馬鹿をする気はない。
けど。うずうずする。
さっきまであんなに淫らで切ない表情をしていたのに、スイッチが切り替わった綾さんは別人のように冷静沈着。
その銀の縁の眼鏡が仮面の役割をしているようだ。
眼鏡を外した綾さんはあんなに情熱的だったのに……。
ああ、いかんいかん。衝動に負けそうになる。
別のことを考えないと。別のこと別のこと……。
「姫、ご乱心」
「……え?」
悶々としていた私の前に、珈琲が差し出された。
すっかり「先輩・後輩」モードに切り替わった綾さんがニコリともせずに言葉を継ぐ。
「みんな噂してたわよ。姫、ご乱心。男をデートに誘ったって」
「ああ……」
女子の噂の速度は恐ろしい。
綾さんは珈琲に口をつけながら上目遣いにこちらをみた。
「『アマリリリスの天使』。あの、新しいバイトの男の子のことでしょ? 綺麗な子よね?」
「そう?綾さんの方が綺麗だよ?」
言うと、綾さんの視線が凍るように冷たくなった。
その目。ゾクゾクする。
先輩モードの時に甘い言葉を言うと必ずこうなる。綾さん、魅力的すぎる。
でも。これ以上刺激して、本当に会ってもらえなくなると困るので話をそらすことにした。
「でも、あっさり振られたよ。好きな人がいるのでスミマセン、だって」
「ふーん? ご乱心って本当だったんだ?」
「あー……」
あら。そっちの言い訳、先にしなくちゃいけなかったか。
「ご乱心っていうかねー……、ほら、こないだのオーディション落ちたじゃない? 私」
憧れの監督の舞台のオーディションだった。主人公と激しい恋に落ちるヒロイン役。
「監督に理由を聞いたの。私のどこが悪かったのかって」
「どこだって?」
興味を持ってくれた綾さんに、肩をすくめてみせる。
「色気のなさ、だって。君は男性経験ないだろう、って言われちゃった」
「なるほど」
「なるほど? 納得しちゃう? そこ」
「だって、経験ないでしょ?」
おかしそうに言う綾さん。
ええ。確かに男性経験はありませんよ。女性経験は数え切れないほどありますが。
「それで、アマリリリスの天使に声をかけてみたってこと?」
「そう。あの子、中性的だから何とかなるかな、とか思って。まあ結局振られたんだけど」
「何とかなりそうだった?」
「うーん……」
天使の顔を思い浮かべる。確かに綺麗な顔をしているけれど……
「やっぱり無理。顔は綺麗でも喉仏あるし、声も男だし」
「ふーん?」
綾さんが小首をかしげる。
「でも、もう一つ、情報が入ってきてるわよ?」
「情報?」
なんだ?
「姫は『カウンターの君』にも興味があるらしい」
「…………」
本当に女子の噂話は怖い。
「いつもカウンターに座ってる大学生のことでしょ? こっちの子は普通に男じゃないの」
「あれはねー……」
にっこりと言う。
「面白そうだから」
「面白そう?」
眉間に皺を寄せた綾さんもキュートだ。嬉しくなってしまう。
「気にしてくれてるんだ?綾さん?」
「…………」
ふいと視線をそらす綾さん。かわいい。
「私が男に抱かれたりしたら、嫌?」
「…………」
怒られるかな? と内心ビビりながら綾さんを覗き込むと、
「あかねは……」
綾さんがポツリとつぶやいた。
「あかねは誰にも抱かれないわ」
「?」
どういう意味?と聞いた私に、綾さんは軽く首を横に振った。
その笑顔が果てしなく寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。
------------------
あかね視点の話はまだ続きます。
一気に書きたかったけど、書いてたらますます更新遅くなってしまうので、ここで切ってみました。
あかねさん、アマリリリスの天使、こと、渋谷慶のことを「あの子」呼ばわりしていますが、同じ歳です。
あかねは大学二年生。慶は浪人してるから一年生なんですね。
あかねと慶は同じ大学です。学部違うからキャンパス違うけど。
綾さんは演劇サークルの先輩。2歳年上。
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教室を出たところで後ろから声をかけられた。
「桜井ー、桜井浩介ー。レポートもう出したー?」
「これから出しにいくとこー」
出そうとしているレポートをひらひら振りながら答える。
「ごめん、オレ、サークル遅れちゃいそうだからさー」
「ああ、一緒にだしとくよ?」
「助かる! よろしくな!」
拝まれながらレポートを渡される。
実はこれで3人目だ。
「また明日ー」
手を振って見送ったあと、レポートの名前を確認する。同じ講義を受けている奴だとは分かっていたけれど、名前は覚えていなかった。なかなか覚えられない。向こうはおれのフルネームまで知っていたのに。
「………」
急いで研究室にレポートを提出しにいき、校舎をでる。
同じ年代の学生達がわらわらと歩いている。笑い声があちらこちらから聞こえてくる。
「………」
テレビの中みたいだ。と思う。
色褪せていて、遠い。ブラウン管を通したような、掴めない、色の薄い世界。
「………慶」
早く慶に会いたい。
電車に乗っていても、ブラウン管を通したような視界は変わらない。自分の実体がない感じ。この世界に属せていない自分。閉ざされた世界。
「慶」
早く会いたい。
慶の通う大学の最寄り駅で下車する。そこからほど近い喫茶店『アマリリリス』。木をふんだんに使った落ちついた雰囲気の店。
ドアを勢いよく押すと、涼やかな鈴の音が響く。
「いらっしゃいませ」
「………慶」
にっこりと微笑んでくれるその人を見て、おれは心底ホッとする。
ああ、おれはちゃんとこの世に存在している。
見えない壁が取り払われ、世界に色が戻ってくる。世界はこんなにも、明るい。
小学校高学年くらいから、視界がブラウン管を通しているような感じになることが多くなった。
ブラウン管の中に自分が入り込んでいるのか、まわりが入っているのか、よくわからない。とにかくまわりで起こるすべてのことが、テレビの中のことのようだった。
遠い遠い、色褪せた世界。
そんな中、中学3年生の時に偶然見たバスケットボールの試合での、一人の男子生徒の姿に衝撃を受けた。薄いぼやけた世界の中で、ただ一つのまぶしい光。名前は、渋谷慶。
彼の姿をもう一度見たくて、数日間、彼の通う中学の門の近くで下校中の生徒の波を延々と見張ったが、結局会うことはできなかった。あとから知ったのだが、慶はこの試合の直後に膝をけがして入院していたそうで、おれが見に行っていた時期はちょうど学校を休んでいたらしい。(見張りにいっていた話は、慶には内緒にしている。しつこく探していたことを知られて気持ち悪いとか思われたら立ち直れない……)
だから、県立高校を受験して、バスケ部に入部した。そうすればそのうち試合か何かで会えるのではないかと思ったのだ。それにバスケをすることであの光のようになれるのではという期待もあった。
偶然にも同じ高校に通っていることが分かったのが、高校一年の連休明け。
それからは、ブラウン管状態になる時間がかなり減った。慶の存在がおれの世界を鮮明にする。
大学生になってから、家庭教師のアルバイトをはじめた。一年生のころは担当生徒は2人だったけれど、二年生のGW明けからもう一人増えることになった。新しい生徒は高校一年生の女の子。
初日、母親との軽い挨拶のあと、部屋で2人きりになった途端、その女子高生、宮下希衣子ちゃんの態度は一変した。
「ねーねー、桜井センセ、彼女いるの?」
母親の前でのおすましは演技だったらしい。片肘ついて頬を支え、長い黒髪を弄んでいる。高校生になりたてのわりに大人っぽい表情。
「彼女? いないよ」
「ふーん?」
希衣子ちゃんはニヤーッと笑うと、わざとおれの足にぶつけながら足を組み替えた。短いスカート。胸元の開いたシャツ。……寒そうだ。
「ねえ、じゃあさあ、勉強なんていいから、もっと楽しいことしようよ」
「楽しいこと?」
「例えばさあ……」
細い足がおれの膝に向かって投げ出された。が、とっさに避ける。
かわいい顔をして大胆な子だ。どんな中学生活を送ってきたのか心配になってくる。
希衣子ちゃんは不満げに、空を切った足で机の端を蹴りつけた。
「楽しいことしてあげるっていってんのに……」
「ダメだよ?」
おれは冷静に、ニッコリと言う。
「そういうことは、恋人としないと」
「そんなのいないし」
希衣子ちゃんがムッとした顔をしておれをにらみつけた。
「センセーだって彼女いないんでしょ? だったらいいじゃん。どうせ男なんて頭の中そんなことばっかりなくせに、なにかっこつけて……」
「ああ、ごめん」
ひらひらと手を振り、話を遮る。
「おれ、彼女はいないけど、彼氏はいるんだ」
「……は?」
眉間にシワを寄せる希衣子ちゃん。まあ普通の反応だな。
「そんなこといって誤魔化そうったって、体は正直なんだからね」
「………」
希衣子ちゃんの白い手がおれの股間に伸びてくる。
しょうがない子だなあ……。慶、ごめんねー……と内心ため息をつきながら、とりあえずほっとく。
数秒後………
「………彼氏って、本当にホントなの?」
「だから本当だって」
「そうみたいだね…………ぜんぜんふにゃふにゃ……ずっとふにゃふにゃ……」
希衣子ちゃんがあきらめたようにおれから手を離した。
「ゲイの人って初めてみた。普通なんだね」
「普通って」
「彼氏も普通の人?」
何をもって普通というのかわからないが、
「普通の人、だけど、すごくキレイな顔してて、それでいて男らしい人」
「へえ……会ってみたいなあ」
希衣子ちゃんが頬杖をつきながら言う。
それこそ、普通、の高校一年生の女の子の顔にようやくなった感じがする。
「ねえ、会ってみたい。会わせてよ」
「ちゃんと勉強して、成績上がったら考えるよ」
「げーーーー」
鼻にシワを寄せる希衣子ちゃん。その顔がかわいくて思わず笑ってしまうと、希衣子ちゃんも笑いだした。この子とは、なかなか気が合うかもしれない。
---------------
浩介視点でした。浩介視点ってなんか切ないんだよね……。
前半の「テレビの中みたいだ」からの「世界に色が戻ってくる。世界はこんなにも、明るい」ってセリフ。
20年前に書きたいと思っていたシーンとセリフだったので書けて嬉しかったです。
今後、あかね視点、希衣子視点、浩介視点、慶視点、で終わる予定です。たぶん。
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