ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

才能鑑定士(女優篇1)

2023-06-08 13:42:17 | 短編

都内のオフィスのワンフロア。藤田利英はコーヒーマシンのボタンを押し、ブラックのまま口をつけた。そして、小さくなった人や車を見おろす。ダークネイビーのスーツが長身に映える。

「佐藤君、そろそろかな?」

「もう見えられると思います」

パソコンの前で慌ただしく手を動かしながら佐藤は言った。彼はまだ若い男性だ。20代だろう。

 

インターホンが鳴った。画面には中年女性と少女が写っている。二人を藤田自らが迎えた。

挨拶が終わったところで佐藤が言った。「あの滝口さん、料金が先払いになるのですが、キャッシュでお支払いと伺っていますが」

「はい」

母親が封筒を手渡した。佐藤は「確認させていただきます」と言うなり、中身を取り出し、手際よく万札を数える。10枚や20枚でないことは確かだ。

 

やり取りが終わるのを待って、藤田が二人を応接室へ案内した。

「どうぞこちらに」

やや低音の落ち着きのある声で、藤田は母と娘をソファーに座るよう促した。藤田はテーブルを挟み、彼女らと対面する形で自らの椅子に座った。

 

「今日は娘さんの鑑定ですね」

「はい。よろしくお願いします」

母親は娘と共に軽く頭を下げた。

「滝口彩乃さんですね」

藤田は娘に顔を向けた。

「はい」と少女は短く応じた。身長は普通だが、やや細身だ。女優を目指すというだけあって顔立ちは整っている。

「お父様も来られるということでしたが」

「はい。その予定だったのですが」

母親は困惑気味だ。

「急用ですか?」  

「父は私が女優になることに反対なんです」

彩乃は少し語気を強めた。

「なるほど。しかし、お父様の期待に応えられるかは分かりませんが」

藤田は少し口元を緩めた。

「ご存じのように0から100のポイントを提示します。といっても0と100は未だに誰もいませんが。50ポイントを基準にしてください」

「分かりました」

彩乃が頷く。

「現在、高校2年生の16才で間違いないですね」

「もうすぐ17才になります」

「私が知っている彩乃さんの情報はこれがほとんどすべてです」

彩乃は無言で頷いた。

 

 


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