2016年6月24日(木)、イギリスでは“EU(欧州連合)に残るべきか離脱すべきか”の国民投票が行われ、離脱票が過半数を占めました。
イギリスがEUを離脱する! 大変だ! 世界が大変なことになる! 日本への影響が計り知れない!
など、巷では「大変だ!」「大変だ!」と囂(かまびす)しい。
キャメロン首相は残留派だったので、「国民から逆の選択を指示されたので、離脱手続きをする国の代表者として相応しくない」と辞意を表明しました。
これは、イギリス首相職と保守党党首職双方の辞任を意味します。
イギリスがEUから離脱するには、リスボン条約50条を行使しなくてはなりません。上述のキャメロン首相の考えに基づけば、この仕事は自身には相応しくないので、次期首相が担うべきだとしています。
キャメロン首相が辞任し、新たに下院議員(Member of Parliament, MP)の総選挙で下院の過半数の議席を獲得した政党の党首が首相として任命されるまでには約三か月が費やされ、10月頃になると思われます。
保守党は9月2日、第一金曜日までに新党首を選任するとしています。
EU加盟国がEUを離脱するにはリスボン条約 50条を満たすことが必要と繰り返し報道されています。
リスボン条約とは、2009年12月1日に発効した「欧州連合条約および欧州共同体設立条約を修正するリスボン条約」のことで、EU(欧州連合)の統治制度の簡素化、合理化を目指す国際条約です。マーストリヒト条約、ローマ条約およびそのほかの文書を修正し、2007年に草案が策定され、2008年に大半の加盟国が批准しましたが、アイルランド・ポーランド・チェコでは批准が遅れました。
既加盟国の離脱については
○理事会に離脱を表明してから二年間以降に離脱しなければならない
○理事会の全メンバーの賛成で離脱に関する協議の期間を伸ばすことができる
○EU加盟国27か国中の20か国が賛成すれば離脱可能である
○離脱しようとする国は、他の加盟各国と直接協議をしてはならない
○離脱しようとする国と理事会の間でのみ離脱に関する協議をすること
などとされています。
従って、イギリスの実質的な行政権者である首相が欧州理事会に離脱を表明してから、最低でも二年は掛かることになります。
キャメロン首相が引退し、10月に新首相が選任され、その後、その新首相がEU理事会と協議を進めていくことになるので、離脱は早くて2018年末、普通に予測するなら2019年になるのではないでしょうか。
EU(欧州連合)
ところでEU(欧州連合)ってなんでしょうか。私が中学生時代の世界史などではEECについて少し学んだように思いますが、その後、「EECがECになったって」とか「ECがEUになったらしいよ」といった乱暴な観測しかしていませんでした。そこで、「EUってなんだろう?!」。ヨーロッパにおける各国の利害を共有し、維持・調整する組織だとは思いますが、よく分かりません。手掛りを求めて、歴史などを簡単にみていきたいと思います。
様々な共同体からEUへの変遷略図
ECSC(European Coal and Steel Community、欧州石炭鉄鋼共同体)
・欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)は1951年のパリ条約で調印されました。フランスと西ドイツ、イタリアとベネルクス3か国(オランダ、ベルギー、ルクセンブルク)が加わりました。→これをインナー6か国といいます。
1951年4月18日パリで調印、1952年7月23日に発効、2002年7月23日、条約の定めに従い失効。欧州石炭鉄鋼共同体の目的は加盟国の石炭と鉄鋼産業を共同管理して、これらの資源の単一市場を設置することでした。
EEC (European Economic Community、欧州経済共同体)
1957年にベルギー、フランス、西ドイツ、イタリア、ルクセンブルク、オランダによって経済統合を実現することを目的とする国際機関として設立されました。
その後、1973年1月1日にアイルランド、デンマーク、イギリスが、1981年1月1日にギリシア、1986年1月1日にポルトガルとスペインが参加し、欧州12か国による経済共同体が構成されました。
EC(European Communities, European Community、欧州諸共同体←EUの前身)
同一の機構で運営されてきたヨーロッパの3つの共同体である、欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC;European Coal and Steel Community)、欧州経済共同体(EEC;European Economic Community=上述)、欧州原子力共同体(EAEC又はEuratom)の総称です。
・欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)は上述の通り。
・欧州経済共同体(EEC)も上述の通り。EECは、欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)や欧州原子力共同体(EAEC)が下位にあるような共同体として独自の法人格を有しながら存続してきました。
・1957年3月25日のローマ条約で調印・設立され、1958年1月1日に発効した欧州原子力共同体(EAEC=A European Atomic Energy Community、Euratom)は、欧州石炭鉄鋼共同体のような有効期限が定められていなかったため、核エネルギーに対するヨーロッパの有権者の敏感な考え方を斟酌し、現在も存続しています。
EFTA(欧州自由貿易連合)
1960年にイギリスが中心となって設立した自由貿易連合。イギリス、オーストリア、スウェーデン、スイス、デンマーク、ノルウェー、ポルトガルの7か国で1960年5月3日に結成。欧州経済共同体(EEC)の枠外にあった欧州諸国が加盟しました。
EC(European Community、欧州共同体 ← 欧州経済共同体 (EEC) の後身)
1992年に調印された欧州連合条約の下で導入された欧州連合の3つの柱のうち、第1の柱を構成する政策の枠組み。またはその政策の実現のために設置されている国家間の共同体を指していいます。
欧州連合の3つの柱とは、1993年11月1日に発行したマーストリヒト条約において定義され、2009年12月1日に発効したリスボン条約によって廃止された主要な政策分野です。
第1の柱「欧州共同体」- 経済、社会、環境政策分野
第2の柱「共通外交・安全保障政策」- 外交、軍事分野
第3の柱「警察・刑事司法協力」- 犯罪対策協力。かつては「司法・内務協力」とされていた
欧州経済共同体(EEC)が起源となっていたが、2009年のリスボン条約発効で3本柱構造が廃止されたことにより法人格を持つ共同体として消滅しました。
EU(European Union、欧州連合)
欧州連合の創設を定めた欧州連合条約=マーストリヒト条約(Maastricht;オランダ南東部の都市)は1992年2月7日調印、1993年11月1日に発効しました。
単一通貨ユーロの創設と3つの柱構造(欧州共同体の柱、共通外交・安全保障政策の柱、司法・内務協力の柱)の導入が附帯議定書で規定されました。
この3つの柱構造はリスボン条約の発効により廃止されました。
リスボン条約は2007年12月13日に加盟国の代表らによって署名され、2009年12月1日に発効しました。正式な名称は「欧州連合条約および欧州共同体設立条約を修正するリスボン条約」です。
ユーロ(EURO)
ユーロは、欧州連合における経済通貨同盟で用いられている通貨で、25の国で使用されており、そのうち19か国が欧州連合加盟国です。
1999年1月1日に決済用仮想通貨として導入され、2002年1月1日に現金通貨としてのユーロが発足しました。
【リスボン条約の概要】
○ JETRO資料 ― リスボン条約の概要
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