登場人物
村上哲成(むらかみてつなり)
色白、眼鏡、身長159cm、某電機メーカー子会社勤務。
色白、眼鏡、身長159cm、某電機メーカー子会社勤務。
中学からの同級生・村上享吾と長い長い回り道した末、ようやく一緒に住むことになった。は、いいけれど……
村上享吾(むらかみきょうご)
容姿端麗。人目を引くイケメン。身長178cm。会計事務所を開業したばかり。
ずーっと思いを寄せていた哲成とついに……ということで、積もりに積もったものがあるのですが……
渋谷慶(しぶやけい)
小児科医。中性的で美しい容姿に反して性格は男らしい。身長164cm。
哲成とは小・中・高と同じ学校。
『風のゆくえには』本編主人公1。
桜井浩介(さくらいこうすけ)
フリースクール教師。慶の親友兼恋人。現在慶と同棲中。身長177cm。
『風のゆくえには』本編主人公2。
2019年10月中旬のお話。
【慶視点】
小学校中学校高校、と同じ学校だった村上哲成・通称テツが突然うちにやってきたのは、日曜日の夕方のことだった。
「享吾は?」
聞くと、テツは「知らね」とムッとして言ったので、浩介と顔を合わせてしまう。
(ケンカでもしたのか?)
二人が長い長い親友時代を経て、ようやく「恋人」として暮らし始めたのは、2ヶ月ほど前のことだ。
(3のつく期間は、何とかっていうもんな……。3ヶ月目の……)
なんて余計な詮索はせず、「まあ、飯でも食ってけ」と、誘うと、テツは仏頂面で「サーンキュ」と言った。
(その言い方、ガキの頃から変わんねえな)
ふっと、顔までも子どもの頃とダブる。昔に戻ったみたいで、懐かしい。
***
浩介の旨い飯を食わせながら、酒をすすめたら、テツはアッサリと今日きた理由も話しだした。
ようは最近、享吾が素っ気ない、という愚痴を言いに来た、ということだ。
「おれ、呆れられたのかもしれない」
「なにを今更……」
テツの言葉にこそ、呆れてしまう。呆れる、だなんて今更だろう。何年一緒にいるんだ。
「何か思いあたることがあるのか?」
ズバリ問いかけると、テツは、あーとかうーとか言ってから、観念したようにうなずいた。
「あるといえばある……」
「なんだ?」
「あー……」
人に話す話じゃねえんだけど……、とボソボソと話しだした話を要約すると……
ようは、一週間ほど前、飲み会で出た貝にあたったらしく、帰宅後、ひどい嘔吐と下痢に見舞われ、享吾にその介抱をしてもらった、ということだ。
「別にそのくらいのことで……」
「そのくらいってさ!」
こちらの言葉にかぶせて、テツが悲観的に叫んだ。
「吐いただけならともかく、漏らした下痢の処理もだからな!? 普通引くだろ!」
「え、別に引かないでしょ」
食器を下げるために台所とダイニングテーブルを行き来している浩介が、キョトンとして答えた。
「おれ全然する。喜んでする。むしろそんな慶を……痛っ!」
「………」
嬉しそうな浩介の足を軽く蹴って、変な発言をやめさせる。何を言う気だお前は。
でも、まあ、意見は同じだ。
「おれもそんなことで呆れたりしないと思うぞ?」
「えー……じゃあ、オレがあまりにも、朝メシ食えって言うからとか?」
「なんだそりゃ」
これも詳しく聞いたところ、「朝はコーヒーだけでいい」という享吾に対し、テツは何かにつけて朝食をすすめているそうで……でもそれは、今にはじまった話ではないらしい。
「じゃあ関係ねえだろ」
「えー……じゃあ……」
テツはうーといいながら身を折りかけてから、「まさか!」とハッとしたように叫んだ。
「『あきれた』じゃなくて『あきた』とか!?」
「んなわけあるか」
まだ付き合い始めたばっかだろ。
言うと、テツは「でも……」と、下を向いてしまった。
「………。享吾と、この話したのか?」
「してない」
テツが下を向いたまま続ける。
「今日は休みだからゆっくり話しようと思ったのに、仕事が入ったって言って出ていったきり帰ってこないし……」
「そうか……」
それでたまらずうちに来たってわけか。
沈黙が続く中、
「でも、村上……」
浩介が何かを言いかけた。
が、
「あ、えと、お茶入れるね」
食器を持って、また台所に行ってしまった。
何だ?
とは思ったけれど、とりあえず場を繋ぐ。
「享吾、日曜まで仕事なんて忙しいな」
「…………本当に仕事かどうかなんて、嘘つかれたら分かんないけどな」
「テツ……」
そこは信じてやれよ……
「まあ……とにかく、ちゃんと話せよ?」
余計なことは言わず、それだけに留めると、テツはコックリとうなずいた。
***
テツが「ちょっと酔冷まし……」と、ベランダに出ていったところで、浩介がソソソっとおれの隣にくっついてきた。
「あの……慶」
「さっき言いかけた話か?」
「…………うん」
コッソリと、こちらに向けられたスマホの画面には、ラインのやり取りが。相手は……
「享吾?」
「うん。一昨日の夜に送られてきたの。この内容からして『飽きた』とかは、絶対にないと思ったんだけど、本人に言うのは何かなと思って……」
「ええと……? って、は!?」
思わず叫んでしまってから、慌てて口を閉じる。
な、なんなんだ!この内容!!
「お……お前っ、こんな……っ」
「って、嫌がると思ったから、言ってなかったんだけどさー」
えへへ……と笑った浩介にスマホを押し付け返す。
「え、もう読み終わったの?」
「終わってないけどいい!」
読んでられるか!
そこには、夜の営みの際に使用する潤滑ジェルの使い方の話が繰り広げられていて……
享吾からのメッセージには、
『色々調べたけれど、凹凸の凹に塗るパターンと凸に塗るパターンがある。どっちが正解なんだ?』
って! んなことラインで真面目に聞いてくるなー!!
『どっちが正解とかないよ。どっちでも大丈夫だよ。凹側の場合の注意点は……』
って、浩介! 真面目に解説するなー!!
「……お前、まさか具体例を出したり……」
「してないしてない。あくまで一般論的に返答しただけ!」
浩介はスクロールしながら、機嫌良く言葉を足した。
「凹凸の凹とか凸とかって言い方面白いよね。うちもこれから使おう」
「使うって使う機会ないだろ」
「んーじゃあ、今、使う」
浩介、ヘラヘラしながら言葉を続けた。
「うちは、凸に塗るパターンが多いよね」
「…………」
「なぜなら慶が凹を指で触られるの好きじゃないから……って痛い痛い痛いっ」
「…………」
アホな返答に無言で蹴りを入れているところに、テツがベランダから戻ってきた。変な顔をしている。
「なあ、もしかして、キョウに連絡した?」
「あ、うん」
浩介がコクコクうなずいた。
「ごめん、余計なことかなと思ったけど……村上、もう着いたんだ?」
「うん。今、車から降りて……」
言いかけたところでインターフォンがなった。画面の向こうには、当然、享吾の姿がある。
「おー、享吾。上がって飯食ってけ」
返答しながら、解錠ボタンを押してエントランスに通じるドアを開けたけれど、
『いや、いい』
相変わらずの涼しげなイケメンは、軽くこちらを手で制すると、
『車で待ってる』
ボソッとそれだけ言って、画面から消えてしまった。
「…………。だってよ」
「村上、頑張って!」
浩介の声掛けに、テツはあーともうーとも言えない呻き声をあげた。
「何を頑張るんだよー」
「そりゃもちろん、ジェ……って!」
「とにかく!」
浩介が変なことを口走る前に軽く小突いて言葉をかぶせる。
「とにかく、享吾とちゃんと話せ! 素っ気ないってのはお前の思い過ごしだと思うけどな!」
「えー……」
分かった……
テツは大きくため息をつきながら、なんとかうなずいた。
***
翌日の夜、テツからラインがきた。
『昨日はサンキューな。桜井にもくれぐれも礼を言っといて、だって』
…………。
なんだそりゃ。
「上手くいったってことかな」
「……さあな」
くれぐれも礼ってことは、浩介のアドバイスが役立ったってことだろうから、上手くいったんだろうけど……んなこと知りたくもない。
「じゃあ、うちも……」
すいっと、浩介が腰に手を回してきながら、耳元に唇を寄せてきた。
「慶、明日休みだし……」
「…………」
「今日はじっくりと凹凸の凹に……」
「…………アホか」
呆れて言うと、笑いながら耳にキスされた。
次回は哲成視点。
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お読みくださりありがとうございました!
コロナ前の話なのでイチャイチャに制限なしです。早くこういう日常が戻ってきてほしい……。
と、いうことで、後編は哲成視点になります。5月中にはあげるつもりですっ。
お時間ありましたら、どうぞよろしくお願いいたします!