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BL小説・風のゆくえには~巡合9-2(慶視点)

2016年03月14日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 巡合

 浩介とキスしてしまってから、三週間がたった。

 あれから、おれ達は……何も変わっていない。
 変わっていないどころか、文化祭準備がはじまる前に戻った感じだ。準備期間中にギクシャクしてしまったことも、後夜祭でキスしてしまったことも、一切無かったかのように、普通に仲良しのおれ達……。

 文化祭後に始まったバスケ部の大会で、珍しくうちの学校が勝ち進んだため、その練習に夢中になっていたのも良かったのかもしれない。顔を合わせればバスケの話とバスケの練習しかしてなかったからな……。

 でもそれも、昨日で終わってしまった。
 そして今日から、期末テスト一週間前で部活も停止になる。

 またいつもみたいに一緒に勉強できるんだ。おれの部屋で、2人きりで。2人きりで………

 そう思ったら、なんか鼻血出そうになってきた……

 まずいなあ、と思う。せっかくあんなことがあっても『親友』でいられてるんだから、バレないようにしないと……


 そんなことを思っていた、月曜日の3時間目。英語。

(かっこいいなあ……)

 当てられた浩介が、教科書を読んでいる姿にぽや~と見惚れてしまう。浩介は英語を話すとき、声が少し低くなる。流れるような英語。教科書の文章なのに何かの朗読みたいだ。

 指定された段まで読み終えた浩介が座ろうとしたところ、先生に呼び止められた。今日はアメリカ人の先生が特別にきていて、その先生が何か英語で話しかけてきたのだ。
 でも、それにも動じず、流暢な英語で返事をしていて、クラスのあちこちで「すげー」「さすが学年一位」と声が聞こえてくる。何だか誇らしい。
 外国暮らしの経験があるのか、とか聞かれてるっぽい? いいや。後で聞こう……と?

「?」
 最後に先生に何か言われて、ちょっと微妙な顔をして肯いてから席についた浩介。気になる……。

 でも、休み時間になった途端、案の定、溝部やら鈴木やらウルサイ連中が浩介のところに飛びついてきてしまった。

「さっきシンディ先生と何話してたんだよ!」
「チュータって何?」
「え、そんなこと言ってたか?」
「言ってたじゃん!」

 浩介は困ったように手を振ると、

「大した話してないよ。海外で暮らした経験があるのか?って聞かれたから、旅行には行ったことはあるけど暮らしたことはないって答えて……」
「で、チュータって?」
「家庭教師」
「かてきょー! 桜井君、かてきょーがきてるの?」
「あ、うん……」
「すげー! お前んち、金持ちなんだな!」
「そんなことは……」
「はい!そこまで!」

 浩介がどんどん小さくなっていくのを見かねて、パンパンっと手を打つ。

「次、書道室移動!」
「あ、そっか」

 わたわたとみんなが散っていくのを見て、浩介がホッとしたように息をついた。

「ごめん、慶。ありがとう……」
「いや。おれ達も行こうぜ?」

 言いながら書道の道具を持って教室を出る。

「家庭教師って、外国人?」
「あ、うん、英語はね。幼稚園の頃からイギリス人の先生……父の友人の奥さんなんだけどね。その人が週一で来てて……。だから自分じゃよく分かんないんだけど、おれの発音ってイギリス英語なんだって。あ、今はもう来てもらってないけどね」
「へえ……」

 まだまだ知らないことがたくさんだ。
 一年半も友達してるのに、まだおれの知らない浩介がたくさんいる。全部知りたいと思ってしまうのは我儘だろうか……

「なあ、最後、何言われたんだ?」
「え?」
「最後、何か言われてお前変な顔してたじゃん。何言われたんだ?」
「……………」

 いきなり浩介が立ち止った。あ、聞いちゃまずかったのかな……と戸惑ったおれの顔を、浩介はなぜかマジマジとみると、

「おれ、変な顔してた?」
「してた……と思ったけど、気のせいか?」
「あ……ううん」

 大きく大きくため息をついた浩介。「まいったなあ……」とボソッというと、ふっとこちらに向かって手を伸ばしてきた。

「!」
 おれの息が止まったことなんか気にせずに、浩介の冷たい指がおれの下唇に触れる。

「普通の顔してたつもりだったけど、慶にはお見通しだね」
「え」

 そして、くるっと背を向けまた歩きだした。慌てて後をついていくと、浩介は下を向きながらボソボソと、

「なんかね、小さい頃から家庭教師に習ってたって言ったら、『両親に感謝しなさい』って言われたの」
「…………」
「習いたくて習ってたわけじゃないんだけどね……でも今、英語がわりと得意なのは小さい頃から習ってたおかげだろうし……」
「…………」
「感謝しないといけないんだろうね」

 寂しい笑顔を残して浩介は書道室に入っていった。
 時々話してくれる言葉の端々から、浩介が両親と上手くいっていないことは感じていたけれども……あんな風に寂しい顔をするのを、おれはどうしてやることもできないんだろうか……。


 おれも書道室に入り、自分の席につく。書道は出席番号順なので、浩介はおれの前の席だ。
 浩介のうなじのあたりを見ながら、さっき触れられた唇に、自分で触る……

(もしかして……)
 こういう風にスキンシップを取るのは外国仕込みなんだろうか……小さい頃から外国人と接していたから、抵抗なく男のおれにもベタベタしてくるんだろうか……

(あのキスも……)
 後夜祭でキスしてしまってから3週間経つ。けれども、浩介の態度はまったく変わらない。

(……挨拶代わり、みたいな?)

 おれはまだまだ、あの時の唇の感触を思いだすたびに、血が逆流してどうしようもなくなるんだけど……。
 浩介にとっては、挨拶みたいなものだったのかな。それとも、何も言ってこないのは、消したい過去、だからかな……。
 おれはあれから、お前がおれに触れてくる度に、今までよりも更に思いが強くなっているのに、お前は何事もなかったみたいにおれに触れてくるんだよな……

 そうして触れられるたびに、もう一度その唇に触れたいと思ってしまうおれの気持ちなんかお構いなしにお前は……

「慶?」
「!」

 何気なく頭におかれたその手を反射的に振りはらってしまった。これ以上、触れられたらもう収拾がつかない。

「慶……?」
「授業はじまるぞ」

 なるべく普通の声で答える。浩介も一瞬キョトンとした顔をしたけれどすぐに前に向き直った。


 せっかく『親友』を続けられているんだ。この関係を壊したくない。
 あの時のキスは、後夜祭の魔法がくれたプレゼントだ。その思い出だけで充分だ。
 これ以上、何も望むな。望むな……


 その日の帰り、浩介はいつものようにおれの部屋に寄った。
 でも一時間もしないうちに帰ってしまった。中間テストの結果があまりよくなかったため、期末テスト期間まで毎日家庭教師をつけられてしまったそうだ。今日は5時間授業だったから寄れたけれど、明日からは6時間が続くので帰りも寄れなくなってしまうという。

 せっかく一緒に勉強できると思ってたのにな……

 浩介の座っていた座布団に座って、テーブルに突っ伏す。


 親友でいれば、ずっと一緒にいられる。だから親友でいい。そう思った気持ちにウソはない。

 でも………

 知ってしまった。あいつの唇の柔らかさを。想像でしかなかったことが現実に起きてしまった。夢だったと思おう、と思ったって忘れられない。あの柔らかい感触……。

 知らなければよかった。知らなければ想像だけですんでいた。知ってしまったから、求めたくなってしまう。もう一度。もう一度、と。

「浩介……」
 今日触れられた唇に手をあてる。あの冷たい指に触れられることを体が期待して疼いている。もう、どうしようもない。もう触られるのは……

「限界だな……」

 何かで発散しないと爆発しそうだ。

 発散……発散……発散……

「よし」

 階段を駆け下り、外へ飛びだす。物置からボールを取りだして公園へ。
 ちょうど空いていたバスケットゴールにシュートを打ちまくる。

「親友……親友。おれたちは親友……」

 でも、ゴールネットにボールが通るたびに、気持ちに反して思いが募っていってしまう。
 100本目を打ち終わったところで、ゴールを使いたそうな中学生たちが来たので退散することにした。

「親友……」
 親友にこんな邪な目で見られていることを知ったら、いくら呑気なあいつでもショックを受けるだろう。だから何としても隠さなくてはならない。そのためには………

「走るか」
 ひたすらダッシュし続けたら、さすがにバテた。

 アホだな、おれ………

 自分でもよくわかってる。でもどうしようもない。




------------------------------------


お読みくださりありがとうございました。
一途な慶君は、女遊びで発散しようとか、そういうことはまったく思いつきません!
一方の浩介は何を考えているのかというと……という話はまた明後日、よろしくお願いいたします。

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BL小説・風のゆくえには~巡合9-1(慶視点)

2016年03月12日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 巡合


 あれ……? おれ今、浩介とキスしてる……?


 気がついたら唇が重なっていた。
 時間にして3秒……5秒?くらい?
 想像していたよりも、もっと柔らかい唇の感触……

「…………」
「…………」

 唇が離れて、顔を見合わせる………
 浩介、目が丸くなってる。たぶんおれもそう。びっくりし過ぎて………

「あの……」
「慶………」

 二人同時に何か言いかけて、同時に黙る。な、なにを、どうすれば………

 奇妙な沈黙に二人身動きがとれなくなっていたところ、

『実行委員長渋谷君、副委員長鈴木さん。至急本部まできてください。実行委員長………』

 おれを呼ぶ放送が緊張感を破った。

「じゃ、じゃあ、おれ行くな」
「う、うん」

 繋いでいた手を離し立ち上がる。

「あ、缶捨てておくよ」
「おお、悪い。サンキュー」

 持ちかけた缶をその場に置く。

「あ、慶。おれこのあとバスケ部の打ち上げ……」
「そっか。じゃあ、明日……は、今日の振り替えで休みか」
「うん。また明後日」
「おお」

 手をあげてから、本部テントに小走りで向かう。一度振り返ったら、浩介がこちらを見ていたのでまた手を振ると、浩介も手を振り返してくれた。

「………」
 下げた手で唇に触れる……

「夢………じゃない……よな」
 思わず一人ごちる。でも夢じゃない。あの感触、本当に本当に……

(うわあああああああっ)

 耐えきれなくて、その場にしゃがみこんでしまう。
 本当に、本当に、本当に……

(キス、しちゃった……)

 想像していたよりも、ずっと柔らかくて、震えるほど気持ちがよくて……

(うわああああっ、ど、どうしよう……)

 あれはおれか? おれが無理矢理した?
 いやいやいやいや。無理矢理はしてない。してないよな?
 あれは、どちらからともなくってやつだよな?
 おれだけの責任じゃないよな? 違うよな?
 浩介どんな顔してた? びっくりしてた……な。びっくりしてただけで、嫌とかそういう顔では……

「渋谷ー何やってんの。具合でも悪い?」
「うわわ」

 しゃがみこんでいたところを、ひょいっと脇腹を掴まれ立たされた。

「か、軽々持ち上げないでくださいよ。真弓先輩っ」

 実行副委員長の3年の鈴木真弓先輩だ。真弓先輩は肩をすくめると、

「軽くはないね。渋谷、見た目より筋肉ついてるね」
「一応鍛えてるんでっ」
「『恋せよ写真部』のくせに?」
「関係ないじゃないですかっ」

 二人で本部の放送席にたどり着くと、放送部の部長さんが時計を見つつおれ達にいった。

「そろそろ時間なので、皆さんから一言ずつ……」
「皆さんはいいよ。委員長だけでいいんじゃない? 長い時間喋ると白けるし」
「そうですね。じゃ、委員長だけで」
「えー……おれもいいですよ」
「よくない。短く締めて」

 真弓先輩に無理矢理マイクを持たされる。
 音楽の終わりとともに、放送部の女の子の声がはじまる。

『楽しい時間ももう終わりが近づいてきました。ここで文化祭実行委員長の渋谷君から一言……』

 促され壇上に上がると、当然のように「恋せよ写真部!」とヤジが飛んでくる。

(ああ、めんどくせー……)

 後夜祭だから真面目に締めることもないだろう。ノリだけでいこう。

「文化際も後夜祭も……楽しかったですか?!」

 わああっと拍手が起こる。

「カップル成立した人!」

 あちこちで冷やかしの声。
 それを見渡すフリをして浩介の姿を探す……。いた。
 木に背を預けて、ボーっとこちらをみている。

 何考えてんだろうなあ……浩介……

 そんな思いは腹の中にしまいこんで。興奮気味の生徒達に向かって手を広げる。

「最高の文化祭! 自分たちに拍手!」

 そして、拍手と歓声の中、頭をさげる。

「ありがとうございました!」



 こうして、文化祭も後夜祭も無事に終了した。
 けれども、実行委員にはまだアンケートの集計という仕事が残っている。

 翌日の振替休日、本部役員のオレ、真弓先輩、石川さん、ヤス、の4人に加え、アンケート集計の係になっていた文化祭委員の一年生4人で、集計作業のため、生徒会室に集まった。
 結構な量のアンケート結果を手分けして集計した結果、我が2年10組は見事飲食部門で2位を獲得していることが分かった。

「これ、一位のお好み焼き屋は、家が本物のお好み焼き屋の奴が、材料とか安価で仕入れて店のソースをそのまま使ったってんだから、旨いし安いし一位になるのは当然だよな。そう考えると、実質一位は渋谷たちのクラスっていってもいいんじゃねーの?」

 ヤスがそんな嬉しいことを言ってくれた。みんなに報告するのが楽しみだ。

 一覧表をしげしげとみつめていたヤスがボソッと言った。

「ポスター部門……『恋せよ写真部』ブッチギリだな」
「それはもういい……」

 『恋せよ写真部』とは、写真部のポスターに書かれていたキャッチコピーで、そのポスターにはおれが浩介を見ているところを隠し撮りされた写真と、真理子ちゃんが失恋して泣いている写真が使われている。
 文化祭の最中、かなり目立つところに張られていたため、色々な人に散々冷やかされたのだ。いい加減もう忘れたい……

「『恋せよ』っていっても、渋谷はもう恋してるでしょ?」
「はい?!」

 真弓先輩、いきなり直球。バサバサとアンケート用紙をまとめながら、何でもないことのように言う。

「あの『恋せよ写真部』の渋谷って、好きな人のこと見てるとこ撮られたんでしょ?」
「え……」

 す、するどいっ。

「そ……そうなの?」
 石川さんまで話に食いついてきた。

「渋谷君の好きな人って」
「あの『恋せよ写真部』のもう一人の子だろ?」
「あの泣いてた子ね」
「えええっそうなの?!」

 矢継ぎ早の言葉に、「違います」と大きく手を振ってみせる。そうしてから、はっと思いだした。

「あ、そうだ、ヤス、お前、浩介に変なこと吹き込んだだろ」
「変なこと?」
「理想の……」
「はいはいはい」

 ヤスは悪びれもせず肯くと、

「あの写真部の女の子が渋谷の理想の女子だって話しな。だってホントのことだろ?」
「それは……」
「え、そうなの?!」

 石川さん、まだ食いついてくる。そこへ、真弓先輩がニヤニヤと、

「渋谷の理想の女の子はお姉さんなんでしょ? お姉さんと写真部の子、似てるもんね~。あの写真はあの子のこと見てたとこ撮られたんでしょ?」
「だからそれはー……」
「えええっそうなの?!」

 ああ、面倒くせえ……

 でも、真弓先輩の追及は止まらない。

「後夜祭、どうした? あの子と手、繋いだ?」
「うそうそうそっ!そうなの渋谷君?!」
「手……」

 後夜祭……昨日の夜のことなのに、ずっと前のことのようだ。
 オレンジ色の炎を見ながら、おれは……おれ達は……

(うわわわわっ)

 思いだすだけで全身の血のめぐりが3倍くらいになる。
 繋いでいた手が、触れた唇が、熱くて……

「あ、渋谷が赤くなってきた」
「やだー渋谷君ー」

 真弓先輩と石川さんの声にハッと現実に引き戻される。

「やっぱ、あの子と繋いだんだ?」
「え、マジで? 渋谷」
「繋いでません」

 キッパリと首を横に振る。

「あの子とは繋いでません」
「あの子『とは』……って」

 真弓先輩、石川さん、ヤス、が顔を見合わせてから、わあっと騒ぎはじめた。

「あの子とはってことは他の誰かとは繋いだってこと?!」
「マジで! 誰だよ!」
「うそうそ! 渋谷君、誰なの?!」

 ぎゃあぎゃあぎゃあと騒ぐ3人に、耳をふさいでみせる。
 誰か、なんて教えない。あれはおれの秘密の宝物だ。



 翌日。
 浩介と再会するにあたって、おれはあらゆるシチュエーションを考えた。

 キスの件を追求してきた場合→「なんか雰囲気に流されたよなっ」と笑い話にする。
 よそよそしくなっていた場合→今まで通り接するよう頑張る。

 あとは……あとは何かあるだろうか……。
 そんなことを悶々と考えながら、教室に入り……

「はよーっす」
 近くにいたクラスメートたちが「おはよー」と返してくれるのに「はよーはよー」と返しながら進み……

(浩介、いた!)
 ドキンっと心臓が跳ね上がる。窓際、後ろの席の山崎と喋ってる。
 そして、おれの姿に気がついて、

「あ、慶。おはよう」

 にっこりと笑った。わあ、その笑顔、好き……。血が逆流する……

「アンケート集計お疲れ様。どうだった?」
「お、おう。まだ正式発表はできないけど、2位確定だ」
「わあ。やったね」

 浩介、ニコニコしてる……

 ニコニコ、ニコニコ……

「ああ、そうだ。実行委員用のアンケート書いたんだけど、慶に渡せばいい?」
「あ、ああ、くれ」
「あ、でも一か所浜野さんにも聞きたいところがあったんだ。ちょっと待ってて」
「おう」

 …………。

 普通……普通だ。浩介………。

 浜野さんと喋っている浩介を見ながら、思わず声が出る。

「……普通だな」
「え?何?」

 山崎に問われ、ブンブン首をふる。

「いや、何でもない……」

 浩介………

 そうか………

 こちらに戻ってきて、「はい」と紙を渡してきた浩介を見て、確信する。


(無かったことに、するつもり、だな?)


 そういうことだ。あのキスは後夜祭の魔法。現実ではないってことか……

 そういうことなんだろ?

「おお、さすが丁寧に書いてあるな。助かる」
「うーん、でも、ちょっと細かく書きすぎちゃったかも。適当にいらないとこは外してもらえる?」
「分かった」

 浩介の丁寧で優しい字を指で辿りながら、何度も肯く。

(無かったことに……)

 そうだな。そうだよな。
 親友を続けたければ、無かったことにするのが一番だ。
 あれは、後夜祭の魔法が見せた夢だ。

 忘れよう。忘れよう……




------------------------------------



お読みくださりありがとうございました!
次も慶視点です。続きはまた明後日、よろしくお願いいたします。

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます! せっかくの初キス!だったのに、キスはなかったことに……(^-^; 次回もどうぞよろしくお願いいたします!
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BL小説・風のゆくえには~巡合8(浩介視点)

2016年03月10日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 巡合

 文化祭は4時までで終了。
 5時10分までが片付けで、ホームルームの後、5時半から7時までが後夜祭となる。後夜祭は自由参加なので帰ってしまう人もいるけれど、ほとんどが残るようだ。


 後夜祭のキャンプファイアでは、使われた看板等もすべて燃やされる。
 この盛大なお祭りも本当に終わってしまったんだ………と、胸が締めつけられるような寂しさが襲ってくる。

 天までのぼる勢いのオレンジの火の方に、胸ポケットにさしていたボールペンを取りだしてかざす。

「3人お揃い……」
 お団子の飾りの付いたボールペン。自然と笑みがこぼれてきてしまう。

 先ほどのホームルームで、突然、クラスのみんなからプレゼントされたのだ。

「文化祭委員、お疲れ様でした!」

 まさかそんなサプライズがあるなんて思いもしなかった。いきなり、おれと慶と浜野さんの3人が前に引っ張りだされ、このお揃いのボールペンをプレゼントされて、本当に驚いた。いつの間に、コッソリ集金していたらしい。

「大役お疲れさま」
「色々ありがとう」
「迷惑かけてごめんね」
「大成功だったね」

 温かい拍手と言葉に包まれ、慶に背中を優しくなでられ、不覚にも泣きそうになってしまった。
 クラスの一員として認められた、と自分でも納得できた瞬間だった。

 慶みたいになりたい、慶の隣にいるのにふさわしい男になりたい、そう思っていたけれど、これでちょっとは近づけたかな……



「浩介発見!」
「あ」

 いつのまに慶がおれの目の前に立っていた。さっきまで放送で何かしゃべってたのに……

「もういいの?」
「あとは放送部がやってくれるって。終わりの頃にもう一回こいってさ。それまで自由」

 火を背中にして立っている慶はまるで火の精みたいだ。慶は火まで似合うんだなあ。

「お前、いい場所みつけたな」
「うん。グルグル回ってみて、ここが火も見えるし、静かだし、いいかなって思って」
「穴場だな」

 すとん、と慶がおれの左側に座った。座るのにぴったりの高さの石段で、植木と植木の間がちょうど二人分だけ空いているのだ。

「とりあえず……お疲れさまでしたっ」
「おおっ気が利くっ」
「ごめん、冷たくなくなっちゃったけど」
「いいいい、全然いい」

 缶ジュースで乾杯する。
 役員を引き受けたときには、こんな充実感に包まれるなんて思ってもいなかった。引き受ける勇気をくれた慶に感謝したい。

 慶がぴっと人差し指を立てて言った。

「ここだけの話なんだけどさ。アンケート結果、飲食部門の上位に食い込むのは間違いなさそうだぞ」
「え、ホントに?!」
「やっぱり本物の食器を使ったのがポイント高かったみたいだな。災い転じて福となすってやつだ」
「そっかそっかあ……」

 苦労した甲斐があったというものだ。

「それに、団子は早々に完売しちゃったけど、その後に無料でお茶だけ飲めたのも良かったって」
「そっか。それは良かった。せっかくの飾りとか、衣装とか、もっと見てほしいよねって話になって、お団子なくても続けちゃったんだけど、そう言われてるなら良かったよ。……あー、その飾りも、今頃火の中だね……」

 本当に夢の中の出来事みたいだ。日本風の飾りつけもお揃いのエプロンもみんな上手にできてたな……。
 オレンジの火のまわりでは、半分くらいの生徒がフォークダンスの音楽に合わせて踊っていて、残り半分は話したりウロウロしたりしている。
 
『後夜祭の炎の前で手を繋いだカップルは幸せになれる』

という、学校の七不思議があるらしく、そのことに便乗して、今日告白してカップルになる生徒達も多いらしい。


「ねえ、慶………」

 やっぱり、こないだからどうしてもモヤモヤモヤモヤしてしょうがない話があるんだけど……

 言うと、慶は「は?」と首をかしげた。黒い瞳にオレンジが写ってとても綺麗だ。
 意を決して質問してみる。

「慶と真理子ちゃんって……どうなってるの?」

 でも、慶は目をパチパチとさせて、

「どうなってるって……なんなんだ、お前? こないだから、真理子ちゃん真理子ちゃんって」
「だって……見たんだもん」
「何を」

 きょとんとしたままの慶に一気に言い放つ。

「部室で、慶が真理子ちゃんのこと抱きしめてるところ」
「…………っ」

 慶、思いっきりジュースふきだして、ゲホゲホゲホと咳込みはじめた。
 ほら、やっぱり………

「2人は付き合ってるの?」

 背中をさすってあげながら、ブスッと心臓のあたりに大きな針が刺さる。
 お似合いの二人。何より、真理子ちゃんは慶の『理想の女の子』……

 でも、慶はブンブンブンブン手を振ると「違う違う違う違うっ」と叫んだ。

「違うって、でも……」
「お前、それ、あれだろ? 水曜日の放課後の話だろ?」
「う……うん」

 肯くと、慶は「あーびっくりした」といいながら、胸を何度かさすってから、こちらを向いた。

「そりゃー、あれだ。真理子ちゃんが失恋したのを慰めてただけだ」
「失恋? 誰に? 慶に?」
「なんでおれなんだよ」

 呆れたように肩をすくめる慶。

「相手は、まあ、言えねーけど、ちょっと叶わない恋でな……。で、失恋して……」
「もしかして、あの『恋せよ写真部』の写真撮ったのって……」
「そうそう。その時」

 やっぱりそうなんだ。真理子ちゃん、「この涙は目薬です」なんてケロリとして言っていたけれど、やっぱり本物の涙だったんだ……。

 でも、そんな彼女を抱きしめて慰める、なんて、慶はやっぱり……

「……じゃ、ラッキーだったね、慶」
「あ?」
「だって、真理子ちゃんって、慶の『理想の女の子』なんでしょ? そんな子を抱きしめられるなんて……」
「あ? 『理想の女の子』ってなんだ?」

 眉を寄せた慶に正直に答える。

「………。安倍が言ってた」
「ヤス……余計なことを……」

 ムッとした慶に、畳みかける。

「理想の女の子、なんでしょ?」
「あーまー……」
「真理子ちゃんが失恋したなら、余計にチャンス回ってきたとか、そういうこと……」
「全然思わねえ」

 おれの言葉を遮って、キッパリハッキリ慶がいいきった。

「まあ、確かに見た目は理想的だとは思うけど……。おれ、年下ダメ。妹な感じがしてダメ」
「え、そうなの?」
「そうだよ。だいたい真理子ちゃんは本当に妹の友達だし、その時点で論外」
「えー……」

 そんなもんなんだろうか。おれは姉妹がいないので分からないけれど……

「でも、そんなこと言ったら、慶、お姉さんだっているじゃん。年上もだめなの?」
「そうだな。年上もダメだ」

 真面目な顔をして肯く慶。それじゃあ……

「それじゃ、同級生限定になっちゃうじゃん」
「まあ、そういうことになるな」

 同級生……

「あの……石川さん、とか」

 言いながらも、ズキッとまたさっきとは違う心臓の痛みがくる。
 おれのいつもの席に座っていた女の子……華奢で可愛くて、まっすぐに慶のことを見ていた女の子……
 あんな子に思われたら、誰だって……

 と、思いきや、慶はアッサリと、

「あー、おれ、あの子苦手なんだよ」
「えええ?!」

 あんな可愛い子に何言ってんだ、この人はっ。

「ど、どこが?!」
「なんか……女女してるとこ? 嫌じゃね?」
「え………」

 嫌かどうかも考えたことがなかったけど……。でも、慶がそういってくれて、ちょっと安心している。あいかわらず汚い独占欲……でも、そのことに落ち込む前に、慶がけろりととんでもないことをいいだした。

「まあそれに、石川さんのことは、ヤスがずっと狙ってるしな」
「え!? そうなの!?」
「そうだよ。あいつメチャメチャ分かりやすいぞ?」
「そ……そうなんだ……」

 おそらく、慶が委員長を引き受けたから石川さんは副委員長になり、石川さんが副委員長になったから安倍は会計に立候補したんだろうなあ……。恋の三角関係……頑張れ安倍……。

「なんか……みんな頑張ってるんだねえ」
「なんだそりゃ」

 慶はクスクス笑いながら、ジュースを飲み切った。

「そういうお前は? 美幸さんに振られてからもう4か月だ。そろそろ……」
「ないない」
「ないのか」
「ないよ」

 おれもジュースを飲み終わり、空き缶をとりあえず後ろに置いた。

「なんかさー、おれ、やっぱりちょっと遅れてるのかも。恋愛とかよく分かんない」
「分かんない?」
「想像できない……けど、慶と真理子ちゃんのこととか、慶と石川さんのこととかは想像してみた」
「な、なんだそれっ」

 驚いたように身を引いた慶に、ちょっと笑ってしまう。

「うーん。慶が真理子ちゃんを抱きしめてるところ見てね……その先のこととか想像した」
「その先?」
「キス……したのかな、とか」
「ば………っ」

 わたわたと手をふる慶。

「するわけねーだろっ」
「そうなんだ」
「してねえよっ」
「そっか………」

 なんだかホッとしてしまう。
 前に慶が練習と称しておれにキスしようとしたことがあった。そのとき、あまりにも手慣れていたので、あんな風に自然な流れで真理子ちゃんともキス……したのかと思った。でもしてないって……。良かった。


「あ、あれ志村先輩じゃね?」
「……あ、ホントだ」

 校庭から出て行こうとしている男女のカップルがいる。今日ばかりは、みんな恥ずかし気もなく手を繋いでいる。後夜祭の魔法だ。

「一緒にいるの女バスの2年? つき合ってるんだ?」
「そうそう。引退試合の前に告白して上手くいったみたいだよ」
「へえ……」

 みんな魔法がかかったみたいだな。幸せそうだ。

 おれも幸せだな、と思う。
 再び、お団子の飾りのついたボールペンを取りだしプラプラと火の方にかざす。

「ああ、それ」
 慶もニコニコと胸ポケットから取りだした。

「嬉しいもんだよなあ」
「ねえ。三人お揃いだね」

 言うと、慶は「いやいや」と手を振った。

「衣装チームの子が買いに行ったみたいで、衣装の子は全員同じの持ってたぞ。他のチームの子も買った場所聞いてたから、たぶんお揃いは三人どころじゃなくなる」
「あはは。そうなんだ。それはそれで嬉しいね」

 クラスの子たちみんなとお揃い。嬉しい。
 何より、みんなが、おれ達のために買ってきてくれたということが嬉しい。

「慶、本当にありがとうね。おれ、役員引き受けて本当に良かった」
「おれの方こそ、お前がいてくれたからクラスの方任せっきりにできて助かったよ」

 慶の微笑みに、こっくりと肯く。

「おれさ……自分がこんなことできるなんて思いもしなかった」

 小学校、中学校と下ばかり向いて過ごしていた。高校生になったって、とにかく目立たないように嫌われないように、気配を消して小さくなって過ごして……
 それが今回は、クラスのみんなをまとめて……みんなもおれのやり方に対して言いたいことだってあっただろうに、こうして最後には「ありがとう」って内緒でプレゼントまで用意してくれていて……

 こんなに幸せでいいんだろうか。
 毎日学校に行くのが楽しくて……いや、やらなくてはいけないことがありすぎて、楽しいかどうかなんて考える暇もなかった。ただひたすら充実していた。毎日毎日、誰かに声をかけられて、頼られて……

「おれは、お前ができるって知ってたぞ?」
「慶……」

 慶が見守ってくれたからできた。慶がいてくれたから……。
 心が幸せで満ちていく……

「慶、本当にありがとうね。慶がいてくれたからおれ……」
「何言ってんだよ。おれの方こそ、お前がいてくれたから……」


 音楽も人々の騒めきも、遠くの方から聞こえてくる気がする。ここだけ静かに切り取られたようだ。
 火のオレンジもだんだんと勢いがなくなってきている。もうじきこの祭りも本当に終わってしまう。
 それでもまだ、光は美しく、闇を照らし出している。
 慶の綺麗な白皙を照らし出している。

「慶」
「え? と、!」
「!!」

 同時に身じろぎをしたせいで、一瞬慶の右手とおれの左手がぶつかった。

 慌てて、離れる。

 ………けれども。

 どちらからともなく、ぶつかった手を取り合った。

 ぎゅっと握りあう。

 重なった手から体温が伝わってくる。慶の温かい温かい手……
 慶の温かい気持ちまで伝わってくる……


「後夜祭で手を繋いだら幸せになれるって」
「学校七不思議な」
「うん。カップルじゃなくて、親友だけどいいよね」
「いんじゃね?」

 ぎゅっぎゅっぎゅっと握り合って笑ってしまう。再び視線を火に向ける。もうじき終わってしまう炎。しっかりと目に焼きつけたい。

 すると、慶が急に「ああそうそう」とつぶやくように言った。

「お前さ……小学生の時に、おれと一緒にバスケやってねえ?」
「……え?」

 いきなり突飛でもない……

「何の話?」
「今日、椿姉が言ってたんだよ。K駅からちょっと歩いたところにバスケットゴールがあって、そこでみんなでバスケをやったときに、お前もいたって」
「…………え」

 すうっと頭の後ろの方が引っ張られるような感覚に陥る。

「おれが赤ん坊の頃の親子教室で一緒だった奴が引っ越すとかなんとかで、母親に連れられて遊びにいったらしいんだけど、おれあんま覚えてなくて。でもバスケしたことは覚えてる」
「それ………」
「椿姉も一緒で……んで、なんかそこらの近所の奴とか誘ってみんなでバスケしたんだよな……」
「あ………」
「すっげー、記憶あやふやなんだけど、白いシャツの制服みたいなの着てたの、もしかしてお前……、え」
「け、慶っ」

 握った手をさらにぎゅううっと握りしめる。そうしないと体が震えてどうにかなってしまいそうだった。

「こ……、だ、大丈夫か?!」
「う……うん」

 慶がおれの震える手を上から包みこんでくれている。温かい……温かい、当時の記憶までよみがってくる。


『お前も入れ!』

 ちょっと遠くにいたおれを無理矢理引っ張った小さな男の子……
 幼稚園生くらいかな?と思った。年上のおれに対してずいぶん不躾だな、とも思った。
 でも女の子みたいにかわいいキョロキョロした目にそんな気持ちも吹き飛んだ。

『お前、バスケ、知ってる? バスケ』
『し……知らない』
『ボールもって歩いちゃダメ。味方にパスする。それだけっ! じゃ、やるぞ! お前おれの味方な!』
『えええええ?!』

 よく分からないまま、参加させられた。3対3、らしい。人数が足りなくて強引に入れられたみたいだ。
 おれはただ、家に帰りたくなくて、学校帰りに家とはまったく逆方向に向かって延々と歩いていただけなんだ。それで騒がしい声がしたからなんだろうと思って立ち止まって見ていただけなのに、こんなルールも分からないものに勝手に入れられて……

『パス!』
『えっ』

 いきなりボールを渡された。ど、どうすれば……。戸惑っていたら、敵のチームの男の子がボールを無理矢理取ろうとしてきた。

(あ、とられちゃうっ)

 あわてて抱えてしゃがみこんだところで、

『後ろっこっちっ』

 さっきの幼稚園生の甲高い声が聞こえてきた。そっちにむかって転がすと、その子がパッとボールをとって、その子のお姉さんにボールを投げて渡した。6年生くらい?のお姉さんは楽々とゴールにボールを入れて……

『やったーやったー』
 男の子はピョンピョン跳ねて喜んで、

『いいぞ!いいぞ!白組!』
『え……』

 白組??

 よくわからないまま手を捕まれぶんぶん振り回される。
 でも………なんだかおかしくて、声をあげて笑ってしまった。
 それからもなんだかメチャクチャだったけど、楽しかったことはよく覚えてる。

『またなー!』
 別れるとき、男の子はそういって母親の元に走っていってしまった。

『またなって………また会えるの?』
 独り言のつもりでいったセリフに、男の子のお姉さんが言った。

『一度会えたんだもの。縁があるってことよ。巡りあう運命なら、また会う時もくる……』


 あの時のお姉さんが………椿さん?
 6年生くらいかと思ってたけど、高校生ってことか。ずいぶん幼く見えた。背も低かったしな……。

 そして、あの時の男の子が………慶?

 ………………。

 幼稚園生かと思ってた………。

 なんて言えない絶対。
 でも考えれば考えるほど、慶としか思えない。あの底抜けな明るさ。人を巻き込む社交性。くるくるした可愛い瞳……


「巡りあう運命………か」
「え?」

 首をかしげた慶にうなずきかける。

「あの時、椿さんに言われたんだよ。巡りあう運命ならまた会えるって……」
「会えたな」
「うん……」

 でもここからは、偶然だけじゃない。

 中学の時、慶が出場した試合をみようと思ったのは、あの時、バスケをやったおかげなのだ。あのバスケがすごく楽しかったから………。そうでなければ、バスケの試合をみようなんて思う理由がない。

 そして、その試合で慶を見たから、県立高校に進学しようと決心した。それで、慶と同じ高校に通うことになった。

 今のおれがここにいる原点は、あの時の男の子とのバスケなんだ。

「すげーな。おれ達、出会う運命だったんだな」
「うん………すごいね」
「すげー……ホントに」

 慶は感動したように頬を紅潮させている。
 けれども、きっと、慶は社交的なので、こんな風にできた交友関係なんて掃いて捨てるほどあるだろう。
 でも、おれにとっては、あの出会いは唯一で、最高で、かけがえのないもので………

 どうしてこんな人がいてくれるんだろう……
 何ものにも変えられない。

 おれのすべて。
 この人はおれのすべてだ。


(ああ……綺麗だな)

 キャンプファイヤーの火が慶の美しい横顔を彩っている。
 この人は、本当に、なんて美しいんだろう。顔の造形も魂も、何もかもが美しい。
 中学三年の時に見たときも思った。キラキラしていて、眩しくて……おれを暗闇から救いだしてくれた光。
 そして今、ずっとそばにいてくれる。包み込んでくれる。見守ってくれる。大勢の中からおれだけを探しだしてくれる……

(……触れたい)

 その透き通った瞳に。すっと通った鼻梁に。滑らかな頬に。そして……

「……浩介?」

 おれの視線に気がついた慶が不思議そうにこちらを振り返った。そして何か、はっとしたような表情をしておれを見返した。

「浩介……?」
「慶……」

 美しい美しい慶……
 瞳も頬も、そして……艶やかなその唇も………

「慶………」

 気がついた時には……おれの唇は、慶のその柔らかい唇と、重なり合っていた。







---------------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
ようやくキターーー!!って叫びだしたい気分です。
ようやく来ました。「あいじょうのかたち」の40で浩介が思いだしていたキスシーン。

そして、「遭逢」の2で「小学校低学年の時に、近くの公園で見ず知らずの男の子とやったことがある」と、浩介が言っていたバスケのシーン。「もしかしてこの男の子って慶のことじゃね?」と気が付いていらした方、大正解でございます!!(いや、そんな人いないって^^;)

続きはまた明後日、よろしくお願いいたします。

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます。とうとう初キス!! でも、恋愛初心者の二人。キスしたからってそんなにことがスムーズに進むわけではなく……両想いになるまであともう少し。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~巡合7-2(慶視点)

2016年03月08日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 巡合


 11月2日土曜日 午前8時40分。
 校庭にて、文化祭の開幕式が行われた。

 昨日の午前中に少し雨が降ったため、皆は天候を気にしていたけれども、おれはまったく心配していなかった。
 なぜならおれは最強の晴れ男。
 雨が降って欲しくないと願った行事で雨が降った経験が一度もないのだ。逆に、水疱瘡のため参加できなかった運動会が、続く雨のため順延につぐ順延となり、ようやく出来ることになったときには、おれの水疱瘡も治っていた、という経験はある。

 まあ、そんなことはさておき。

 開幕式。原稿は昨日の夕方、浩介にチェックしてもらったのでバッチリだ。

 壇上にあがると、さすがに人数が多くて圧倒される。教職員、生徒あわせて1500人くらいか……

(あ、浩介)

 そんな中でも、浩介の姿をすぐに見つけだせるおれ、ほんと健気。話しながらニヤけてしまいそうになるのを何とか堪える。

「内部生のみ公開の2時間は試運転だと思ってください。そこで生じた問題は、11時までに必ず解決してください」

 昨年委員長の真弓先輩によると、この始めの二時間で、予想外の問題があぶり出されるらしい。

「11時からが一般公開です。くれぐれも一般のお客様には迷惑がかからないようにお願いします。伝統ある白浜祭の名前に泥を塗ることのないよう、気を引き締めて……」

 言いながら全校生徒の顔を見渡す。

 3年生は5クラスが不参加を表明しており、5クラスは『休憩所』、2クラスだけステージで合唱や合奏を披露する(一つは真弓先輩のクラスだ)。おそらく、来年のおれたちもそんな感じだろう。だから、ここまで気合いを入れる文化祭は今年で最後だ。
 そのせいか、2年生が一番熱が入っている。そして1年生は緊張感が漂っている……昨年のおれ達と同じだ。

(なんかかわいいなあ)

 思わず笑ってしまった。すると「何笑ってんだよ!」と速攻でヤジが飛んできた。……この声、溝部だな。後で覚えてろ。

 正面を向き直り、素直に頭を下げる。

「すみません。1年生の緊張してる様子があまりにも可愛くて」

 あちこちから笑い声が聞こえてきた。おれもふっと肩の力を抜く。

「色々、厳しいこといってごめんね、1年生。一番大切なのは、自分達も楽しむことだからね? 初めての白浜祭、楽しもうね?」

 それから3年生の方を向く。

「3年生は、最後の白浜祭、どうぞ心行くまで満喫なさってください! そしてお手空きの方は、はじめの2時間に出来る限り、色々な場所に行っていただけると助かります。でも、あまり口出しはしないで、優しく見守っていただだければと………」

 クスクスと笑い声がする中、最後は2年生へ。

「2年生! 分かってると思うけど、2年生が白浜祭の中心だから。自分達のことだけじゃなく、学校全体が盛り上がれるように、責任感を持って行動してください。そして……」

 真っ直ぐに浩介を見て、握り拳を作って見せる。

「良い思い出、たくさん作ろう!」
「おおっ」

 わあっとうちのクラス中心に拍手がおきる。浩介も恥ずかしそうに拍手している。
 よし。原稿とはちょっと違うけど、言いたいことは言ったぞ。

「以上! 何か困ったことがあったら、本部まですぐに報告にきてください。できるかぎりの対応をさせていただきます!」

 生徒達の目が臨戦態勢に輝きはじめる。

「怪我だけはないように気をつけて! 最高の文化祭をみんなで作っていきましょう!」

 割れんばかりの拍手と歓声があがる中、白浜祭は幕を開けた。


***


『はじめの二時間で、予想外の問題があぶり出される』

 という、前委員長の真弓先輩の言葉通り、はじめの二時間はひっきりなしにあちこちで問題が勃発した。

・コンセントが足りない(隣のクラスもその廊下のコンセントを使っていたことに、準備段階では偶然使用が重なることがなく、今日まで気がつかなかった)→使用電力確認後、電源タップを配布

・お化け屋敷のスピーカー音がうるさすぎる→スピーカーの位置を壁から離し、教室の内側に向けるよう指導

・縁日のクラスの列が長くなりすぎ、通行の邪魔になっている→急ぎ、整理券制にしてもらう(この対応が一番大変だった)


 その他諸々、出てくる出てくる、はじまってみないとわからないことがたくさん……。

 そうこうしているうちに、我、2年10組からも出てきた。

「想定よりも客の回転が早く、電気ポットのお湯が沸くのが間に合わなくなりそうだ」

 でも、おれの浩介は「だからどうしよう?」なんて子供の使いみたいなことは言わなかった。

「家庭科室のコンロ使用の許可をいただけますか?」

 さすが、策を考えながら来たんだな、とその冷静な対応に惚れ惚れする。けど、そんな呑気なことをいってる場合じゃなく、

「ごめん。家庭科室は無理なんだよ」

 水道はいいけれど、火は先生がいないため使用不可と言われているのだ。あとコンロがあるところといったら……

「じゃあ、用務員室は?」

 先に言われ、それは、と答える前に、横から真弓先輩が答えてくれた。

「用務員さんに交渉次第だね。でも用務員さんだってずっと用務員室にいるわけじゃないからねえ」
「とりあえず、2時くらいまで沸かせればいいんです。急遽、あと2台、電気ポットを借りる手配をしましたので」

 浩介さすが! でも……

「でも、コンセントが……」
「うん。さっきここにくる途中に上野先生に聞いたらね、実行委員の方で0Kが出るなら、上野級の使っていいって言ってもらえたんだけど、いいかな?」
「おおっ」

 上野先生が担任する3年11組は、うちの教室のほぼ真下。今回文化祭不参加なので、教室には施錠がしてあるのだ。

「お前、仕事はえーな!」
「え、いや……っ」

 浩介がぶんぶん首を振ったところで、真弓先輩がパチン!と手を鳴らした。

「よし。じゃあ、教室の使用許可書は私が書いておいてあげるから、渋谷、一緒に用務員室の交渉行ってあげて」
「うおっ! ありがとうございます!」

 真弓先輩! 男前!

「じゃあ、行くぞ、浩介」
「う、うん!」

 そのまま二人で走らない速度の早歩きで用務員室に向かう。

「他はどうだ? 順調か?」
「予想よりあんこの売れ行きが良くて、みたらしだけ余りそう」
「へえそうなんだ。じゃあみたらしを食べたくなる誘導をしながら勧誘しよう」

 午後から30分だけ昇降口前で看板持ちをやるのだ。おれの今日の自由時間は一時間。うち30分はクラスの仕事をすることにした。おれだってクラスに貢献したい!

「慶………このまま問題なさそうだったら、慶の時間に合わせて休憩とれそうなんだけど……」
「マジで! やった! 一緒に回ろうぜ!」

 なぜか遠慮がちに言う浩介の腕をバシバシ叩くと、浩介はまだ遠慮がちにうつむいたまま、

「でも、慶は、他の誰かと回りたいんじゃ……」
「回りたいわけねーじゃん。お前としか回る気ねーよっ」
「ほんとに……?」
「お前以外誰と回るんだよっ」
「それは………」

 言いながら昇降口前の廊下を歩いていたところで、

「あ!『恋せよ写真部』!」
「本物じゃん!」

 3年生の団体が冷やかしの声をかけてきた。南のせいで昨日からこの冷やかし何回目だ!!

 南発案により、おれの写真と真理子ちゃんの写真がでかでかと第2会議室(昇降口の真上の階だから一番目立つ)の窓に張られているのだ。
 キャッチコピーは『恋せよ写真部』。大正時代の流行歌の言葉をもじったものらしい。
 愛しい人を見つめる幸せそうなおれと、失恋して涙を流す真理子ちゃんの写真は、恋の対照的な表情をうつしだしていて、芸術作品としては素晴らしいんだろうけど、モデルとなったおれ達は各方面から色々言われて、めちゃめちゃ面倒くさい!

「ありがとうございます! 写真部、第2会議室です! よろしくお願いします! あ、2年10組の団子屋もお願いします! みたらしがおいしいでーす」

 さらっと受け流して、宣伝もして、手を振ってからさっさと歩きはじめると、浩介が感心したように言った。

「すごいねえ。からかってもああいう風に返されたらもう何もいえないね」
「いちいち相手してたらキリねえからな」
「でも………、ねえ、恋せよ写真部……」
「なんだお前まで」

 何か言いたげにモゴモゴと言っている浩介のことを軽く蹴る。

 すると、浩介は小さく小さく言ってきた。

「あの……慶、恋の方はいいの?」
「は?」

「文化祭、本当は、こ、恋する人と回りたい、とか………ないの?」
「………………」

 だからお前と回るんだけど?

 って言ったらどんな顔すんだろうなあ………

 ふうっと大きく息をはいて、浩介を見上げる。

「えーと、それはもしかして、お前が誰か女と回りたいって話か?」
「え、まさか!」

 だよな。美幸さんに失恋して以来、そんな話聞かないもんな……。

「ただ、慶が………、真理子ちゃんと回りたいんじゃないかと………」
「はああああ?」

 どうしてここで真理子ちゃんが出てくる?

「意味わかんねえなあ。なんで真理子ちゃん? 関係ねえじゃん」
「…………。関係あるでしょ。おれ……見たし」
「何を?」
「慶と真理子ちゃんが………」

 浩介か何を言いかけたところで、ちょうど用務員さんが用務員室から出て、歩いていく後ろ姿を発見!

「わー! 待って! 用務員さん!」
「お? あれ?『恋せよ写真部』?」
「……………」

 なんなんだ。みんなして………

「いえ、写真部じゃなくて、実行委員長の方でお願いがあってきたんですけど!」
「はいはい」

 軽いノリの初老の用務員さんにざっと事情を説明すると、あっさりとコンロの使用の許可をもらえた。
 浩介がポットを取りに行っている間に、おれはお湯を沸かしておいて、ついでに二時まで、ポットを一つ貸してもらえる約束までとりつけた。

 そんな感じで、何とかポットの件は解決した。初動二時間の問題点はすべて片付いたのだけれども、一般公開がはじまったらはじまったで、迷子や落とし物といったトラブルが断続的におきたりして、結局一日中落ち着かなかった。

 クラスの看板持ちは何とかできたものの、せっかくの浩介と一緒に回る約束は、わずか10分ほどしか果たせなかった。

 それでも! 一緒に一パック6個入りのたこ焼を3つずつ食べた。校庭への階段に座って、ジュース飲みながら、二人きりで。それだけでも、おれにとっては嬉しい思い出だ。

「ねえ、慶……」

 たこ焼を食べながら浩介がいった。

「朝の開幕式でさ、『良い思い出、たくさん作ろう!』って、もしかして、おれに向かって言ってくれた?」
「うん。お前に言った」

 素直にうなずくと、その時と同じように、浩介は照れたように「そっか」とうなずいた。

「すごいね。1500人とかいるのに、よくおれの場所分かったね」
「そりゃ、わかるよ。こう………レーダー付いてるからなおれ」
「レーダー?」
「浩介探知機みたいな」
「なにそれ」

 クスクスと浩介が笑う。

(その笑顔が好き)

 強く強く思う。
 もう、変な小細工はやめようと思っている。考えてみたら、どうせこいつも、初恋がようやく終わったばかりの恋愛初心者。おれの気持ちになんか気がつくわけがない。変に隠すのではなく、友達としての好きと思わせればいいだけだ。

「明日はお前、バスケ部の当番もあるんだよな?」
「うん。ちょうど慶の休憩の時に当たっちゃったんだよ……」
「そっか」

 もう時間だ。立ち上がりながら、浩介に言う。

「椿姉がそのくらいに来るっていうから、一緒にバスケ部行くな」
「是非! 今年のパーフェクト賞、ジュース一本だよ」
「おー、んじゃ先にそっちいって飲み物もらってから他回ろ~っと」

 フリースロー、5本中何本入るかでもらえる商品が違うのだ。昨年も当然パーフェクトでお菓子がもらえた。今年は飲み物がもらえるわけだな。

 校舎に向かって並んで歩きながら、ふっと浩介が眉を寄せた。

「慶……忙しいね。思い出、作れないね」
「え? 今、一緒にたこ焼食ったじゃん」
「…………あ、そっか」

 なぜか浩介が笑いだした。

「すごいね。慶は。いつもそう。いつも出来なかったことじゃなくて、出来たことを数えて生きてる。ほんとすごい前向き」
「普通だろ」
「普通じゃないよ」

 くしゃくしゃと頭をなでられる。

「おれも………慶みたいになりたい」
「?」

 まぶしそうに見られ、首をかしげる。なんだかよく分からない。

 よく分からない上に、また浩介が意味の分からないことを言ってきた。

「後夜祭は約束してるの? 真理子ちゃんと」
「は?」

 なぜまた真理子ちゃん?

「だから何なんだよお前、真理子ちゃん真理子ちゃんって。約束なんかしてねーよ」
「だって………」
「後夜祭は……」

 後夜祭のキャンプファイアーの火を見ながら手を繋いだカップルは幸せになる………という白浜高校の七不思議の一つがあるため、後夜祭ではあちこちでカップルが誕生する。

「………。お前は? 予定は?」
「あるわけないでしょ」
「そっか」

 わかっていながらも、一応聞いてホッとする。
 ………いや! まだホッとしてはダメだ! これから誘われるかもしれない!

「じゃあ、おれ予約するから、誰かに誘われても断れよっ」
「え」

 キョトンとした浩介に、えいっと体当たりする。

「お前、一人で彼女作るとか抜けがけなしだからなっ」
「え、でも、真理子……」
「だーかーらー!」

 意味わかんねえなあ! と再度いうと、浩介はようやくうなずいた。

「そっか………うまくいってないのか……」
「は?」
「あああ、ごめん! ごめん! 分かった! 抜けがけなし! 一緒にいよう!」
「よし!」

 ガッツポーズをしながらも、不安がよぎる。

「あ、でもはじめからはいれねえし、何かトラブルあったら呼び出されちゃうんだけど………」
「大丈夫。一人でフラフラしてるから、探してくれる? その探知機で」

 ちょっと笑った浩介の背中をドンとどつく。

「おう。おれのレーダーなめんな。すげー高性能だからな。すぐ探しだしてやる」
「ん。待ってる」

 一日目の文化祭で一緒にいられたのはこれだけだった。でも充分、幸せだ。



 二日目……

 来場者数は一日目よりも多く、ワサワサした印象だけれども、全体的に一日目よりも落ち着いていた。
 委員達も生徒達も二日目ということで慣れてきたし、自分達で判断して動くようになってきたからだろう。


 おかけで、休憩を二時間もらえた。
 30分は、クラスの団子屋の洗い物を手伝った。洗い物が出るという点で本物の食器を使うことは手間だったけれど、

「やっぱり、紙皿や紙コップでは味気ない。本物の食器だからこそ余計に美味しく感じられる」

 そんな感想を、特に年配の方から多くいただけて、みんなで密かに喜びあった。

 あと30分は店頭の注文聞き。何人もの人に「あ!『恋せよ写真部』の人だ!」と言われたことには辟易したけれど、お店に出ること自体はかなり楽しかった。こういう店でアルバイトするのもいいかもしれない。

 写真部の方は、橘先輩が「必要ない」というのでまったく行っていない。
 真理子ちゃん曰く、橘先輩はお客さんがどの写真に目を止めるかを観察したいらしく、二日間とも受付に座るそうだ。


 昼過ぎ。
 姉が来たので、一時間ほど姉と一緒に行動した。
 待ち合わせの本部テントにやってきた姉を一目見て、

「なーんだ! 渋谷の理想の女の子ってお姉さんのことだったのか!」

と、どでかい声でいったヤスを後ろから張り倒してから出発。真弓先輩がニヤニヤしていたので、後から何を言われるのか心配……。


 約束通り、バスケ部を一番に訪れる。
 ユニフォーム姿でバスケットボールを持った浩介、爽やかでカッコいい。おれと姉に気がついてニコニコ手を振ってくれている。

「なになになに!? 渋谷のお姉さん!? すっごい美人ー!!」

 当然のごとく、女好きの篠原が食いついてきたので、スッパリ切り返す。

「おれらの8歳年上。新婚1年目。現在妊娠中。他に質問は?」
「ないです……」

 なんだ人妻か………とスゴスゴと帰っていく篠原と入れ替えに、浩介がやってきた。こそこそっと耳打ちしてくれる。

「慶の好きな炭酸、下の方に隠してあるから」
「おおサンキュー」

 ボールを渡してくれた浩介に、ニッと笑いかけ定位置につく。
 バスケットは、ボールがゴールネットを通っていく瞬間だけは無条件で好きだ。スカッとする。

「『恋せよ写真部!』」
「うるせーよ!」

 上岡武史の野次をものともせず、軽々5球連続成功させ、しっかり商品ゲット。

「じゃ、また後でな!」
「後で!」

 浩介とグーとグーを合わせて笑いあい、手をふった。

 校庭から校舎に向かう途中、もう一度振り返る。ボールを持った浩介が次の挑戦者の小学生に説明をしている。浩介は人にものを教えるのが上手だ。おれの自慢の親友。

「ねえ、慶………」
「ん?」

 椿姉の問いかけに振り返ると、椿姉はこめかみのあたりをグリグリしながら、目を細めて浩介の方を見ている。

「やっぱり、私、浩介君のこと、みたことあるわ」
「それは……」

 前にも言われた。でもそれは中学の時のバスケの試合の話じゃ……

「違う違う。もっと前。ちょうど慶と浩介君があの子くらいの歳の時」
「え?」

 あの子……小学校低学年くらいか。

「今、ボール持ってる姿見てたら思い出した。絶対そう。あの時の子よ。浩介君って」
「え………」

 それから、椿姉が話してくれた話で、おれも古い記憶が蘇ってきた。でも、にわかには信じられないというかなんというか………本当に、あの時の男の子が浩介だったとしたら、それは………

「あなたたち、巡りあう運命だったのね」
「……………」

 本当にそうだとしたら………

 巡り合わせ。

 おれたちは、巡りあう運命だったんだ。




----------------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
すみません!長い長い長すぎる!自分でもわかっていたのですが、どうしても切れませんでした。

でも、、ようやく!

タイトル「巡り合わせ」を言わせることができました!

続きはまた明後日、よろしくお願いいたします!

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!もうすぐ、この「巡合編」も終わりです。残りもどうぞよろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~巡合7-1(慶視点)

2016年03月06日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 巡合


『何があっても、ずっとずっとずーっと大好きだよ?』

 そう、浩介は言ってくれた。でも、もちろんそれは『親友』としてだ。

(もし、おれがお前に恋愛感情を抱いていることを知ったら……)

 それでも、お前はおれのことを「大好き」でいてくれるんだろうか?
 それとも、その純粋で真っ直ぐな瞳は嫌悪感に彩られ、もう二度とおれのことを見てくれなくなるのだろうか……


**

 中間テスト一週間前あたりからずっと、浩介と二人きりになるのを避けて過ごしていた。自分の気持ちを制御するのが難しくなっていたからだ。
 でも、その行動が浩介を傷つけていたということに、中間テストが終わった翌日に浩介に問い詰められるまでまったく気がつかなかった。おれは本当に、自分のことばかりの嫌な奴だ。浩介には悪いことをしてしまった……

「やっぱり時間がないのがいけないよね。ちょっとの時間でもいいから二人きりの時間を作ろうね?」

 そんな、恋人同士のような約束をしてくれて、実際に、ほんの少しの時間であっても毎日毎日二人きりで話すようにしていたら、おれの嫌な嫉妬心(女子が浩介にまとわりつくことがどうしても許せない)もどうにか鳴りを潜めてくれるようになった。


 今日は水曜日。文化祭は土曜日からなのでラストスパートの3日間の始まりだ。

 クラスの出展は『団子屋』。おれ達が考案した『本物の食器を使う案』はすんなりと皆に受け入れてもらえた。
 食器もすぐに予定数集まり、しかも、返却しないでいい、という家庭も多かったため、文化祭後に家庭科室に寄付することになり、家庭科の先生にとても喜ばれた。

 洗い物の手間を省くために、団子を皿に直接置かないように専用の紙を引くことにしよう、と提案してくれたのは浜野さん。

 彼女はやるべきことを黙々と素早くこなしてくれる、地味だけど出来る女の子だ。この子が浩介と一緒にいても別にムカつかないのに、他の女子だとどうしてこうもムカツクんだろう……。


 放課後、残れるメンバーだけで作業をしていたところ、

「慶、慶」
 浩介が人の輪をかき分けて、慌てたようにおれのところにやってきた。

「どうした? おれ、これから生徒会室……、あ」
 答えなから、浩介の言わんとしたことがわかって、軽くうなずいた。
 浩介の視線の先……ドアの向こうに、真理子ちゃんがいる。何だか思い詰めた顔をして……

「どうしたんだろう……」
 浩介と顔を合わせたところで、

「桜井くーん、これどこまで使っていいのー?」
「その前に桜井! こっちきて!」
「ちょっと! 私達が先に呼んだんだよ!」
「うるせー!こっちは急ぎなんだよ!」
「こっちだって急ぎだよ!」

 またいつものごとく、鈴木・溝部の喧嘩がはじまった。この二人、いつもほんとにウルサイ。

「浩介、いってやって。おれが真理子ちゃんとこ行くから」
「え……あ……うん………」

 なぜかションボリとした浩介。
 そんな浩介にも容赦なく、「桜井!」「桜井君!」とあちこちから声がかかっている。人気者だなお前………。

「がんばれ」
 ポンポンと腕を叩いてやってから、急いで真理子ちゃんの元に向かう。

 真理子ちゃんは、おれを見るなり、青ざめた顔で深々と頭を下げてきた。

「今から付き合っていただきたいんです」

 ゆっくりと上げたその顔には、ハッキリとした意思の光が灯っていた。

「兄が………私の写真を撮ると、言ってます」


**

 撮影場所は、写真部の部室とのことだった。
 部室に入ると、橘先輩はいつものように暗室側の椅子に座ってカメラをいじっていた。………けれども、その顔は、いつもと違って少し緊張しているようで……。

 おれの姿を認めると、手を軽く上げ、

「忙しいとこ、悪いな」
「え………いえ……」

 そんな風に謝られたことなんて初めてで、戸惑ってしまう。橘先輩、やっぱり相当緊張しているのだろうか………

「何かおれに出来ることあったら……」
「いや、ない。そこにいてくれればいい。空気のように」
「………はい」

 空気のように、ね………
 椅子を移動させて、棚と棚の間に静かに座る。それを合図に、橘先輩が立ち上がった。

「じゃあ、窓際で撮りたいから、そっちに………」
「待ってください」

 真理子ちゃんが、強い口調で遮った。でも、橘先輩は聞くのがこわいかのように、その真理子ちゃんの台詞にさらにかぶせた。

「窓際でカメラ持って立って」
「………」

 真理子ちゃんは、渋々、鞄からカメラを取りだしセットしはじめた。このカメラは、橘先輩が中学生の時に使っていたものらしい。小柄な真理子ちゃんが持つと少し大きい感じがする。

 言われた通りに窓際に行き、くるっと振り返り、まっすぐに兄を見上げた真理子ちゃん。

「………っ」

 ファインダーを覗いていた橘先輩が、苦しいかのようにぎゅっと目をつむる。

(先輩…………)

 カメラはウソをつかない。カメラはその人の内面をも写し出す。……橘先輩の繊細なカメラマンの瞳には、今、何が見えてしまったのだろう………

 そんな先輩に追い討ちをかけるかのように、真理子ちゃんが、すうっと息を吸い込み………

「橘雅己さん」
 震える声で兄の名前を呼んだ。

 ビクリとした橘先輩に、真っ直ぐ真っ直ぐ真理子ちゃんの心が伸びていく。

「あなたのことが好きです」

 真摯な瞳………

「ずっと、ずっと好きでした」
「…………」

 真理子ちゃん………

 外で看板の用意をしている文化祭委員のはしゃいだような声が、遠く遠く遠くから聞こえてくる気がする。この空間だけ、切り取られてしまったようだ。


 そうして、どのくらいの沈黙が流れただろうか……

 橘先輩が、すっとカメラを下ろし……

「あの…………」

 何かいいかけ、飲み込み、いいかけ、飲み込み、を繰り返した揚げ句、

「………ごめん」

 深々と頭を下げた。

「あ………」

 真理子ちゃんが何か言う前に、頭をあげた橘先輩。言葉にしたら、落ち着いたのか、目線で真理子ちゃんの言葉を遮ると、きっぱりと言い切った。

「気持ちには応えられません」
「それは……」

 私が妹だから……? という問いは言わなくても二人の間に漂った。
 橘先輩は、ふっと笑顔になり、首を軽くふった。

「あの……オレ、妹がいるんですよ」
「え?」

 は? え? いきなり何を言い出すんだ? この人は……

 きょとんとしたおれと真理子ちゃんを置いて、橘先輩が淡々と語りだした。

「あなたと同じ真理子という名前の妹が。こいつが本当に可愛い奴で」
「………」
「子供の頃から、おれは何があってもこいつのことを守るんだって使命感に燃えててね。妹の自慢の兄でありたかったから、勉強だって運動だって誰にも負けないように努力してきた」
「お兄ちゃん……」

 真理子ちゃん、目を見開いたまま固まっている。

「だから、妹に近づいてくる男はよく吟味して、ろくでもない奴は蹴りだして、まあ合格点の奴だけはそばにいることを許可してやって……」
「え、うそ」

 真理子ちゃん、知らなかったらしい……

「めちゃめちゃ可愛いから、ホント心配で……」
「…………」
「大切な大切な妹なんです」

 優しい、なんて優しい瞳………


 でも、橘先輩は、なぜかまた頭を下げた。

「だから、ごめん。どうしても応えられない」
「どうして……っ」
「だってオレ」

 真理子ちゃんが言いかけたのを遮る強さで、橘先輩は、意外なことを言い切った。

「年下は、無理」
「…………」
「…………」
「………え?」

 年下は、無理??

 橘先輩は至極真面目な顔をして肯いた。

「オレ、今日まで本当に、色々色々考えた。血の繋がりとか関係なく、恋愛対象としてみれるか、とか本当に、本気で考えた」
「うん……」
「で、でた結論がこれだ。年下は、無理」
「な………なんで」

 ぽかんとしたまま真理子ちゃんが聞くと、

「やっぱり妹としか思えないんだよ、年下の女の子って。考えてみたら、今までの歴代オレが好きになった女って全員年上だし」
「あー……保育園のアユミ先生とかね……」
「そうそう。小1の時は、登校班の班長の6年の女子に猛アタックかけてた」
「あ、そういえば! 中学の時の塾のバイトの女子大生!」
「おーお前よく覚えてるな」

 二人はひとしきり思い出話で盛り上がっていたが、ふと我に返ったように、真理子ちゃんが眉を寄せた。

「あ、でも、こないだの彼女は同じ歳だった」
「あー同じ歳のわりに大人っぽかったからな。でも実際付き合ってみたらそうでもなくて……だから結局別れたんだよ」
「そっか………」

 なるほどね……とうなずく真理子ちゃんに、先輩は再度言い切った。

「だから、オレ、君がどうこうってことじゃなく、年下は誰であっても無理」
「……………」

 再び訪れた沈黙……

 先に破ったのは、真理子ちゃんの方だった。

「……うん。分かりました。うん……よーく分かりました」
「……ごめん」

 謝った橘先輩に、真理子ちゃんは大きく首を振ると、

「真剣に考えてくれてありがとう。それだけで充分。ほんと、充分……」
「………」
「でも、一つだけお願い」

 すっと真理子ちゃんが真っ直ぐに兄をみた。

「写真を、撮ってください」
「…………」

「妹の真理子、じゃなくて、あなたに失恋した女の子、を」
「…………」

 静かに……橘先輩がカメラを構えた。
 同時に真理子ちゃんも持っていたカメラを口元まで引き寄せた。

「…………」
 ポロポロと流れ落ちる真理子ちゃんの涙……
 橘先輩の方を見ることができない代わりに、先輩からもらったカメラをまるで彼本人かのように愛おしく見つめながら、涙だけが溢れている……

 なんて純粋な想い……



 それからどれくらいたっただろう。

「………ありがとう」

 小さく、小さく、橘先輩の声がした。そして暗室のドアが閉まる音……。


「真理子ちゃん?」
「………先輩」

 ふっと真理子ちゃんの肩の力が抜けた。
 その頭をポンポンとなでて、わざとお道化て聞いてみる。

「えーと、ハンカチと胸、どちらをお貸ししましょう?」
「胸。返してください」
「あー……」

 そういえば、おれ、真理子ちゃんの胸で泣いたことあるんでした……

「はい。仰せのままに」
「………」

 その小さな頭を胸に引き寄せると、真理子ちゃんは唸るような声を上げながら泣き始めた。小さい子供みたいだ。

「よく頑張ったね」
「ううう……っ」

 頑張ったね。本当に頑張ったね。

 いい子、いい子、いい子……

 と、頭をなで続けていたら…………
     

「お前、オレの妹に何してんだ」
「わわわっ」

 突然、べりべりべりっと引き剥がされた。
 見上げると、橘先輩がものすごい不機嫌な顔をして立っている。

「真理子、泣くならお兄ちゃんの胸で泣け」
「えええ!それおかしくないですか?!」
「おかしくない」

 いや、おかしいでしょ! そんなんだから真理子ちゃんも勘違いしたんだろーが!!

「ほら、真理子……真理子?」
「真理子ちゃん?」

 真理子ちゃん、肩を震わせて………笑ってる。

「あーもー……シスコンも大概にしなよ、お兄ちゃん。もしかしたら、私、これをキッカケに渋谷先輩と付き合うことになったかもしれないのにー」
「え?」
「こいつは絶対にダメだ」

 おれが聞き返すよりも早く橘先輩がバッサリと言いきった。

「こいつにはずっと片思いしている奴がいるからな。そんな奴に大事な妹はやれん」
「げっ」

 なぜ知っている?!

「あれ、渋谷先輩、例の人、まだあきらめてなかったんですか?」
「諦めるどころか、日が経つにつれてどんどん拗れてきてるな」
「え? そうなの?」
「6月頃とか、先月とか、表情の変化が面白いぞ」
「そうなんだ! 写真見せてよお兄ちゃん!」
「いいぞ」
「………………」

 なんだよ、さっきまであんなにシリアスな雰囲気だったのに、もう何事もなかったかのような顔して、人のことで盛り上がって……

「うわ~この表情いいね~」
「だろ?」
「切な~い」
「………………」

 くそー……この兄妹にはもう二度と関わらねえぞ!


 文化祭前日の夕方、ギリギリで出来上がってきた真理子ちゃんのポスターは、文句なく、橘先輩の最高傑作であるといえた。
 カメラを見ながら涙を流す少女……切なさ愛しさすべてが伝わってくる温かい写真……

 そして、おれの写真と真理子ちゃんの写真の間に、うちの南様が美しいレイアウトの文字でデカデカと、盛大な煽り文句を張りつけた。

『恋せよ写真部』

 ………なんだそりゃ。


 でも、おかげさまで、文化祭終了後のアンケートの「ポスター部門」では、ぶっちぎりで写真部が一位となった。
 まあ、このころのおれはそんなこと知るわけないんだけど。



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お読みくださりありがとうございました!
前回の終わりで浩介が目撃した、慶と真理子ちゃんの抱擁はこのことだったのです。
浩介さん、窓の外からたまたま見てしまいました……。

浩介は妙に運が悪いところがありまして、外食先で一緒に注文したのに浩介のものだけ忘れられていたり、二人分の鮭炒飯を作って均等に分けたのに、浩介の皿にだけ骨がいくつも入っていたり………
そんな運の悪さを発揮して、今回の抱擁もみてしまいました(^-^;

続きはまた明後日、もう一回慶視点です。よろしくお願いいたします!

クリックしてくださった方………本当にありがとうございます。ゴールは着実に近づいております。背中押していただきましてありがとうございます! 今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!

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コメント (3)
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