HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

接客スキルの標準化がカギ。

2015-11-22 08:09:08 | Weblog
 The FLAG(http://theflag.jp/)イッシュー。今回は「接客をアプリでする時代はやってくるのか」について。

 ICTがファッションビジネスに深く浸透した今、販売や顧客管理の「情報」をアプリケーションでやりとりするのは、自然な流れになってきた。

 ただ、業界で仕事をしてきたものとして言わせてもらえば、販売スタッフの提案力や購買客の来店、リピーターづくりのための顧客管理は、「店頭」でははるか前から行われていたはずである。

 AIDMAの法則を照らし合わせるまでもなく、商品は「注目する」「興味をもつ」「欲しいと感じる」「他と比較検討する」「行動に移る」という段階を踏んで売れていく。

 ウィンドウショッピングから来店し、接客を受け、購買にいたるお客の一連の心理は、昔も今も大して変わらない。

 そこにはプライス、オケージョン、テイスト、素材感、シーズン、在庫など、様々な条件が介在する。それらを軸に経験から来る販売スタッフの「接客術」によって、お客との間で交わされる濃密な会話やかけひきの末に、購買か否かが決まるのである。

 当然、お客の属性は様々である。シーズン前の先買い。好きなブランドなら金に糸目は付けない。消耗品のみの買い足し。マークダウンまで待つ。ポイントを有効活用する。バーゲンでしか買わない、等々だ。

 年齢を重ね、買い物のたびにお客の学習効果は上がっていく。商品を見極める目が養われ、販売スタッフの接客レベルを推し量る力ももつ。

 マインド編集したショップの場合、来店したお客が20代後半である時、接客に当たるスタッフが20代前半と若かければどう対応するのか。アプリがそうしたお客の属性をどこまで分析・管理、データ化し、それぞれに応じた接客を支援できるかなのである。

 販売スタッフも入社間もない新人から、2~3年の経験をもつチーフ級、5年以上のベテラン、ショップとスタッフをマネジメントする店長まで。接客のスキルは経験やキャリアに応じて格段に違う。

 有能な販売スタッフになると経験に関係なく、お客のことを脳裏にインプットしている。新人が接客で苦労している時には、さりげなくフォローに入ることもできる。実店舗ではこれが可能であり、バリューチェーンなら行われて然るべきだ。

 キャリアや能力によっても、商品に対する認識に差が生じる。バイヤーが仕入れてきた商品に対し、「あれは難しい。これは売れない。値段が高すぎ」と、不平を漏らすのは、経験が浅いスタッフに多い。

 しかし、豊富な経験を持ち、販売力があるスタッフなら、少々難しい商品でも頑張って売ってくれる。それが活気ある売場、良いショップを作るのである。




 販売スタッフがバイイングまで行うなら、顧客をイメージして仕入れた商品は、自ずと接客にも力がこもる。自分とウマが合うバイヤーが仕入れた商品、好きなブランドや人気アイテムについても同じだ。

 さらにお客から褒められるなどプライドがくすぐられれば、接客はのびのびとこなせるはずである。

 どんなに良い品揃えをしたところで、その気持ちがお客に通じるとは限らない。「あのお店には自分に似合う商品がある」「このスタッフのセンスは自分をお洒落に見せてくれる」。 お客はショップや販売スタッフを通じて、イメージを決めていく。

 接客の数だけ喜怒哀楽があり、販売スタッフにも悲喜こもごもがある。商品を売るには得てしてそういう部分が出てくるのであり、接客の行きつく先はお客に期待され、共感を得てもらうことなのだ。
 
 言い換えれば、ICT、アプリが関わらなければならなくなったのは、こうしたヒューマンライクな接客が、すでに過去のものになってしまったからなのか。

 情緒的なやりとりでは、もう商品は売れなくなったということか。はたまた今どきの販売スタッフにそこまで接客術を要求するのは無理なのか。これらすべてが当たらずとも、遠からじだろう。

 そもそも論として、販売スタッフの心が通う接客とPCやスマホのアプリを同等に語れるはずはない。所詮、ICTは情報武装の一手段に過ぎないからだ。

 だからこそ、アプリがこうしたヒューマンライクな接客のすべてにおいて、どこまでフォローできるかが重要になる。

 アプリ開発を行う上では、こうした前提でのスペックや機能がカギを握るだろうし、開発スタッフは売場に入り込んで、接客のイロハから学なばなければならないのかもしれない。

 顧客情報は住所、氏名、生年月日、スリーサイズ、好みの色や素材、職業や家族構成、購入履歴、お直しの有無だけではない。店頭での何気ない会話の中に、重要なネタが隠れているのだし、それを察知するのは販売スタッフの感性に他ならない。

 もちろん、販売スタッフには顧客の属性に合わせ、時事ネタから下世話なことまで勉強しておくことが求められる。クラブのお姉ちゃんが上顧客をつなぎ止めるためにやっていることと同じだ。

 顧客側も常に流動していく。転勤や引っ越し、リストラや転職、昇進、トレンドや嗜好の変化、スタッフの異動や店舗移転による心変わり等々。若いお客になればなるほど、移り気なのは言うまでもない。

 仕入れ先の倒産、ブランド休止、デザイナーの交替、MDの変更などで、お客が好む商品が入って来なくなる場合もあり、そうした理由でもお客は去って行く。

 これら内部的、外部的要因も含めて、顧客情報をきめ細かく管理し、次の接客に生かせるかどうかは、販売スタッフ個々の能力で違う。その辺にアプリがどこまで踏み込んでいけるかなのである。

 スタイリストがコーディネート提案により商品をアピールするくらいで、本当に売りにつながるのか。アプリがその程度のスペックや機能に止まるのなら、Pinterestなんかを写真を見た方がお客にとってはよほど参考になる。 

 お客が絶対に欲しい商品は自ら探すはずだし、それが面倒なお客でも間にICTが介在する方がかえって間遠しく感じるだろう。

 仕入れた商品を顧客にいかに販売するか。購買後にいかにフォローしていくか。そうした技術レベルは、販売スタッフの素養やスキルで格段に差が出る。

 そうしたきめ細かな接客術につながるデータをアプリが管理し、スタッフの力量に応じて提供していけるかが重要なのだ。

 要は販売スタッフの接客スキルをどこまで標準化できるか。そこの辺の程度問題をアプリのスペックや機能に落とし込めるかだと思う。

 接客の目的は商品を販売するだけに止まらない。一見客をショップの固定客、スタッフのファンにしていくことであり、そのためにはお客の心をくすぐるような術が必要になる。在り来たりの情報管理では、間にワンクッション入るだけで終わりかねない。

 リピーターになればなるほど、顧客データは某大になる。それをいかに整理整頓して、接客に当たるスタッフに必要な情報をタイム、プレイス、オケージョンで提供できるか。そこにどこまでアプリというICT、科学の力が立ち入ることができるのか。

 単なる情報端末は感性も思考力ももたない。しかし、ICTの力を借りることで、お客からは「神対応」の接客と評価されるかもしれない。ぜひとも、そんなアプリを開発してほしいものである。
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