会社分割は、法人の事業部門の全部又は一部を、既存法人や新設法人に移転する制度で、「新設分割」と「吸収分割」とに区分されます。
「新設分割」は、分割した事業を新設の会社として承継させる方法(2条 30号)です。
「吸収分割」は、分割した事業を既存の別会社に承継させる方法(2条 29号)です。
事業の全部を既存法人に移転すれば、実態上は「合併」と同様の効果が得られることになります。
会社分割制度を活用すると、比較的簡便に目的を達成できることから、敢えて現象的表現をすれば、この制度を用いた「分社」、「合併」が多く行われるようになりました。
最近では、この不況下にあって、企業運営の効率化、TCOの低減が企業にとって重要課題となり、重複する業務について、親会社が子会社を「吸収合併」するケースが増えてきています。
吸収合併においては、会社法、商法、税法などへの適合性に多くの目がいきます。
とかくそれらの陰にかくれてしまう、子会社から親会社に転籍する従業員と廃止子会社に纏わる労働保険、社会保険の手続について整理してみました。
蛇足ですが、一定の要件を満たし、株主総会決議を不要とすることができる吸収合併について、吸収する親会社側では「簡易合併」、吸収される子会社側では「略式合併」と言います。
1.社会保険(健康保険、厚生年金保険)
事前に社会保険事務所、健保組合に相談すること!
吸収合併により吸収された子会社はなくなるので、社会保険(健康保険、厚生年金保険)については、管轄の社会保険事務所及び健康保険組合で子会社の被保険者全員の健康保険被保険者証を添えて資格喪失の手続きと事業所廃止の手続き(全喪届)を行うことになります。
そして親会社を管轄する社会保険事務所及び健康保険組合で改めてこれら元子会社の従業員を被保険者にする手続き(資格取得届)を行います。
<子会社の手続>
◇健康保険 厚生年金保険被保険者資格喪失届(全社員分)
(手続概要)
被保険者が事業所を退職した、死亡した、事業所が廃止になった等、被保険者が資格を喪失したときは届出しなければならない。
(手続根拠)
健康保険法第36条、第48条
健康保険法施行規則第29条、第51条
厚生年金保険法第9条、第14条、第27条
厚生年金保険法施行規則第22条
(添付書類)
健康保険被保険者証(被扶養者分も含む。)
(提出先)
(1) 厚生年金保険
事業所の所在地を管轄する社会保険事務所
(2) 健康保険
【協会けんぽ】
事業所の所在地を管轄する社会保険事務所
【組合健保】
加入している健康保険組合
(提出期限)
当該事実の発生から5日以内
◇健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届
(手続根拠)
健康保険法第33条
健康保険法施行規則第20条、第22条
厚生年金保険法第8条
厚生年金保険法施行規則第13条の2、第14条
(添付書類)
原則次のいずれかの添付が必要となる。
・解散登記の記載がある法人(商業)登記簿謄本
・雇用保険適用事業所廃止届のコピー
◇上記の書類の添付が困難な場合は、次のいずれかを添付すること。
・給与支払事務所等の廃止届の写し
・合併、解散、休業等異動事項の記載がある法人税、消費税異動届の写し
・事業廃止等を議決した取締役会議事録の写し
等
(提出先)
事業所の所在地を管轄する社会保険事務所
―組合健保の場合は健康保険組合にも届出が必要―
(提出期限)
当該事実の発生から5日以内
<親会社の手続>
○健康保険厚生年金保険 被保険者資格取得届(吸収する全社員分)
(手続根拠)
健康保険法第3条、第35条、第48条
健康保険法施行規則第24条
厚生年金保険法第24条
厚生年金保険法施行規則第3条、第15条
(添付書類)
[被扶養者がいる場合]健康保険被扶養者(異動)届
(提出先)
(1) 厚生年金保険
事業所の所在地を管轄する社会保険事務所
(2) 健康保険
【協会けんぽ】
事業所の所在地を管轄する社会保険事務所
【組合健保】
加入している健康保険組合
(提出期限)
当該事実の発生から5日以内
(その他)
子会社の従業員に、年金手帳の提出を求めること。
表紙の色がオレンジの手帳の場合は、「基礎年金番号通知書」の提出も求めること。
2.労働保険(雇用保険)
事前に公共職業安定所に相談すること!
雇用保険では原則として被保険者の同一事業主の認定手続きを行います。
この方法は、資格の取得・喪失の手続きではなく、親会社と子会社を同一事業主とみなして同一事業主における転勤と同じように転出・転入の手続きを行う方法です。こうすれば資格期間が同一事業主の下で通算されるので、子会社に勤務していた期間についても親会社の勤務期間とすることができ、従業員に不利益を与えなくて済みます。
同一事業主の認定手続きをする場合には、合併契約書、株主総会議事録、取締役会議事録、労働者の移籍に関する労働協約など、営業譲渡契約書、会社の登記簿謄本、移籍労働者の名簿、その他公共職業安定所が指定する書類が必要なので、事前に管轄の公共職業安定所の窓口に相談することが必要です。
<親会社の手続>
○雇用保険被保険者転勤届
(手続根拠)
雇用保険法第7条
雇用保険法施行規則第13条
(添付書類)
・同一事業主要件証明書(ハローワークで入手)
・合併契約書
・株主総会議事録(簡易/略式合併では不要)
・取締役会議事録
・労働者の移籍に関する労働協約など
・営業譲渡契約書
・会社の登記簿謄本
・移籍労働者の名簿
・異動辞令書類
・賃金台帳
・転勤前事業所に交付されている
被保険者資格喪失届
・氏名変更届
・その他公共職業安定所が指定する書類
(提出先)
事業所の所在地を管轄する社会保険事務所
(提出期限)
当該事実の発生から10日以内
<子会社の手続>
◇雇用保険の事業所廃止の届出
(雇用保険適用事業所廃止届)
(手続根拠)
雇用保険法施行規則第141条
(添付書類)
事業所廃止の事実が確認できる書類
(詳細は公共職業安定所に問い合わせる)
(提出先)
事業所の所在地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)
(提出期限)
事業所を廃止した日の翌日から起算して10日以内
◇労働保険徴収法では、子会社における労働保険料(労災保険、雇用保険)の精算手続きが必要になります。
保険年度の初日(4月1日)から子会社が廃止になる日までの期間について、労働保険料を算定することになります。
この手続きは、労働保険料の確定申告書を記載して、保険料の不足が生じればこれを納付し、過払いが生じれば還付の手続きをします。
3.日程
(前提)
A社:非上場(合併存続会)
B社株式の100%を保有する特別支配会社、合併対価は軽微
B社:非上場(合併消滅会社)
<最短スケジュール>
(注)
公告の予約手配をする頃には、公認会計士、司法書士へも詳細説明を行い、協力を要請しておくことが重要です。
合併日は、経理担当者の立場で考えれば、決算がほぼ確定している10月1日、4月1日にすれば、開示資料作成の負担が少なくて済むようです。