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BL小説・風のゆくえには〜膝と膝(ブログ開設14年記念)

2020年08月11日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【浩介視点】

「飯食うとき、テレビつけようか」

と、慶が提案してくれたのは、一ヶ月くらい前のことだ。

 今までは、一人で食べる時や、どうしても見たい番組がある時はつけていたけれど、日常的にはなかった。食事をしながら、他愛のないお喋りをするのが至福のひとときだった。

 でも、感染症予防の一環で、食事は横並び、極力話さないで食べる……となって、その時間は無くなった。その上、食べるスピードも速くなってしまって、良くないなあ、とは思っていた。だから、

「賛成。じゃ、あっちで食べよっか?」

と、おれからも提案した。ダイニングテーブルからは、距離的にも角度的にもテレビが見えにくいけれど、テレビ前のローテーブルだったら若干近すぎるものの、見えやすいのだ。

 慶との距離も、ダイニングテーブルの時よりも近くなった。ローテーブルの下、あぐらをかいた膝と膝がぶつかる。

 いや、ぶつかる、じゃなくて、慶がわざと少し乗せてきてくれるのだ。

(可愛いなあ……)

 始めはそのことに気がつかなくて、座り直した時にぶつからないようにしたのだけれども、すぐにくっつけてくるから、さすがに気がついた。

(そういえば慶、高校生の時、バスの中で膝くっつけてきたことあったよな……)

 渋谷の足、あったかいな……って思った感覚が、ふっと甦ってきて、今更、ドキッとする。

(おれに片思いしてくれてたころだったかな……)

 あの頃から、慶はずっとおれにくっついてくれてたんだな……。

 そう思うと余計に愛しい気持ちが募ってくる。
 こうして一緒に暮らすことになるなんて、あの頃は思いもしなかったな……


 今日は祝日で病院は休みだったのに、仕事だった慶。でもいつもよりも早く帰ってこられたので、珍しく19時半に食事が終わった。が、

「…………浩介」

 慶がボソッと小さく言った。

「これ、うまい。まだある?」
「うん。あるよ」

 竜田揚げだ。明日の昼にアレンジして出すつもりで多めに作ってある。

「持ってくるね」
「いや、自分でいく」
「いいよ、座ってて」
「……じゃあ一緒に行く」
「え」

 立ち上がったおれの背中に、慶がピッタリとくっついてきた。

「慶?」
「一緒に行く」
「…………うん」

 ポンポンと後ろ手に慶の腿を叩いて、台所に移動する。

「慶……明日お休みだね」
「おお」

 おれも夏休み中だ。だから、

「食べ終わったら、イチャイチャしよ?」
「あ?」

 キョトンとした様子の慶に構わず、言葉を継ぐ。

「お風呂、一緒入ろ?」
「……あー」
「あー?」

 振り返ったけれど、慶はギューギューにおれの背中に顔を押し付けているから見えない……

「嫌?」
「嫌じゃないけど……」
「うん」

 サワサワとおれの脇腹のあたり、慶の温かい手が上下する。と、慶がボソッと言った。

「イチャイチャはベッドでしてーな」
「……っ」

 うわ……っ
 すっごい誘い文句!

 今すぐここで押し倒したくなったのを、何とか理性で抑えて、その手をギュッと握る。

「…………うん。ベッドでしよう」
「おお。その前に、食べる
「うん」

 台所に置いてあったお皿から竜田揚げを一つ取り、振り返る。

 あーん、として待っている慶。可愛すぎる……

 ぽんっと一つ、その小さな口にほおりこんで、我慢できずにギューッと抱きしめる。

 可愛い可愛い慶。

 咀嚼してる振動が伝わってきて、何だかものすごく幸せな気持ちになってくる。

「あー幸せ♥」
「ん」
「くっついてるっていいね」
「ん」

 ああ、早くもっとくっつきたい。

「終わった?」
「ん」

 慶はコクコクとうなずくと……

「もう一個食う」
「………」

 …………。そうですか。

「じゃ、はい。もう一個」
「ん」

 一口でいけるサイズを、また「あーん」としている可愛い口に放り込む。

 可愛い……

「…………慶」

 咀嚼音が終わったタイミングで、耳元に唇を寄せた。

 が。

「やっぱ、スープもおかわりしてーなー」
「……………え」

 おかわり………ですか?

 …………。そうですか……

「…………じゃ、ちゃんと座って食べようか」
「ん」

 ふいっと腕の中からすり抜けて、スープのカップを取りにいく慶。

 そうですか……まだ食べますか……

 スープの鍋に火をつける。キャベツのクタクタ具合が良い感じだ。

(おれも食べようかな……)

と、思っていたら、気が利く慶がおれのカップも持ってきてくれた。さすが以心伝心。

 それぞれのカップにスープをついで、また、ローテーブルの前に座る。

(…………あ)

 当然のように、くっつく膝と膝。愛しいぬくもり。温かいスープ。

「…………あー、うめー」

 ボソッと言う慶の声。

 たまらなくなって、そっと慶の膝の上に左手を乗せると、慶がちょっと笑って、温かい手を重ねてくれた。


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お読みくださりありがとうございました!
2006年8月10日がブログ開設記念日、ということで。2020年8月10日夜のラブラブな二人のお話を書いてみました♥あいかわらずオチも何もない小話でm(_ _)m

クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当に本当にありがとうございます! おかげでボチボチ続けさせていただいております。またいつか。よろしくお願いいたします。


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コメント (7)
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