創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

月の女王-45(終)

2014年10月31日 10時38分25秒 | 月の女王(要約と抜粋と短編)
 天文台から駐車場までの長い階段の途中で、アーサーがクリスを呼び止めた。

『ちょっといいかな……』
『なんだ?』

 眉をひそめたクリスの肩を、アーサーがグイッと抱き寄せる。

『いいこと教えてあげる』
『……マリアか』

 口調がアーサーと全然違うのですぐに分かった。

『なんだ?』
『香のことなんだけど』

 マリアは、こっそりと続ける。

『あんたねえ、香に月の姫のこともう言っちゃダメよ?』
『……どういうことだ?』

『香はね「私が月の姫でなければ、クリスは私のことなんか好きにならなかったはず」って思ってる』
『え………』

『あんたは月の姫を神聖化しすぎてる。十年前云々もNGよ』
『え』

『香にしてみれば、十年前のことなんか知ったこっちゃないのよ。香とあんたは出会ってまだ十日なんだからね』
『………』

『月の姫の香、ではなくて、香自身を見てあげなさいよ。それとも何? 香のことじゃなくて、月の姫のことが好きなの?』
『………それは』

『そこらへん、よく考えることね』
 ポンポンとクリスの肩を叩き、マリアは今度はスタンの方へと歩いていった。


『スタン、一緒に旅行に行かない?』
『旅行?』

 きょとんとするスタンに、マリアはニコニコと、

『アーサーがね、やっぱり織田の大将の元で働きたいんだって。織田の大将って人は太っ腹よ~。一度裏切ったっていうのに、ぜーんぜん構わないって。それどころか今後は表舞台で働かせたいから親と話をつけてこいって言うの。だから、アーサーの両親に会いにいくついでに、ママのお墓参りにもいこうと思ってて』
『………お墓参り?』
 オレ達のママって死んでるの? とスタン。

『そうよね。そういう積もる話もたくさんあるし。ね? 一緒に行きましょうよ?』
 にっこりと言うマリア。

 スタンは迷って、いつものように、
「ねえ、リンク……」
と、リンクスを呼び止めようとして、はっとその手をひっこめた。

 先を歩いていたリンクスが振り返り、ジッとスタンを見つめる。

「オ、オレ、まだ盗聴器のこと怒ってるんだからね!」
 ぷうっとふくれた顔をしてみせるスタン。

「だったらオレだって、勝手に出て行ったお前のことを怒っている」
「だってそれはリンクが悪いんでしょ!」
「そう思うならオレに直接言えばいい。勝手に奴らの仲間になったのはどこのどいつだ」
「別に仲間じゃないし」
「仲間だろ。仲良くやってたじゃないか」
「仲良くなんかやってない!」
「やってた」
「やってない!」
「さっきだって、オレが帰ってこいっていったのについてこなかった」
「それはリンクが司の部下やめないっていうからでしょっ」

 ムッとした顔でにらみ合う2人。
 その間で、マリアがケタケタと笑い出した。

「何を笑っている?」
 リンクスが憮然として言うと、

『だってさ、要するにあんた、焼きもちやいてるってことでしょ? か~わい~』
「な………っ」
 珍しく赤面するリンクス。

「えっリンク、焼きもちやいてるの?」
「違うっ」

 ぷいっと横を向き、一瞬で無表情の仮面をかぶり直すと再びスタンに向き直った。

「……墓参り、行ってくればいいんじゃないか?」
「リンク……」
 それはどういう意味……と言いかけたスタンの頭を、リンクスがくしゃりとなでる。

「行って、帰ってこい。オレのところに。何度も言わせるな」
「…………もうっ」

 スタンが再びぷうっとふくれる。

「そういわれたら、何も言えなくなる!」
「だったら言わなきゃいいだろ」

 リンクスがひらひらと手をふり、先に下りていく。
「もーリンクってば!」
 いつものようにスタンがそのあとを追いかけていく。

 そんな二人の後ろ姿を見送りながらマリアがうなずいた。
『仲直りできたみたいね。よかった。ねえ、アーサー?』


***


 それぞれのその後などを手短に……。


 香は帰宅後、本当の父親の話を聞かされた。
 ショックはあったものの、実は密かに、両親のどちらにも似ていなく、幼いころ妙な特殊能力を持っていた自分は、両親の実の子ではないのではないか、と気に病んだ時期があっただけに、母とは血が繋がっているということを確信できて、安心した、というところもあった。
 血の繋がっていない自分を育ててくれている父には感謝の念しかなく、父も今までと変わらない、と言ってくれ、斉藤家の絆はより深まった感じであった。

 香がテーミス王家直系の血を引いているという事実は、一部の人間にのみ伝えられ、公にすることは保留となった。今後、クリスと香が結婚、というようなことがあった場合には発表になるかもしれないが、そうでないならば隠し通したい、というのが双方の考えであった。


 ちなみに、香の父が月の姫暗殺未遂を起こしたのは、織田将の臣下に催眠誘導を受けたからであった。
 織田将は月の姫の予言に対しては、アーサーに報告だけさせて、予言が終わるまでは関与しない考えであったため、その臣下の単独判断であった。
 その臣下はその後、菅原司から厳重注意を受けた。この件もあって、予言に関して織田家では司以外は行動しないことが暗黙の了解となっていた。

 マーティン=ホワイトも月の姫の予言自体、夢物語のようなものだと捉えていたため、ジーンに報告を求めてはいたが、積極的に関与することはなかった。

 織田将とマーティン=ホワイトは、まだお互いが10代であったときに、織田将が強引にマーティンのところに押しかけたことをきっかけに、内密に連絡を取り合うようになっていた。
 今回の月の姫の予言騒動でも密に連絡を取り合っており、天文台へも東京から織田家の自家用ヘリコプターで一緒に来たのだった。 


 古沢イズミは、高校卒業までは香の家に残ることになった。
 元々仲が悪かった両親との間の亀裂が今回の件で決定的なものになってしまった。以前から高校を卒業したら東京に出てこようと思っていたので、それが少し早まったという感じだ。
 さっそく水泳部に本格的に入部し、夏休み中も練習に励んでいる。西田英子と松村明美が大喜びしている。


 辻白龍は、夏休み明けからは元々通っていた進学校に戻ることにした。
 ただし叔母の家には戻らず、風間忍の元に身を寄せることになった。
 忍の研究の手伝いをすることを引き換えに学費生活費を援助してもらうことになったらしい。
 後々はホワイト家に対抗しうる会社の起業を考えている。
 桔梗とのほのかな恋もゆっくり進行中のようだ。


 アル=イーティルは約束通り地球に残った。
 アルのように地球に残ったイーティルも何人かはいるようだった。
 あいかわらず、神出鬼没。


 織田ミロクは、元の通りの生活。あいかわらず、織田家の跡取りにふさわしい人物となるために、家庭教師をつけられ朝から晩までビッチリ勉強させられている。
 アルはミロクのことが気に入ったらしく、ミロクのところによく表れる。


 風間忍も、元の通りの生活。
 ただし、今まで少々真田に手伝わせながらも、ほぼ一人で進めていたテーミス星とデュール星の研究を白龍と共に行うことになり、実はかなり嬉しいらしい。(それで真田がヤキモキしている)
 地球よりも進んだ科学力をもつ二つの星の研究をすすめ、地球にもその技術を持ち込むことを目的としている。

 
 菅原司は、オーラが無くなったことでしばらくは凹んでいたが、本庄妙子に励まされ少しずつ元気になり、今まで通りの生活を取り戻しつつある。


 カトリシア=ホワイトは、血筋のことを盾にクリスに迫ろうと思ったのに、香も直系の血筋と知り、ショックで寝込んでしまった。落ち込んでいるカトリシアを慰めているのは、クリスの弟アリストファーらしく、それはそれでお似合いのカップル誕生の予感……。

 ジーン=マイルズ=ワルターは、オーラが無くなったことを良いことに、ワルター家の権力を大きくしようと画策中。ホワイト家とワルター家での権力闘争が勃発しそうである。



 一般社会における、月の女王が降臨した現象については、山崩れの際に山の上に光る円盤が現れた、という目撃証言が多数でたため、2、3日は怪奇現象だと騒がれたが、そのうち立ち消えた。

 テーミス・デュール両王家の正式発表では、「予言が成就し、地球に蔓延っていた異形の物・闇の力が駆逐された。その際にみなのオーラの力が必要となり吸収された」となっている。
 この予言は、テーミス・デュール両家の協力により成就されたものである。3000年以上に及んだ両家の確執は今、融解の時を向かえようとしている。

 
 オーラの消滅により、王家の威信は失われると思われたが、長年の体制が崩れることはなく、両王家の体制は引き続いていくこととなりそうである。



***


「で、香ちゃんは、クリスとはどうなってるの?」
「………どうといわれても」

 香は肩をすくめ、紅茶に口をつけた。
 今日は駅近くのおいしいと評判のケーキ屋に女子三人で食べにきたのだ。

 女子三人。香・夕子・妙子、である。
 妙子は何事もなかったかのように香と一緒にいる。


 天文台からの帰り道、気まずそうな表情をして背を向けた妙子に、
「待って!」
と、思わず叫んだ香。

 妙子が、司への想いと、香と友達でいたいという思いの間で揺れていたことは知っていた。
 予言が終わった今、もう二人を隔てるものはないはずだ。

 びっくりした顔をして振り向いた妙子に、
「これからも友達でいて。妙子さん!」

 香が必死な瞳をむけると、
「もちろんよっ」
 妙子が駆け寄って香のことを抱きしめた。


 それから、もう2週間たつ。

 妙子はうまいこと傷心の司の懐に潜り込み、司との仲が一歩も二歩も前進しそうな勢いであることを、香と夕子にのろけまくっていた。
 その流れからの「クリスとはどうなってるの?」であったが……

「え? アーサーさん、じゃなくて?」
「夕子ちゃん、情報が古いわよ?」

 ちっちっち、と妙子が人差し指を振る。

「アーサーには離れられな~い彼女がいるのよ。ちょうど昨日、彼女の弟と一緒に旅行から帰ってきたわよ」
「アーサーさん、本当に織田家に仕えるの?」

「そうそう。なんか弁護士になる勉強はじめるらしいわよ? 大学にも行かせてもらえるみたい」
「へええええ……」

 織田将という人はずいぶんと面倒見のいい人なんだねえ……とつぶやくと、妙子が、そりゃあ司様のお父様だもん、とうふふと笑う。

「スタン君はこれからどうするって?」
「とりあえずリンクスのところに戻ったけど……。リンクスは司様の元から離れられないし、スタンはそれが嫌だし、で、また揉めてたわよ。そのうちまたクリスのところにでも家出してくるんじゃないの?」

 再び出たクリスの名前に、香はケーキをフォークでつつきながら、何でもないことのように言葉を継いだ。
「あの人、今、日本にいないよ?」

「え?!いないの?!いつから?!」
「あのあとすぐアメリカ帰ったから……もう二週間?」

 香の発言に妙子がはああ?!と呆れたような声をだす。

「何よそれっ。連絡は?!」
「ないよ?」
「えーーーーー」

 妙子はぶうぶうと情けない男だねーダメだねーと文句を言いまくっている。

「え?なになに?香ちゃんとクリス君って何かあったの?」
「な、なにもないよ!」

 途端にわかりやすく動揺する香。

「………あったんだ」
「あったね、こりゃ」
「だからないって!」

 ムキになった香に、妙子はちっちっちっと再び人差し指をゆらした。

「私の目は誤魔化されないわよ~。香ちゃんとクリスのお互いを見る目、あーきーらーかーに変わってたもん! 香ちゃんが目覚めたときの2人の雰囲気なんて、見てるこっちが恥ずかしくなったよ? まあ、クリスが香ちゃんを好きなことは前からバレバレだったけど」
「うんうん。クリス君が香ちゃんのことを好きなのは知ってたけど」
「な………っ」

 口をパクパクさせる香。

「いつから……っ」
「けっこう前からだよ? わかりやすいじゃないクリス君って」
「ねえ、もしかして、告白された?」
「えっそうなの?! 香ちゃんなんて答えたの?!」
「あの感じじゃOKしたってことだよね?」
「えええっそうなのそうなの~?!」
「…………」

 親友2人からの質問攻めに、香はしばし押し黙り……

「なんか……わからない。好きとかって……」
「わからない?」

 香がこっくりうなずくと、妙子がここぞとばかりに講釈をはじめた。

「好きっていうのは、その人とずっと一緒にいたいって思ったり、その人のことを知りたいって思ったり、その人が他の女の子に優しくしてるの見たら悔しーって思ったり……そういうことよ」
「…………」
「何より、その人の声を聞いただけで、顔を見ただけで、キュンってなるから分かるわよ~~」
 うふふふふ、と妙子が笑う。

「あーいいなー私も恋したーい!」
 夕子が羨ましそうにいう。
「夕子ちゃんの好きなタイプってどんな人なの?」
「えー?私ー?」
 女子三人の恋話はまだまだ続くのであった。



 夕暮れに空が染まる中、香は帰路へとついた。
 もうすぐ自宅マンションにつく、公園の前の並木道……

「斉藤さん。斉藤香さん」

 ふいに呼び止められた。ドキリとして振り返る。

「………クリス」
「よ」

 軽く手をあげるクリス。二週間ぶりに見る笑顔。
 心臓が跳ね上がっているのを誤魔化すために、香はわざとつっけんどんに言う。

「いつ帰ってきたの?」
「今さっき。夏美さんに聞いたら、夕子ちゃんたちと出かけたっていうから、そろそろ帰ってくるかなーと思って待ち伏せしてた」
「なんで?」
「なんでってことはないだろ」

 クリスが苦笑して近づいてくる。

「すぐに会いたかったからだよ」
「………」
 
 肩からかけたバックを胸に抱え込み、今にも逃げ出しそうな香。

「……なんでそんなに身構えてるんだ?」
「べ……別に身構えてなんかないけど……」

 香は上目遣いでクリスを見上げると、

「なに? 何か用?」
「そう言われると言い出しにくいな……」

 クリスは苦笑いを浮かべながらも、すっと香の右手を取る。

「斉藤香さん」
「な………っ」

 香が手を引っ込めようとするのを、強く握り離さない。
 クリスは正面から香の瞳を覗き込み、真面目な表情で言葉を継いだ。

「あなたのことが好きです」
「………っ」

「オレと付き合ってください」
「………」

 香はしばらくの間、クリスの瞳を見上げていたが、

「あの封印をといた海で告白するとか思ってなかった? あそこが夢にも出てきた海だったんでしょ?」
「ああ……」

 クリスがバツの悪そうな表情を浮かべる。

「あそこはさ、その……」
「なに?」

「いや、よく考えたら、オレと香の思い出の場所ってここかなって思ったんだよ」
「ここ?」
「オレたち初めて会ったのここだろ?」
「………」

 約4週間前の、香の誕生日の翌朝、クリスがこの場所で香に声をかけたのだ。

「斉藤さん。斉藤香さん」

と……。

「オレ、あの時、この子を守りたいって強く思ったんだよ。月の姫とかそういうの取っ払って、香自身を……」
「…………」

 香はジッとクリスを見上げると、

「………マリアさんに何かいわれた?」
「え!?」

 ぎょっとして、思わずクリスは香から手を離した。

「お前まだ心の声読む能力残ってるのか?!」
「残ってないわよ。残ってたとしたって読まなくても分かるわよ」
「………えー……」

 頭を抱え込み、道の端にしゃがみ込むクリス。

「いやだからさーマリアに言われたからとかじゃなくて、本当にお前自身のことが好きなんだってー」
「………」

 胸がギュウッとなる。

「……正直、月の姫のことはずっと大切に想ってきたよ。オレが弟のことでものすごい落ち込んだときも、月の姫の存在だけがオレの光だった」
「…………」

「でも実際会ったお前はオレの想像してた月の姫とはちょっと違ってて……」
「違ってた?」

「なんつーか、オレ、月の姫は儚げなお姫様だと思ってたんだよ」
「………」

「でも実際のお前は、気強いし、つんけんしてるし」
「………悪かったわね」

「でも、瞳は寂しそうに揺れてて……。守りたい。一緒にいたいって、一目見て思った」
「…………」

「触りたい。抱きしめたいって……思った」
「…………クリス」

「司のところから飛び降りてきた、あの時の香はまさに月の姫そのものだったけど……。でもオレ、やっぱりいつものお下げの香の方が好きだって思ったよ」
「…………」

「お前と会えなかったこの二週間、そんなことばっかり考えてた」
「………」

 自分の膝に顔をうずめたままクリスがポツリという。
 香は大きく息をつくと、公園の柵に腰かけた。

「……二週間も音沙汰ないから、もう戻ってこないのかと思った」
「……ごめん。あっちじゃ四六時中周りに人がいて電話もできなくて……。もしかして、心配してくれてた?」

「心配っていうか……色々片づけてくるって言ってたから、どうなってるのかなあって……」
「うん……王位継承権、放棄したかったんだけど、それは無理だった。新世界っていってもこの王政はすんなり変わるものでもないみたいだ」
「………」

「でも日本に住む許可は取り付けられた。まあ、今までだって母親の遺産で生活してたんだから、文句言われる筋合いもないんだけどな。一応、筋は通した」
「…………」

「気がかりは弟のことだったんだけど……あいつもあいつでオレがいない方が都合がいいこともあるらしいから、離れたほうがお互いのためになるかと思って」
「そう……」 

 公園からヒグラシのなく声が聞こえてくる。

「香」
「………なに?」

 クリスが膝を抱えたまま顔を香を見上げる。不安げな色の瞳。

「返事は? 返事を聞かせてくれ」
「…………」 

 香は困ったように眉を寄せると、

「いきなりそんなこと言われても……」
「いや、いきなりでもないだろ? オレ前から言ってたぞ?」
「だって……」

「オレのこと嫌いか?」
「………ううん」
 かぶりをふる香。

「じゃ、好き?」
「……………」
 押し黙った香をみて、クリスは内心で、よしっ否定なしっとガッツポーズを作り、立ち上がると、

「とりあえず、付き合ってみるってのどう?」
「…………あんたね」

 ふっと香が笑う。
 クリスは香の横に腰かけ、真面目な顔に戻り問いかける。

「オレじゃ……ダメか?」
「…………っ」

 予言の日の前日の夜と同じようなセリフ。
 このあと……キスをした。
 香はぽつんとつぶやいた。

「あの時……キスしたいと思った相手はあなただったの」
「え………っ」

 途端に顔がにやけるクリス。

「それって………」
「あなたが私のこと好きって知ってたから、だから、あなただったらって思ったの」
「? どういうこと?」

「私もよく分からないのよね……」
 足をプラプラさせながら香が言う。

「あなたのことで、なんか色々モヤモヤしたり……」
 頭の中に、クリスの婚約者だというカトリシアの映像が浮かび、フルフルと頭を振る。

「この2週間、会えなくて寂しいなって思ったり……」
「……え」

 香の思わぬセリフに、クリスの頬が緩む。

「それって……」
「でも、それって、あなたが私のこと好きだからなんじゃないかな、と思って」
「? なんで?」

「今日、妙子さんが言ってたことも当てはまるし、自分でもそうかなって思ってはいたんだけど……」
「???」

「たぶん……私、あなたのことが好き……なんだろうなって……」
「………香」
 クリスは目を見開き、香の横顔を見つめる。

「でも」
 香のプラプラしていた足がピタリと止まる。

「でもそれって、あなたが私のこと好きだからなんじゃないかって思うの。私のことを守ってくれるあなたのことを好きであって、あなた自身をみていない気がする」
「……………え」
「だから、あなたを好きっていうのも違う気がする」

「……………いやいやいやいや」
 ちょっと待て、と慌てるクリス。

「お前、なんか難しく考えすぎてるぞ?」
「そうかな……」
「そうだよっ。だいたいなあ、お前のことを好きじゃないオレなんてオレじゃないし。そんなこと考えるだけ不毛だ不毛」
「…………でも」

「とりあえず!」
 クリスは立ち上がり、正面から香の顔を覗き込んだ。

「付き合ってみようぜ。オレたち。それから色々考えればいいんじゃないか?」
「…………」

 香はしばらく黙り込んでいたが、ポツリ、とつぶやいた。

「………一つ条件があるんだけど」
「……なに?」

 クリスが身構える。
 香は言いにくそうに、クリスから視線を外すと、

「………しないでね」
「……え?」

 あまりにも小さな声で聞こえず、クリスが聞き返すと、香は顔を赤くしながら、

「他の女の子の髪の毛結ってあげるとかもうしないでねっていったのっ」
「香………」

 クリスは一瞬ぽかんとしたあと、

「お前、それ、カトリシアの話? まだ気にして……」
「き、気にしてなんかないもんっ」
「それさ、やっぱり焼きもちだよな……」
「ちーがーうー」
「焼きもちやくってことは、やっぱりお前、オレのこと……いでででででっ」

 言葉が途中から悲鳴に変わった。
 香がクリスの頬を思いっきりつねりあげたのだ。

「そのニヤニヤした顔、腹立つんですけど!」
「だってニヤニヤもするだろーー。あ、そうそう、カトリシアとの婚約は正式に破談になったから」
「え、そうなの?」
「あ、今、香、嬉しそうな顔した」
「してませんっ」
「したって~。いや~香がそんなにーーーイタイイタイっ本当に痛いって!」
「もー知らないっ」

 勢いよく立ち上がる香。そのままマンションに向かおうとして、

「……あ」

 ふと、立ち止った。
 月だ。消え入りそうなほど細い月。
 まだ白い。

 青と赤に彩られたた空に描かれる白い月を見上げながら、香がつぶやく。

「月の女王って無事にイーティル星についたのかな……」
「たぶん、そんなに遠くないんだろうけど……」
「うん……テーミス星も実は見えてたりするのかな」

 死の星と化したというテーミス星とデュール星。
 そこに帰ることは二度とない。
 自分たちは地球に生まれ地球に育ってきた。これからもそうだ。


「そういえばさ……ずっと気になってたんだけど……」
「なに?」

 香が振り返ると、クリスはポリポリと頬をかきながら、

「お前の中にマリアがいたときに、アーサーと一緒に部屋の外に出ていっただろ?」
「あ……うん」

「………何してたんだ?」
「………何って」

 香は首をかしげると、

「目つむってたから分かんない。それにすぐにあの織田の司様に捕まっちゃったし」
「そ、そうか」

 司、ナイス!と思わず思ってしまったことは内緒にしておく。

「でも……」
「でも?!」
「抱きしめられた気はする……かな。何となく感触が………」
「なにおお?!」

 ムッとするクリス。

「オレも今、抱きしめていい?」
「……ダメ」
「なんで!」

 寄ってこようとするクリスを香が両手で押しのける。

「こんな往来で!しかも家の近くで!誰かに見られたらどうすんの!」
「いーだろ別に」
「良くないっここは日本です!そんな習慣はありません!」
「ちぇー」

 クリスは口を尖らせたが、はっと気が付いて、

「今の言い方だと、人に見られてなかったらいいってことだよな?」
「え……っ」

 首まで赤くなる香。

「そ、それは………っ」
「よしっ。分かったっ。じゃあ、それは今度のお楽しみに取っておいて……」
「お楽しみって……」

 クリスは脱力した香の右手をつかむと、すっとひざまずいた。

「さっきの条件の話、必ず守ります」
「…………」

 真摯な瞳がまっすぐに香を見つめる。

「だから、斉藤香さん。オレと付き合ってください」
「…………」

 香は静かにクリスの青い瞳を見下ろし……こくんと肯いた。

「よしっ」
 クリスは全開でガッツポーズを作ると、

「散歩に行かないか?」
「散歩? でももう……」
「あの月が黄色くなるまで。な?」

 見上げる月はまだ白い。

「どこに?」
「うーん、川べりとか丘の上の公園とか、どこでもいい」
「どこでもって」
「どこでも」

 クリスが愛おしげに香を見つめる。

「お前と一緒ならどこでも。どこへでも」
「…………うん」

 小さくうなずく香。繋がれた手にぎゅっと力をこめる。

 歩き出した二人の後を月が追いかけてくる。
 見守るように、その光で包み込むように。



<完>



-------------------------------------------------------



ついつい……あれも書きたい、これも書きたい、とズルズルと書いてしまった。
長々と失礼いたしました。


終わっちゃった…
こんなに終わりたくない終わりたくないと思いながら書いたのは初めてだ。


まあ、でも、まだ書き写していない短編がたくさんあります。
そうそう。短編の詰め合わせが、ノート7冊あるんですわ。

でも、その前に!

小説ネタ帳のラスト「風のゆくえには」を書きます!
これを書かないことには、ノートの処分が終わらない。
風のゆくえには、も、ノート5冊とかあるんじゃなかったかなー。


ああ、でも、今は脳内が月の女王一色になってしまっているので
頭クリアにしてからじゃないとですね。


クリスと香がイチャイチャする話だったら、私、今後もいくらでも書ける気がする。
若かりし頃書いた短編もそんな話ばっかりです。

でも、若い頃は、漠然とこのあとクリスと香は結婚して……って思ってたんだけど、、、
人生経験ってやっぱり必要なんだな、と思うのは、
後々、就職してから書いた短編にはそれだけじゃダメだって話もあったりして……

いや、何事も経験ですね。
こっぴどい失恋も、結婚も出産も、ママ友いじめも、浮気された経験も、ぜーんぶ小説の糧になる。

正直ね、失恋にせよ、浮気にせよ、される前には、私はもっと冷静でいられるって思ってたんだよね。
でも、実際されたら、正気失ったよ。

自分でも思うんだけど……
中学高校時代に書いた話より、大人になってから書いた話のほうが感情に現実味がある。

でも、中学高校のときに考えた話のほうが自由で、想像の翼が大きい気がする。
この「月の女王」という話も、今では思いつくことはできないと思う。

40歳になる前に、書き終わることができて良かった。

でも、これでクリスと香に会えなくなるのは寂しいので…
「風のゆくえには」の小説ネタ帳を書いたら、短編の写しに入ろうと思いまーす。
そしたらクリスと香にまた会える~~。


長々とお付き合いありがとうございました。

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月の女王-44

2014年10月29日 22時05分30秒 | 月の女王(要約と抜粋と短編)
「マーティン=ホワイト……」
 入ってきた白人男性に憎悪の目を向ける白龍。その体からは白いオーラが大量に立ち上っている。

 マーティンはそんな白龍には気がつくこともなく、クリスが抱きかかえている香を見ると、

『……洋平に似てるな』
「……ようへい?」

 何を言っている?とクリスが視線を返した先に……

「……夏美さん?」
 マーティンから遅れて部屋に入ってきたのは、香の母親であった。


「香……っ」
 あわてて香の元にかけよる夏美。

「夏美さん、どうしてここに?」
「マーティン様に連れてきてもらったのよ。それより、香は……」
「今、魂抜けてるとこ。たぶん、魂は月の女王の元にいる」

 クリスがあごで指し示す先には、輝く球体。そこに集められていく光たち。


『イーティルが地上からいなくなるのは大いに結構だが、オーラまでなくなるとは……』
 マーティン=ホワイトの神経質そうな声がドーム状の部屋に反響する。

「いいじゃないか」
 織田将はニヤリとすると、両手を月の女王に向かって突き出した。

「さあ、持ってけ持ってけ。……おお。体が軽くなってきた感じがするぞ?」
『お前は無駄にオーラがありすぎなんだよ。これでその妙な威圧感もなくなるんじゃないか?』

 織田将は日本語で、マーティン=ホワイトは英語で話している。それがこの二人の会話のスタイルらしい。

「オーラは……」
 その様子を見ていた菅原司が、崩れるように床に座り込んだ。

「オーラは王家の象徴……。誰よりも、オレのオーラは父上に似ている……」
 自分の手から立ち上る漆黒のオーラを逃したくないように、両手を胸に抱え込む。

「オレこそが、王である父上に一番近いオーラの持ち主……」
「司様……」
 本庄妙子がそっと司の背に寄り添う。

「そのオーラがなくなってしまう…。月の王子に選ばれたのもミロク………」
 司のつぶやきに、忍が、ああ、と思いついたように、

「ミロクはデュール王家直系の血筋だから月の王子の遺伝子を持っていた、というのは分かりますが……」
 クリスに抱きかかえられた香とその横にいる香の母に視線を向けた。

「香さんはどうして月の姫に選ばれたのでしょう?」
「それは……」

 口ごもる夏美の横で、マーティンが何でもないことのように、

『それは、斉藤香も直系の血筋だからだよ』
「え?」

 驚くクリスたちに見られ、夏美は大きくため息をついた。

「実は……香の本当の父親は、マーティン様、エレン様、カレン様の母違いの兄なのよ」
「ええええ?!」

 驚きの声が上がる中、香はピクリともせずクリスの腕の中で横たわっていた。



 香の父は、里中洋平という。
 先代のテーミス王、マイケル=ホワイトの落とし胤である。
 マーティンが幼いころには時々遊びにきていたが、そのうち音信普通になったらしい。

 夏美と香の戸籍上の父・斉藤政之と里中洋平は大学時代からの友人であった。
 夏美が洋平の子を身ごもった直後、洋平が事故で亡くなり、紆余曲折を経て、夏美と政之が結婚することになる。お腹の子は政之の子として育てることにする。



「香はまだ知らないの。高校を卒業した後で話そうと思っていたから……」
「…………」

 沈黙の中、皆のオーラだけが、ぐんぐんと月の女王に向かって流れていっている。

「………あ」
 いきなり、何かを思い出したようにイズミがつぶやいた。

「なんだ?」
「いや……たいしたことじゃないんだが」
 イズミはまじまじとクリスを見ながら、

「以前、香が、クリスのことは昔から知っている人みたいな感じがすると言っていたな、と思って。弟がいたらこんな感じじゃないか、とも言っていた」
「お、弟……」
 クリスがガックリと肩を落とす。

「二人は祖母違いのいとこに当たるってことだから、まあ、あたらずといえども遠からずかな、と」
「…………」
 クリスがズーンと落ち込んでいるところに、

『そういえば、クリストファー。ジーンから聞いたぞ。王位継承権を放棄する、と』
「…………」

 そんなことどうでもいい、と言わんばかりの視線をマーティンに向けるクリス。

『放棄は許さないぞ。お前にはカトリシアと共にテーミス家を……』
『テーミス家の存在意義はなくなる』

 白龍が強い口調でマーティンの言葉を遮った。

『オーラもなくなる。予言も終わる。もう我々にテーミス家を守っていく義理はない』
『お前は……』

「は、は、は。言われちまったなあ。マーティン」
 わざとらしい笑い声をたて、茶化すように織田将がマーティン=ホワイトの肩をたたく。

「そうだそうだ。もうテーミス家だのデュール家だの、昔話のような世界から解放されるのだ。我々は自由だ!自由になるのだ!」
「父上……」

 司、忍が驚いたように父王を見返す。

「オレはもううんざりなんだよ。このオーラも、デュール王家も、王位も、何もかも」
 誰よりも大量のオーラを上に吸い上げられながら、織田将は爛々とした瞳で言い放つ。

「オレはオレの力で、世界を手にする」

 それを聞いたマーティンが大量のため息をついた。
『お前はあいかわらずそんな夢みたいな話をしてるんだな……』

「夢ではない。この予言のおかげで夢も現実に向かってきたではないか。お前も協力しろ。これからはテーミスだのデュールだので牽制しあわなくてよくなるんだ。大手を振って手を組める」
『そんなこと……臣下達がなんというか……』
「だから!そこの小僧もいったではないか。もう、王家もなにも関係なくなるのだ。これからはマーティン=ホワイト個人として生きろ。お前はもう王ではない」
『………』
「そしてオレも、もう王ではない」

 空を見上げる織田将。その先には月の女王。
 つられてその場にいた全員が空を見上げた。
 光り輝く球体。
 地上のあちらこちらから光が吸い寄せられていたが、それもだんだんと少なくなってきたようだ。

「そろそろ終わりそうだな……」

 クリスたちのオーラが消えるのと同時に、まぶしい光が香とミロクの元に飛び込んできた。

「……香?」
「…………」

 クリスの腕の中で、ゆっくりと香の瞳が開く。


 東の空が、明るくなりはじめている。夜明けがくるのだ。
 新世界への夜明けが………。


---------------------



はあ。なんか緊張した。
次でラストです。

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月の女王-43

2014年10月27日 22時36分56秒 | 月の女王(要約と抜粋と短編)
あと3回で終わらせる!ために、サクサク要約。

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「オーラを無くすなど許さん。予言は成就させない」

 司がぎりぎりとマリア(香の姿)の腕をねじ上げている。

「やめろ!!」
『ちょっと!痛いってば!!何するのよ!!』

 マリアが思いきり足を振り上げ司のすねを蹴り上げた。

「………っ」
 司がひるんだすきに、マリアが倒れているアーサーの元に駆け寄る。

「なんで予言のことを知っている?」
 クリスが司を睨みつけると、リンクスがトランシーバーのようなものを床に置いた。そこからも、クリスの声が聞こえてきている。

「……盗聴器?」
「………まさかっ」

 スタンが慌てて自分の体のあちらこちらをまさぐると、パーカーの帽子の奥から小石ほどの大きさの機械が出てきた。

「………信じられない」
 呆然とスタンがつぶやく。
「オレを利用したの?リンク」

「先にオレを裏切ったのはお前の方だ。スタン」
 ふいと視線を外し、無表情に言うリンクス。


「オーラは王家の象徴。それがなくなるなどあってはならない」

 司のオーラが膨らんでいく。闇のような暗い暗い漆黒のオーラ。


 月光の間に似た部屋からガラスが割れる音が聞こえてきた。
 窓から侵入してきたのは菅原司専属先鋭隊の5人の男子学生。そしてポニーテールの美少女、本庄妙子。

 ミロクをとらえようとする先鋭隊と妙子。
 ミロクをかばう忍と真田。戦闘態勢をとる白龍とイズミ。

 香に手を伸ばす司とリンクス。

「やめろ!」

 香の前に飛び出すクリス。
 リンクスの腕にとびつくスタン。

 司の漆黒のオーラが広がっていく……

 と、その時。

『香、今よ!!』

 突然、マリア(香の姿)が叫んだ。
 
 一瞬の間のあと、香が立ち上がり、クリスの腕をつかむ。

「クリス、お願い!」
「!」

 胸に飛び込んできた香をとっさにクリスが抱きかかえる。
 途端に香の体がふにゃりとなる。魂が抜けたのだ。

「ミロク?!」
 ミロクも香と同じように忍の腕の中でぐったりとしている。

「月の女王が……っ」
 白龍とイズミの叫び。
 まぶしい光が近づいてきている。

「よ……予言は……」
 我に返ったように、司がオーラを充満させる。

「予言は成就させない!!」
「!!」

 香に向かって漆黒のオーラが放たれる。クリスがそちらに背中を向け、香を抱え込んだ。

「クリス!」
 白龍が叫ぶ。

 漆黒のオーラがクリスに直撃する……と思われたが。

「何?!」
 オーラが途中で向きをかえ、上に向かって吸い込まれていく。

「オーラが……」
 クリスからも鮮やかな青いオーラが立ち上っていく。見渡すと、白龍からもイズミからも、スタン、リンクス、アーサー、皆それぞれのオーラが立ち上り、空に佇んでいる月の女王へと吸い込まれていっている。
 色々な色が入り混じったまぶしい光彩。まさにこの世のものとは思えない美しさ。 



「見事なものだな」
 ひときわ大量の闇のオーラを空に吸い上げられながら、部屋に入ってきたのは……

「ち、父上……」
 司が呆然とつぶやく。

 そこにいるだけで空気が変わる威圧感の織田将。司、忍、ミロクの父親であり、現デュール王。

 息子にちらりと一瞥をくれると、織田将は入口を振り返った。

「さ、入ってくれ」

 促されて入室してきたのは、神経質そうなメガネの長身の白人男性。

「………マーティン」
 呆気にとられたクリス。そこにいたのは、マーティン=ホワイト。現テーミス王であった。


-----------------




オールスター全員集合、の回です。

ネタバレになりますが、織田将とマーティン=ホワイトはお友達なんです。
戦国ものとかで、敵国だけど子供同士は友達、な関係って憧れません?
今あらためて思いましたが、この物語、そんな私の大好きな設定を入れるだけ入れ込んであります^^;


本庄妙子と菅原司の関係もここで説明しておきます。

本庄妙子の母親はデュール臣下の家柄の娘でした。能力も何もありません。
父親はうっすらテーミスの血が入っている地球人。

父親と、長谷川広樹の姉との浮気をきっかけに両親は離婚。

まだ離婚する前、妙子は父親と広樹の姉と広樹と一緒に、遊園地や動物園に遊びにいったことが何度かあります。
父からは、会社の部下とその弟、と紹介されていて、妙子もそれを鵜呑みにしていました。
父からは口止めされていたけれど、うっかりそれを母に話してしまったことで、浮気が発覚。

母は妙子を連れ、家を飛び出しました。
路頭に迷っていたところを、偶然、司に声をかけられます。

母は司の愛人の一人となりましたが、一年も立たないうちに病死。
引き取るという父の申し出を妙子は断固拒否。
そこで司が後見人となり、今にいたります。


妙子の父は優しく優柔不断な男でした。
妙子は父のそんなところが大好きで、大嫌いでした。
妙子が強引で粗暴なところのある司に惹かれるのは、その反動かと思われます。

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月の女王-42

2014年10月24日 21時20分27秒 | 月の女王(要約と抜粋と短編)
要約。説明回。


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最終章 新世界



 ドーム型の天文台についた一行。高村と桔梗を見張りに残し、中へと入っていく。
 
『天文台なんてロマンティックね~~』

 キャッキャッとはしゃぎながら、マリア(香の姿)がアーサーに腕をからめている。
 それをムーーーーっとした顔で、なるべく見ないようにしているクリスとスタン。


 スタンはリンクスと別れ、ここまではアーサーの車に同乗してきた。
 その道中にマリアとのことを聞いたため、クリス同様、三年ぶりの恋人たちの再会を邪魔するのも気が引けて何も言えないらしい。


『そういえば、リンクス=ホウジョウはどうしてあそこにいたんだ?』
 ふと気が付いて、クリスが尋ねると、
 
『司の伝令に予言のこと伝えた後で山崩れに気が付いて、オレのこと心配で戻ってきたんだって~~』
 嬉しそうに言うスタン。
 山崩れに足を取られていたところを助けられたらしい。その後、バイクの後ろに乗せられて皆のところまで連れてきてもらえた、が、

『でもまた、司サマに報告~~とか言って行っちゃったよ』
 わかりやすくガッカリする。

『お前、これからどうすんの?』
『リンクが司の部下やめるまでお世話になります』
『………それいつ?』
『さあ?』
『………』


 そんな会話をしている中、織田家の月光の間によく似た星の見える部屋に通された。元々ここをモデルに月光の間を作ったらしい。


『さて、マリアさん。目的はなんですか?』
 部屋に通され、各々好きな場所に座った時点で、忍がマリア(香の姿)に向かって問いかける。


『あら、バレてた?』
 えへ、とマリアが舌を出す。


『東京に帰りたくなかった理由があるんですよね?』
『東京に帰りたくないっていうより、これからしばらく、月の姫、王子、戦士のみんなは一緒にいてほしかったの』
『なぜ?』
『これから、予言の総仕上げをするからよ』
 にっこりとマリアはほほ笑んだ。

『ミロク、月の女王の話、みんなに伝えてあげて』
「……うん」

 緊張した面持ちでミロクが話し出した。


***


 月の女王の内部は宇宙船のようであった。

 香と合体したミロクが、月の女王の中に入り、誘導に従ってコンピューターを起動させると、地球から多数の生命体が流れこんできた。
 魂たちは、球体の中で揺蕩い、個でありながら全であり、全でありながら個である、という不思議な状態になっていた。

 月の女王とは……

 3000年前、テーミス王家とデュール王家の能力者により作られた、イーティルに対する贖罪の証である。

 地球よりはるかに進んだ科学力を持ち、魔法力まで有していたテーミス星とデュール星。
 双方の利権争いから滅ぼしてしまったイーティル星を復活させるため、科学力と魔法力を結集して作り上げられたシステム。
 月と似た外観にちなみ「月の女王」と名付けられた。「つき」という言葉がイーティル語で「救い」を意味することにも寄っている。

 月の女王が、イーティル星の浄化終了時に合わせ、遺伝子上に組み込まれた月の姫、月の王子、月の戦士の魔法力を覚醒させる。

 そして……

 月の姫らの力で全テーミス人・デュール人のオーラ力すべてが月の女王に送り込まれることにより、イーティル星は完全に復活する。
 テーミス人とデュール人はオーラの力を失い、地球人と等しくなる。これからは地球人として地球という新世界を生きていくことになる。


***


 
 予言の全貌に誰もが絶句した。

「オーラを送り込む……? いつ?」
「これから。夜明け前には」

 クリスの問いに、ミロクがこっくりとうなずく。

 再び訪れる沈黙……。

 それを破るかのように、マリアが明るく言い出した。 

『それでね、たぶん、香の魂を抜け出す特殊能力もそのとき消えちゃうと思うから、今のうちに私、アーサーの中にうつろうと思って。で、皆さんにお願いがあるの』
『…………なんだ?』

 マリアはアーサーの腕にギュッと抱きつくと、
『同じ肉体に魂が入ってしまうと、こうやって抱きしめたりできなくなるでしょ? だから今のうちに色々したいから、二人っきりにさせて』

『色々ってなんだ!色々って!!』
『わーーーやらしいーーー!!』
 予想通り、クリスとスタンが大騒ぎする。
 アーサーは苦笑いを浮かべている。

『お前も何か言え!』
 クリスに指名されたイズミは冷静に、

『香はなんていってるんだ? 香次第だと思うが』
『香は……』

 マリアは人差し指でとんとんと頭をつつくと、

『香は目をつむるって言ってくれてる~~』
『…………』

 クリスとスタンが顔を見合わせ、ため息をつく。

『そこでイヤって言えないのが香だよな~~』
『優しいんだよね』

 渋々了承する2人。

『5分だけだからな!』
『あんまりすごいことしないでよー』
『わかってるわかってる~~』

 クリスとスタンの声を背に、マリアはアーサーの腕を取って部屋から出て行った。

『ほんとに大丈夫かな……』
『5分たったら様子見に行くぞ』
『見に行って……してたらどうする?』
『してたらって何を?』
『何をってそりゃ……』
『………』

 再び顔を見合わせるクリスとスタン。  

『いや、まさか……』
『まさか……ね』

 どちらからともなくマリアとアーサーの消えていったドアに向かって歩き出す。だんだん早足になっている。
 ドアノブに手をかけようとした、その時。

「!?」

 悲鳴が聞こえてきた。

「香?!」
「香ちゃん?!」

 あわててドアを開けると……目に入ったのは、床に倒れているアーサー。その横に立つリンクス=ホウジョウ。

 菅原司。

 そして、司に捕えられている香の姿であった。



------------------------



ここで設定説明…。

司の母親は、ベタに銀座のクラブのママ。
今も現役バリバリ。織田家から多額の融資を受けていて、安定生活。
織田家の中でも多少の権力を持っている。

忍の母親は、予言の研究者・風間氏の一人娘。
予言のことについて調べにきた織田将と恋に落ち、忍をもうける。
忍が幼いころに病死。


ミロクの母親は、正妻。織田将のはとこにあたる。
身体的にも精神的にも病弱で入退院を繰り返している。

忍が織田家に引き取られたのと同時期に結婚。
忍のことを気に入っており、ミロクの後見人にはぜひ忍を……と思っている。


そんな感じです。

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月の女王-41

2014年10月22日 22時20分47秒 | 月の女王(要約と抜粋と短編)
 香が祈るように手を前で組み、目をつむった。


 それから数秒後、バチッと目を見開き……


『アーサー!!』

 叫んだかと思うと、アーサーに勢いよく抱きついた。

「え?!」
「げっ」

 呆気にとられる周囲をよそに、香はアーサーの頬を手でかこむと、

『会いたかったわ! ちょっと大人っぽくなったわね! また背も伸びたんじゃない? 元気だった? 私がいなくて寂しかったでしょう?』
『………マリア』

 アーサーが呆けたように言う。

『マリア……マリア、マリア』
『何よ?』

 くるくるとしたいたずらっぽい瞳。香のものであって香ではない。まさしくこの瞳は……

『マリア……会いたかった』

 絞り出すように言うと、アーサーは強くマリアを抱きしめた。

『ごめん、マリア。君を助けてあげられなくて……』
『ううん。私が悪いのよ』

 マリアはアーサーから体を離すと、アーサーの手を両手でぎゅっと握りしめた。 

『あの時ね、ママから、ママは病気でもう長くないから、私をテーミス王家に預けるって言われて』
『え?! 初めて聞いたよ?そんな話……』
『うん。初めてしてるよ。それで、私、どうしても、ママともアーサーとも一緒にいたいって強く強く願ってたら、あいつが現れたの』
『あいつって、あのイーティル?』
『そうそう。あいつ、私のオーラと引きかえに願いを叶えてやるってテレパシーで伝えてきてね、だからオッケーしたんだけど、ひどいのよ!一緒にいるっていうのは、魂だけになってあいつの中に一緒にいるって意味だっていうの! やめてっていっても契約だっていってさ。取り込まれた後も散々散々文句言いまくってやったからあいつ辟易してたわよ。でも、ほら、あの怖いオジサンに使役されるようになっちゃったじゃない? 大変だったのよ~~。あのオジサン人使い荒いんだもん。でもちょっといい男よね、あのオジサン。ほら、なんて言ったかしら、俳優でいたじゃない? 似てるわよね?』
『マリア、マリア』
 ふっとアーサーが笑う。
『君はあいかわらずよくしゃべるね』

 マリアはニッコリと、
『やっと笑ってくれた』
『マリア……』

『とにかく、あなたが無事でいてくれて良かったわ』
『無事じゃないよ! 君がいなくなって、オレがどんな思いで……』
『泣いて暮らしてたの? あいかわらずね、アーサー』

 マリアはくすりと笑うと、背伸びをしてアーサーの首に抱きついた。

『あなたは私がいないとダメなんだから……』
『マリア……』

「えーーーーーー!香ちゃん!何やってんの?!」

 いきなり、叫び声がした。遅れてリンクスのバイクでここまで逃げてきたスタンである。

「なんでクリス止めないのーーーー!?」

 言われたクリスは、ぶすっとした顔のままで、

「そいつは香じゃない」
「香ちゃんじゃない……?」

『もしかして……あなたが私の弟?!』
「え?!」

 香の唇からでる流暢な英語にびっくりしたスタンは、

「なになになになにーー?!」

 いきなり香に抱きつかれてますますびっくりしてアタフタする。

「ど、どうしたの? 香ちゃん……」
『会いたかったわ! 私の弟! 名前はなんていうの?』
『え……スタンだよ?』
『そう! 素敵な名前ね。スタン。私はマリア。あなたのお姉さんよ』
『お姉さん……?』

 きょとんとしたスタンの頭をマリアはぐりぐりとなでまわすと、

『やだーすっごくかわいいじゃないの!さすが私の弟!かわいいかわいい!!』
「えええええ……っ」

 香ではありえない言動。

『本当に……オレの姉さんなの?』
『そうよ! 私はママに引き取られて、生まれたばかりだったあなたはパパに引き取られた。パパは再婚して幸せに暮らしてるから探したらダメって言われてたんだけど……パパは元気にしてるの?』
『ううん。パパは……』

『話してる中、悪いんだけど』

 クリスが、割って入る。

『場所を変えるぞ。そろそろ消防と警察がくる』
『消防?警察?』
『これだけ大規模な山崩れがあればな…。オレたちも事情を聞かれたりしたらまずい。こんな真夜中に大人数で何やってたんだって話になる』

『幸い、集落とは逆の斜面なので人的被害はないようですが、山荘のあたりは避難命令が出されたので戻れません』
 真田が冷静に説明する。

『これから東京に戻るか?夜中だから道路空いてるんじゃないか?明け方までにはつくだろ』
 クリスの発言に、マリアが、え!!っと振り向く。

『ちょっと待って……。あ、あなたクリスでしょ?そうでしょ?』
『……そうだけど』
 香の口から英語で話しかけらると妙な感じがする。

『そっかそっか~あなたがクリスね。ふーん』
 ニヤニヤしながらマリアがクリスを覗き込む。

『……なに?』
『あ、何でもない。香が怒りだしたから何も言えない』
『な、何を?!』
『まあ、いいからいいから』

 言葉と仕草でこんなにも違う人物になるのかと驚くほどの別人っぷりである。

『これから車で長距離移動するのは遠慮したいわ』
『なんで?』
『だって疲れたもの。ね?ミロク』

 いきなり話を振られたミロクが目をぱちくりさせながらも、うんうん、と肯く。

「ねえ、忍兄様、あそこには行けない? あの天文台」
「ああ、そうだね。大丈夫じゃないかな……」

 忍が視線を真田に向けると、真田が桔梗を促してバイクに乗り込んだ。
 先に行って、使用の手配をするらしい。

「天文台?」
 みんなの視線に、忍がニッコリとほほ笑む。
「夜空が良く見えますよ。ご案内いたします」



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ということで、第6章終わり。
次から最終章。

11月のはじめ、私、誕生日なんですわ。40歳になります。
人生80年の折り返しです。
ので、なんとなく、30代のうちに、10代後半に考えたこのお話を終わらせたいって気持ちになってきました。

ので、ピッチあげて要約しようとあらためて今思った。

けど、さあ、ちゃんと終わらせられるかなーー。


私のお話の考え方って、たいていシーンごと、なんです。
書きたいシーンと書きたいシーンをつなぎ合わせていく感じです。
なので、このシーンを書くためにはどう話を持っていけばいいんだ?
ってことに頭悩ませたりします。

次から最終章。あと書きたいシーンっていったら

・クリスの頬をつねる香

です。さて、どうやって持っていくかな^^;

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