ほぼ2年ぶりに、六本木・俳優座劇場で観てきました。
前回、311の震災の直後、13日に観ています。
震災の被害の大きさ、深刻さに、心の震えも収まらない状況での観劇でした。
この日、公演を行っていた所では、公演実施に対する賛否両論がありましたが、この公演も私自身も日常を維持することも大切な事と考えてのものでした。
ソーントン・ワイルダーの「わが町」は多くの劇壇で演じられてきているので、ご存じの方も多いことと思います。
今回の公演は前回同様に、この「わが町」を音楽劇という形に変えたものです。
遠目には、黒一色に見える舞台に、ミニマムのセットを使う舞台は、基本と同様です。
衣装のベースは、白いシャツにライトグレーのパンツもしくはスカート。
ミニマムのセットのため、所作で小道具がそこにあるかのように演じています。
3幕構成の舞台は、オープニングの葬儀シーンから始まります。
1幕は、架空の町「グローヴァーズ・コーナーズ」の街並みと、登場人物の紹介。
2幕は、ストーリーの中心のエミリーとジョージの結婚に至るエピソード。
3幕は、エミリーの葬儀を中心に人間の死生観を提示。
1幕と2幕は、2つの家族を中心に、何処にでもあるような日常を描いています。
そんな中、土居さんの演じるエミリーが可愛いです。
サウンドのマリアよりも若いエミリーを、上手く演じています。
彼女を観ていると、もう一度マリアを観てみたいです。
この何処にでもあるような日常を2時間ほどかけて演じていきますが、コミカルな部分も含めてしばしば笑いが起こります。
見方を変えると、平凡な生活を描いた日常の中にこそ、生きている人間には忘れかけている『生きている幸せ』があることを描いているのだと思います。
3幕では葬送の列とは別に、静かに座る人の姿が。
丘の上の墓地に埋葬された人達が、静かに様々なことを記憶から失いながら時を過ごしています。
麻乃さん演じるエミリーの姑・ギブス夫人の無表情で淡々と語る様子が、亡くなって時が経っていることを表しています。
死者が生きているときの自分を見ることができるため、夫・ジョージや子供、両親に会いたいと訴えるエミリーに、止めることを語るギブス夫人の「どうしてもというならば、何もないつまらない1日にする」事を話します。
幼い頃の自分の誕生日に戻ったエミリーの目に映ったものは、・・・。
前回は劇場全体が震災の大きさもあって、3幕では全体が泣いている感じでした。
私もその1人で、溢れる涙を止められませんでした。
昨年、7月末に響人がUNDERGROUND公演として「わが町」を演じていました。
この時、前回の俳優座劇場の記憶が蘇り、大泣きしてしまいました。
目の前にいた進行役の柳瀬さんには、奇異に映ったのではないかと思います。
今回、最初は躊躇ったのですが、同じ顔ぶれで再演されることを聞いたので、もう一度と思ったものです。
ラストは、目の前のエミリーと同じくらい涙がこぼれ落ちましたが、観終わってから安堵感を感じました。
以前、智恵さんの舞台を観て、ふとした時に泣き笑いしている自分に気付き、「自分は幸せなんだ」と感じたことがあります。
そんなことも、安堵感に繋がっているのかと思います。
改めてキャストを見てみると、歌が専門ではない方々が演じていますが、みなさん頑張っています。
中でも、ギブス夫人を演じていた麻乃佳世さん、印象に残りました。
終演後の茜色の空を見ていたら、ふとグローヴァーズ・コーナーズの朝が浮かんできました。
俳優さん達の目には、どんな朝の景色が見えていたんでしょうね?
エミリー・ウェブ 土居裕子(プランニング・クレア)
進行係 原 康義(文学座)
ギブス医師 瀬戸口 郁(文学座)
ギブス夫人 麻乃佳世(ジャンクション)元宝塚の娘役だった方だそうです
ジョージ・ギブス 粟野史浩(文学座)
ウェブ氏 川井康弘(俳優座)
ウェブ夫人 花山佳子(エンバシィ)
レベッカ・ギブス 保 可南(芹川事務所)
ジョー・クローエル/ウォーリー・ウェブ/
サイ・クローエル 茜部真弓(Pカンパニー)
ソームズ夫人 岡 のり子(テアトル・エコー)
サイモン・スチムソン 金子由之(劇壇昴)
ハウイー・ニューサム/ウィラード教授 金 成均(スターダス・21)
ワレン巡査 藤側宏大(文学座)
ピアノ演奏 佐藤拓馬