【浩介視点】
「飯食うとき、テレビつけようか」
と、慶が提案してくれたのは、一ヶ月くらい前のことだ。
今までは、一人で食べる時や、どうしても見たい番組がある時はつけていたけれど、日常的にはなかった。食事をしながら、他愛のないお喋りをするのが至福のひとときだった。
でも、感染症予防の一環で、食事は横並び、極力話さないで食べる……となって、その時間は無くなった。その上、食べるスピードも速くなってしまって、良くないなあ、とは思っていた。だから、
「賛成。じゃ、あっちで食べよっか?」
と、おれからも提案した。ダイニングテーブルからは、距離的にも角度的にもテレビが見えにくいけれど、テレビ前のローテーブルだったら若干近すぎるものの、見えやすいのだ。
慶との距離も、ダイニングテーブルの時よりも近くなった。ローテーブルの下、あぐらをかいた膝と膝がぶつかる。
いや、ぶつかる、じゃなくて、慶がわざと少し乗せてきてくれるのだ。
(可愛いなあ……)
始めはそのことに気がつかなくて、座り直した時にぶつからないようにしたのだけれども、すぐにくっつけてくるから、さすがに気がついた。
(そういえば慶、高校生の時、バスの中で膝くっつけてきたことあったよな……)
渋谷の足、あったかいな……って思った感覚が、ふっと甦ってきて、今更、ドキッとする。
(おれに片思いしてくれてたころだったかな……)
あの頃から、慶はずっとおれにくっついてくれてたんだな……。
そう思うと余計に愛しい気持ちが募ってくる。
こうして一緒に暮らすことになるなんて、あの頃は思いもしなかったな……
今日は祝日で病院は休みだったのに、仕事だった慶。でもいつもよりも早く帰ってこられたので、珍しく19時半に食事が終わった。が、
「…………浩介」
慶がボソッと小さく言った。
「これ、うまい。まだある?」
「うん。あるよ」
竜田揚げだ。明日の昼にアレンジして出すつもりで多めに作ってある。
「持ってくるね」
「いや、自分でいく」
「いいよ、座ってて」
「……じゃあ一緒に行く」
「え」
立ち上がったおれの背中に、慶がピッタリとくっついてきた。
「慶?」
「一緒に行く」
「…………うん」
ポンポンと後ろ手に慶の腿を叩いて、台所に移動する。
「慶……明日お休みだね」
「おお」
おれも夏休み中だ。だから、
「食べ終わったら、イチャイチャしよ?」
「あ?」
キョトンとした様子の慶に構わず、言葉を継ぐ。
「お風呂、一緒入ろ?」
「……あー」
「あー?」
振り返ったけれど、慶はギューギューにおれの背中に顔を押し付けているから見えない……
「嫌?」
「嫌じゃないけど……」
「うん」
サワサワとおれの脇腹のあたり、慶の温かい手が上下する。と、慶がボソッと言った。
「イチャイチャはベッドでしてーな」
「……っ」
うわ……っ
すっごい誘い文句!
今すぐここで押し倒したくなったのを、何とか理性で抑えて、その手をギュッと握る。
「…………うん。ベッドでしよう」
「おお。その前に、食べる」
「うん」
台所に置いてあったお皿から竜田揚げを一つ取り、振り返る。
あーん、として待っている慶。可愛すぎる……
ぽんっと一つ、その小さな口にほおりこんで、我慢できずにギューッと抱きしめる。
可愛い可愛い慶。
咀嚼してる振動が伝わってきて、何だかものすごく幸せな気持ちになってくる。
「あー幸せ♥」
「ん」
「くっついてるっていいね」
「ん」
ああ、早くもっとくっつきたい。
「終わった?」
「ん」
慶はコクコクとうなずくと……
「もう一個食う」
「………」
…………。そうですか。
「じゃ、はい。もう一個」
「ん」
一口でいけるサイズを、また「あーん」としている可愛い口に放り込む。
可愛い……
「…………慶」
咀嚼音が終わったタイミングで、耳元に唇を寄せた。
が。
「やっぱ、スープもおかわりしてーなー」
「……………え」
おかわり………ですか?
…………。そうですか……
「…………じゃ、ちゃんと座って食べようか」
「ん」
ふいっと腕の中からすり抜けて、スープのカップを取りにいく慶。
そうですか……まだ食べますか……
スープの鍋に火をつける。キャベツのクタクタ具合が良い感じだ。
(おれも食べようかな……)
と、思っていたら、気が利く慶がおれのカップも持ってきてくれた。さすが以心伝心。
それぞれのカップにスープをついで、また、ローテーブルの前に座る。
(…………あ)
当然のように、くっつく膝と膝。愛しいぬくもり。温かいスープ。
「…………あー、うめー」
ボソッと言う慶の声。
たまらなくなって、そっと慶の膝の上に左手を乗せると、慶がちょっと笑って、温かい手を重ねてくれた。
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2006年8月10日がブログ開設記念日、ということで。2020年8月10日夜のラブラブな二人のお話を書いてみました♥あいかわらずオチも何もない小話でm(_ _)m
2006年8月10日がブログ開設記念日、ということで。2020年8月10日夜のラブラブな二人のお話を書いてみました♥あいかわらずオチも何もない小話でm(_ _)m
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