いちばん端のいつもの座席に座り
電車の中を見渡すと
目に留まったのはひとりの美しい少女
うらぶれた街の、さびれた高校への通学途中、突然の僥倖
視線をそらすように窓の外を見た
朝の陽に照らされた古い建物たちが、鈍く輝いている
普段と変わらない風景に飽きて、再び正面を向くと
少女が目の前に立っていた
何と無防備なのだろう
きっと、僕が凝視できないことを知っているから無防備なんだ
話しかけたかった
しかし、少女も話しかけてきそうな雰囲気を漂わせていた
それに甘えて話しかけなかった
日々の対面は時の流れを感じるほど長らく続いた
少女に逢うたびに、僕の朝は優しくなり、素直になりさえもした
そして少女がついに話しかけてきた
「さよなら」
僕の卒業の日だった
言葉を返そうとした時、電車のドアが開き、彼女は姿を消した