HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

バーチカルは再販まで。

2022-03-02 06:28:21 | Weblog
 この春、福岡では商業施設の開業が相次ぐ。4月25日に福岡市博多区の青果市場跡に三井不動産が開発する「ららぽーと福岡」、同28日には北九州市八幡東区のスペースワールド跡地にイオンモールが手がける「ジ・アウトレット北九州」がオープンする。



 ららぽーとは延床面積20万6500平方メートル(立体駐車場を含む)。テナントは飲食や服飾、雑貨、エンタメに加え、九州では初となる「キッザニア」(夏オープン)や機動戦士ガンダムのテーマパークが核になる。すでに実物大のガンダムが立像済みで、建物屋上には陸上トラックやテニス場、フットサルコートも併設される。



 一方、ジ・アウトレット北九州は敷地面積約27万m2を「エンターテイメントエリア」と「アウトレットエリア」の二つに分けた複合施設。北九州市が施設周辺を文化観光拠点に位置付けたことから、モール側も単なる商業モールから一歩進化させ、「学び」をテーマにした子ども向けアミューズメントを強化(テナントはASOBLE/アソブル)。また、隣接地にあるSC「イオンモール八幡東」と新設デッキで結び、双方間の相乗効果も見込む。

 課題は交通アクセスだ。両施設は幹線道路に面しており、開業前の現在でも平日、祝祭日問わず交通渋滞が激しい。デベロッパー側は来場者に公共交通の利用を促すが、ららぽーとは最寄りのJR竹下駅から徒歩で10分程度もかかる。また、ジ・アウトレットのJRスペースワールド駅には快速列車が停車しないなど、公共交通のアクセスが良いとは言い難い。新たなバス路線が設けられるようだが、周辺道路が渋滞すれば集客への影響は必至だ。

 来場者が車を利用するのはほぼ間違いなく、開業でさらなる大渋滞が予想される。スムーズに来場できて館内をゆっくり見て回ることができるのは、開業景気が落ち着く秋以降ではないか。ただ、コロナ感染の第6波が3回目のワクチン接種でどこまで抑えられるかは不透明で、仮に第7波が秋口に重なれば入場制限は避けられず、初年度の業績にも水を差しかねない。

 久々の大型開発だけにメディアは話題を煽るが、注目は学びのキッザニアやアソブル、エンタメのガンダムくらいしかない。学びやエンタメはそこでしか体験できないなら、「ぜひ行ってみよう」との来店動機にはなる。ただ、アミューズメント性が強いディズニーランドやUSJを見ると、お客をリピートさせるには進化し続けることが大前提。これは運営者やテナントの企画・資本力によるところが大きい。スペースワールドが失敗した教訓を生かせるかである。

 ショッピングはどうか。テナントに「九州初」との冠がついたにしても、SCにリーシングされるようなアパレルや雑貨では同じテイストの既存店がいくらもあり、集客の目玉にはならない。アウトレットではラグジュアリーブランドが70%〜80%オフなら一度は見てみようという気にはさせる。だが、端から安く作った専用品が多数を占めるなら、期待外れでリピーター率は下がるだろう。

 飲食はこれまでにドーナツやパンケーキ、タピオカなどが集客の起爆剤となってきたが、半年も経てばピークは過ぎ1年後には陳腐化してしまう。FFやファミレスなどの定番は他のSCにもあるわけで、飲食が集客に貢献するかと言えばそれも難しい。プレミアチケットなどの仕掛けがあれば別だが、来場客が食事でもして帰るかという程度だと考えられる。

 データの裏付けもある。全国約3500箇所の商業施設に入居するテナント構成は、2017年から21年の4年間でファッション・雑貨が30.4%から4ポイント近く下落して26.5%に。サービス・アミューズメントは25.2%から27.3%へと2ポイント以上上昇している。テニスコートやフットサル場もこうした傾向を意識しての導入と思うが、平日にどこまで集客できるかがカギになる。

 もっとも、SC全体を見れば、やはり陳腐した感は否めない。日本ショッピングセンター協会によると、全国のSC数は2018年の3220箇所をピークに21年まで3年連続で減少している。コロナ感染がやや落ち着いた21年に限っても、外出自粛の影響があり月次販売額で前年割れの月がある。



 米国を見ると、さらに深刻だ。テナントが次々に撤退して廃墟になった「デッドモール」が続出。消費者はインターネットで何でも購入できるようになり、品揃えやメニューが限られる実店舗にはそれほど魅力を感じなくなっている。もう、物販や飲食で集客できる時代ではないのだ。1990年代、米国を手本に開発が進んだ日本の郊外型SC。時代や消費の変化と共に転換期に差し掛かっているのは間違いない。


転換期のSCが目指すべき姿とは

 では、目指すべき新たなSCとは何か。それは「コト消費」を際立たせることだ。一例として、お客が傍観するような体験ではなく、自ら主人公になれるもの。若年層では、e-Sportsのような自己体感型や、触感に訴えかけて没入感が味わえるメタバースなどがポイントだ。中高年向けでは、自ら楽器のプレーヤーになって練習やセッションが体験できたり、生バンドをバックに歌やダンスが楽しめるミュージックサロンなどだろうか。

 ビジネス層向けでは、プライベートオフィスやスタートアップ拠点が考えられる。コロナ禍において都心部のオフィスに通勤せずともリモートで仕事が片付けられるようになった。消費だけでなく、働き方も変わって来ている。ならば、郊外SCでもビジネス向けのスペースを貸し出してもいいのではないか。
 自宅では家族に煩がれて居場所がないが、プライベートオフィスなら気兼ねなく仕事ができる。スポーツ施設が併設されていれば、並行して運動不足の解消も可能だから、博多駅に近いららぽーと福岡にはビジネス需要も期待したい。

 筆者が個人的に熱望するのはDIYが自由に楽しめる施設だ。木材、金属、布・革などの材料を購入したり、デザイン図面とそれらを持ち込んでインテリアからアクセサリー、服飾までを創作できるイメージだ。加工用の機械やミシン、道具なども使え、プロのレクチャーも受けられる。子供やリタイア層など各世代ごとにテーマを決めたワークショップを開いてもいいと思う。騒音などで周辺に迷惑をかけることなく自由に道具や機械が使えるのは、DIYを趣味にしている層が最も待ち望んでいることだ。

 また、モノ消費の次に来る業態としては、SDGs(持続可能な開発目標)やリユース、リサイクルを意識したものもあるのではないか。例えば、アウトレットはお客側には安売り業態だが、ブランド企業にとっては製品在庫をできる限り「現金化」するのが目的だ。セールで売れ残ったもの、生産管理で織りキズなどが見つかり店頭に展開できなかったもの、廃番やキャリー品等など。それらを流通ルートの中でバーチカル(垂直)に消化していく役割がある。

 SDGsが叫ばれるようになった現在、ブランド企業はその使命として消費の先にある社会への負の影響まで考えなければならない。作って売り、使い古せば終わりは通用しなくなっている。ブランドの役割とは、1つの商品をいろんな人の手にいつまでも受け継がれるようなものにすることだ。そのためにはリユースやリサイクルにまで取り組むことが不可欠になる。




 ブランド企業が中古品の買い取りまで踏み込むかは別にして、モールがブランド品の買取や再販に取り組む業態をリーシングしたり、自ら運営することはできるのではないか。昨年10月、伊勢丹新宿店は不用品の買い取りサービス「アイムグリーン」をスタートした(https://www.isetan.mistore.jp/common/service/imgreen.html)。お客が持ち込んだ衣料品やハンドバッグ、時計、宝飾品などを買い取る、または無料で引き取って提携先を通じて販売やリサイクルするものだ。

 三越伊勢丹が参入したことは、殿様商売をやってきた百貨店ですら「購入してもらえば終わり、売りっぱなし」だけでは通用しないと気づいた証左。販売後の顧客支援を自ら行い、新たな購買体験を作り出さなければならなくなったのである。

 同社がアプリ会員1万7000人に実施したアンケートでも、「衣料品回収や持続可能な資源利用への関心、期待が上位」にあり、不用品の買い取りについても「ブランド品をどこよりも高く売りたいのでなく、家にあるものを整理したい要望がほとんどだった」という。ブランドのグレードや程度の差こそあれ、SCを訪れる客層でも同じようなニーズを持っているのではないかと思われる。

 つまり、従来のような「新品購入から利用」で終わるのではない。「買い取り」まで踏み込んで提携先に「売却」したり、リサイクル企業に「引き取り」してもらうことでお客との関係性を高めることが重要になってきたわけだ。ブランドビジネスに置き換えると、バーチカルな仕組みには「買取」や「再販」まで設定する。これはお客にとってもコト消費の一つだし、そんなテナントがリーシングされていれば、商業施設に出かける動機になるはずだ。

 SCでも物販や飲食、エンタメの次に来るテナントと位置付けられて良いだろう。ジ・アウトレット北九州の全テナントはわからないが、ららぽーと福岡にはブランド品買取とリフォームの業態はリーシングされている。だが、それらは旧来からある業態だから、もっと突っ込んだサービスが望まれる。また、SC全体のイベントとしても、前出のDIY業態とシンクロさせて服飾やバッグ、アクセサリー、インテリアなどでお客がリフォームやリメイクし、アップサイクルするような仕掛けもあるだろう。

 ららぽーと福岡、ジ・アウトレット北九州とも、半年も経てば売上げ不振のテナントも出てくるから、入れ替えやリニューアルが必要になる。その時のために転換期にあるSCにとって必要なコト消費、新たなテナント像を熟考しておくべきではないかと考える。

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