
(物陰から兄が殺されるのを見るリチャード。とにかく戦争という名の殺人をひたすら見てた。)
ああ、面白かったです。
紅組ダメ王ヘンリー六世ダメっぷりがここまでダメとは想像を超えていましたし、
白組の末息子リチャードの暗闇ぶりと異形の魅力も以下同文でした。
詳しくは後で書くとして、それだけは言いたかったので・・・
ここからが「後で」です。
「薔薇戦争」と名前は華麗ですけど、またまたひたすら紅白チャンバラ合戦の続いたパート2でした。主な登場人物たちもグサグサッ!と斬られて倒れて。
印象的だったランカスター(紅)のイケメン騎士クリフォードは、ずっとどこかで見たと思っていましたがBBCのサイトを見たら「ポルダークの・・・」と書いてありやっと思い出しました!!ポルダークの従兄弟のダメ男の君でした。ああ、これですっきり。
ポルダークのダメ男は完全にダメだったけど、ダメ王ヘンリー6世も負けていませんでした。家臣達が勇敢に戦っていた間、茂みに隠れて見ていて何もせず、挙げ句の果てには王冠を沼に投げ捨てて戦場逃げ出して牧場で現実逃避していたという!
しかし彼のダメ歴史の中でも、寒いイングランドの牧場でパンツ1枚でうろついても死なずに、ロンドン塔へ幽閉されても聖書などに現実逃避して生きていたとはすごい生命力ではないでしょうか。
ヘンリ-6世を見ていると、美男で詩人きどりで政治も戦争もできなかった生まれながらの王、リチャード2世をどうしても思い出します。リチャードが仕事はできなくても神々しかったのに比べヘンリーは凡庸で神にもそれほど愛されなかったのだなと気の毒になるけれど、暗いロンドン塔で9年間も生きていて死ぬ前に実はまた1年だけ在位したとは、よほど身体が丈夫だったのですね。誰でも何かしら取り柄はあるものです。在位は40年間と、父ヘンリ-5世の4倍でした。
史実と、シェイクスピアの原作とも少し違うドラマ版らしいですが、そのヘンリー6世と、まだエドワード王の弟だったリチャードの最後のシーンが良かったです。
今日帰宅後、図書館から「ヘンリー六世」の文庫を借りてきました。ヘンリーとリチャードの最後の会話とリチャードの独白を照らし合わせたくて。
原作を少しカットしていましたが、ロンドン塔にやってきたリチャードに対して王は、「お前は死刑執行人だ」と状況をわかっていながらも「予言しよう。世界は醜いお前のせいで不幸になる。醜いお前が生まれた時母親は不幸になった」とリチャードの痛いところを突くんです。ずっとズレていた王様、自分の刺客に対して自分を殺させるのは悪魔のように上手かったです。

(影から見る側から、こちらを見る側に回ったリチャード。でもいつも一人というのは同じ。)
そして最後の最後に、カメラの向こうの私たちに向かって語る(ゴッホの時に初めて体験した、ベネさんに見つめられるという体験再び!)リチャード、いわゆる「残忍な」とかそういう言葉がどれも当てはまらない、摩訶不思議な生き物のように見えました。ヘンリ-6世にも「生まれた時にすでに歯が生えていて人を噛み殺すために生まれてきた」と言われたばかりですし、自分をどんどんゴラムのように追い込んで生きるエネルギーに昇華しているかのようでした。
異形のヒーローを演じたら右に出る者はいないと思わせたベネディクト・カンバーバッチすごいです。「どこか憐れなすごい人」という発明家なんですかね。シャーロックといい、チューリングといい。
いよいよ「リチャード三世」で、最高に憐れな王様が見られるのでしょうか。