創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係34ー1

2019年01月22日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【享吾視点】


 抱きしめた村上哲成の温もりは、果てしないほど愛しくて……

『オレ……白高受けるのやめる』

 言いながらも、この温もりを失いたくなくて、ギュッと腕に力を入れた。
 でもオレは……これ以上、母を苦しめるわけにはいかない。



 翌日、3学期の始業式の後に学級委員会があった。委員会終了後、

「一緒に帰ろうぜ?」
「……え?」

 初めて、松浦暁生に誘われて、驚いてしまった。帰る方向が同じなので、今までも一緒になりそうになったことはあったけれども、オレが故意に避けていたので、一緒に帰ったことはなかった。

(……何だろう)

 クリスマスに村上哲成の家に一緒に泊まりにいって、なんとなく和解はできた……とはいえ、苦手意識に変わりはない。
 でも、断る理由もなく、首を縦に振ると、オレの内心を読んだように、松浦は「そんな警戒しなくても何もしえねよ」とニヤリと笑った。



「オレ、N高行くから」

 帰り道、周りから誰もいなくなったタイミングで、松浦がポツンと言った。

「………そっか」

 以前、N高の野球推薦をやめて、白浜高校に行こうかな、と話していたけれど、その話はなくなったらしい。野球をしているより女とヤッてた方が楽しいだの、白浜高校に行けば、引き続き村上哲成に雑用を頼めるだの、相当ヒドイことを言っていたけれど、今の松浦からはそんな醜悪な感情は漂ってこない。何か吹っ切れたような、清々しさを感じるのは気のせいではないだろう。

 松浦は、ふっとこちらを見ると、優しいともいえる口調で、言った。

「享吾……お前は、白浜高校、行くんだよな?」
「…………」

 それは……
 
 答えずにいると、松浦は視線を前に戻し、ポツリ、と言った。

「……悪かったな」
「え……」

 松浦は首の後ろに手を当てながら、独り言のように続けた。

「オレ、親から野球やれとか勉強しろとかうるさく言われてクサクサしてて……そんなとき舞と出会って……」
「…………」

 舞、というのは、松浦の年上の彼女のことだ。

「なんか……舞にもテツにも甘えてて……」
「…………」
「お前にムカついてて……」
「…………」
「でも、お前が、テツがベッドで寝られるようにしてくれて……」
「…………」
「…………」
「…………」

 しばらくの沈黙のあと、松浦は大きく息を吐いてから、ちょっと笑った。

「何言ってんだか分かんねえな、オレ」
「…………」

 確かに、何を言いたいのか、全然分からない。

 でもたぶん、謝ってくれている……らしい。

「………享吾」
「…………」

 分かれ道で立ち止まり、松浦は意を決したように、言った。

「テツのこと、よろしくな」
「…………え」

 よろしく?

「オレはもう、テツとは離れるから」
「…………」
「一緒にいたら、また、あいつのこと利用したくなるからな」

 松浦は茶化すように言うと、クルリと背を向けた。そして、後ろ姿のまま、ポツリ、と言った。

「オレは、あいつがいなくても『完璧な松浦暁生』でいられるようになるから」
「…………」

 完璧な……松浦?

「ああ、でも、中学卒業までは、今まで通り、オレが登下校一緒にするからな?」
「…………」
「高校からは、お前に譲る」
「…………」

 松浦は、「じゃあな」と手を挙げると、そのまま行ってしまった。

「お前に譲るって……」

 ふっと頭をよぎる。村上と一緒に登校する自分の姿……

 でも、そんなこと言われても困る。オレは白浜高校の受験やめるのに……



 帰宅後、昼食は自分でラーメンを作った。
 母がいないので、家事は父と兄と一緒に何とかこなしているけれど、食事はどうしても質素になりがちだ。

 一人静かな家の中でラーメンをすすっていると、普段の母もこうだったのだろうか、と、胸が痛くなる。

 こんな静かな中で、毎日、オレ達が帰ってくるのを一人で待っていたのだろうか………

 そんな母の姿を想像して、深く深く沈みこんでいく………、と、

(………え)

 インターホンが鳴って、我に返った。

(びっくりした……)

 オレを現実に引き戻すために鳴らされたみたいだな……なんて思いながらドアを開けて……

 まぶしい光に、目が眩んだ。光の中に、村上哲成が立っている。

「よ!」

 村上は、にこにこしながら、言った。

「高校見学、行こうぜ?」



----

お読みくださりありがとうございました!
時間切れのため分けます……
こんな真面目なお話、お付き合いくださり本当にありがとうございます。

次回、金曜日もどうぞよろしくお願いいたします!

ランキングクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます!
どれだけ励まされていることか……
よろしければ、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「2つの円の位置関係」目次 →こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係33

2019年01月18日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【哲成視点】


『また明日』

って、抱きしめてくれながら言ってたのに、翌日、村上享吾は塾に来なかった。先生に聞いたら「しばらく休む」と電話連絡があったそうだ。
 その翌日も、そのまた翌日の冬休み最終日もこなかった。それで、塾の先生から預かったプリントを渡すことを口実に、帰りに家に行ってみることにした。先生には学校で渡せばいいと言われたけれど、明日までなんて待っていられない。

(しばらく休むって、具合悪いのかな……)

 家にいないかもしれない……と思いつつ、村上享吾の家の玄関のインターフォンを鳴らしてみた。

「………。いない、か」

 しばらく待ったけれど、反応がなかった。一応、もう一回鳴らしてみた。けれども、やっぱり反応はない。がっかりだ。

(明日からの学校も来ないのかな……)

 あーああ。とため息をつきながら、背を向けて、マンションの廊下を歩きかけた。けれど、玄関が開く音が聞こえてきて、「お!」と飛び上がってしまった。

「おおっ。キョーゴ!」

 振り返ると、村上享吾が立っていた。……でも、顔色が悪い。目の焦点が合ってない……?

「キョーゴ……?」
「…………村上」

 村上享吾はポツン、と言って、両手を伸ばしてきた。ので、急いで駆け寄ってやる。

「どうし……」
「村上」

 最後に会った時のようにふわりと抱きしめられ、ドキンとなる。でも、その後に告げられた言葉に、思考が止まってしまった。村上享吾は、オレをギュウッとしながら、小さく、小さく、言ったのだ。

「オレ……白高受けるのやめる」




【享吾視点】


 兄の話によると、母は突然、棚の上のものをあちこちに投げつけ、投げるものがなくなると、フラリと家を出て行ってしまったそうだ。その直後に帰ってきた父が、慌てて母を探しに外に出て行ったけれど、見つからず……

 翌日の朝、母のかかりつけの皮膚科から連絡があって、母の居場所が分かった。
 母はうちの路線の終点の駅で、終電時間が過ぎてもベンチに座っていたところを駅員に保護されたらしい。精神的に不安定で名前も言えない状態だったため、警察を呼ばれ、それから病院に連れていかれ、そこで身分が分かるものを探されて、出てきたのが、財布の中の皮膚科の診察券だった、というわけだ。
 翌朝、皮膚科の診察時間に連絡がとれ、うちに連絡が回ってきた、と父に教えられた。

(オレのせいだ……)

 父が母を迎えに行っている間、オレはリビングのソファーから動けなくなっていた。

(オレが、白高受けるっていったり、松浦のこと殴ったりしたから)

 母を追い詰めてしまった。その上、最近も、毎日村上の家に入り浸って、帰りが遅くなって心配かけて……

「亨吾、何か食べよう」
「………いらない」

 兄の言葉にも首を振った。食欲なんてない。
 兄は心配そうに色々声をかけてくれたけれど、兄にも申し訳なくて、顔をあげることもできなかった。


 その日の夜遅く、父は一人で帰宅した。

「お母さんは、しばらく入院することになったよ」
「入院?」

 具合悪いの?と聞いたら、父は困ったように首を振った。

「体は何ともないんだけど、心がね……」
「……………」
「ちょっと……疲れちゃったみたいで」
「……………」

 ああ……やっぱりオレのせいだ……
 それなのに、オレは、浮かれてて、母の気持ちにも気がつかなくて……バチがあたったんだ。母と約束してたのに。目立たないようにするって、みんなと同じようにするって、約束してたのに。せっかく、兄も落ち着いてきていたので、昔みたいな明るい家族に戻れたかもしれないのに……

『できるのにやらないのはズル』

 そう、村上は言っていた。本気を出す楽しさを、村上が思い出させてくれた。

 でも。

 オレはそんなことしちゃいけなかったんだ。


***


 次の日も、その次の日も、塾には行かなかった。母の病院にお見舞いに行こうとしたけれど、父に止められてしまった。

「ちょっと、まだ、早いかな」

 父はそういって、無理やりな笑顔を作った。父は会いに行っているのに、オレと兄は行ってはダメだという。母にとって、オレたち子供は精神的負担になっている……ということだ。

(オレは、どうすればいい)

 自問したけれど、答えは簡単に出てくる。

 みんなと同じように、目立たないように、母の負担にならないように……村上哲成に出会う前のオレに戻ればいい。

 志望校も、学区2番の高校に変えよう。そこで、普通の成績をとって、普通の大学をめざして、普通に、目立たないように、生きていけばいい。

(………村上)

 あのクルクルした瞳を思い出して胸が苦しくなる。

『本気、出せ』
 そう言って、手を包み込んでくれた。

『行こう!行こう!白高行こう!』
 はしゃいで背中を叩いてくれた。

 あの温かい腕を、柔らかい頬を、全部忘れて、オレは村上に出会う前のオレに戻らなくてはならない。村上にはもう触れない……


 そう、思ったのに。

「おおっ。キョーゴ!」

 突然、家を訪ねてくれた村上哲成のはしゃいだ声に、そんな決意もアッサリと崩れ去ってしまった。

「…………村上」

 手を伸ばすと、タタタッと駆け寄ってきてくれた、その小さな体を抱きしめる。この温もりを手放すなんて……

 でも……でも。オレは……オレは。


「オレ……白高受けるのやめる」

 なんとか絞り出して言葉にすると、村上はしばらくの無言の後……ゆっくりと、優しく、抱きしめ返してくれた。



----

お読みくださりありがとうございました!
あいかわらずの真面目なお話、お付き合いくださり本当にありがとうございます。

次回、火曜日もどうぞよろしくお願いいたします!

ランキングクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます!
画面に向かって、有り難い有り難い……と拝んでおります。
よろしければ、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「2つの円の位置関係」目次 →こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係32

2019年01月15日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【哲成視点】

 冬休みが始まった。
 塾の冬期講習があったので、31日まで毎日村上享吾に会っていた。
 塾の帰りに少しだけうちに寄って、ピアノを弾くことも今までと変わらない。変わらないけれど………

「村上?」
「……っ」

 ふいに名前を呼ばれたり、ふとした時に手が触れたりすると、ドキッとしたりして、オレはなんだかオカシイ。オカシイけれど……

(なんか……ちょっと、楽しい)

 一緒にいられて楽しいのはもちろんのこと、そうしてドキドキしたりするのが、余計に楽しい。


 元旦から3日間だけ会えなかったけれど、4日には朝から塾で会えて、帰りももちろんうちで遊んだ。

(やっぱり、いいな)

 村上亨吾と一緒にいると、なんだか気持ちがフワフワしてくる。


 いつのころからか、村上亨吾はピアノで簡単な曲を弾く時は、オレに隣に座るように手招きするようになった。

 だからこの日も 4日ぶりに隣にならんでピアノを聴きながら、いつものようにお喋りをしていた。


「暁生が、もううち借りないでよくなったって言ってたんだよ」

 毎年恒例の、暁生の家族とうちの家族で一緒に行く初詣のときに、言われたのだ。

「年明けからは、高校の寮の集会室の大型スクリーンを使わせてもらえるとかで、うちのテレビ使わなくても良くなったんだって」

 勉強会に関してはそれで大丈夫だろうけど、彼女との時間はいいのかな? と思ったけれど、余計なことは言わなかった。正直、オレとしては、使わなくて良いならそれに越したことはない。

「………そうか。良かったな」
「うん。まあ、ベッドに寝られなくなった件は、キョーゴのおかげで治っ……、あ」

 自分でいいかけて、「あ」と口を閉じた。

(そうだよ。あの朝、キョーゴの……)

 布団の中で感じた熱くて固い感触を思い出して慌ててしまう。
 でも、そんなオレのワタワタには気がついた様子もなく、村上享吾はキレイなメロディを奏で続けているので、ちょっとホッとする。

 あの件に関しては、今まで一度も言及したことはない。というか出来るわけがない。オレもつられて勃ちそうになったなんて、知られるわけにはいかないだろ。

(キョーゴ、完全に寝ぼけてたしな。覚えてないんだろうな)

 村上享吾にとっては記憶にないことだけれども、オレにとっては、忘れられるわけがない経験で……

(あれ以来、オカシイし……)

 今までは普通にくっついていられたのに、今はこうして並んでいるとドキドキしてくる。でも、それでも、くっついていたくて……

「………村上」
「……っ」

 ふいに、ピアノを弾くのをやめた村上享吾にドキッとする。

「何……」
「…………」
「…………」
「…………」

 黙っているので、オレの様子が変なことに気づいたのかと、違った意味でもドキドキしていたのだけれども………

「オレの今年の初夢に、お前出てきた」
「初夢?」

 全然違う話でホッとする。でも、「どんな夢?」と聞いたオレに、村上享吾は無表情のまま、あっさりと、言った。

「あの時みたいに、ベッドで一緒に寝てる夢」
「!」

 ギクッとしつつも何とか留まった。

(ベッドで寝た時は、何もないから大丈夫。問題は翌朝、布団で寝た時のことだから。大丈夫大丈夫……)

 冷静に自分を落ちつかせる。と、村上享吾は、肩をすくめていった。

「オレは寝たかったのに、お前が延々としりとりを続けようとするから、なんとか『ん』のつく言葉を捻りだそうと悩んでるところで目が覚めた」
「………。へ?」

 しりとり? んがつく言葉?

 思わず吹き出してしまう。

「なんだそれーおもしれー」
「おもしろくない。今年も、お前に振り回されるっていう暗示かと思って、正月早々、戦々恐々とした」
「なんでだよっ」

 腿をバシッとたたいてやる。と、奴はちょっと笑ってから、言葉を継いだ。

「…………でも。今年も一緒にいられるっていう暗示か、とも思って……、嬉しかった」
「…………」
「…………」
「…………キョーゴ」

 キュウウッと胸が痛くなる。なんでだろう。なんでこんなに胸が痛くなるんだろう。

 再びはじまる綺麗な旋律……。こうしてずっとずっと聴いていたい。

 コツンと村上享吾の肩に頭をのせると、コツンと頭に頭が落ちてきた。こんな時間が今年も続くんだ。




【享吾視点】


 浮かれていた。完全に浮かれていた。

 定期テストで初めて本気を出せたことにも、志望高校を学区トップの高校にできたことにも、険悪だった松浦暁生とほんの少し分かり合えたことにも、浮かれていた。
 そして何より、村上哲成と、今までと違う、フワフワとした関係となったことに、浮かれていた。

 一緒にいると嬉しい。楽しい。愛しい……。村上が、時々、手が触れたりすると、恥ずかしそうに笑ったりするのも、いい。

 こういう状態を「恋」というのではないか、とも思う。でも、オレ達は同性なので、それはない、と思う。おそらく疑似恋愛的なものなのだろう。あの時、勃ってしまったのも、そういうことだと思う。

 でも。

 どう考えても「恋」の対象ではないけれど、村上はオレにとって特別な存在である、ということは確実だ。



 正月明けに久しぶりに会えて、やっぱりフワフワと幸せな気持ちになって……。塾の帰り、いつものように村上の家に寄ったのだけれども、気がついたら夕飯の時間をとっくに過ぎていたので、慌てて帰ることにした。村上と一緒にいると楽しくて時間もすぐに過ぎてしまう。

「また明日」
「おお」

 玄関先でも思わず、ギュッと抱きしめると、村上は照れたように笑った。

(やっぱり、いいな)

 村上の笑顔はいい。その顔に満足してから帰路についた。


 手元に残る村上の温もりに、幸せな気持ちが押し寄せてくる。
 村上は幸せをくれる。オレの中の本気を引き出してくれる。見守ってくれる。一緒にいようとしてくれている。村上がいてくれれば、オレは何でもできる気がする。


 そんなフワフワした気持ちのまま自宅玄関を開けた途端、

「享吾! ちょっと留守番頼む!」
「え」

 父が飛び出して行った。ものすごく慌てたように……

「留守番?」

ってどういうことだろう? 母と兄はいないってことか?

 頭の中をハテナでいっぱいにしながらリビングに入っていき……愕然とした。

「………泥棒?」

 いつもはきれいに片づけられているリビングに、物が散乱している。棚の上に並んでいたはずの本や書類がまき散らされているようだ。
 そんな中、ソファーに沈み込むように兄が座っていて………

「……兄さん?」

 そっと声をかけると、兄はふいっとオレに目を向けた。そして、

「おかえり、享吾。遅かったな」

と、寂しそうに、笑った。
 




----


お読みくださりありがとうございました!
次回、金曜日もどうぞよろしくお願いいたします!

ランキングクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます!
よろしければ、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「2つの円の位置関係」目次 →こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係31

2019年01月11日 07時42分12秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【享吾視点】


 クリスマスの朝の起床後、若干、気マズイような顔をした村上哲成だったけれども、すぐにいつもの調子に戻った。おそらく『アレ』は、すべてオレの寝ぼけた末の行動だった、とでも解釈することにしたのだろう。

『アレ』とは……

 膨張した股間を村上の臀部あたりにグリグリと押しつけながら、村上を後ろから抱きしめた……ってことだ。

 …………。

 …………。


(なんであんなことしたんだ……)

 自分でも頭を抱えたくなっている。


 そもそも、眠る前に、思わず村上の額にキスをしてしまったのもオカシイ。

 そして、翌朝、村上の気配がすぐ近くにあることに気が付いて、なぜかすごく幸せな気持ちになったこともオカシイ。

 それから、村上が松浦暁生の寝ている方へ身を寄せようとしているところを目撃して、カッとなって、強引に村上を抱き寄せて……その温もりを感じたら、なぜか勃ちあがってしまったことも、オカシイ。

 それだけでなく、欲望のままに、そのままグリグリとその猛りを村上に押しつけながら「ここにいろ」と引き留めた……なんて

(どういうことだ、オレ……)

 頭を抱えたくなってくる。
 途中で我に返って、抱きしめていた手をどかしてやると、村上は慌てたように部屋から出て行ってしまって……


 それからはまた眠れなかった。悶々としながら布団の中で待機し、約束していた起床時間に、隣の松浦暁生を起こして、一緒にリビングに下りて行くと、村上は朝食の用意をしてくれていた。

「おはよー」
「おお」

 村上のちょっと気マズイ顔をした挨拶に、軽く手を挙げ、得意のポーカーフェイスで答えると、村上は安心したように笑った。

 笑ってくれて、ホッとしたような、ガッカリしたような………

(…………なんなんだ)

 もう、本当に、訳がわからない。



 その朝、松浦暁生とオレが一緒に登校したことは、それなりに話題を呼んだようだった。

「仲直りしたんだ?」
「まあ……うん」

 学級委員で作成した掲示物を教室の壁に張りながら、西本ななえの問いかけに適当にうなずいていると、ふ、と視線を感じた。視線の主は村上だ。

 そういえば、昨晩、

『西本って、キョーゴのことが好きなんだと思うんだけど』

と、言われたんだった。まだ疑っているのだろうか。西本が好きなのは村上本人なのに………

(まあ、そんなことは教えてやらないけど)

 先日、西本が村上の頭を撫でていたことを思い出してモヤモヤしてくる。村上は、恋愛が分からないと言っていた。西本みたいな強引な女子にかかったら『気がついたら付き合うことになってた』なんてことになりかねない。オレが守ってやらないと……

(…………ん?)

 そこまで思って、考えをストップさせる。

 何言ってるんだオレ?
 守るってなんだ? なんでオレが?

と、また頭を抱えたくなっていたところ……

「!」

 いきなり、後ろから腕を掴まれた。振り返って、心臓が止まりそうになる。村上……っ

 でも、そんなオレの様子には気がつかないように、村上は、なぜか口を尖らせて、小さく言った。

「………近い」
「は?」

 近い?

「何……」
「近すぎる」
「?」

 何の話だ?

「だから………」
「……………」
「……………」
「……………」

 無言でそのまま腕を引っ張られ、一歩、二歩、後ろへ下がる。遠ざかる西本。

(近いって………)

 西本のことか? それは………

(オレが西本に近いのが嫌なのか? それとも西本がオレに近いのが嫌………?)

 なんてことを咄嗟に思って固まっていると、西本がムッとして言った。

「ちょっと、テツ君。邪魔しないで。あと2枚張るんだから」
「ん」

 その西本に、村上が手を差し出している。

「オレが張ってやる」
「……………」
「ほら」
「……………」

 西本はしばらく目をパシパシさせていたけれど、

「じゃ、よろしくね」

と、残り二枚のプリントを村上に渡して席に戻っていった。何か言いたげだったのは気のせいではないだろう。視線がまたこちらを向いている。

 残されたオレも、作業をしている村上の横顔をジッと見てしまう。

(村上……何を考えてる?)

 口を尖らせたままの村上。何を考えているか分からない。けど………

(何か……かわいい)

 思わず、頬がゆるんでしまう。
 それに気がついたように、村上が、更に口を尖らせて睨んできた。 

「なに見てんだよっ」
「……いや」

 何とかポーカーフェイスを取り戻して、持っていた画ビョウを渡す。と、

「………っ」
「!」

 手が触れて、お互い火がついたみたいに飛び離れた。

「……………」
「……………」
「……………」
「……………」

 何やってんだオレ達。

 変だ。やっぱり、変だ。

 もう、本当に、訳がわからない。



 でも、なんとなく浮かれているという自覚はあった。こんな風に気持ちが高揚することがあるなんて思いもしなかった。

 だから……

 正月明けに母が行方不明になったのは、オレが浮かれていたから、バチが当たったんだ、と思った。



----


お読みくださりありがとうございました!
寝坊のため20分遅刻m(__)m
本当はもう一つエピソードあったけど、これ以上遅刻は嫌なので次回に持ち越しっ
次回、火曜日もどうぞよろしくお願いいたします!

ランキングクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます!
よろしければ、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「2つの円の位置関係」目次 →こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係30

2019年01月08日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係
【哲成視点】


 クリスマスの朝。
 久しぶりに目覚めが良かった。ぐっすり眠れた感じがする。やっぱりソファでは熟睡できていなかったんだ、と気付かさせられた。

(………今、何時?)

 眼鏡をしていないから世界がボヤけているものの、辛うじて壁掛け時計の針の位置は分かる。

(まだ6時半か。あと一時間眠れる………、と)

 時計から視線を下ろしたら、床にひかれた二組の布団で、松浦暁生と村上亨吾が並んで寝ている姿が目に入って、笑いそうになってしまった。

(そんなに離れようとしなくてもいいのに)

 お互いなるべく近づかないようにと思ったのか、端と端の限界まで寄っているところが可笑しい。暁生にいたっては、背を向けて、足が少し布団から出ているくらい端に寝ている。暁生は180センチ、村上亨吾は175センチあるので、布団の縦もギリギリな感じだ。

(………懐かしいな)

 昨年のクリスマスは、暁生の家で暁生と暁生の弟の間で寝たのだ。その前もそうだった。そのずっと前は、母が隣にいた……

(……………)

 何となく寂しい気持ちになって、二人の間に潜り込んだ。端と端に寄っているから、間はちょうど一人分空いている。両方から4分の1ずつもらった布団は、はじめは冷たかったけれど、すぐに温かくなってきた。

(………村上、亨吾)

 ふ、と、右を見る。
 昨晩、無理矢理オレをベッドの中に引き込んだ村上亨吾。確かに寝てしまえば、今まで何を怖れていたのだろう?と不思議に思うくらい、何もなく、ベッドは寝心地が良かった。奴にはそれが分かっていたのだろうか。

 初めてみる村上享吾の寝顔。眼鏡がなくてよく見えないから、そっと顔を寄せてみる。と、ふわりと良い匂いがしてきた。

(………同じ匂い)

 昨日、うちの風呂に入ったから、うちのシャンプーの匂いがする……

 村上享吾はピクリともせずに寝ている。
 こいつは寝ているときも澄ました顔してるんだな……

 今度は左隣を見る。

(暁生、ちゃんと帰ってきたんだ……)

 暁生は昨晩、彼女と過ごすからと言って、出ていってしまったのだ。でも約束通り朝には帰ってきたということだ。

(…………。お風呂どうしただろう?)

 パジャマで寝てるけど、うちのに入ったのかな? それとも、その彼女とホテルにでもいったのかな……

 先ほど村上亨吾にしたように、暁生に顔を近づけて匂いを嗅ごうとした。

 その時。

「!?」

 いきなり後ろに引っ張られて、驚いて声をあげそうになってしまった。いつの間に、首の下と腰の上に村上亨吾の腕が回っている。

(………キョーゴ?)

 なんだ? 寝ぼけてるのか?

 振り返りたいけれど、強い力で羽交い締めにされているので動くことができない。

(まあ………いいけど)

 村上亨吾の腕の中はいつも居心地がいい。今も背中から伝わってくる体温が温かくて気持ちいい。ちょっと首のところが苦しいけれど、あと一時間、このまま腕枕されながら寝ればいいか。

 そんな呑気なことを思ったのだけれども……

「………っ」

 なんだ……?

 尻から太股のあたりに当たっている感触に気がついて、固まってしまった。

(…………。朝勃ち?)

 村上亨吾には今まで何度か抱き締められたことはあるけれど、こんな固い感触を感じたことは一度もない。昨晩だってかなり密着していたけれどこんなことはなかった。

(うわ……気まずい……)

 これ、村上亨吾が起きたら絶対気まずいだろ。かわいそうだろ……。なんとか起きる前に腕から抜け出してやらないと………

(うーん………とりあえず、この肩に回ってきてる腕を持ち上げて……)

と、ゴソゴソと動きながら、村上亨吾の手首を掴もうとした、ら、

「!」

 逆に手を掴まれてしまった。肩からは手は外れたけれど、手を繋がれてしまったので、状況は変わらない………

 でも、上半身は少し動くようになったので、なんとか少しでも離れてやろうと、モゾモゾしてみる。と、ますます下半身の密着度が……っ

(うわ……っ)

 どうしよう。これ、恥ずかしい。絶対恥ずかしいっ。どうしよう……どうしようっ。

 と、その時。

「………っ」

 繋がれた手が意思を持ってギュッと握られた感じがして、ドキッとする。

(まさか、起きてるのか……?)

 振り返ることもできず固まっていると、再び手がギュッギュッと握られ、腰に回された手にも力が込められた感じがした。

 そして………

「……………村上」
「!」

 耳元に聞こえてきた低い声に、なぜか心臓がドキンと跳ねあがり、カアッと顔に血が集まってきて、戸惑う。

 何………

 ますます体を固めていると、

「…………そっちに行くな」
「え」

 再び腰に回された手に力が込められた。さらに密着してしまい、焦って身じろぎをする。と、

「行くな」
「…………っ」

 再びの低い声に、顔だけでなく、体の中まで熱くなったのが分かった。

「……………」
「……………」

 ドキンドキン、と、心臓の音が伝わってくる。村上亨吾の心臓なのか、オレの心臓なのか分からないけれど、いつもより速いし、鼓動が大きい……

「……………ここに、いろ」
「……………」
「……………」
「……………」

 村上亨吾の息づかいが、耳に響いてくる……

 何とかコクンとうなずくと、繋いでいた手を離され、頭に手が回ってきた。ポンポンと撫でられる。後頭部に村上亨吾の唇が当たっているのが分かる。

(うわ……………)

 なんだこれ………

(これじゃ、まるで………)


 恋人みたいじゃないか。


 ……………。

 ……………。


 何いってんだ、オレ。


(村上亨吾は男だし。そんなこと思うなんて、変だ)

 変だけど………

(そういえば、こないだ西本とそんな話したな………)


『テツ君、松浦君のこと恋愛対象としてみたことないの?』
『んなことあるわけないだろっ』

『じゃ、享吾君のことは?』
『んなこと考えたこともないっ』


 ……………考えたことない。ない、けど……


 これは、何だ。

 背中から伝わってくる温もりの居心地の良さ。と、同時に、それとは正反対の、全身心臓になったみたいな落ち着かなさ。

 そして………

 村上亨吾の大きな手と息づかいと、押し付けられた固くて熱い滾りにつられるように、オレの……オレのものも兆しそうになることを、必死に堪えている事実を……

 なんて説明すればいいんだ?



----------



それは恋かもしれないよ♥

と、いうことで。
お読みくださりありがとうございました!
次回、金曜日もどうぞよろしくお願いいたします!


ランキングクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます!
よろしければ、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「2つの円の位置関係」目次 →こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする