ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

薄命

2020-09-28 11:52:45 | 
あなたの生まれ育った埼玉は、秋らしい澄み渡った空です
見えますか?

あなたが自ら死を選んだと聞き、驚き、また残念です
誤解を恐れずに言えば、あなたは死んではならない人だった
あなたが愛していた人も数多いことでしょう
しかし、その何千、何万倍の人があなたを愛していた
その人たちの悲しみは、女優を、いや、人を好きになった経験があれば分かります

あなたを初めて知ったのは、もう20年以上前のこと
朝に短く流れるドラマでした
和菓子を楽しそうに作るあなたの姿を見て「この子は人気者になるだろうな」と思ったものです
今でも強く印象に残るのは、余命いくばくもない若き外科医を愛する看護師役
陽だまりに咲くタンポポのような、あなたの温かな表情が忘れられない

時が流れ、あなたは凛とした美しさを漂わせる女優になっていた
映像では見なかったけれど、苺の夜にその本を読んでいる時、気が強く、されど美しい主人公の女警部補をあなたに重ね合わせた
この時のあなたが最も綺麗だったかもしれない

あなたは死に引き寄せられてしまった
本当の理由は誰にもわからない
もしかしたらあなた自身にさえ正確には理解していないのかもしれない
しかし、あなたが40年の人生を立派に生き抜いてきたことは何ら変わらない
天は優しさや美しさ、才能を欲しがる癖があるけれど
出来ることなら、その悪趣味はやめていただきたい

とにかく今は、あなたが生き地獄から解放されたことを願いつつ
冥福を祈ることしかできません
美しい人よ、さよなら
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

20才

2020-09-14 11:28:18 | 
あの頃はモノクロだったはずの風景が 
見知らぬ画家の手によって、鮮やかに色づけされているようだ

あれから随分経ったから今は知らない
しかし、当時の君たちは僕には眩しすぎた
未来だけを見ている目をしてた
僕には暗闇から太陽を直視しなければならない苦しさがあった
到底理解されるはずがない
電車に乗ることも、教室で授業を受けることも耐え難い人間が存在することを
僕は「辞めたくなったから」という言葉を投げかけ、彼らのもとを去った

昨日という薄っぺらい紙が何枚も、何百枚も、数えきれぬほど積み重なり、それはもはや動かしがたいものになった
その大きく固まった昨日の中で、想定外の経験をした者もいるだろう
もしかしたら当時の僕の状態を曲がりなりにも理解できる友もいるかもしれない
それだけ僕らは遥かな道を歩いてきた
言い方を変えれば年をとった
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする