ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

藤井聡太VS里見香奈

2018-08-26 14:00:44 | 将棋
8月24日、藤井聡太七段と里見香奈女流四冠が棋聖戦1次予選で対局し、藤井七段が里見女流四冠を82手で下しました。

82手という短い手数ではありましたが、中盤まで里見さんが優位に立ち、藤井君が1分将棋に追い込まれる密度の濃い対局でした。個人的には、里見さんに存分に力を発揮してもらいつつ、最後は藤井君に勝ち切ってほしいと望んでいたので、その通りの戦いになってくれて満足しています。

50人近くの報道陣が詰めかける注目の一戦。これまで勝利を期待されていた藤井君も、初めて周囲が負けを期待して集まっていることを肌で感じたことでしょう。しかし、さすがは藤井聡太。一瞬のスキをついての逆転勝ちは見事というほかありません。今季の成績も16勝3敗と8割を超え、いつの間にか勝率部門でトップに立ちました。

それにしても里見香奈さんはいいですね。素晴らしい。出身地と鋭い終盤の攻めになぞらえて「出雲のイナズマ」と呼ばれ、奨励会の三段リーグに上がった時は驚きましたが、個人的には女流としての魅力をそれほど感じてはいませんでした。しかし、この藤井七段との対局姿を見て、こんなに魅力的な人だったかなと思いました。以前とは随分、印象が変わりましたね。

彼女はファッションなどには興味がないらしく、対局時もスーツ姿。それは知っていましたが、こんなに格好よく見えるとは。対局前、藤井君の師匠である杉本七段の扇子を一定のリズムで動かしながら、伏し目がちに対局を待つ里見さんの動画を何度も見てしまいました(笑)。里見香奈を深津絵里に演じさせたい。里見さんはまだ20代ですから、新垣結衣とか、有村架純らと世代は近いのですが、何か違う。やっぱり深津さんかな。この対局の里見さんほど「凛々しい」「凛とした女性」という言葉がしっくりくることは珍しい。

この前、コンピュータソフト研究の不安点をあげましたが、逆に言えば序盤、中盤の研究にAIを活用すれば、女流棋士も男性プロと互角に戦える可能性が出てきたということでもあります。もちろん里見さんのように終盤の能力が高くなければいけませんが。里見香奈という逸材を女流という枠に留めてしまうのはあまりにもったいない。本人は三段リーグ退会の時点でプロ棋士は諦めたと話しているそうですが、今はプロ棋士に対して一定の勝率をあげれば編入試験が受けられるので、ぜひ女性初のプロ棋士になってもらいたいです。同じ女流棋士の妹さんはアイドルグループにいても不思議はないタイプの女性ですが、里見さんは「女性に生まれたことを後悔しているのでは」と思わせるほど将棋一途な人。その情熱は男性棋士に劣るものではないでしょう。
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100度目の夏

2018-08-21 18:57:52 | 
西宮の陽は大きく傾いていた
決勝は終わってみれば予想された通りの結果だった
13対2
大阪桐蔭春夏連覇
プロ候補生をずらり揃える大阪桐蔭に
今大会の主役となった秋田代表、金足農業は遠く及ばなかった

中盤、2点のリードを追いかける金足農業はバントで一死二塁とした
1点を取りにいく作戦は大阪桐蔭を安堵させたに違いない
金足農業は敵の心理を読む余裕もなく
甲子園の神様に縋ったのかもしれない

しかし執念虚しく、試合は5回でほぼ決した
エースの吉田投手が今大会初めてマウンドを降りてゆく

それでも甲子園に神様はいたのではないかと僕は思う
今から103年前の第一回大会
秋田中が準優勝しているのは何かの力が働いたような気がするのだ
そして甲子園のマウンドは分かっていただろう
長い旅路の末に桑田真澄や太田幸司が帰ってきてくれた事を

夏の終わりの空に虹がかかった
100年の球児たちの汗や涙が昇華したかのように
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無意味だと知りながら

2018-08-14 18:08:54 | 
カップルや家族連れで賑わう
ショッピングモールの片隅のベンチに
初老の男性がひっそり置かれている

雲一つない青空の雨傘
誰の目に触れることなく散った薔薇
現代を生きる人にとっての23世紀
暴投ばかりの剛速球
深く埋まって取り出せなくなった美しい記憶

ベンチの人よ
戻りたいのは貴方だけじゃない

遠くの英雄よりも
近くに転がる幸福とも言えないささやかなものを
僕は憎んでいた

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「泣き虫しょったんの奇跡」感想

2018-08-09 09:02:23 | 
藤井聡太四段はデビュー以来勝ちまくっていた。連勝記録の更新が視界に入ってきたプロ26戦目の対戦相手は瀬川晶司五段。この人なら尋常ならざるカメラの閃光にも臆することはないだろうと僕は思った。将棋界の歴史をたどれば、藤井フィーバーの前に世間の大きな注目を集めた棋士は瀬川さんなのだから。

物語は主人公の瀬川さんがプロ編入試験第一局で、現在の名人である佐藤天彦三段に敗れ、打ちひしがれている場面から始まります。そんな時、小学校時代の恩師から手紙が届きます。

瀬川さんは小学校4年生までは勉強も運動もできるわけでなく、家庭ではボクシング好きの兄にいじめられ、ドラえもんだけが好きなおとなしい冴えない少年だったそうです。しかし、小学校5年生の担任、苅間澤先生との出会いが彼の運命を変えていきました。この40歳を過ぎたぐらいの女の先生は、とにかく生徒をほめるのです。瀬川少年も例外ではありませんでした。ある時は詩を褒められ、ある時は絵を褒められ。そしてなぜか、5年生の間で将棋が大ブームになります。瀬川さんは少し指せる程度でしたが、それでもクラスの中では強い方でした。先生は「なんでもいいから、それに熱中して、うまくなった人は必ず人の役に立ちます。君は君のままでいい」と少年に説きます。初めて自分を肯定され、瀬川少年は生まれ変わりました。

将棋ブームが去っても2人だけはその魅力に取りつかれていた。瀬川少年と渡辺健弥君。瀬川さんの棋士人生でたった一人のライバル。彼は瀬川少年を「しょったん」と呼んだ。この二人は自宅も近所で学校から帰れば、どちらかの家で、盤を挟み火花を散らしていました。やがて健弥君の父親に将棋道場へ連れて行ってもらい、そこで熱心な師匠との出会いもあり、2人ともめきめきと腕を上げていきます。

そして迎えた全国大会。健弥君は準々決勝で敗れ、しょったんは優勝しました。そして迎えたもう一つの全国大会。健弥君は親の反対もあり、優勝しなければ、奨励会には入らないと道場の師匠に告げました。準々決勝で、しょったんと健弥君は対戦し、健弥君が勝ちました。しょったんは悔しさのあまりトイレで泣いたそうです。健弥君の決勝の相手は丸山忠久君。未来の名人ですね。健弥君は敗れ、奨励会入りを断念しました。ここから二人の道は分かれていきます。

瀬川さんは奨励会入りし、三段リーグ入りしたのは22才。年に2度、プロ棋士になれるチャンスがあるので、何とかなると考えていた彼も、次第に年齢制限のプレッシャーを意識していきます。そのころ、かつてのライバルである健弥君は、仕事をしながらアマ名人にもなりしっかりと自分の道を歩んでいました。焦りの中、精神的にも追い詰められていた瀬川さんは最後のチャンスも逃しました。その日、彼は涙を流しながら街をさまよいました。

その後も、瀬川さんには様々な困難が押し寄せます。そんな中で、一度は指さないと決めた将棋を再開し、サラリーマンとして働きながら次々とプロを倒していき、様々な人の助けもあり、プロ編入試験までこぎつけました。そして見事にそのチャンスをものにしたのです。


僕も10年近く前、闘病を中心とした半生を出版したことがありますが、過去の自分と向き合いながら書き続ける作業は苦しさもあったと思います。それでも瀬川さんの少し勝負師には不似合いな優しい人柄と、素晴らしい文才で上質の青春小説を読んだ気分になりました。



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2018-08-03 19:22:21 | 
痛いほどの眩しさをしかめ顔しながら
僕は長い暗闇を歩いている

昔はよく見た美しい光
それは儚く上質で点々と
少し甘い香りを漂わせながら輝いていた

それは希望の似合う者にしか見えない
未来を信じる者にしか見えない
遥か遠い夏の夜の光
僕はただただ懐かしむだけで
もう二度と目にすることはないだろう
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藤井聡太100局の節目

2018-08-02 09:15:57 | 将棋
藤井君流に言えば「節目」は「せつもく」と読むんですかね。藤井聡太七段がデビュー戦から100局目を迎え、西尾明六段を75手で下しました。

16歳0カ月での達成。85勝15敗。中原誠16世名人と並ぶ数字です。ただ、中原さんは100局達成時は19歳6カ月という事で、藤井君とは随分開きがあります。1年ほど前に、10年、20年単位で勝率8割棋士になってほしいと記したのですが、これが無謀に近いことは僕もわかっていました。将棋はどんなに強い棋士も7回に3回は負けるゲームですから。現在の勝率は8割5分。一見、8割棋士も可能には見えるのですが、これからは相手のレベルが上がってきますし、容易ではありません。しかし、藤井聡太ならばそれをやってのけるだけのとび抜けた能力を持っているのではないかという期待もあります。


ただこれから難しいと思うのは、AI時代に入り、将棋の才能そのものよりも、質の高い研究の方が大事になっていく可能性が高いことです。永瀬拓矢七段は「将棋に才能はいらない。いかに努力するか」という考え方のようですが、確かにこれからの時代にマッチしていると思います。今のところ終盤だけは努力や研究ではどうにもならないようなので、この聖域だけは個人的には守ってもらいたいですね。このような状況で藤井聡太は勝ち続けることができるのかやや不安です。

それともう一つ、藤井君が谷川浩司九段のような立場にならないか?つまり、将棋少年の憧れの的になった藤井君は、当然、彼らの目標とされるわけです。21才で最年少名人になった谷川さんに当時奨励会員だった羽生さんらの世代が憧れを抱くと同時に、格好の目標になり、彼らの成長を速め、やがて谷川vs羽生世代という構図となり、若い才能たちを谷川さんが一人で迎え撃つ形になりました。藤井君はそうはならないのか?将棋そのものの才能は谷川さんを上回る棋士が存在するとしたら、それは藤井君だけでしょう。しかしもう一つ、勝負師としての才能は藤井君が谷川さんより上です。それは勝率の高さが物語っています。

谷川の才能に大山・羽生の勝負術を兼ね備えた藤井聡太がこのAI時代にどこまで進撃できるのか、注目は尽きません。


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