HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

脱SCへの地ならしは進むか。

2015-11-04 08:23:31 | Weblog
 久しぶりにローカルネタを取り上げてみたい。地場SPAで卸も行っている(株)リンクイットが福岡のど真ん中、天神地下街に都心型新業態「アトリエ・ド・ブージュルード」1号店をオープンした。

 同社は2000年7月、森 健太郎社長が務めていたアパレル商社の営業譲渡を引き継ぐ形で独立。翌年には自社における企画生産体制を確立し、ミセス向けの「ブージュルード」を開発し、SPA事業にも進出した。

 09年には「100店舗体制、年商100億円」の目標を掲げ、製造卸、小売りなどの事業会社に分社化し、各代表にも経営意識を持たせた。

 そして、店舗数が80店を超え、目標達成の目処がたったことで事業会社を吸収合併し、 13年9月にJACトレーディングから現社名に変更。2年後には株式上場をはたす構えだ。

 当初、ブージュルードでは、「生活を楽しむ40歳ミセス」狙いでMDを構築。客単価を15,000円と値ごろに設定し郊外SCを主体に展開した。そのため、小さな子供をもつヤングミセスまで取り込んだ。

 結果的にこれがエージレスで瀟酒な品揃えを生み、急成長の原動力となったのである。数年前から新業態の開発に取り組み、展開も始めている。今回のアトリエ・ド・ブージュルードの前には、「カバナ」という業態を開発した。

 こちらはコスメと雑貨とウエアをミックスしたもので、そのためにハワイブランドのコスメ「ボディ&ソウル」のアジア販売権を購入した。 雑貨は仕入れ商品、ウエアにはブージュルードのプレミアラインと他社の商品をミキシング投入。これが見事に当たったのだ。

 以前からミーナ天神で展開していたブージュルードは、都市部展開ではすこぶる好調だったが、活性化の狙いからカバナにリニューアル。そして、今度はアトリエ・ド・ブージュルード出店にもこぎつけた。

 場所は天神地下街5番街区で、「レカロ・カーサ」「フカヤ」など地元のミセス系セレクトショップが軒を並べるエリアだ。

 繊研新聞はネット版で、「アトリエ・ド・ブージュルードは20代後半~30代のOLに向けて感度の高い都市生活者の好奇心を刺激するアパレルやバッグ、シューズ、アクセサリー、コスメをミックスした提案を行う」と、同社のプレスリリースを引用した感じの記事を掲載した。

 しかし、20代後半~30代のOL向けの業態は、天神にはブランド、セレクトショップと著名なものがひしめき合っている。いくら同社の業態が郊外SCでは好調とは言っても、都市部のOL攻略では実績がないし、同社自身も手探りの段階だろう。

 幸い、同社ではメーカー、担当営業や取引先のバイヤー、スーパーバイザーや店長、店舗のお客まで加えた「新しい試みの展示会」を開催。直営店では他社製品が展開できるようなプラットホームづくりに注力する。今回の出店ではこれが生きたようだ。

 デベロッパーの福岡天神地下街開発としても、郊外SCに持って行かれているヤングミセスを取り戻したいのはやまやまだろう。でなければ、わざわざ「キャトルメラージュ」の斜向いに展開させるはずがない。

 キャトルメラージュは、フカヤのヤング業態、タンタンからのスピンオフ。もとはイムズの地下にあったが、そこがロニースコッツ系のDANROにリニュールされたことで、時間を置き苦戦気味の「ハンキーパンキー」と入れ替わるカタチで出店された。

 お客のエージも徐々に上がり、今では30代が中心のはずである。ただ、一部の別注を除いてほとんどが専門店系アパレルの仕入れ商品のため、ヤングミセスにとって決して安い買い物とはならない。

 それに対し、アトリエ・ド・ブージュルードは、母体がSPAだけにヤングミセスでも買いやすい値ごろ感のある価格帯が中心だ。働いて可処分所得が多いOLなら、経済的余裕もある。そこがデベロッパーの狙いでもあるだろう。

 お客が同街区にあるマインド編集のショップで買い物できれば、それだけで滞留時間は長くなり、買い回りも進む。天神地下街とて、都市型のショッピングセンターには変わりないのである。

 繊研の報道によると、同社も「商品本部直轄として50%は仕入れ商品で構成し、これから売れそうなものや現在の弱点などを探りながら業態を確立する」と言っているから、SPAセレクトとしての実験店舗、テストマーケティングとしてのスタートと言える。

 だが、ターゲットが「20代後半~30代のOL」と言っても、その中にはミセスもいる。だから職業、階層で区切るのではなく、天神で働く若いミセス層へのアプローチも含まれると考えられる。

 繊研は報道していないが、狙いはもう一つある。同社の店舗スタッフは店長以下、全員女性で、大半がミセスである。ブージュルードがメーンで出店する郊外SCでは、仕事を終えたミセスが夜、田んぼのあぜ道を帰宅するのは、とてもたいへんだ。

 かつてイオンは「狐や狸が出る場所に店舗を出せ」と宣言し、郊外市場を開拓した。しかし、肝心な郊外テナントは今、スタッフ不足に悩んでいる。ファッション業界全体もそうなのだが、パルコ買収に失敗したイオンのテナントは、なおさら厳しいだろう。

 岡山では都市型のモールも出店したが、地方で働く側の立場なら少しでも都市部の方が通勤は至便だし、退社後のテンションも違う。昼間はSCの巨大空間でも、タイムカードを押した途端、田舎の夜道を歩くのでは、なおさら防犯上の懸念もある。

 同社は子育て支援を実践しているだけに、ミセス社員はもちろん、これからミセスになるスタッフの身の安全まで保証しなければならない。福岡の都心部天神への進出は、こうした「脱郊外SC」への地ならしとも言える。あとはそれをどう進めるかだ。

 アトリエ・ド・ブージュルード天神地下街はその試金石となる。軌道に乗れば東京などのファッションビルからも出店要請が来るのは、間違いない。

 同社は2009年に100店舗、100億円の目標を掲げ、その達成の目処がたったことで、2年後の「上場」を決定している。それに向けて外部の会社とも連携し、ベンチャーキャピタルの支援も取り付けた。

 ただ、上場については、 それで「本当に社員は幸せになるのか」という迷いもあったようだ。しかし、「社員もお客も同社の株を持つことで、経営に参画できる」「頑張った社員はその分の利益に加え、自分の会社を誇りに思えるはず」と、上場を決断した。

 森社長はソニー元社長の出井伸之氏が友人の会社の顧問をしていたため、博多の総鎮守櫛田神社近くの居酒屋で相談を持ちかけたという。

 上場する意味がわからないと相談すると、出井氏は「大義があればいいと思うよ」との答えたとか。大義とはいったい何か。森社長は突き詰めて考えていくと、「みんなの会社、みんなのブランドにすればいいんだ」との結論に行きついたそうだ。

 自分たちが死んでも続いている会社。100年後も存続する企業。それこそが社会の公器である企業のあり方ということだ。脱SC宣言の先には、さらなる野望があるのかもしれない。
コメント
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