キャビン・プレッシャーのKuala Lumpurでは特にこれは書いておきたい!というトリビアは最初なかったんですが、「パイロットラウンジが必要だ!」というマーティンの主張に答えたキャロリンの台詞の引用が気になってました。
CAROLYN: Martin, if you can find an empty room on the airfield, you are welcome to sit in it; and if you can lure Douglas in and then keep him there long enough to read a paper at him, you’re a better man than I am, Gunga Din. Close the door on your way out. マーティン、もし飛行場に空いてる部屋を見つけたら、どうぞ中に入って座っていいのよ;そしてもしダグラスをおびきよせられたら新聞を読んであげる間彼をそこに座らせて。あなたは私より上等だ、ガンガ・ディン。ドア閉めてってね、出てく時は。(ガンガ・ディン=キップリングの詩/その前の台詞も詩より引用)
しかし実はキップリングという作家も「ガンガ・ディン」という詩も、植民地時代の人種差別の匂いがして、あまり近寄りたくなかったのです。ですのでこれ以上追求しないでスルーだわ・・・と思っていたのですが、ちょっと前のThe Economist/INTELLIGENT LIFE誌がニール・ゲイマン(ネヴァーウエアの原作者)を表紙&特集にしてたので眺めていたら、
下から3行目にキプリングを多大な影響を受けた作家としてあげているではないですか!そこで少しはキャロリンが引用した文のことを知りたくなりました・・・^^
まず作者はラドヤード・キップマン、ゲイマンが多大な影響を受けたのはおそらく代表作「ジャングル・ブック」を含めた児童文学でしょう。雑誌にも「16歳までに読んだものには良くも悪くも文学的影響を受ける」と書いてありますし。この人、ノーベル文学賞を受賞してるし、辞退こそしたけどイギリス桂冠詩人と爵位も打診されていた、非常に評価の高い作家です。でも日本ではキャロリンが引用したガンガ・ディンでさえ名前も聞いたことなかったのは(私だけ?)ばくっと言えば、大英帝国植民地時代の有色人種蔑視の思想を唱えた作家とされているからでしょう。
おそらくこの頃のヨーロッパの非白人人種に対する感覚は、地球が丸いと証明される前にこの世は平で海の縁から水は宇宙に流れ落ちていると信じてた人みたいなもんだと思います。特に植民地政策なんて白人以外は劣っているから啓蒙が必要だと理論武装せねばできないし。
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ディズニーで有名になった「ジャングルブック」だけどストーリーも知らなかった。ちょっと調べたら動物に育てられた人間の子供の話。台詞の英語が、動物達は完璧なイギリス英語を話すのに少年は植民地訛りらしい。そして少年は動物にも人間にも帰属できない葛藤をかかえるらしい。
回り道しましたが、「ガンガ・ディン」です。ストーリーのある詩で、19世紀インドが舞台、イギリス軍兵士の話で、ガンガ・ディンとはインド人の登場人物の名前。1939年にハリウッド映画にもなっており、
allcinemaによると、「インディ・ジョーンズ/魔球の伝説」にも影響を与えた冒険映画とあります!!うわー、ここで →ハリソン・フォード → ベネディクト・カンバーバッチ、と回って終わりになってしまいそう~
いや、話が終わってない。
ガンガ・ディンは控えめな東洋人らしい男で、イギリス兵には真っ黒だのニタニタしてるだの制服がボロいのとバカにされながらも、宝探しの冒険で勇敢な戦いを見せ、最後には自分の命を犠牲にしてまでイギリス人のために立派な行いをしたので、ついには「 you’re a better man than I am, Gunga Din. 」という評価を得て物語が終わります。(東洋人の自己犠牲に感動する話ってミス・サイゴンみたいで私はあまり好きじゃない)そうです、本来は、見くびっていた奴を見直したぞ、おい!という発言なのですが、これは詩の最後の1行として映画の名台詞として独り立ちして有名になってるので、キャロリンがマーティンに向かって「そんなにパイロットラウンジが欲しくば、自分で作ってダグラスに新聞読んであげなさいよ!あんたは上等なんだから(できるでしょうよ)!」と使われてしまったのですね。
キャロリンは元の詩での意味は無視してたのか、と少々がっかりな結果でしたが、この詩と作者を調べて感じたのは、イギリスの児童文学には冒険ものが多く人気と評価も高いなあ!ということ。既にご存知の方々、そんなことに今頃気づいたの?と思われたらすみません。
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エニッド・ブライトン冒険シリーズ
英語圏では冒険もので有名でも日本では「ノディ」くらいしか知られてないようです。でも昭和62年発行の和書を私は持っていて、出版はされたけど、売れなかったということですか・・・
特に、植民地時代には、その冒険が現実となって、世界中にイギリス人は実際に出かけてますけど、冒険もののフィクションが先なのかそれとも7つの海を渡った海賊の時代からある世界への野心か、どちらが卵なんでしょう。そして児童文学のみならず、詩という芸術でも、クリスティなどの娯楽探偵小説でもイギリス人はエキゾチックな土地を目差して・・・・
「The Lost City of Z/
ロスト・シティZ」のような旅にも出ちゃう!これまた「インディー・ジョーンズ」のモデルとなったとされてるイギリス人冒険家の伝記。しかも既にベネディクト・カンバーバッチ出演って
IMDbに書いてあるし。
私達には帝国主義とか民族迫害の歴史に見えることも、当事者にとっては、結果としてそういう一面もあったが、彼らの目に入って心に残ってるのは、勇敢なイギリス人が広い世界を冒険した物語なんですね。冒険家は権力や財宝の富よりも、冒険や夢そのものを愛してるんですしね。ニール・ゲイマンが、ベネディクト・カンバーバッチが少年時代にわくわくしたものは、そういうものって思っていいですか?