ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

おじさんの跡

2023-01-31 12:31:03 | 

何年ぶりかで見たおじさんの顔は

写真の枠に収まっていた

「幸ちゃん来てくれたよ」

おばさんも随分、年老いた

珍しく近くまで足を伸ばしたので

折角だから寄ってみた

隣にあったはずの僕の自宅も

すっかり形を変え

知らない人々が住んでいる

おじさんが亡くなって半年あまり

僕は煙草のカートンから

おじさんが吸っていたハイライトを取り出し

仏壇に供えた

ハイライトのパッケージに遠い昔が映る

 

おじさんには、よく動物園やプールに

連れていってもらった

昼食の時は

「幸ちゃん、どんどん食べな」と

しきりに急かした

帰りに最寄りの駅を降りると

近くの居酒屋に入り

ビールを旨そうに飲んでいた

おじさんには娘が3人いた

ただし、おじさんと僕が出掛ける時は

ついてこなかった

 

ある日、おじさんは僕の家に来た

僕とおじさんは将棋を指したのだ

僕は負けた

あくる日だったか

おばさんに声をかけられた

「幸ちゃん、凄いね。将棋で勝ったんだって」

「いや、おれ負けたよ」

「でも、うちのは負けたって言ってるよ」

「えっ?」

意味が解らなかった

何故、勝ちを負けと言うのか

やがて少しずつ理解した

おじさんの格好いい嘘だと

小太りで黒ぶちメガネ

髪も薄いおじさんの

 

僕は仏壇の横に目を向けた

煙草のヤニで壁がだらしなく黄ばんでいた

 

 

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王将戦第3局 藤井が勝ち、2勝1敗に

2023-01-30 11:09:57 | 将棋

王将戦第3局は藤井王将が羽生九段を下し、2勝1敗としました。

2局を1勝1敗で終えた時は羽生ペースだと思いました。第2局の内容が羽生九段の充実が目立ち、対して藤井王将は、実際の形勢以上に悲観していたような負け方でした。

 

しかし第3局、藤井王将は終盤には勝ちを見切っていた様子でした。これで先手番22連勝。そんなに先手と後手で違うのかといえば、藤井王将に限れば大きいのではないでしょうか。

藤井君の後手番は必ず飛車先を突いて、相手に合わせていくスタイルなので、対局者はかなり深いところまで研究できるはずです。それが王将戦第2局でした。

ところが、第3局は羽生さんが4手目に角道を止めたことで、すでに藤井君の直接的な研究は生きない形になりました。だから後は力で勝負するしかありません。

 

次の第4局が大きな戦いになります。藤井王将が勝てば、3勝1敗となり、かなり有利になります。羽生九段が勝って2勝2敗となれば、これは混沌として分かりません。ただ、このシリーズは羽生さんの充実が目立っていますし、藤井君は2月5日から棋王戦が始まり、タイトル戦が重なることになります。決着が伸びれば、羽生さんにとっては有利になっていくと思います。

 

しかし、それにしても羽生善治、渡辺明を相手にダブルタイトル戦に挑む20才というのも、少し引いて見ると凄いことで、やはり藤井聡太は怪物なのだと改めて気付かされます。

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天使の夢

2023-01-27 11:21:47 | 

不妊治療には疲れた。

気かつけば私は40半ば

妻も40才を過ぎていた。

 

養子の話を持ち出した時

妻は反対すると思っていた。

しかし、思いのほか、妻は賛成してくれた。

私以上に疲れていたのだろう。

 

娘は中学1年だった。

親の虐待や育児放棄で私たちの子供になった。

同世代の子と比べて小さく

まだ小学生にしか見えない。

こちらも親になった実感は湧かないが

向こうはもっと理解できないはずだ。

暗闇にいた目をしていた。

娘は私たちのことを名字に「さん」付けで呼び、次第に「おじさん、おばさん」と呼ぶようになった。

私たちは勝手につけられていた「なお」という名に「ちゃん」をつけた。

 

娘ができて、1年が過ぎる頃になると

彼女はすっかり、他の生徒の身長に追いついていた。

やはり、栄養が充分でなかったのだろう。

この時期だろうか、娘はおじさん、おばさんに紛れて

たまに、砕けた調子で「お父さん、お母さん」と呼ぶようになった。

照れ臭かったに違いない。

ただし、私と妻の感慨は浅からぬものがあった。

「確実に親子に近づいている」

妻の目はそう問いかけていたし

私のそれも彼女に伝わっただろう。

 

高校に進学した頃には娘は美しく成長した。

私も妻も、彼女が産まれた時から見守っている錯覚にとらわれていた。

「なお」

何ていい名前を私たちは思い付いたのだろう。

しかし、娘には拭えない暗闇があるはずだ。

私は、この天使の夢から醒めたくなかった。

 

10年の歳月が流れた。

娘は大学卒業後、大手企業に就職し、しばらくして私たちの家を出た。

入社して5年程たった頃

娘は私たちの家に男性を連れてきた。

結婚を考えているという。

娘の隣に座るこの好青年が、私たちから娘を奪っていく。

娘たちは結婚式も行わず、入籍して新生活を始めたらしい。

 

そんな時、娘から手紙が届いた。

リビングの私と妻は、花の散った枯木のようだった。

「なんだい。改まって手紙なんて」

夢が終わる可能性に怯える私をよそに

妻は事務的に封筒を切り、目を通した。

しばらくして私に手紙を渡した。

それを手にした私の手は少し震えていた。

 

「今、私はとても幸せです。

12才までの私は生きながら死んでいました。

そんな私に少しずつ、温かい、柔らかい光が差したのです。

私は生きていることを初めて実感しました。

お父さん、お母さん、私に光を、温もりをありがとう。

私を産んでくれてありがとう」

私は暫く娘の文字を眺め続け、時折、目頭を押さえた。

 

 

 

 

 

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水平線(back number)

2023-01-24 10:33:09 | 歌詞

出来るだけ嘘は無いように

どんな時も優しくあれるように

人が痛みを感じた時は

自分の事のように思えるように

正しさを別の正しさで

失くす悲しみにも出会うけれど

 

水平線が光る朝に

あなたの希望が崩れ落ちて

風に飛ばされる欠片に誰かが綺麗と呟いてる

悲しい声で歌いながら

いつしか海に流れ着いて

光って

あなたはそれを見るでしょう

 

作詞は清水依与吏。バックナンバーはミスチルを手がけた小林武史氏がプロデュースしたバントだからか、最初から耳に馴染みました。

 

歌詞で印象的なのは「水平線」ですかね。

僕がよく見る動画は少女が主人公で、その辺りの世代に向けて書いているのだと思いますが、すでにそこを通りすぎた人にも、共感できる歌詞です。

 

最初は道徳の教科書のような始まりですけど、ここが大事なつかみになっています。

そして「水平線が光る朝にあなたの希望が崩れ落ちて…」と続いていきます。確かに人の悲しみって他人から見ると美しかったりするんですよ。でも、人間って愚かなもので人の痛みが理解できない。

確かにそれが普通の人間だけれども、「君はそうならないでね」というメッセージが込められています。それが冒頭の部分の「出来るだけ嘘は無いように…」という道徳の教科書的なところです。これは祈りであり願いです。

何も意味を考えずに歌詞を眺めていても美しい。バックナンバー、いいですね。

 

 

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王将戦第2局 羽生が勝ちタイに

2023-01-23 10:27:41 | 将棋

王将戦第2局は羽生善治九段が藤井聡太王将を下し、1勝1敗のタイとしました。

 

この一局を通して感じたのは、羽生九段の深い研究です。そして驚いた手は8二金です。先手の羽生さんから見て、左サイドに金を打ち込みました。

藤井玉は右サイドに居るので、随分、敵玉と離れた位置に金を放り込んだ訳です。「それなら、この場面で羽生さんは相当、時間を使ったんだろう」と消費時間を確認すると、確か2分だったと記憶しています。考えているというより、確認のための時間と言っていいです。

副立会人の稲葉八段が「この手を指すために10手前から組み立てることは自分には考えられない」とコメントしています。羽生さんは「筋の悪い手だけど仕方ない」と語っています。

筋が悪くても正しい手。そう、これはAIの手です。すでに前例のない局面なので、羽生さんの研究がいかに深かったかが伺えます。

 

棋士は研究者型、勝負師型、芸術型に分けられると言われます。勝負師型の代表は渡辺名人、芸術型の代表はこの日の立会人だった谷川十七世名人、そして研究者型は紛れもなく羽生九段。この研究者型が現在の主流になっています。

 

そのため羽生さんにとっては、必ず飛車先を突いて、相手の研究を真っ向から受けて立つ藤井君は、やりがいのある相手だと思います。

何度も言いますが、今の羽生さんは20代の羽生さんより、はっきり強いです。天才・藤井聡太がこの試練を乗り切るのか、乗りきれないのか。ここから仕切り直し。五番勝負に注目です。

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黙秘

2023-01-20 10:13:41 | 

カーテンをめくると、すでに光は差し込んでいた

気分はすこぶる悪い

 

「どうした?また体がだるいか?」

いつもの詰問の時間だ

「もういい加減、諦めたらどうなんだ。

お前、昨日も自転車で苦しくなって、何度も降りようとしたよな。たどり着いた時には、足がフラフラだったじゃねえか

診療時間1分の医者、何十年飲んでも良くならない薬。もういい加減、白旗あげて楽になれよ」

 

「俺はやってない。

まだ何も成し遂げてない。

もう少し黙秘する。」

 

詰問していた男は、やれやれという顔で部屋を出ていった。

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新型コロナ感染 藤井vs羽生、開戦

2023-01-11 09:21:47 | 将棋

新年早々、新型コロナウィルスに感染してしまいました。発熱から4日程は39度近い熱があったのですが、現在は解熱剤を使わなくとも、ほぼ平熱に戻っています。あとは喉の調子がまだですが、すでに発症して一週間以上が立ちますから、そろそろ今年もスタートといきたいところです。

 

先日、いよいよ王将戦が開幕しました。先手の藤井王将に対し、挑戦者の羽生九段は一手損角換わりという戦法を用意してきました。文字通り一手損しながら角を交換するのですが、羽生九段は引き出しが多いので、これまでとは、また別の楽しみもあります。

1日目の終わりから2日目の始め、つまり封じ手辺りではソフト的にもほぼ互角で、羽生さんの作戦は一応、成功したのだと思います。しかし、そこからが藤井王将の強さでした。桂馬の使い方が見事でした。

終わって見れば危なげない勝利でした。

 

敗れた羽生九段の感触としはどうなのか、これは羽生さんのみが知るところで、それよりも、感想戦をいきいきと楽しんでいるような様子は昔から変わらないのが羽生さんのすごいところです。

 

その探求心の強さは相手が30才以上年下の藤井君相手でも変わらない。年齢などその時は忘れてしまうんでしょうね。第2局以降も楽しみです。

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