現在、新年度予算や中期計画を策定中の方がたくさんいらっしゃることと思います。わが国に限らず国際的に景気後退局面に入っていると報じられています。
「“未曾有の経済危機”とか“世界同時不況”といった表現がマスコミや経済研究所などのレポートを賑わしているけど、このような状況は想定できていなかったのだろうか?」といった内容の質問が社内外を問わず数人の方から投げかけられてきました。
私見であり、短絡的な表現であることをお断りし、語弊のないようにお願いをした上で、以下のような話をしています。
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個別の現象は、その引き金となったインシデントや波及範囲・速度などに違いがあり、如何にも不意打ちを食らったような感じになるのは当然のことと思います。
大正や昭和の時代に遡らなくても、私たちは『平成不況』と言われている大きな不況を経験していますよね。平成不況については多くの政治家や学者の方々が“失われた10年”に代表されるように、10年不況と考えられており、既にこの不況からは脱出したものと考えられています。しかし、私は30年不況と考えています。
つまり、途中に何度かの景気回復局面らしきものはあるが、不況に弱い体質の抜本的な改善がなされないまま、市場開放、規制緩和、新たな設備投資が実現され、経済のグローバル化が進展している現状では少しのインシデントでもインパクトが強くなり、いつ不況に陥ってもおかしくない状態であると見ているのです。
社会が複雑化している現在、体質の弱さとなっている原因を端的に決めつけることができませんので、政府や経済界の対処も舵取りが難しいものと思います。
平成不況に対しては、『デフレ・負のスパイラルからの脱却』が標語の一つであったと思います。
インフレもデフレもどちらの状況も経済活動にとって悪者のように扱われますが、経済の安定あるいは成長を目指すならばインフレは必要な現象だと思います。ただ、インフレが行き過ぎないように監視し、コントロールし、コントロールがデフレスパイラルを引き起こさないように調整することが政府に求められます。
戦後の復興にあっては、欧米に追いつけ追い越せが一つの目標であり、再建にあたっては「揺り籠から墓場まで」の充実した社会福祉国家の実現も目論んでいたようです。復興に必要なのは経済の成長であり、福祉国家も経済成長無くしては果たすことができません。GDP(かつての指標はGNPでしたが)の構成上、経済成長に大きな貢献をするのは個人消費です。個人消費の伸びが実現されるには国民一人一人の可処分所得の増加が不可欠となります。このため、池田内閣においては「所得倍増論」が掲げられ、目標を達成し、日本経済を成長させました。また、田中内閣においては個人の可処分所得の増加に加え企業利益の増大=産業の振興が必要とし、「列島改造論」を展開し、土木・建設業を中心に事業振興が達成され、歳入増に貢献しました。これらの政策実施は一方で公共投資の常態化と利権の構造の醸成をもたらすという負の部分もありました。
公共投資の“べき論”は別の機会にお話しできればと思います。
平成不況はご存じの通り、平成バブルを終焉させるために実施された不動産取引における融資の総量規制と貸出金利の引き上げが引き金となったバブル崩壊に始まりました。その後、消費税率の引き上げ、賞与も課金の対象とする年金保険料及び健康保険料の引き上げ、年金受給額の段階的引き下げ、健康保険の自己負担割合の引き上げなど、財務バランスを優先した施策が示され、これはそのまま個人の可処分所得の減少=消費マインドの低下へと繋がり、不況を加速させたと言わざるを得ないでしょう。消費マインドの低下に慌てた政府は暫定措置として、閣議決定されていた給与所得者の所得税率の引き上げを景気回復まで見合わせることとしましたが、消費マインドを引き上げるインパクトは限られていたようです。
その後のITバブルによって、少しだけ、一部の“勝ち組”と称された人や企業は好況に沸きましたが、多くの人々にとっては無縁のバブル景気だったと思います。
直近の『戦後最長の景気拡大』は2002年2月から69ヶ月続いたと統計されています。この好況はわが国の経済基盤が強化・再構築されてもたらされたものではなく、米国市場や中国を始めとする新興国の消費増をあてにしたもので、多くの企業で活発な設備投資、人員確保が行われました。
しかし、海外での急速な市場収縮と円高の急伸、株価の下落によって状況は暗転し、いきなり過剰設備、過剰人員となって圧し掛かってきました。
好況により、政界も財界も先に不況脱却を目指した抜本的改革、リストラクチャリング(事業構造の再構築であって、労働者の整理ではない。)を実行せず、その間にそれぞれのリーダーが二世代以上交代するところとなり、結果として景況の変動に強い体質づくりがなおざりにされてきた“ツケ”が今回の不況を招いた要因の一つと言えるのではないでしょうか。
そう言う意味で今回の不況は想定の範囲にあったと考えています。