僕の大好きな詩人はこう言っていた。
「もしも君が何かを手に入れるならば、その時君は大切な何かを失うだろう」
僕の大好きな詩人はこうも言っていた。
「もしもすべてを手に入れたと思ったとしても、それは・・・大切な何かを失ったことに、その時は気がついていないだけだ」
僕はこう想った。
「大切な何かを失ったとしても、大切な何かを手に入れられたのだから、それはそれで良しとしようじゃないか」
なんのこっちゃ、今も昔も。ということで、人生は回っていく。
ワグリーは僕にとって、可愛い後輩であり、友人である。
だが、友人と袂を分かつなんてことは、人生においては多々あることだ。親友と疎遠になるなんてことも、極々普通に起こる出来事である。
僕は、ワグリーのことをよく思い出す。
それは、ワグリーが発した一言が、その後の僕の人生を決定づけた・・・からなのである。
それは、僕たちがまだ、仲が良かった頃の話。
ワグリーは、まだたったの16歳。僕はまだ、たったの19歳の夏。
僕には夢なんてなかった。それは本当のことで、夢なんて少しも描けないようなひねたガキで。
何になりたいわけでもなく、何になれるわけでもなく、大学に籍を置いてはいるが大学にはちっとも行かなくて、何もすることがないから暇を潰すためにバンドをやるような・・・そんなクソガキで。自分の未来になんて微塵の可能性も感じられず、漠然とした未来図さえも描くことが出来ず、ただ若き日々を費やす。それが普通。そんな普通のクソッタレで。
周りのバンドマンたちはどうだったか?
なんか、みんな、「プロになる!」とか、わけのわかんないことを言っていた。
なれるわけねーだろ?プロになんてなれるわけねーだろ?バカなんじゃないの?
こんなクソみたいな田舎の公民館で練習をしたりライブをやったりしてるヤツらが、プロになんてなれるわけねーだろ?バカなんじゃないの?
そう思っていたのは、僕だ。
じゃあ、僕は何になれるのか?もちろん僕は・・・何にもなれない。それが現実だ。夢なんて・・・ない。そういう人間なんだ、僕は。
ある日のこと。
公民館のステージに、足を垂らして座っていた。足をブラブラさせながら座っていた。
僕の隣で、ワグリーがベースを弾いている。16歳にしては高級品のベース、TUNEのベースだった。180センチを超える身長に、TUNEのベースがよく似合う。
ステージの縁で足をブラブラさせながら、ワグリーは目を閉じながらベースを弾いている。
僕は、ワグリーが弾くベースのフレーズを聴いている。
ワグリーがベースを弾く手を止めた。そして唸った。
「ゔーーうわーーー!早くプロになりてぇ!」
16歳のクソガキの戯れ言である。小さな町の、小さな公民館の、小さなステージで、16歳のクソガキが放った咆哮である。
どうしてかは分からない。どうしてその時だったのかは分からない。
僕の心の中で、何かが「パリーン」と音を立てて弾けた。これは本当の事だ。心がズキンとした。何かが割れたような音だった。
えっ?プロになんの?プロになれんの?てことは、おれもなれんの?おれもプロになれんの?
僕は、小学生の時の作文に「宇宙飛行士になりたいです」と嘘を書いた。宇宙飛行士になんてなりたくなかったし、なれるとも想っていなかった。書くことがなかったから、嘘を書いた。
あれからもう、たくさんの時間が過ぎた。
僕は19歳で、音楽のプロを目指し始めた。二十歳を過ぎる頃には、「プロになる!」と豪語していた仲間たちは、みんなプロを目指すのをやめてしまった。皮肉なものだ。
SONYのオーディションの最終選考に残った。新聞社主催のコンテストやラジオ番組のコンテストでグランプリを獲った。東芝EMIからのメジャーデビュー寸前まで話が進んだ。数える程だが、テレビやラジオにもたくさん出た。インディーズデビューを果たした。原宿ルイードを満員にした。路上ライブで100人を超える人を集めた。十年間、音楽と詩だけを売って生き抜いた。今現在、僕が作った曲がジョイサウンドのカラオケで6曲ほど歌えるようになっているらしい。
そのすべてが、ワグリーが発した一言から始まったということを、僕は今でも、しっかりと覚えている。
僕はプロなのだろうか?プロではないのだろうか?
もう19歳ではない僕は、そんな事はどうでもいい、と思うようになった。
ただ、ここまで来られたこと。これからも歩き続けていくこと。その始まりはワグリーの一言だということを、僕は永遠に忘れない。
このロクでもなく素晴らしき人生の出発点は、あのステージの上。
苦しかったなぁ、楽しかったなぁ、辛かったなぁ、面白かったなぁ、の出発点は、あのステージの上。
「ありがとう」と僕は言いたい。
ワグリーは、もういない。
ワグリーは、もうずっと前に、自らの命を絶って、どこか知らない遠い世界へいってしまった。
僕がそれを知ったのは、風の噂で。ワグリーがいなくなってしまってから、だいぶ時間が過ぎた頃だった。
僕が言いたいのは・・・「忘れないよ」
僕は忘れない。そういうことなんだと想う。
「もしも君が何かを手に入れるならば、その時君は大切な何かを失うだろう」
僕の大好きな詩人はこうも言っていた。
「もしもすべてを手に入れたと思ったとしても、それは・・・大切な何かを失ったことに、その時は気がついていないだけだ」
僕はこう想った。
「大切な何かを失ったとしても、大切な何かを手に入れられたのだから、それはそれで良しとしようじゃないか」
なんのこっちゃ、今も昔も。ということで、人生は回っていく。
ワグリーは僕にとって、可愛い後輩であり、友人である。
だが、友人と袂を分かつなんてことは、人生においては多々あることだ。親友と疎遠になるなんてことも、極々普通に起こる出来事である。
僕は、ワグリーのことをよく思い出す。
それは、ワグリーが発した一言が、その後の僕の人生を決定づけた・・・からなのである。
それは、僕たちがまだ、仲が良かった頃の話。
ワグリーは、まだたったの16歳。僕はまだ、たったの19歳の夏。
僕には夢なんてなかった。それは本当のことで、夢なんて少しも描けないようなひねたガキで。
何になりたいわけでもなく、何になれるわけでもなく、大学に籍を置いてはいるが大学にはちっとも行かなくて、何もすることがないから暇を潰すためにバンドをやるような・・・そんなクソガキで。自分の未来になんて微塵の可能性も感じられず、漠然とした未来図さえも描くことが出来ず、ただ若き日々を費やす。それが普通。そんな普通のクソッタレで。
周りのバンドマンたちはどうだったか?
なんか、みんな、「プロになる!」とか、わけのわかんないことを言っていた。
なれるわけねーだろ?プロになんてなれるわけねーだろ?バカなんじゃないの?
こんなクソみたいな田舎の公民館で練習をしたりライブをやったりしてるヤツらが、プロになんてなれるわけねーだろ?バカなんじゃないの?
そう思っていたのは、僕だ。
じゃあ、僕は何になれるのか?もちろん僕は・・・何にもなれない。それが現実だ。夢なんて・・・ない。そういう人間なんだ、僕は。
ある日のこと。
公民館のステージに、足を垂らして座っていた。足をブラブラさせながら座っていた。
僕の隣で、ワグリーがベースを弾いている。16歳にしては高級品のベース、TUNEのベースだった。180センチを超える身長に、TUNEのベースがよく似合う。
ステージの縁で足をブラブラさせながら、ワグリーは目を閉じながらベースを弾いている。
僕は、ワグリーが弾くベースのフレーズを聴いている。
ワグリーがベースを弾く手を止めた。そして唸った。
「ゔーーうわーーー!早くプロになりてぇ!」
16歳のクソガキの戯れ言である。小さな町の、小さな公民館の、小さなステージで、16歳のクソガキが放った咆哮である。
どうしてかは分からない。どうしてその時だったのかは分からない。
僕の心の中で、何かが「パリーン」と音を立てて弾けた。これは本当の事だ。心がズキンとした。何かが割れたような音だった。
えっ?プロになんの?プロになれんの?てことは、おれもなれんの?おれもプロになれんの?
僕は、小学生の時の作文に「宇宙飛行士になりたいです」と嘘を書いた。宇宙飛行士になんてなりたくなかったし、なれるとも想っていなかった。書くことがなかったから、嘘を書いた。
あれからもう、たくさんの時間が過ぎた。
僕は19歳で、音楽のプロを目指し始めた。二十歳を過ぎる頃には、「プロになる!」と豪語していた仲間たちは、みんなプロを目指すのをやめてしまった。皮肉なものだ。
SONYのオーディションの最終選考に残った。新聞社主催のコンテストやラジオ番組のコンテストでグランプリを獲った。東芝EMIからのメジャーデビュー寸前まで話が進んだ。数える程だが、テレビやラジオにもたくさん出た。インディーズデビューを果たした。原宿ルイードを満員にした。路上ライブで100人を超える人を集めた。十年間、音楽と詩だけを売って生き抜いた。今現在、僕が作った曲がジョイサウンドのカラオケで6曲ほど歌えるようになっているらしい。
そのすべてが、ワグリーが発した一言から始まったということを、僕は今でも、しっかりと覚えている。
僕はプロなのだろうか?プロではないのだろうか?
もう19歳ではない僕は、そんな事はどうでもいい、と思うようになった。
ただ、ここまで来られたこと。これからも歩き続けていくこと。その始まりはワグリーの一言だということを、僕は永遠に忘れない。
このロクでもなく素晴らしき人生の出発点は、あのステージの上。
苦しかったなぁ、楽しかったなぁ、辛かったなぁ、面白かったなぁ、の出発点は、あのステージの上。
「ありがとう」と僕は言いたい。
ワグリーは、もういない。
ワグリーは、もうずっと前に、自らの命を絶って、どこか知らない遠い世界へいってしまった。
僕がそれを知ったのは、風の噂で。ワグリーがいなくなってしまってから、だいぶ時間が過ぎた頃だった。
僕が言いたいのは・・・「忘れないよ」
僕は忘れない。そういうことなんだと想う。