客席に入ると、スモークが立ち籠め、蜷川さんの舞台の様な雰囲気を感じます。
しかし、客席近くに見える舞台の曲線が、蜷川さんとの違いをアピールしていました。
ステージを覆うスモークと、ブルーのライティングは、シーンチェンジの際の緞帳のような効果をしたり、光の中に包まれたような不思議な空間を醸し出しています。
幕が上がるとブランシェの語りが、ストリーテラーとして、さらにレイを見続ける1人としてドラクルの世界へと導いて行きます。
薄暗い森の中の小さな家で、信心深くひっそりと暮らす、レイとリリス。
しかし、レイには吸血鬼として凄惨な事件を起こした過去があり、リリスにも振り返りたくない過去が。
病に冒され具合の悪いリリスを気遣うレイ、医師ガミュギルが診察をするが、悪化する一方のリリスを気遣い、町の病院での検査を強く勧める。
が、家を離れる事を頑に拒むリリス。
レイとリリスの間には、ある特別な理由が。
さらに、ガミュギルにも、ある思惑が。
互いの体を気遣いながら、身を寄せ合うように暮らす2人。
リビングでレイの手を取り、『冷たくて気持ちが良い』というリリスの言葉が印象的です。
ある時、リリスの前夫アダムが治める国から、1人の男がリリスの元を訪れます。
プットというその男は、国に黒死病が蔓延し多くの人々が死に、残された人々も不安な暮らしをしている事を告げ、国に戻る事を懇願するのです。
自らの首から外したクロスをプットに手渡し、馬をも与え、この願いを断るリリス。
そんな出来事に追い打ちをかけるように、ジョンとマリーという恐ろしい2人が現れレイに悪魔の囁きかけを行う。
リリスを巡り、様々な思いが入り乱れます。
しかし、ラームという男が現れ、力ずくでリリスをアダムの治める国に連れ去ってしまうのです。
リリスを失ったレイは、怒りと失望から内に封印をしていた吸血鬼としての自分を目覚めさせ、神への信心を捨てリリスの元へ向かうことに。
1幕最後のシーン、悲しみと怒りに満ちたレイの叫びが心に響いてきます。
2幕は、薄暗い森の中とは異なり、荘厳さも感じる光が溢れるアダムの城でのシーンから始まります。
別れた妻のリリスに思いを寄せる、前夫のアダム。
リリスに嫉妬をする妻のエヴァ。
アダムやエヴァを利用し企みを巡らす司教。
リリスを巡る彼らの思いの中、リリスの過去が明らかに。
リリスの告白に、エヴァが真実に気付いた頃には、怒りに満ちたレイが城に。
しかし、司教の策によりレイは囚われのみとなってします。
捕われたレイを前にして、リリスが自らの罪を告白する。
やがて日が昇り、ラストシーンが。
レイの手をとり、リリスが語りかける最後の一言が、涙を誘います。
今回のキャストでは、勝村政信さんと山崎一さん以外は、初見の役者さんばかりでした。
歌舞伎を離れ、劇場で演じている姿を観るのは初めてのレイを演じる市川海老蔵さん。
感情を抑えて内面から怒りや悲しみを滲ませながている様子は、素晴らしいですね。
悪魔としての吸血鬼と言うよりも、吸血鬼となる前は人間であったことを考えさせてくれます。
宮沢りえさん、リリスの辛さ悲しみ、レイへの思い等々、素晴らしいですね。
リリスという女性の前世が語られたからと言う訳ではないのですが、『ひばり』を演じていた松たか子さんと声が似ている印象を受けました。
エヴァの永作博美さん、アダムの心を捕まえられない妻の辛さを演じていました。
山崎一さんは、2月の『ひばり』で演じていたシャルルを思い出します。
ドラクルの中では、吸血鬼レイを代々見つめ続けてきたものとして演じ、時にはストリーテラーとして客席に呼びかけます。
勢いあまって?客席に駆け下りてきた時には、あり得ない事とは解りながらも、ひばりのカツラのようなアクシデントでも起きるのかとさえ思ってしまいました。
森の中の家へ繋がる道での、渡辺哲さんとの駆け引きは笑いが起きていました。
今回の舞台では、1幕でのレイとリリスの家のシーンでの舞台設定がとても興味深いものでした。
リリスの寝室やリビングの見せ方。
ジョンやマリーが現れ、リビングからの消え去り方は、あの舞台設定があるからこそできたものですが、2人の役柄を思うとイメージ通りの効果だと感じました。
吸血鬼が存在するため、時にはかなり生々しい表現がされ、一瞬目を覆いたくなる様なシーンスが存在します。
音楽はDRACUL QUARTETと言う形で、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの演奏が、荘厳なイメージを奏でています。
公演は、26日が千秋楽となります。
興味を持たれた方は、シアターコクーンで。