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BL小説・風のゆくえには~続々・2つの円の位置関係・追加のおまけ

2019年09月10日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 続々・2つの円の位置関係

予定変更で、次回金曜日の読み切りをもってお休みに入ります💦
今回は、先週まで連載していた「続々・2つの円の位置関係」の、最終回から3週間ほど後のお話をお送りします。


-------------

『~続々・2つの円の位置関係・追加のおまけ』



【慶視点】


 高校の同級生の、溝部と山崎と斉藤がうちに遊びに来た。
 高校2年生の時は、浩介とおれとこの3人でつるんでいたので、余計に高校時代に戻ったような感覚になる。

「なー、卒アルすぐ出る?」

 一番最後にうちに着くなり、溝部がこめかみに人差し指をグリグリしながら言ってきた。

「さっき、電車の中で、こいつ絶対知ってるーって奴がいて……同じ高校な気がすんだけど」
「えー、誰だろう」
「オレが降り際、向こうもオレに気がついて、微妙な感じに頭下げてきて……」

 話している間に、浩介が卒業アルバムを持ってきてくれた。

「人数多いから、全然知らない人もいるよね」
「だよなー。話したことない気がする。一人は眼鏡かけててー……」
「え?」

 一人は?

「って、一人じゃないのか?」
「いや、二人。わりとイケメンの背高い奴と、小さい眼鏡の奴」

 それは……

 思わず浩介と顔を見合わせてしまう。

 それは、かなりの確率で、村上享吾と村上哲成だ。そういえば、二人の新居の最寄り駅は、溝部の家の最寄り駅と隣同士だ。そりゃ、偶然会うこともあるだろう……

 と、思っていたら、案の定、

「あ、こいつらだ」

 あっさりと、溝部がダブル村上の写真を指差した。

「同じ苗字……兄弟とか親戚とかじゃないよな?」
「えー、違うよな? 山崎」

 溝部と斉藤が振り返ると、山崎は苦笑いを浮かべて、

「そんな話は聞いたことない」

と、首を振った。山崎は3年の時に二人と同じクラスなので、同じページに写っている。山崎、あまり変わってない。ちょっとフケただけだ。

「こっちの村上は、バスケ部だから、バスケ部同窓会で会ったよ。3月だったっけ?桜井?」
「あ、うん。そうだね」

 浩介も斉藤も元バスケ部なのだ。

 実はおれ達はダブル村上とは先月も会っているけれど、浩介と一瞬視線をやり取りして、その件は「話さない」に決定。

 そんな秘密のやり取りを知るわけもない溝部が、「あ、そうだそうだ」と手を打った。

「なんか思い出してきた。こいつら当時もずっとつるんでたよな? バスケ部と野球部、部室同じ扉だったから、外でこの眼鏡が待ってるの何回か見た気がする」
「そうそう。この二人、仲良かったよね。渋谷と桜井みたいに」

 斉藤もニコニコと言ってくる。
 確かに、テツと享吾もいつもつるんでた。まあでも、おれ達は当時から付き合ってたけど、テツと享吾はずっと友達してて、ようやく最近付き合いはじめたんだけどな!……なんてことも、もちろん言わない。二人はカミングアウトする予定はないとのことなので、絶対秘密なのだ。

 と、思っていたら、溝部が普通のことのように、言った。

「こいつらも、付き合ってんのかもな」
「え?」
「えええ?!」

 み、溝部!?

「なんで……」
「いや、今日見た時な、携帯二人で覗き込んで楽しそうに話してて……その雰囲気が、なんか恋人っぽかったから」
「………」
「………」

 す……するどい。

 と、思っていたら、今度は斉藤が、「ないない」と手を振った。

「だって、村上享吾、結婚してるよ? 奥さん、ピアノの先生してるんだって」
「あ、そうそう。そう言ってたね!」

 浩介も慌てて同意する。
 詳しくは聞いていないけれど、契約結婚?みたいなものらしい。テツとのことは、奥さんも同意している、と言っていた。

「なんだ。そうなのか~」

 溝部は苦笑してから、おれと浩介を振り返った。

「最近さあ、お前らのせいで、世の中の見方が変わってきた気がする」
「……なんだそりゃ」

 世の中の見方?

「見たまんまじゃないっていうのかな。色々な可能性があるっていうか……」
「ああ、なるほど」

 斉藤もポンと手を打った。

「ただの仲の良い友達、と見えるけど、実は恋人、とか?」
「そうそう」

 溝部はパラパラとアルバムをめくると、文系クラスのページで手を止めた。そこには、溝部の奥さんになった鈴木の写真がある。溝部は今、鈴木の連れ子の陽太君と、二人の娘のよつ葉ちゃんとの四人家族なのだ。

「逆にさ……オレと陽太なんか、血の繋がりはないけど、普通に親子だと思われてて」

 ふっと目元を和らげた溝部は、妙に大人びてみえる。あ……いや、もう充分、大人なんだけど……

「陽太の小学校からの友達は、オレが本当の父ちゃんじゃないって知ってるけど、中学からの友達は知らないからさ」

 陽太君は今年の4月から中学生になった。やっぱり野球部に入ったそうで、あいかわらず溝部は毎週末は野球部の試合を見に行ったり、車出しをしたりしているらしい。部活なのに、親が車出し?と疑問にも思うけれど、そういう世界だそうだ。

「こないだも、野球部の先輩に『陽太、父ちゃんソックリだな!』とか言われてさ」

 クククと笑った溝部はとても幸せそうだ。

「世の中全部、見えたまんまじゃないんだよな~。小さい渋谷の方が男役とかさ」
「は!?」

 せっかく良い話だと思って聞いていたのに、聞き捨てならない言葉に、ピキッとなる。

「小さくて悪かったな!お前だって鈴木より小さいだろっ」
「小さくねーよ!若干高い!ヒール履かれると抜かされるだけだ!」
「まあまあまあまあ」

 我ながら子供じみた言い争いを始めそうになったところで、浩介が割って入ってきた。

「二人ともお腹空いてるんでしょ? ご飯にしようご飯に!」
「そうだな」

 すいっと山崎が浩介と一緒に台所に向かう。最近、山崎は料理の腕を上げたいとかいって、浩介に弟子入り?しているのだ。

「ご飯なに?」
「すき焼き」
「え!マジか!!」

 やったーやったーと斉藤と手を打ち合わせている溝部。この切り替えの早さ……

(こいつ……)

 ホント変わんねえよな……
 高校2年生の、あの楽しかった日々から、何年…何十年経ってるんだろう。みんな、見た目はすっかり大人になったけれど、中身はあの頃のままだ。そして……

「慶ー、人数分卵だしてくれるー?」
「……おお」

 あの頃と変わらないふんわりとした笑顔の浩介がここにいる。おれの恋人として。こんな奇跡が起きるなんて、あの頃のおれは想像もしなかった。

(『雰囲気が、なんか恋人っぽかったから』か……)

 ふと、溝部のさっきのセリフを思い出す。
 享吾と恋人みたいになりたい、と言っていたテツ。願いが叶って良かったな……

 おれの願いは……

「ご飯ももうよそってもいい?」
「うわーすげーうまそー」
「ビール!ビール!」

 愛する人と、気の合う仲間と、美味しいご飯と。これ以上ない、幸せな時間。これ以上、願う事なんて、何もない。



------------

お読みくださりありがとうございました。
まったり日常話、失礼しました。

って、いつもの「終わる終わる詐欺」発生……
言い訳をさせていただきますと……
元々、この話は「続々……」の最終回の後にくっつけようと思ってました。
が、これくっつけたら、慶達に乗っ取られちゃうなーと思い、休載前の読み切りの前にくっつけよう!ということにしました。
が、途中まで書いた時点で「これ、本編のネタバレじゃん……」と気が付きまして……。これを短編のカテゴリーの中に入れるわけにはいかん。
うーんうーんと考えた結果、分けることにしました。今日はせっかく浩介誕生日だったのに~~!

ということで、次回金曜日に読切をあげます。お時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。

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BL小説・風のゆくえには~続々・2つの円の位置関係28・完

2019年09月06日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 続々・2つの円の位置関係

【享吾視点】


 翌日の夜、渋谷と桜井の住むマンションを二人で訪れた。噂通り、桜井がいそいそと料理を作っていて、なんやかやと渋谷の世話をしている。まさに、奥さん、という感じだ。

 新居の話や仕事の話、高校の思い出話にまで花を咲かせながら(主に話していたのは哲成と渋谷だけど)夕食を取り、ソファのあるローテーブルの席に移って飲み始めたら、速攻で渋谷が酔い潰れてしまって……

「飲むとすぐ寝ちゃうんだよー」

 桜井が手慣れた風にタオルケットを渋谷にかけてやっている。奥さんというより、母親と子どもって感じもしてきた……。

 幸せそうに寝てる渋谷。ああ、聞きたい話、何もしていないのに……

「な、桜井」

 同じことを思ったらしい哲成が、桜井にチョイチョイと手招きをして、言った。

「お前らってさ、あれの時、どっちがどっちなの?」

 ものすごい直球な聞き方だな……

 ジーっと桜井を見つめる哲成。誤魔化しはきかないぞ、という表情をしている。でも、桜井は目をパチパチパチとさせてから……

「内緒♥」

と、語尾にハートを付けて言った。なんだそれは。

「えー教えろよー参考にしたいから!」
「えー参考って何、参考って」

 あははと、桜井は笑いながらも、「内緒内緒」と絶対に教えないって感じで言っている。ほら、やっぱりそんなプライベートなこと、教えるわけないよな……と、思いきや、

「じゃあ、どうやって決めたのかだけでも教えろっ」

 哲成が食い下がると、桜井は、なぜかそれは話してもいいようで、ニコニコと、

「それはねえ。うちは、両方試したんだよ。別にどっちがどっちでもいいから」
「え」
「あ……そうなんだ」

 両方、試す。
 そうか。その手があったか……。確かにはじめから決めつけることはないんだよな……

 哲成と顔を見合わせていたところ、

「あ、そうだ。あれもらってくれないかな……」

 桜井はパチンと手を叩くと、戸棚からゴソゴソと化粧品の箱みたいなものを取り出してきた。

「慶の妹の南ちゃんからもらったんだけど」
「何それ?」
「するときに使うジェル」
「…………」
「…………」

 それは……

 戸惑っているオレ達に気付いた様子もなく、桜井は呑気な感じに言葉を続けた。

「グリーンアップルの香りがするんだって。でも、うち、慶が匂い付きの好きじゃないから、せっかくもらったけど、開封もしてないんだよ」
「…………」
「…………」
「あ、グリーンアップル嫌い?」

 固まっているオレ達に小首を傾げている桜井。この天然な感じ、ホント変わってないよな……

「慶はね、何の匂いでも、匂いがするのは気が散るから嫌なんだって。だから匂い付きはいらないって南ちゃんには言ってるんだけど、取材先でもらっちゃうらしくて……」

 渋谷の妹は、いわゆるBL関係の記事を書いたりする仕事をしているらしい……

「…………ありがとう。もらう」

 哲成が恐々、といった感じにその箱を受け取り、カバンの中にしまった。

 そして、また恐々と桜井を見上げると、

「あのさ……初めての時、痛かった?」

 これまた直球な聞き方。

 すると桜井はアッサリと「うん。痛かった」とうなずいた。

 …………。
 
 やっぱり痛いのか……

 オレ達が黙っていると、桜井は「あ、でもね」と、言葉を継いだ。

「若かったから、何がなんでも!みたいなとこもあって……今思うとちょっと無理した感じもする。もう少し時間かけてゆっくりしてたら違ったのかも」
「…………」
「…………」

 時間かけてゆっくりって……何?

 とも思ったけれど、具体的な話になりそうだから、聞きたくない……

 引き続き黙っていたら、桜井が独り言のように続けた。

「でも……最近慶に言われたんだよね。挿入する事にこだわることないって」
「え……」

 こだわることない……?

 桜井は渋谷の髪をそっと撫でながら、言った。

「愛の形はそれぞれだから、ね?」

 ふんわりと微笑んだ桜井は、とてもとても幸せそうだった。


***


 お盆休み週は、保育園が割り増し料金になるから行かせたくないそうで、哲成の妹・梨華ちゃんの娘の花梨ちゃんを預かることになった。哲成の会社の一斉休みの3日間の日中は全部それに使い、有給扱いで取った月初の夏休みは引っ越しで終わったため、

今年の夏休み、全然遊べなかった……」

と、哲成はガッカリしている。でも、花梨ちゃんを連れて、3人で出掛けた水族館と遊園地はとても楽しかったし、それだけでも充分な夏休みだ。

 最終日、哲成が昼食の片付けをしている間、花梨ちゃんと一緒にお絵描きをした。花梨ちゃんは、丸い顔に四角い体から棒の手足が出ている絵をひたすら描いている。色々な色を使っている、とても明るい絵だ。

「これ、かりん。これ、ママ。これ、テックン。これ、キョウ君。これ、歌子先生」

 得意気に説明してくれる花梨ちゃんはとても可愛らしい。元々、子供は苦手で、兄の子供たちとは全然コミュニケーションを取れなかったのに、花梨ちゃんは大丈夫なのが不思議だ。

 結局、オレも兄も、いまだに、母とはあまり深く関わらないようにしている。でも、歌子と母はとても仲が良い。血の繋がりというのは関係ないのだろう。不思議な縁で繋がった家族だ。


「花梨ちゃん、絵上手だね」

 言うと、花梨ちゃんはエヘヘと笑ってから、

「キョウ君も丸かくの上手だね」

と、オレの手元をみて褒めてくれた。何か描け、と言われたので、ひたすら丸を描いていたのだ。

「キョウ君、丸が好きなの?」
「…………うん」

 うなずきながら、また、丸を追加する。

「これはくっついてる丸だから、d=r+r’」

 公式も書き足すと花梨ちゃんが目を丸くした。

「なあにそれ?呪文?」
「そう」

 2つの円が仲良くなるための呪文だ。大きな丸、小さな丸。色々な丸がある……
 

『愛の形はそれぞれだから、ね?』

 ふと、先週、桜井に言われた言葉を思い出した。
 桜井は、淡々と、淡々と、言ったのだ。

『セックスって、愛を確かめ合うためにするものじゃない? おれ達はしても子供が出来るわけでもないから、余計に、純粋に、そのためだけにするわけでしょ?』

『だから、お互いの愛が伝わることが一番重要で』

『だから、この形じゃないとダメってことは絶対なくて』

『愛の形はそれぞれだから』


 愛の形……
 オレ達の愛の形は……


「子供のお絵描き帳に何書いてるんだよ」

 洗い物から戻ってきた哲成が笑いながら言ってきた。
 その哲成にクレヨンを渡して、花梨ちゃんがまた得意げに言った。

「呪文なんだって!呪文!テックンも書ける?」
「おー書けるぞー。2つの円の位置関係の公式な!」

 哲成がオレの横に座り、オレの描いた青い丸の上に、同じ青いクレヨンで丸を丁寧になぞり……

「2つの円は合同です」

 d=r-r’=0

 青で公式を書いてくれた。大学生の時に書いてくれたものと同じ式だ。
 あの時と同じなのは、『一生一緒にいる』という約束。あの時と違うのは……

「キョウ」
「……うん」

 テーブルの下、ぎゅっと握ってくれる手。あの時は、一緒にいるために、友達でいることを選んだ。でも、今は……

 まだ、いわゆる『体を繋げる』ことには至っていない。でも、もう、充分に溶け合うくらい、触れ合っている。

『ゆっくりでいいよな?』
『……そうだな』

 そう、二人で決めた。毎日一緒にいられる今、何も急ぐことはない。オレ達のペースでオレ達らしく、繋がっていければいい。

「あーテックンも呪文、上手ー。キョウ君も上手ー」
「そうだろー」
「ありがとう」

 花梨ちゃんのお褒めの言葉に二人で微笑みあう。

 愛の形はそれぞれ、というならば、オレ達の愛の形はまさしくこれだ。

 d=r-r’=0

 二つの円は合同。少しのズレもなく、ずっと一つに重なっている。



<完>


--------

お読みくださりありがとうございました!

スピンオフ作品にも関わらず、気がついたら、ずいぶん長い付き合いになってしまった、享吾と哲成の物語。これで完結となります。幸せな未来が続きますように。

若い頃、ノートに書き綴っていただけの彼らのことを、こうして見ず知らずの方に読んでいただけるなんて……夢は叶うのだな、と、しみじみと、感動しています。皆様に感謝申し上げます。

書きたいことはまだまだありますが、とりあえず次回火曜日に読み切りをあげる予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。

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BL小説・風のゆくえには~続々・2つの円の位置関係27

2019年09月03日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 続々・2つの円の位置関係

【享吾視点】


 二人で一緒にドアを開け、

「ただいまー」
「ただいま」

 誰もいない部屋に向かって声をかけた。そして、見つめ合い、微笑み合い、どちらからともなく軽く唇を合わせる。

「おかえり」
「おかえり」

 コツンとオデコを合わせる。

 ああ……これからは、ここがオレ達の帰る家になるんだ。



 初めての新居での夜。終電で帰ってきたので、相当に遅い時間になってはいたけれど、もったいなくてすぐ寝る気にはなれない。

「風呂、一緒に入ろーぜ?」

と、いう哲成の誘いに乗って、初めて風呂に一緒に入った。哲成のマンションはユニットバスだったので、一緒に入ることはなかったのだ。

「体洗ってやるー」
「じゃあ、オレも」

 なんてお互いの体の洗い合いを始めたら、当然、そのまま扱き合いに突入して……

「あー!もー!」

 ほぼ同時に達した数秒後、哲成がいきなり怒りだした。

そんなつもりで一緒に入ろうって言ったんじゃないのに!」

 口を尖らせてる哲成が可愛くて笑ってしまう。

「そんなつもりじゃなかったら、どんなつもりだよ」

 お前から仕掛けたくせに、と言ってやると、哲成は口を尖らせたまま、こっちにシャワーをかけてきた。

「…………色々話そうと思ってたんだよっ」
「話?」

 泡を流し合ってから、狭い湯船に向かい合って一緒に入る。

 と、哲成が表情を改めた。

「……歌子さんから聞いた」
「何を?」
「歌子さんの、その……」
「ああ……」

 言いにくそうに水面をパシャパシャするので、おそらく歌子の性的指向の話だろうと察する。

「大きな愛ってそういう意味だったんだな」
「まあ…………うん」
「でも……正直、よく分かんねえ」

 哲成は、うーん、と言いながら、首を傾げた。

「本当に、お前のこと何とも思ってねえの? お前、本当に出ていって大丈夫だったのか?」
「大丈夫……というか」

 恋愛感情はないけれど、友情とか家族愛とかはある。だから、オレが家を出ていくことは、正直寂しい、とは言っていた。でも、夫婦生活がないことに対する負い目から解放されてホッとしている、とも言っていた。……なんてことは哲成には言いたくないので、言えることだけ、言う。

「『娘を嫁にやる気分』とは言ってた」
「娘? お前、娘なのか?」

 あはは、と哲成は笑って……、ふっと、何か思い出したように真顔になった。

「あの……それもちゃんと話したいと思ってた」
「それ?」

 って、何?

 聞くと、哲成は言いにくそうに口ごもってから、オレの手を掴んで、思いきったように、言った。

「オレ達、このままでいいのか?」
「このまま?」

 って、何?

 と、さっきと同じように聞いてしまう。でも、本当に分からない。こうして一緒に住めるようになること以上に、何かあるのか?

 聞くと、哲成は、むー……という顔をして、むーむーむーと言い続けて……それから、「あのな」と、口調を改めた。

「オレ達…………凹凸の凸同士だろ?」
「…………ああ」

 凹凸の凸。そういえは大学の時、そんなこと言ってたな……

「でも、本来は凹凸の凹じゃないところを代用して、凸をはめる手段があることは……知ってるか?」
「…………」

 哲成……大学の時は知らなかったのに、いつの間に知ったんだ?調べたのか?……という問いは止めておく。哲成は真剣そのものだ。

「知ってるけど……」

 何とかコクリとうなずくと、哲成が掴んでいる手に力を込めてきて、言った。

「知ってるなら、なんで進まない?」
「………っ」

 進むって……!

 ジッと見つめられ、さっき抜いたばかりだというのに、体の中心が疼いてしまう。

 それは…………

「…………進んで、いいのか?」

 自分の乾いた声が風呂の中に響く。哲成がそんなことを考えていたなんて……

 掴まれていた手を掴み返して、問いかける。

「哲成……お前にそのつもりがあるならオレ……」
「…………」
「…………」
「…………」

 見つめ返してくれる沈黙を肯定ととって、頬に手を添えて、そっと………

 と、思いきや、

「そのつもりって、どのつもりだ?」
「え」

 哲成のクルクルした瞳が不思議そうにこちらを見ている。

「やっぱオレが『娘』?」
「……っ」

 う、と詰まってしまう。そうだよな……決めつけるのはマズイよな……

「いや、それは……」
「やっぱ、それって、オレが背低いから?」
「いや、その……」
「やっぱ、そうなるのかなあ……」
「…………」
「…………」

 う………
 今までこの件から目を避けてきたのは、これ以上望むことなんてない。と思っていたからだ。

 実際、哲成と素肌を合わせるようになってから、薬を飲む回数が激減していた。このままいけば、薬を卒業できるかもしれない。

 このまま、気持ちの良いことだけでいい。未知の部分に触れて、せっかくのこの癒しがなくなってしまうのは嫌だ。

 ……と、思いつつも、でも、いつかは……と心のどこかで思っている自分もいて……

 答えられず、ただ見つめ返すと、哲成の真剣な瞳とぶつかった。

「キョウ……お前、やっぱり……したい?」
「それは……」
「なんか……痛そうだよな……」
「…………」
「…………」
「…………」

 再び訪れる沈黙……

 何て答えるのが正解だ? 何て……何て……

 と、哲成がふっと笑った。

「そんなのわかんねーか」
「…………」
「だよなっ」

 オレから手を離し、パシャパシャと、水面を叩きだした哲成。緊迫した雰囲気が消えて少しホッとする。

 哲成は水面を叩きながら、「なーなー」と、首を傾げた。

「渋谷達ってさあ、やっぱり渋谷が『娘』なのかなあ? 背低いし」
「……どうだろうな」
「でも、桜井が家事全般してて、奥さんって感じだったし、元々、渋谷は凶暴だし、桜井は大人しい感じだし、桜井が『娘』なのかな」
「うーん……」

 それは……どうなんだろう。全然分からないし、正直、中学からの友人のそんなこと、想像したくない……

 と思っていたら、突然「決めた!」と、哲成が叫んだ。

「よし。明日、渋谷達に聞いてみよう」
「え」
「よし。聞いてみよう聞いてみよう」
「それは……」

 そんなこと、教えてくれるのか? と言うと、哲成は二ッと笑った。

「飲ませて吐かせる。渋谷って酔っぱらうとわりとペラペラ喋るぞ?」
「…………」

 哲成と渋谷は小学生の時からの友人だ。その絆の深さにちょっと嫉妬してしまう。オレにはそんな友人は一人もいない。オレには、哲成しか、いない。

「……哲成」
「なんだ?」

 きょとん、とした哲成の頬にそっと口づける。

「哲成…………好きだよ」
「? おお」

 額に口づける。瞳に口づける。それから……

「わ、お前……」
「うん……」

 お湯の中の哲成のものにそっと触れる。すでに兆していることに嬉しさと安心と征服欲が沸き上がる。

「さっきしたばっか……」
「うん」

 文句を言う唇に唇を合わせる。
 もっと合わさりたい、とも思う。でも……

(渋谷と桜井……)

 あいつらもこんな思いをしているんだろうか……



--------

お読みくださりありがとうございました!
か、書き終われなかった……ので、ここまでで。
一応、さすがに次回最終回になる予定です。

そして、今後のことですが……
次に一つ、短編を上げてから、活動休止、とさせていただこうと思っております。

細く長く、ずっと書き続けるつもりでいたのですが、家庭の事情でそうもいかなくなってしまいました。
現在の私はパート勤めのため、休職中で復帰のめどのたたない夫に対して、歌子さんのように「会社やめちゃえば?」と言うことはできず……それを言えるようになるために、就職することにしました(運良くパート先で正社員募集がありまして……)。苦渋の決断ではありますが、一度、ここから離れたいと思います。

書きたいことはまだまだありますが、とりあえず次回金曜日に。
どうぞよろしくお願いいたします。

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BL小説・風のゆくえには~続々・2つの円の位置関係26

2019年08月30日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 続々・2つの円の位置関係

【哲成視点】

 8月の強い日射しの中、引っ越し作業が無事に完了した。

「結婚の予定でもあるの?」

と、梨華に聞かれたのは、一人暮らしには贅沢な間取りと、ダブルベッドのせいだろう。

「いや。広いのは友達たくさん呼ぶためで、ダブルベッドは、花梨と一緒に寝るためだよ」

 しれっと答えてやったら、梨華は呆れたように、

「一緒に寝るなんてあと数年だよ?」

と、言ったけれど、それ以上の追求はしてこなかったので助かった。

 まさか、享吾と一緒に住むためなんて言えるわけがない。

 権利書を見られたらバレてしまうけれど、このマンションは享吾と二分の一ずつの権利で購入したのだ。ローンもそれで審査を通した。

 でも、表向きは、オレ一人のものとしていて、マンションの管理組合の登録もオレだけの名前にしてある。享吾の住所は、歌子さんとの家のままで、うちには「泊まりにきている」だけ、ということだ。

 リビングのソファーをベッドにもできる大きめのリクライニングソファにしたので、花梨が泊まりに来た日には、享吾にはこちらで寝てもらうけれど、普段はもちろん、ダブルベッドで一緒に寝ることに…………


「今晩が初夜?」
「……っ」

 歌子さんにコソコソッと言われて、飲んでいたワインを吹き出しそうになってしまった。

「何を……っ」
「だって、享吾君に聞いたら、冷たーい目するだけで答えてくれないから、まだしてないのかなーと思って」

 あくまで真面目な顔をしている歌子さん。ここは歌子さんと享吾が経営しているワインバーだ。まだ開店直後で人も少ないし、常連のトオルさん達が盛り上がっているから、こちらの声が聞こえる心配はない。

 歌子さんが小声で言葉を継いでくる。

「もしかして、今晩からようやく一緒に暮らすから、今晩を初夜にするつもりかなあと」
「…………」

 確かに……まだしていない、とは言える。でも何もしていないわけではない。

 三週間前……

『……したい』

 勇気を出して言ったオレに、享吾はしばらくの沈黙のあと、

『何がしたい?』

と、聞いてきた。大学生の時と同じだ。あの時は「裸でくっつきたい」と返答したけれど、さすがにもう、知識は増えて、何をするのかは分かっている。けれど……何をどうしてどうするのかまでは、イマイチ想像しきれていないというかなんというか。そもそもどっちがする側なのかされる側なのか、そういうのって、どうやって決めてるんだ?っていうか、本当にできるのか?痛くないのか?とかグルグルしてしまう。

 と、いうことで。

『キョウがしたいと思うことをしたい』

と、思いきり、投げてみた。責任転嫁だ。すると……

『分かった』

と、享吾は少し笑ってから、体中に優しくたくさんキスしてくれて、それからそれから……


(ああ……まずいまずい)

 思い出して体の芯が疼きそうになり、慌てて回想に蓋をする……けれど、止まらない。

(前みたいに、一緒にくっつけて持って一緒にイカせてくれたり……先週なんて、また、口で……)

 って、いかんいかんいかんっ。思い出すな!

 いわゆる「最後まで」はしていないけれど、この3週間の週末泊まりに来た3回は、ガッツリとイチャイチャベタベタして、蕩けるほどの快楽を与えられて……

(…………って)

 ふ、と嫌なことを思いついてしまった。

(享吾って、歌子さんとはそういうことしてないから、まだ経験ないって言ってたけど……)

 本当に、本当にそうなんだろうか。
 実は、こんな感じで、最後まではしていないまでも、このぐらいのことはしていたんじゃないだろうか。

(なんか、手慣れてる感じもするし……)

 そう思ったら、フツフツと不快感が増してきて……

「あの……歌子さん?」

 思わず、口に出していた。

「歌子さんは、本当にいいんですか? オレとキョウがそういうことするの、ムカついたり……」
「ないない……って、あ」

 手を勢いよく振ってから、「あ」とその手を口に当てた歌子さん。やっぱり美人だなと思う。こんな美人と19年も夫婦してきて、やっぱり何もないわけないだろ……と思ったら、

「もしかして……哲成君、私のこと聞いてない?」
「え?」

 歌子さんの問いかけにハテ?と首を傾げる。私のことって何だ?

「やだ。言っていいのに。それじゃ、哲成君、不思議だよね?」
「不思議?」

 ハテナ?ハテナ?と更に首を傾げたオレに、歌子さんは、意味の分からないことを、言った。

「安心して? 私、アセクシュアルだから」


***

 アセクシュアル。

 初めて聞いた言葉だった。性愛感情を持たない人のことを言うらしい。

 歌子さんが淡々と話してくれた話は、分かるようで分からないようで……でも、一つ分かったことは、歌子さんは享吾にとても感謝しているということだ。自分のことを「大きな愛を持っている人」と言ってくれた享吾の言葉に救われたのだという。

 でも、「何で結婚したんだ?」という疑問は残る。享吾はお母さんを安心させるためだとしても、歌子さんは……?と思っていたら、心の中を読んだかのように、歌子さんが言った。

「元々、享吾君が私と結婚したのは、この店を譲り受けるためだったってことは知ってた?」
「え」

 結婚して、歌子さんの父親から譲られたことは知っていたけれど、その「ため」ってことは、順序が逆なのか?

「父がこの店を辞めるって言いだして……そうしたら、享吾君、この店が無くなったら哲成君と過ごす場所がなくなるから困るって言ってね」
「え」
「それで、父に、店を潰さないでってお願いしたら、娘と結婚するならこの店譲ってやるって父が……」

 歌子さんは苦笑気味に言葉を継いだ。

「うちは母もいないし兄弟もいないから。父も、自分がいなくなったあとに私が一人になることが心配だったのよね。それで、交換条件みたいにそんなこと言いだして……」
「………」
「それで……私も、私を救ってくれた享吾君には何かしてあげたいって気持ちが大きかったから」
「…………」
「…………」
「…………」

 そんな……この結婚は、オレのためだったのか。

 驚きの連続で言葉を失っているオレに、歌子さんは、ふっと笑いかけてきた。

「ごめんなさい。ちょっと嘘ついた」
「え?」

 嘘?

「嘘っていうか……結婚したのは、もちろん享吾君のためにって気持ちがあったからなんだけど……」
「…………」
「正直に言うと、一人で生計を立てていく自信がなかったから、享吾君を頼ったってところも、大きい」
「ああ……なるほど」

 女性一人でピアノ教室を立ち上げて経営していくのは大変だっただろう。
 そうして一緒に生活して、助け合って、享吾の両親も安心させて……

「キョウが言ってました。歌子さんとはこういう形の家族だって」
「……そう」

 歌子さんは目元を和らげると、軽く首を振った。

「本当は……哲成君と付き合うことになった今、享吾君と私、別れるべきだとは思うんだけど」
「いや、それは」

 オレは離婚には反対だ、と前にも言ってある。
 歌子さんは、オレが言う前に、分かってる、というように、うんうん肯いた。

「うん。そうなの。ありがとう。だからね」

 パチン、と拝むように手を合わせた歌子さん。少しおどけたように言葉を継いだ。

「お言葉に甘えて、別れるのは無しでお願いしたいの。私も今の生活を維持していくのに享吾君の存在が必要で……それに正直、今さら別れるのは面倒」
「面倒って」

 思わず笑ってしまう。面倒、とは正直な言葉だ。確かに、ピアノ教室の名前も「村上歌子音楽教室」だし、別れたら色々と面倒なことも多いだろう。

「それに、享吾君のご両親にも申し訳ないし」
「はい。それはもう」

 思いきり首を縦に振ってしまう。オレの中では、それが離婚して欲しくない一番の理由だ。今さら離婚となって、享吾のご両親を悲しませたくない。

「じゃあ、利害一致ってことで、いいかな?」
「………はい」

 コクリ、とうなずく。考えてみたら、こうして具体的にこの二重生活について歌子さんと話すのは初めてだ。享吾と歌子さんは話し合ってきたみたいだけれども、オレは、ずっと蚊帳の外だった。これでようやくスッキリした気がする。

「これからもよろしくね」
「よろしくお願いします」

 どちらからともなく握手をしていたら……

「あら、楽しそう。どうしたの?」

 いつの間に、享吾のお母さんが入店してきていた。後ろから、享吾とお父さんも入ってきたけれど、トオルさん達のところで足止めされている。

「哲成君、引っ越しが終わったっていうので、これから享吾君のことよろしくねって言ってたんです」

 ケロリと歌子さんが言うので、ドキドキしてしまう。息子を蔑ろにして、とか怒られないんだろうか、と思ったら。

「あらそう! 本当に引っ越してきてくれたのね。良かったわ」

 享吾のお母さんもニコニコと手を打った。

「享吾がこれからは家で仕事するっていうから、そんなんじゃ歌子さんの息が詰まっちゃうって心配だったのよ」
「え」

 息が詰まっちゃうって……。
 享吾はこの2年以上、ずっと家にいたけど……お母さん、知らないらしい。話しの感じからして、最近会社を辞めたと思っているようだ。

 お母さんはニコニコしたままこちらを振り返った。

「村上君、是非たくさん、享吾のこと誘ってやってね?」
「え……あ……はい」

 なんだかよく分からないけど、肯く。
 と、享吾のお母さんと歌子さんは二人で笑いながら……自分たちの夫には聞こえないように、小さく言った。

「亭主元気で留守がいい、わよね?」
「ですね」

 くすくすくす……と笑い合っている二人。仲が良い、本当の母娘みたいだ。お母さんがそんなこと言うなんて、こんな表情するなんて、すごく意外で……意外だけど、自由な感じがして、いい。歌子さんが義理の娘になって良かったな、と思う。そして、歌子さんにとっても、享吾の家族は家族なんだろうな、と思う。

「何の話?」
「楽しそうだね」

 こちらにきた享吾と享吾のお父さんが、何も知らず聞いてきて、妻二人は笑いながら「何でもない」と仲良く手を振った。

「何の話だ?」
 オレに再度聞いてきた享吾に、オレも「何でもない」と手を振って、

「キョウ」
 きゅっと腕を掴んで、見上げた。真っ直ぐに目を合わせる。昔から変わらない、透明な瞳。

「今日も、あれ弾いて。あれ」
「分かった」

 ふっと微笑まれ、ポンポンと頭を撫でられる。昔から変わらない仕草。胸のあたりがキュッとなる。でも、今までと、違うのは、それを隠さなくてもいいってこと。

「今、常連さんしかいないから、本気で弾いていいわよー」

 ピアノの椅子に座った享吾に、歌子さんが揶揄うように声をかけると、享吾はちょっと笑って……それからオレのことを見た。愛しいっていう瞳で。そして……

(ああ……綺麗だな)

 美しい旋律がはじまる。オレの大好きな曲。ドビュッシーの「月の光」……

 今までは、こうしてここで享吾のピアノを聴いて満たされても、その後は、それぞれ別の場所に帰っていた。でも今日からは、同じ家に帰れる。

『d=r-r’=0』

 ふいに思い出した、一つの公式。2つの円の位置関係……

 オレ達は同じ円だと、大学生の時に書いたけれど……ようやく、本当の意味で、同じ円になれるんじゃないだろうか。

(2つの円は、合同)

 そう、オレ達は同じ円だ。もう、離れない。離さない。


------

お読みくださりありがとうございました!
哲成視点最終回でした。次回、享吾視点最終回になります。
ちなみに……哲成君が大学生の時に「裸でくっつきたい」みたいなことをいったのはこちらです。初々しい。→「続々・2つの円の位置関係13・完」
次回火曜日、どうぞよろしくお願いいたします。

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BL小説・風のゆくえには~続々・2つの円の位置関係25

2019年08月27日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 続々・2つの円の位置関係

【哲成視点】

「恋人みたいになりたい」

と、享吾に言った結果、本当に、一緒にマンションを買うことになった。まさか、そんなことになるなんて、いまだに信じられない……

 嬉しくて夢みたいで、何だか毎日ふわふわしている。

 でも……実は、元々投げかけたことについては、まだ、解決していない。

 マンションに引っ越すまでまだ数週間あるので、享吾がオレが今一人暮らししている部屋に泊まりにくるんだけど……

(また、もう寝てる……)

 享吾は夜、何もせず寝てしまう。それはもう、速攻で。
 一応、一緒にテレビ見てるときとかはベタベタくっついたり、ちょっとキスしたりはするんだけど、それ以上のことは、ビックリするくらい何もしてこない。

(したくないのかなあ……)

 ベッドの中、横に寝ている享吾のスッとした鼻をなぞりながら、ジッと寝顔を見つめる。

(オレは、してほしいのにな)

 そんなことを思い……

(……してほしい?)

 ふ、と気が付いた。

(オレ……キョウには「してほしい」ばっかりだ)

 オレは亡くなった母にはじまり、幼なじみの暁生、妹の梨華、姪の花梨、その他にも、色々な人に「してあげる」ことばかり考えてきた。でも、享吾には「してほしい」がたくさんだ。

 唯一、してやれることは何かを考えて、したことは、「一生一緒にいる」ってことだけで……

(………キョウ)

 途端に、抑えきれない思いが込み上げてきた。おそらく、愛しさ、という言葉が一番合う思い……

「キョウ……」

 熟睡している享吾の頬に唇を寄せる。

(…………キョウ)

 ふいに蘇った中学時代の記憶。
 落ち込んでいたオレに、ただ黙ってピアノを弾いてくれた享吾……

 今日、偶然、幼馴染みの松浦暁生に20年ぶりに再会して、中学時代の暁生にそっくりな暁生の息子にも会ったせいか、妙に記憶が鮮明によみがえってくる。

 実家にまだピアノがあって……毎日のようにピアノを弾きにきてくれた享吾。オレは、享吾の横顔や背中を見ながらとか、隣でピタッとくっついたりしながら、ただボーッと聴いているのが好きで……

 今日、あれから月日が加算された今の暁生が、オレ達を見て、呆れたように言っていた。

『お前ら、あいかわらず仲良いんだな』

 そして、なぜか享吾を向いて、

『よろしくな、享吾』

と、言った。享吾は少し表情を固くして『ああ』とうなずいていたけれど………

(そういや、あれ、なんだったんだ?)

 その後、暁生の息子の野球部の話で盛り上がってたから、すっかり忘れていた。

「な、キョウー」
「……ん」
「キョウーキョウーキョウー」

 ユサユサと揺すぶると、ようやく少し目を開けた享吾。

「…………なんだ」

 口を開くのもダルそうに言われたけど、聞かないと気になって眠れない!

「今日さ、暁生に『よろしくな』って言われてたけど、なんで?」
「……ああ?」
「だから、暁生が『よろしくな』って!」
「ああ……」

 すいっと伸びてきた手に頬を触られドキリとする。……けど、享吾は寝ぼけたように、変なことを言った。

「オレは……松浦から譲ってもらったから……」
「何を?」
「…………お前を」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……………。は?」

 何を言ってる?

「譲るって何の話だよ?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………こらっ寝るなっ」

 揺すぶったけれど、もうダメだった。

(譲るって……何なんだよ!)

 オレは物じゃねえっつーの!っていうか、暁生の物だったつもりもねーよ!って……

(いや、確かに、暁生の言うことは何でも聞いてたけど……)

 今思えば、それでしか、友人関係を続けられないと思っていたのだろう。

(でも……キョウは違う)

 ただ、一緒にいてくれた。慰めてくれた。ピアノを弾いてくれた。抱きしめてくれた。愛してくれた……

「キョウ……」

 無理矢理、腕の中にもぐり込むと、条件反射みたいに、抱き寄せてくれた。温かい……

「キョウ……」

 大好きだよ。

 そう言って胸におでこを擦り付けると、優しく頭を撫でられた。それだけで、胸がいっぱいになる。幸せ過ぎて。



【享吾視点】

 明け方、ふ、と目が覚めた。
 腕の中に哲成がいることが、嬉しくて、胸がいっぱいになる。幸せ過ぎる。

 それなのに………

(ああ……困ったな……)

 不安感がまだ強い。寝る前に薬を飲んだので、寝入りは良かったけれど、持続してくれなかったようだ。医者には続けての服用は止められているので、時間がたたないと、追加の薬は飲むことはできない。

(…………哲成)

 そっと頭を撫でる。愛しい感触……

(一生一緒にいる……)

 そう約束したのは大学の時だった。でも……その時思った未来とは違う方向に進もうとしている。それが最良の道だと思ったけれど……

『よろしくな、享吾』

 今日、何十年ぶりに再会した松浦暁生に言われて、背筋に冷たいものが走った。松浦には、中学3年の三学期に同じことを言われたのだ。

『テツのこと、よろしくな』

 高校からは譲る、と……。
 松浦は哲成の幼馴染みで、哲成の母親が亡くなった時もずっとそばにいてくれて、家族ぐるみで哲成を助けてくれていたらしい。

(よろしくって…………)

 オレはその期待にこたえられているのだろうか……

 今日、松浦親子と話しながらはしゃいでいた哲成の横顔を思い出す。松浦の息子は今、松浦と哲成の母校に通っていて、野球部でピッチャーをしているそうだ。

『えー三回戦突破?スゲーじゃん』
『負けたら引退だから、みんな気合い入りまくってて』
『今年は雨で予定が崩れて大変だよ』
『来週四回戦? オレ、応援行ってもいい? 一応、野球部OBだし!万年補欠だったけど!』
『おー、来てくれよ。四回戦の会場は……』

 息子の野球の応援……
 哲成にもそんな未来が選べたかもしれない……
 でも、オレと一緒にいたから、哲成は……

「…………っ」

 ひやっと指先と頭の先から血液が引いたのが分かった。全部の血液が心臓に集まってきて、勢いよく心臓をうちならしはじめる。 

(…………苦しい)

 喉が……詰まる。

(…………水)

 水を、飲もう。水……、水……

 何とか起き上がって、ベッドに腰かける。足元のテーブルに置いておいたペットボトルの水を取り、ゆっくり飲む。体に行き渡るように、ゆっくり……ゆっくり……落ち着け……落ち着け……

 息を吸って、吐く。水をゆっくり飲む……
 それを繰り返して、何とか落ち着いてきたところで、

「キョウ?」
「!」

 ペタ、と背中に手の平を当てられた感触がして、ビクッとしてしまった。でも、何とか普通の顔をして振り返る。

「ごめん、起こしたか?」
「いや……」

 薄暗い中、哲成が目を細めてこちらを見ている。眼鏡をかけていないので、見えないのだろう。

「水?」
「ああ……お前も飲む?」
「うん」

 うん、と言ったくせに、起き上がろうとしない哲成。

「? 飲まないのか?」
「飲む」
「じゃあ、起きろ」
「やだ」

 なぜか頑固な感じに哲成は言うと、

「でも、飲む」
「なんだそれ」

 意味が分からない。でもなんか可愛い。笑ってしまうと、手先にも血液が回ってきた。

「起きないと飲めないだろ」
「飲む」
「だから、起きないと……」

 言いかけて、あ、と思う。

「…………飲ませろってことか?」
「うん」

 コクリとうなずいた哲成が可愛すぎて……

「哲成…………」

 水を少し含み、そっと唇を合わせる。柔らかい……。ゆっくりと流しこむと、コクッと哲成の喉がなった。唇を離し、微笑みあう。

「…………キョウ」
「うん」
「オレな」
「うん」

 横に寝そべり、肘をついて、哲成の頭を撫でる。哲成はぼんやりした感じに、言葉を継いだ。

「今さらだけど……お前には、してもらいたいばっかりだって、気がついた」
「してもらいたい?」
「うん」

 頭を撫で続けると気持ち良さそうに目をつむりながら、哲成が言う。

「あのな……オレ、暁生とか梨華とかには、何かしてやらないとってずっと思ってたんだけど……」
「…………」

 暁生、の言葉にドキリとなる。心を読まれないように、少し構える、と、

「キョウ」
「…………」

 真っ直ぐに、瞳を向けられた。オレの大好きなクルクルした瞳……

「今さらなんだけどさ……」
「…………」
「お前って、特別なんだよなあ」
「え?」

 特別?

「お前は、オレが何もしなくても大丈夫で……」
「…………」
「逆に、してほしいことがたくさんで……」

 クルクルした瞳が少し笑った。

「そんな奴、お前しかいない」

 それは…………

「お前だけだ」
「…………」

 そんな……そんなこと……

「哲成……オレは……」
「あ、そうだ」

 言いかけたのに、ぺちっと額をはたかれ、止められた。

「お前、寝る前に変なこといってたの、覚えてるか?」
「寝る前?」

 薬の影響で急激な睡魔に襲われたため、ほとんど記憶がない……

「何言った……?」

 恐る恐る聞くと、哲成は口を尖らせて嫌なことを言った。

「暁生にオレを譲ってもらったって」
「え」
「なんでそんな話になってんだよ」

 それは…………

「あの頃の哲成は松浦の……」
「暁生のものじゃねーし。つか、誰の物でもねーし。つか、それ以前に、物じゃねえし!」
「それは…………」

 そうだけど……

 う、と詰まっていたら、哲成はますます口を尖らせて…………その口をキスをせがむみたいにこちらに寄せてきたので、ちょっと笑ってしまった。途端に、哲成が怒りだした。

「笑ってないで、しろよ!」
「キス?」
「そう」

 なんか、可愛い。言われるまま、チュッと軽く唇を合わせると、哲成は満足したようにうなずいた。

「やっぱり、お前にはしてほしいがたくさんだ」
「……そうか」

 それは何だかくすぐったい。
 オレは特別。哲成の特別……。

「キョウ、もっと」
「うん」

 せがまれ、また、唇を合わせる。柔らかい、愛しい感触……

「キョウ」
「うん」

 背中に回ってきた手が、ぎゅうっと抱きしめてくれる。愛しい。二度と離したくない……

「な、キョウ」
「うん」

 耳元で、哲成が囁くように言った。

「……したい」



--------

お読みくださりありがとうございました!
と、いうことで。次回かその次あたりに〈完〉をつける予定です。
続きは金曜日に。どうぞよろしくお願いいたします。

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