HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

プラットフォーム化する展示会。

2015-11-11 11:21:44 | Weblog
 昨日、ファッションライターの南充浩さんが、「大型合同展示会が盛り上がらない理由」と題して、ブログを書かれていた。

http://blog.livedoor.jp/minamimitsu00/archives/4525209.html

 それによると、「来場する小型専門店の顔ぶれも変わらなくなってきたし、毎回新規店2つか3つと契約できるが、その分、同じくらいの数の店舗との取引もなくなる。差引トントンという場合が多い」そうだ。

 筆者がマンションアパレルにいる頃は、合同展示会というのはほとんどなかった。東京ファッションウィークの勃興期は、メーカー単独の展示会を寄せ集めてイベント週間にして盛り上げた程度だった。

 もともとアパレルメーカーは単独で、だいたい同じような日時、週間に展示会を企画し、バイヤーが訪れやすいようにスケジュールを組んでいたという感じだ。

 しかも、東京、大阪と都合よく、分かれて開催されていたので、バイヤーは東京出張◯日、大阪出張◯日とうまく割り振ることができていた。今でも、メーカー単独での展示会は、暗黙のスケジュール調整が行われていると思う。

 問題は南さんがおっしゃるように内容だ。

 「大手小売店は有力セレクトショップをはじめとして自社製品化比率を高めている。新規でわざわざ仕入れる必要がない」「小型専門店ほど「希少性の高い」ブランドを仕入れたがる」

 「ここまではwinwinの関係といえるが、数年後には袂を分かたざるを得ない」「数年後にはブランドは少し成長するからだ」「当然、取引先店舗も何店舗か増えている」「そのため、希少性は少し薄れる」

 「ブランド頼みの小型専門店はここが気に入らない」「希少性が薄れているから、また新たな希少性の高いブランドを探す」「要するに、またデビュー間もないブランドに乗り換えるわけである」

 「アパレル業界では大型合同展示会に陰りが見え始めていると感じる。10年間もやっていればだいたい出展側もマンネリ化してくるし、来場者も大きくは変わらない」

 「本来の来場者は仕入れを行う小売店だが、今の業界で、新しい「有力小売店」などそう簡単には生まれない」、である。

 最近、中小零細のアパレル、特に小規模メーカーが自社単独では、なかなかバイヤーを呼びきれない。そのため、その個性的な企画やブランドを一度に一か所に集積することで、集客力をもつ展示会を企画しているわけだ。

 しかし、バイヤーとて、「個性的な商品になればなるほど、売れるかどうかのリスクがある」ので、仕入れに二の足を踏んでしまうこともある。小規模なメーカーは他にはない特徴を出そうと必死だが、それがバイヤーにとっては仇になってしまうのだ。

 これについては南さんと筆者の見解が多少異なるが、有力店のバイヤーは何も探しの姿勢で展示会巡りをしているわけではない。

 有能なバイヤーならシーズン前にはMD計画を組み立て、仕入れ先メーカーの営業期設定で行動する。「いつ立ち上がって、いつ中心に売って、いつ切り上げるか」を正確に見極める。ブランド頼みだけでは、いまのお客さんは決して納得しないからだ。

 大型の合同展示会は、だいたい同じような取引先専門店を対象とするアパレルメーカーが集まって、同じ営業期のものを披露するというやり方が多い。

 当然、シーズン立ち上がりの商品のカラートーン、素材感などはほぼ決まってしまう。個性的なブランドでもそれらの色、素材が似ているなら、売場のメリハリは付きにくい。シーズン立ち上がりは他店と同一化していく傾向にあるのだ。

 だから、それを嫌がる=個店レベルの専門店(中小のセレクトショップ)は、大型合同展示会はあまり重要視していない。

 それより、仕入れ先メーカーでも、想定するターゲットやポジションが違うところは、商品づくりの工程も異なるため、同じような時期に展示会は開催できない。特に海外のメーカーはそういうところが多いので、デリバリーの時期も異なってくる。

 そういうメーカーと取引し、MDにメリハリをつけているインポート編集のセレクトショップからすれば、仕入れ先の立ち上がりが早いのだから、なおさら合同展示会には脚が向きにくい。海外出張にスケジュールを合わせざるを得ないからだ。

 さらに店の規模に関わらずバイイングパワーをもつショップ、あるいは高度なMD構築力をもつバイヤーは、仕入れ先の状況を把握した上で商品がない立ち上がり時期には、国内外を問わずメーカーや工場に入り込んで別注までかけるケースがある。

 お客さんの顔が見え、売り切る自信がある専門店、バイヤーほどメーカー主導の展示会にはあまり期待をしないのである。

 それより、海外のトランクショーを徹底して回ったり、工場に入り込んで別注をかけたりした方が、結果として売れる商品が揃うということである。小売店自らが攻めの姿勢を持つため、待ちの姿勢での展示会では手応えを感じ得ないのは当然だろう。

 ショップ、つまり小売り側にとっては、自店の立ち位置はお客さんが決めることなるわけだから、自店がどういう評価にあるのかで営業期は変わってくる。一律に展示会を巡れば良いというわけにはいかないのである。

 こうした小売り側の変化を察知して、展示会のやり方を変えているアパレルメーカーが登場しつつある。先日、このコラムで取り上げたSPA、(株)リンクイットの卸部門が行っている展示会は実にユニークだ。

 参加者は自社東京事業部の卸担当営業、自社取引先のバイヤー、SPAとして各地区のスーパーバイザー、年商1億円を売り上げる店舗の店長、それに競合メーカーと店舗のお客を加えた総勢100名の規模になる。

 通常の展示会は、メーカーの担当営業と取引先のバイヤーとが主体となった商談の場だ。しかし、この展示会はその機会に競合メーカー、お客、ラインスタッフのスーパーバイザーや店長が相見え、喧々囂々のやり取りを重ねるのである。

 平たく言えば、「お客がいろんなサンプルを見て、『これお洒落』と感じれば、同社の商品であれ、競合メーカーの商品であれ、店舗はその商品を仕入れればいい」というスタンス。卸機能と、SPA機能を両方もつからそれができるのだ。

 互いにリアルなお客の声を聞いた方がメリットが多いのは当たり前だし、取引先のバイヤーも「お客さんはこんな商品が好きなんだ」とわかれば、そのメーカーと新たな取引が始まるかもしれない。

 お客はいろんなメーカーの商品を誰よりも早く見ることができるので、シーズンインの買い物とは違ったエンターテインメント空間を楽しむことができる。

 つまり、マーケットの中のお客を主眼に置き、卸とか、小売りとか思惑、あるいは自社の商品、他社のブランドにとらわれないビジネス発想も必要になってきているのだ。

 卸とか、小売りとか、自社企画とか、他社企画とかジャンルの垣根を飛び越えたところに、ビジネスに新しい活気が生まれるという考え方。要は同社はプラットホーム化した新しい展示会を目指そうとしているのである。

 企画スタッフが展示会で「他社の商品が仕入れられる」のを見せつけられると、「こういう部分がうちは弱いな」と気づくはずである。この辺もプラットフォーム展示会のメリットなのかもしれない。

 同社ではその後の営業態勢においても、競合メーカーには「同社の店舗の売場を貸すので、委託で販売して構わない」。逆に「同社の取引先で坪効率が良い専門店には営業をかけてOK」と言っている。

 展示会で互いが刺激し合えば、いろんな副産物を生むという考えなのである。

 アパレルメーカーが業績を拡大するには、卸売り先を広げていかなければならない。同社は早く現金化できるところに優先的に商品を出荷することに軸足を置き、そのための物流体制を含め、在庫の一元化システムも作ろうとしている。

 もっとも、卸部門としては、取引先の専門店に2~3アイテムを仕入れてもらったところで、そのブランドの世界観はお客には伝わらない。

 SPAなら商品企画なり、MDなりが「このニットを売るには、このコーディガンと組み合わせよう」と、店舗にどうすれば売れるのかを指示することができる。

 そのノウハウは卸部門も卸先と共有した方がいいから、「バイヤーには買い取らなくて構わないので、多くの商品を委託で置かせてください」と請願しているそうだ。

 卸先に対し、買い取りなら5掛けとなるところが、委託なら6掛けとなり利益率は上がる。ちまちまフォローする必要もないので、物流コストも下がる。1型1点だったものが、3点になると売り切れせずに、売上げは3倍に跳ね上がるという目論見もできる。

 取引先の専門店にはi-Pad1枚を渡し、顧客コードを入力すると商品説明や在庫の情報がわかるようにしておくという。

 商品構成は店舗によってA、B、Cと3パターンくらい作り、商品はディスプレイのみで、お客さんから注文を受けると、同社のいちばん近隣店舗から商品を持っていくようにするという。これも全国に店舗網をもつSPAだからこそ、可能になるのだ。

 在庫ロスや輸送コストも下げられるため、取引先、同社とも互いにメリットとなる。 在庫、単品の管理がポイントになるため、ユニクロやギャップジャパンでシステム開発の経験したスタッフを社外取締役に起用。システム構築を急いでいる。

 メーカーが丹誠込めて企画した商品を取引先のバイヤーに吟味してもらい機会を提供する展示会。そのノウハウは否定しないが、時代が大きく変わったなかで、その先にあるものを想定したイノベーションが不可欠であるのも言うまでもない。
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