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BL小説・風のゆくえには~月光3-1(浩介視点)

2016年02月11日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 月光


 そのノートは、突然、おれの目の前に現れた。
 おれだけに読んでほしくてこのタイミングで現れたのではないか……。そう、思った。


**


 写真部の夏合宿の初日。
 レンタルの布団が届くのを部室で待っていた最中に、

『この階に、受験に失敗して首吊りした男子生徒の幽霊がでる』

 という話題が出た。渋谷がやけにビビってるなあと思ったら、実は子供のころから幽霊が苦手だったと、渋谷の妹南ちゃんが暴露してくれた。意外すぎる。

 渋谷といえば、すごく綺麗な顔をしていて、それでいて男らしくて、クラスを仕切ることもできるし、いじめをするような奴を一刀両断にやりこめてしまったりもするし、スポーツ万能で、明るくて友達も多くて……本当に欠点ナシ。どれだけ完璧なんだってくらい完璧。

 そんな完璧な渋谷が実は幽霊が怖かったなんて!

「可愛いね~~」
 思わず頭をグリグリ撫でると、

「可愛い言うな!」
 バシッと手を払いのけられた。でも頬は照れたようにちょっと笑っている。

 渋谷は人がいないときは自分からもベタベタくっついてくるのに、おれが人前で触ったりすると、必ずやめさせようとする。でもその時の照れたような表情が可愛くてついつい人前でも触りたくなってしまう。渋谷に触れているとすごく落ちつく。おれの心の安定剤だ。


 その後、布団が届き、どちらか一人が取りにいき、一人が部室に残って雑巾がけをするように言われたので、おれが残ることにした。

「慶、部室に一人で残るのが怖いんでしょ?」

 言うと、渋谷が無言で蹴ってきた。図星だったらしい。こんな弱点があったなんて……渋谷、カワイイ。


 何だか幸せな気持ちでいっぱいになりながら、一人で雑巾がけをしていたのだけれども……

「?」

 ガサッという音がした気がして手を止めた。

 なんの音だろう…

 見渡したけれども特に変わったところもない。

「気のせいか」

 一人ごちて、再び拭きはじめて……気がついた。
 写真部専用のスチール棚の下に、何か落ちている。棚と床の間は10cmくらい空いている。埃が積もっていたので、さっきホウキを差し入れて埃を取ったのだけれど、その時には何もなかったのに……

 手を伸ばして取ってみると、大きめの茶封筒が出てきた。中には、大学ノートが一冊。

「なんだろう……」

 綴じ側が黒のラインの、くすんだクリーム色のノート。開いてみて……

「!」

 思わず、放り投げてしまった。

「なんだこれ……」

 心臓のドキドキが耳にまで響いてきている。
 なんだこれ……なんだこれ。

 恐る恐る、もう一度開いてみて……

「!」

 息を飲んだ。なんだこれ……

 なんて字。恨み憎しみ悲しみ、全部を詰め込んだような字……

『しね みんな しね おれはぜったいにゆるさない』

 死ねって……

 はじめの数ページは、そんな調子の殴り書き。ほとんどひらがな。
 でも、途中から、正気を取り戻したのか、字も落ちついて、文章もまともになってくる。

 そこには彼の苦悩が綴られていた。

 親友だと思っていた友人が、同じ大学の推薦を狙っていると分かった途端に、仲間外れにしてきたこと。クラスメートも面白がって自分を無視してきたこと。そして、推薦枠は友人に取られてしまい、自分は一般受験をすることになったこと。そのことにより、もっと良い大学に行くようにと親からプレッシャーをかけられていること。

 最後には結局、受験に失敗して浪人することになった、と書いてある。

『友人も失い、将来も失い、親にも失望され、生きる希望がなくなった』

 希望がなくなったって……

「………っ」

 ふいに、ゾクッと寒気が走った。

『受験に失敗して首吊りした男子生徒の霊、らしいよ』

 南ちゃんの言葉が脳内に蘇る。気配を感じて、ぱっと後ろをむく。

「…………」

 誰もいない……いたような気がしたけど……

 ゾクゾクゾクっと全身に震えが走った。

 これは、まさか……その首吊りした男子生徒の……遺書?


「こーすけー、ドア開けてくれー」
「!」

 渋谷の声! 布団を持って戻ってきたんだ。
 まずい。幽霊を怖がっていた渋谷がこんなものを見てしまったら……

「浩介ー?」
「ちょっと待って!」

 二回目の問いかけに慌てて答えてから、そのノートを茶封筒に入れて自分のカバンに突っ込んだ。急ぎ過ぎて長テーブルを蹴っ飛ばしてしまい、ガタガタガタっとすごい音をさせながら、なんとか扉をあける

「おまたせ……、あ、ありがとう」
「お、おお」

 おれの慌てっぷりに渋谷は目を丸くしたけれど、すぐに橘先輩がきたので何も聞かれずにすんだ。渋谷には言えない……


 その後、五十嵐先輩という橘先輩の2歳上のOBが入ってきた。でも、おれはずっと上の空だった。

(ホウキをかけたときには確実になかったのに……)

 本当に突然現れた。まるでおれに読んでもらいたがっているかのように……

『しね みんな しね おれはぜったいにゆるさない』

 おれにも覚えのある感情……。小学校、中学校時代、いつもそんなことを思っていた。
 おれの奥の方に渦巻いているどす黒い感情が、このノートを呼びよせてしまったんだろうか……


***


 写真部の今年の文化祭のテーマは『輝く白浜高校生~部活編』。
 この合宿中にもハンドボール部と演劇部と鉄道研究部の写真を撮りにいくことになっている。

「ハンドボール部……」

 嫌だな、と思ってしまう。昨年同じクラスだった宇野がいる。おれのことを「何考えてんのかわかんなくて怖いやつ」と言っていて、おれの愛想笑いを見破っていた奴。自信満々で、こちらを見下した態度を隠そうともしないところも苦手だった。一度、おれと渋谷が付き合っているっていう変な噂を流したこともある……

 そんなことを思いだしながら、体育館の隅っこで一人でファインダー越しにハンドボール部の練習を見ていたら、

「あー写真部うぜーっ」
「!」

 急に横で声がしてビックリして飛び上がってしまった。当の本人、宇野が汗を拭きながら毒づいている。

「お前らいて、全然集中できねーよっ。ホント迷惑っ」
「あ……ごめん……」

 心臓がぎゅううっと握られたように痛くなる。

 怖い怖い怖い……

 直接的に向けられた敵意に、足が震える。指先が冷たくなってくる。

「せっかくの練習時間、無駄になっただろっ。どうしてくれんだよ?」
「あ……」

 どうしよう。どうしよう……
 怖い。怖い……
 頭が真っ白になって何も、答えられない。

(渋谷……)

 渋谷、渋谷……

 ドッドッドッと頭の中も波打っている。何か……何か言わないと……

 宇野は馬鹿にしたようにおれを見返してくる。

「お前らのせいで集中できねーからシュートも決まんねえしさ……」
「あ……」

 息が苦しい。宇野の敵意の波に飲みこまれそうになった……その時。

「なーに言ってんだよ!」
「……っ」

 渋谷!

 突然現れた渋谷の明るい声に、場の雰囲気が一変する。

「お前、こんくらいで集中できねーとかいって、試合の時どーすんだよ。もっとギャラリーいるだろーが」
「そりゃいるけどよ」

 宇野の目線が和らいだ。口調も軽くなっている。

「試合の時はこんなカメラ向けられねーだろっ」
「親とか彼女とか写真写してるだろ」
「ああ……まあそうか」
「だろっ。だからその練習だと思えっ。有り難いだろー」
「有り難くねーよっばーかっ」

 けけけ、と笑いながら宇野は練習に戻っていってしまった。

 どっと体の力が抜ける……

 大きく息を吐いたところで、渋谷が心配そうにこちらをのぞきこんできた。

「大丈夫か? お前、さっきからなんかちょっと変じゃねえ? 具合でも悪い?」
「あ……ううん。大丈夫……」

 言いながらも、先ほどのショックから体が立ち直れていない。

「お前、考えてみたら昨日までバスケ部の合宿だったしな。立て続けで疲れてるだろ?」
「あ……うん。でも大丈夫、だよ」

 そんな会話をしているところに、橘先輩がひょいと顔をのぞかせた。

「桜井、保健室開いてるはずだから休んでこい」
「え」
「明日、朝日撮影で朝早いからな。起きられなかったら困る」
「でも……」

 渋ったところに、今度はOBの五十嵐先輩までもやってきた。

「じゃ、オレ、送ってってやるから。橘と渋谷は撮影続けてくれ」
「え、でも」
「顔色悪いし、休んでこいよ?」

 渋谷にまで心配そうに言われてしまい、断り切れなくて、おれは渋々、五十嵐先輩と一緒に体育館を後にした。


 保健室までの道、初対面の先輩と二人きりなんて気マズイな……と思っていたら、

「あの渋谷っての、すげー目立つな」
「え? あ、そう、ですね……」

 五十嵐先輩の方から話しかけてくれて、ホッとする。

「お前、あいつと仲良いんだってな?」
「はい」

 肯くと、なぜか五十嵐先輩は鼻で笑った。

「お前も即答かよ。渋谷も即答してたよ。『親友』、だってな」
「………」

 渋谷……。親友と即答してくれたんだ。心が温かくなる。でも、

「いつまで続くかねえ」
「……え?」

 五十嵐先輩の冷たい声にヒヤッとする。この人なにを……

「お前と渋谷、タイプが全然違うじゃん。仲が良い意味がわかんねえ」
「それは……」
「それに」

 肩をすくめて五十嵐先輩が言う。

「お前、いつもあんな調子で渋谷に助けてもらってんのか?」
「え………」

 助けて……って、さっきの宇野のこと……?

「桜井」
「はい……」

 ふいに五十嵐先輩が立ち止まったので振り返ると、

「お前、いじめられっ子だっただろ?」
「!」

 断言されて、息を飲む。ギョロリとした目がこちらを見上げてくる。

「お前みたいにオドオドした奴、いつでも攻撃対象になるぞ?」
「あ………」

「渋谷もいつまで守ってくれるだろうな」
「え………」

 血の気が引いていく……

「親友、なんて言ってたって、人なんて簡単に裏切るぞ? その時、自分の足で立っていなかったら、もう起き上がれない」
「………」
「お前自身が人に頼らず立っていられるようにならないと……」
「………」

 その後も、五十嵐先輩は色々といっていたけれども、全然頭に入ってこなかった。

『渋谷もいつまで……』

 渋谷もいつまでおれと一緒にいてくれるかわからない……
 こんなおれのこと嫌になって去っていく日がくるかもしれない……

 そうしたら、おれは……おれは…… 

『しね みんな しね おれはぜったいにゆるさない』

 あのノートの言葉が甦る……

 おれはまた、渋谷と出会う前のおれに戻ってしまうのだろうか……

 卑屈で下ばかり向いていて、笑うことも泣くこともできなかった、あの頃のおれに………




----------------------------------------



お読みくださりありがとうございました! 

………暗っ!暗すぎる!!

『遭逢』『片恋』『月光』『巡合』は、私が高校生の時に考えたプロットがありまして、基本的にそれを元に書き進めております。
この『月光』は……なんでこんな暗いの?!って過去の自分に突っ込みいれたいくらい暗い!!怖い!!

真面目な話ですみません…。あと数回暗いですがどうかお見捨てなきよう……また明後日、よろしくお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~月光2(慶視点)

2016年02月09日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 月光

「この学校、出るらしいですよ」

 写真部の一年生、橘真理子ちゃんがいたって真面目な顔をしていった。

「出るって?」
「何が?」

 聞き返したおれと桜井浩介に、今度はおれの妹であり、同じ写真部の渋谷南も真面目な顔で、

「出るっていったら、あれしかないでしょ」
「あれって………」
「これ?」

 両手を顔の前でぶらんと下げて見せる。すると、真理子ちゃんと南が仲良くコクコクとうなずいた。

「そう。それ」
「………マジか」

 ゆ、幽霊!?

「しかも、この階」
「えっ」

 なぜそれを合宿当日に言う!! 今日は学校に泊まるっていうのに、そんなの聞かされたら………

「受験に失敗して首吊りした男子生徒の霊、らしいよ」
「写真部員でも合宿中に毎年一人は必ず遭遇するんですって」
「必ずって……」

 勘弁してくれ………

 血の気が引いたところへ、南がニヤニヤと言った。

「お兄ちゃん、怖いでしょ?」
「……………別に」

 ムッとして答える。でも南はさらにニヤニヤと、

「またまた強がっちゃって。小学生の時も、夏休みの怖いテレビみたあとは一人で二階に上がれなくて、お姉ちゃんについていってもらってたくせに」
「な……っ」

 子供のころの汚点をばらすなっ。

「何年前の話してんだよっ」
「え、そうなの? 意外……」

 浩介が目を丸くしている。

「慶、そういうの信じてなさそうなのに……」
「いやいや、お兄ちゃん幽霊とかホント苦手で……」
「南っ」

 睨み付けたけど、効果はない。一方、浩介はなぜかニコニコ嬉しそうに、
 
「え~可愛いね~~」
と、おれの頭をグリグリ撫でてきた。

(……うわっ)

 ドキンッと心臓が高鳴る。

 親友である浩介に片思いをはじめて10か月近くたつけれども……こういう行動にまだまだいちいちときめいてしまうおれって、自分で言うのもなんだけど、ホント健気というかなんというか……。
 浩介は最近さらにスキンシップ度が上がってきて、甘えてくることが増えてきている。そこがたまらなくかわいい。
 その、笑顔を向けられるとギューッと抱きしめたくなるし、優しく見つめられるともう……なんてことは置いておいて。

「可愛い言うな!」
 バシッと手を払いのける。嬉しいけど人前ではやめてくれっ。顔がにやけるのを誤魔化すのが大変だろっ。

「だって可愛いんだもーん」
 でも、浩介は気にせずまだグリグリ撫でてくる。南までもがなぜか嬉しそうに、

「浩介さん、お兄ちゃんのことよろしくね。トイレとか連れていってあげてねっ」
「わかった! 慶、一緒に行こうねっ」
「あほかっ!トイレぐらい一人で行けるっつーのっ」

 3人でぎゃあぎゃあ騒いでいたところ、窓の外を見ていた部長の橘先輩が、こちらを振り返った。

「布団屋きたから取りにいくぞ」

 布団はレンタルで、男子3人(橘先輩、浩介、おれ)は、この部室で、女子2人(南、真理子ちゃん)は、1階の茶道部の和室にひいて寝るらしい。

「あーあ。みんなで雑魚寝するんだと思って楽しみにしてたのに」

 真理子ちゃんがまだブツブツと言っている。おれだけが偶然知ってしまったのだが、真理子ちゃんは実の兄である橘先輩に本気で片想いしているのだ。
 もちろんそんなこと知るわけもない橘先輩はバッサリと、

「男子と女子が同じ部屋なわけないだろ」

 冷たく言い放ってからこちらを向いた。

「渋谷と桜井、どっちか一人きてくれ。で、残った方は床の雑巾がけ」
「え……」
「じゃ、女子2人も行くぞ」
「はーい」

 はしゃぎながら真理子ちゃんと南が、橘先輩の後をついていく。

(雑巾がけ……) 

 戸惑っていたところに、ポンと肩に手を置かれた。

「じゃ、おれ雑巾がけしておくよ」
「え」

 振り返ると、浩介がニコニコしている。

「慶、部室に一人で残るのが怖いんでしょ?」
「………」

 ず、図星……。

 恥ずかしさ紛れに軽く蹴ると、浩介がおかしそうにケラケラと笑いだした。

 ムカつくっ! ……けど、その笑顔がかわいいから許す!



 レンタル布団はふかふかだった。
 橘先輩が敷布団を2枚持ってくれて、おれは敷布団1枚と掛布団3枚を持った。それでも前が見えにくい。

 橘先輩は和室に寄るというので、おれだけ2階の部室階に戻ってきたんだけど……ホントここ、薄暗くて怖いんだよな……

 若干ドキドキしながら進み、布団で前がよく見えないまま、なんとか部室の前まできた。でも両手がふさがっていてドアを開けられない……

「こーすけー、ドア開けてくれー」

 自分の声だけが廊下にコダマする。怖いって……
 でも、返事がない……

「浩介ー?」

 いないのか? 雑巾洗いにいったとか?? ……と思ったら、

「ちょっと待って!」

 あわてたような声が聞こえてきた。
 そしてガタガタガタっという音の後に扉が開く。

「おまたせ……、あ、ありがとう」
「お、おお。……?」

 なんだろう? 浩介の顔色、少し悪いような……?

「どうし……」
 言いかけたところで、後ろから橘先輩の声がしてきた。

「さっさと入ってくれ」
「あ、すみません」

 慌てて中に入る。布団を部屋の端に置くと、橘先輩は持っていた敷布団を一つだけその上に乗せてから、あっさりといった。

「オレは暗室で寝るから、ここで君らは二人で寝てくれ」
「え?!」

 ふ、ふたりで?!

「人と同じ部屋にいると眠れなくてな。去年も一昨年も一睡もできなかったんだ。今年は寝かせてもらう」

 橘先輩はそう宣言すると、さっさと暗室のドアを開けて自分の分の布団を運びこんでいく。

 浩介と二人きり……布団並べて寝るって……

「………」

 うわーーーうわーーーどうしようっ。

 あらぬ想像をしてしまい、赤面してくる。

 いやいや、落ちつけ、おれ。どうしようって、別にどうもしないだろ。

 でも、万が一ということが……。いや、万が一もないか……

 いやでも! でもでもでも……


「……浩介?」

 おれがそんなアホな妄想と戦っている間も、浩介は心ここにあらずでボーっとしている。
 なんだ?どうしたんだ?

「浩介? どうした?」
「……あ、え?!」

 頬っぺたをつついてやると、浩介がハッとしたようにおれを見下ろしてきた。

「慶……」
「なんだ?」
「あの………」

 浩介が何かを言いかけた、その時……

「お前ら、一年かー?」
「え?」

 戸口の方からやや高い男性の声。振り返ると、小柄な(とはいってもおれよりは背が高そう)男の人がこちらをのぞいていた。ぎょろぎょろとデカイ目が印象的。

「いえ、二年生です……けど」
「なんだ。二年からの入部か」

 つかつかつかと中に入ってくる。あ、やっぱりおれよりちょっと背が高い……とついつい小柄な男を見ると背比べをしてしまうおれ。

「えーと……」
「ああ、オレ、ここのOB。一昨年卒業」
「一昨年ってことは……」
「あれ? 五十嵐先輩?」

 暗室から出てきた橘先輩が、男性をみてビックリしたような声をあげた。

「いらっしゃるなら連絡くださればよかったのに」
「急にバイトのシフトが変わって時間が空いたんだよ」

 一昨年卒業ということは、橘先輩が一年生の時の三年生ということだ。

「暇だから来ただけだから気にするな。オレはいないものとして活動してくれ」
「なんですか、それ」

 橘先輩はちょっと笑いながらこちらを振り返った。

「OBの五十嵐先輩。こいつら、渋谷と桜井です。あと女子が二人……」
「5人か。ギリギリだな」
「ええ、まあ……あ、時間なので、もう行きます」

 目で合図され、おれ達も撮影の道具をまとめる。今日もこれから、いくつかの部活の撮影をするのだ。

「じゃあ、先輩、オレ達行きますけど……」
「おー。懐かしいから部室の中ちょっと見てから、そっちいくわ」
「はい。じゃ、あとで」

 さっさと出ていってしまった橘先輩の後を追いかけて、五十嵐先輩に会釈をしてから部室をでる。

(………浩介?)

 浩介はやっぱりまだ様子がおかしい。何か心配事があるような顔をして部室の方を振り返り……大きなため息をついてからまた歩きだした。

(……ま、まさか……)

 今、部室で一人で雑巾がけをしている間に、例の幽霊と遭遇した、とか言わないよな……?

 今夜は浩介と同じ部屋二人きりで布団を並べて眠る。それもドキドキするけれども……幽霊がいるかもしれないと思うと、違うドキドキも止まらない……

 


----------------------------------------

お読みくださりありがとうございました!
浩介の様子がおかしい理由は次回の浩介視点で……
また明後日、よろしくお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~月光1(浩介視点)

2016年02月07日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 月光

 ぼくの背中には醜い黒いアザがある。
 母に叩かれ続けてできたアザ。
 誰にも、誰にも見られたくない。
 こんなものを見られたら嫌われてしまう……


***


 夏休み。昨年同様、おれはバスケ部の練習に明け暮れていた。
 そしておれの親友、渋谷慶も、昨年同様『海の家』でアルバイトをしている。

 それはいいんだけど……


「ナンパって……桜井、したことある?」
「………え」
「あるわけないか……」

 クラスメートの山崎と二人、見つめあって、はああああっと大きくため息をつく。
 振り返ると、少し離れたところで、溝部と篠原が「声かけろ!」とゼスチャーしている。

 ……無理です。

 なんでこんなことになったんだろう……とため息しか出てこない。


 ことの発端は、昨日の部活が終わった直後に篠原が、

「明日練習休みだし! 海行こう海!」

と、女子バスケ部の女の子達に声をかけまくって、全員から断られ……

「じゃあ、現地調達しよう! 桜井行くよ!」
「えええっ無理っ」

と、篠原の強引な誘いを断っている最中に、野球部の練習終わりの溝部に遭遇。昨年同じクラスだった篠原と溝部は、あっという間に話が盛り上がって、

「渋谷のバイト先の海なら文句ないだろっ。山崎も誘うからっいいな?!」

と、断り切れない状況に陥ってしまい……

 それだけならまだしも、なぜか、無理矢理ジャンケンをさせられて、負けたおれと山崎が女の子に声をかける、ということになってしまって……

「えーっと? 3、4人のグループで、同じ歳くらいかちょい上くらいで、かわいい子……って」
「かわいいの基準が分からない……」
「だよね……」

 山崎と二人でうーん、と唸る。

 正直いって、山崎と二人きり、というこの状況も、おれ的には緊張するので避けたいところだ。

 篠原や溝部は放っておいても勝手に喋って勝手に盛り上がってくれるので、楽なのだ。でも、山崎は大人しいし口数も多い方ではないので、気まずくなるというか……話していても、上滑ってしまうというか……。山崎がダメということではなく、クラスでもバスケ部でも、大勢でいる分にはいいんだけど、一対一はどうしても苦手だ。

(でも、考えてみたら、渋谷もそんなに口数多い方じゃないんだよな……)

 なのに、渋谷との時間は居心地がいい。渋谷とはずっと一緒にいても気まずくなるなんてことはないし、無言の時間も苦痛ではない。

(でも、渋谷と話した時も、一番はじめはおれ、空回ってたっけ)

 だから、他のクラスメートとも慣れれば少しは緊張しないで話せるようになるのかな……

(……無理だろうな。渋谷とはすぐに打ち解けられたもん。やっぱり渋谷は特別……)


「もー、桜井も山崎もいつまでボーっと突っ立ってんの!」
「あ、ごめん」

 篠原の声に我に返る。しびれを切らせた篠原がプリプリ怒りながらやってきたのだ。

「だいたい、桜井は海だっつーのに、なんでシャツ羽織ってんの? 暑くないの?」
「あーうん。暑くない……」
「つか、見てるこっちが暑いんだけど?! 脱いだら?!」
「それは……」

 ぐっと答えにつまってしまったところに、

「篠原っ、んなことより、あれあれあれ!」

 あわてたように溝部が篠原の腕を引っ張ったので、助かった。

 シャツは……脱ぎたくない。脱いだら見えてしまう……

「おおおっほら、桜井、山崎! あれ!!」
「え」

 あごで指された先には、女子3人組。ちょっと派手じゃないか? 少し年上かもしれない。

「声かけて! ほら!」
「えーーっ無理無理無理っ」
「なんでーほらー、あ、行っちゃう行っちゃうっ」
「あー、もう、篠原っ、オレ達でいくぞっ」

 わらわらわらっと、篠原と溝部がその3人組のところへ走っていく。

「わー……ホントに行ったよ」
「ね」

 残された山崎と再び顔を見合わせる。でもそれ以上は会話が続かず黙ってしまう。……気マズイ……。
 どうしよう……おれ達も篠原たちのところに行く? でも……

 と、何だか気が遠くなってきていたところで、

「浩介! 山崎!」
「わわっ」

 いきなり腰をつかまれた。振り返ると、これでもか、というくらいキラキラしたオーラを発しているおれの親友、渋谷慶がニッコニコで立っていた。

「良かった会えて! おれこれから一時間休憩なんだよ!」
「あ、そうなんだ」

 ホッとした。これから一時間一緒にいてくれるんだ。

「で、何やってんだ? あいつら」
「ナンパだって」

 肩をすくめた山崎。

「あ、でもダメだったみたいだな。戻ってきた……」
「ほんとだ」

 篠原と溝部がしょぼんと肩を落として帰ってきた。

「ダメだった……」
「短大の1年生だってさ。年下はちょっと、って言われちゃった」
「やっぱり年上だったんだ?」
「年上のお姉さまと遊びたかったのに……」
「お前らなー」

 がっかりしている篠原と溝部の腕を、渋谷はバシバシとたたくと、

「せっかくの海、何しにきてんだよー。おれ休憩一時間しかないからとっとと遊ぼうぜー」
「やだ。お姉さまと遊びたい」
「なんだそりゃ……、と?」
「あれ?」

 先ほど断られた、という、短大生の3人組がこっちに向かって歩いてきてる。なんだ?

 3人組はヒラヒラと手を振りながら、

「ねー君たち。やっぱり一緒に遊ぼうかー?」
「え! マジですか!!」
「やった!!」

 ぱあっと明るく返事をした篠原と溝部。お姉さま方はニコニコと、

「君たちもお友達なんだよね?」
「え」

 お姉さま方の視線の先……、あ、そういうことか。

 3人とも、渋谷のことを見てる。そりゃね……渋谷のこの顔、鍛え抜かれたこの体、お近づきになりたいよね……。
 さっきから通り過ぎる人も何人も振り返ったり、コソコソ話したりしている。渋谷は芸能人張りの容姿とオーラを持ち合わせているのだ。

 そのことに気づいているのかいないのか、篠原と溝部は大はしゃぎだ。

「はいはい! 友達です友達! おれたち5人で来ました!」
「そう」

 3人は顔を見合わせ肘でつつき合い、くすくす笑っている。

 渋谷は、というと……

「どうでもいいから早く泳ごうぜ?」
「わわわっ」 
「わあっ渋谷っ」

 おれと山崎の腕を引っ張って海に向かって歩きだした。慌てて溝部が追いかけてきて、篠原がお姉さま方に何か言っている。

「渋谷っ、お姉さま達の目当てはお前なんだからお前がいなくなったら困る!」
「なんだそりゃ」

 なんだ溝部、気がついてたんだ。でも当の渋谷は全然わかっていない。

「意味わかんねーこといってないで泳ごうぜ?」
「わかった!わかったからちょっと待て!」

 と、いうことで……

 泳ぎたい渋谷を納得させるために、お姉さま方を大きな浮き輪に乗せて沖にでることになった。

 渋谷はただ泳ぎたい、おれは泳ぎが苦手、ということで、結果的に、篠原、溝部、山崎の3人が浮き輪を引っ張ることになった。初めは少し不満げだったお姉さま達も、そのうち楽しそうな笑い声をあげるようになって一安心。

 足が立たないところまできた時点で、おれは引き返そうと思ったのだけれども、

「仰向けで浮かんでろよ。引っ張ってやるから」
「う……うん」
 渋谷に言われて、仰向けになってみる。

「わあ………」

 思いきって仰向けになってみて驚いた。
 耳に水がはいって、喧騒が遠くなる。音が奇妙に響いている。
 ゆらゆらと波に揺れていて、気持ちいい。初めての感覚だ。でも渋谷が腕を掴んでくれているので少しも怖くない。

「こんな景色、初めてみた……」
「いいだろ?」

 腕を掴んでくれたまま、渋谷も横にならんで仰向けに浮かんだ。二人でぷかぷか浮いたまま空を見上げる。空の青が高い………

「怖いか?」
 渋谷の少し心配そうな声に、軽く首を振る。

「ううん。慶がいてくれるから怖くない」
「…………そっか」

 渋谷がいてくれれば、どんなところでも怖くない。おれはどこへでも行ける気がする。

「あ、いいな~オレもやろう」

 山崎が反対側の隣にプカリと浮かんだ。山崎の引っ張っていた浮き輪に乗ったお姉さまが「かわい~~」と言ってクスクス笑っている。

「気持ちいいな」
「うん」

 ほら、渋谷が隣にいてくれると、山崎とも緊張しないで話せる。
 渋谷がいてくれれば、おれはなりたい自分になれる気がする。


 その後……
 渋谷がバイトに戻ってしまったら、お姉さま方はあっさりと「バイバイ」と行ってしまった。

 でも、篠原と溝部と、山崎までもがこれで自信がついたのか、女の子に声をかけはじめたため、おれは早々に渋谷のバイト先に避難した。

 昨年同様、店の奥で焼きそばを作っていた渋谷……

「お前はナンパ、いいのか?」
「わかってるくせに意地悪いわないで」

 プウッとふくれてみせると、渋谷がケタケタと笑った。さらにブウッとしてみせる。

「おれは見知らぬ女の子なんかとより、慶と遊びたい」
「わかったわかった。あと2時間でバイト終わるからちょっと待ってろ」

 渋谷が笑いながらまた店の奥に引っ込んでいくと、近くにいた女の子のお客さん達が「聞いた? あと2時間だって」とコソコソ話しだした。

(また声かけられたりするんだろうな)

 渋谷といるとよく女性から声をかけられる。でも渋谷はいつもバッサリと断ってくれる。それが優越感をくすぐるってことは秘密にしている。

(渋谷……おれの親友)

 大好きな親友。自慢の親友。
 おれは渋谷がいてくれれば、なんでもできる。





----------------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
深夜に投稿しました人物紹介に引き続き、本編『月光編』になります。

夏休み!海!男の子達だけでわきゃわきゃ遊んでたら、観察したくなりますよね~?(←腐ってる)
浩介の慶に対する依存度が高すぎてちょっと心配な感じですが……

今まで通り、一日置きの7時21分に更新することを目標としております。
また明後日、よろしくお願いいたします!


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してくださった方、ありがとうございました!

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コメント
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