HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

皮算用は程々に。

2022-03-16 06:39:00 | Weblog
 ECの拡大で、運送事業者が扱う物流量が爆発的に増加。これに伴い、首都圏をはじめ近畿などの大都市近郊では、大型物流施設の建設ラッシュに湧いている。筆者が暮らす福岡県でも、咋年1年間に延床面積で合計10万9000m2も施設が開発された。これから24年1月までに15物件が開発予定で、今年、来年はそれぞれ同30万m2以上に達する見込みだ。

 ECは過去10年の伸び率が平均8%以上あり、福岡都市圏では荷物を集荷し仕分けする物流施設の空室率は0%と言われる。ところが、福岡市は九州で最も人口が増加しており、市周辺の用地は住宅地や商業地に活用されるため、施設用地の確保は容易ではない。賃料は施設の供給不足で上昇傾向にあり、2021年12月時点で福岡近郊では1坪あたり400円も急騰した。



 デベロッパーが商業施設、オフィスビルに次ぐ事業の柱に位置付けるのも当然だろう。地場大手の「福岡地所」が2020年に福岡市東区に開発した「ロジシティ」(延床面積4万7150m2)は、その名の通り物流専門の施設だ。JR九州も福岡県粕屋町に食品卸向けの施設用地(延床面積1万2375m2)を確保し、物流不動産事業に乗り出すと表明した。

 自治体も動き出している。北九州市は今年1月、今後10年間で1000億円の民間投資を呼び込む物流拠点構想を策定した。本州と繋がり、港湾や空港を完備する地の利をアピールして施設を誘致する考えだ。これには「2024年問題」も影響している。働き方改革関連法により、トラック運転手の労働時間に上限が設けられるモーダルシフト制に移行。ドライバー1人が運べる距離が短縮される。法律の施行で物流手段が鉄道や船舶、航空に置き換わる可能性があり、駅や港湾、空港といったインフラが整う同市には追い風と見たようだ。



 海外企業も福岡には注目する。香港の物流開発大手ESRは、朝倉市の自動車学校跡地約7万m2で施設の開発を進めている。こちらは大分高速道路・甘木インターから車で4分の好立地。九州には健康食品や化粧品のメーカーが多く、そのほとんどが通販事業に注力する。将来的な越境ECの拠点としても、十分にポテンシャルがあるとの判断だろう。

 加えて投資環境の変化もある。コロナ禍でリモートワークが浸透し、オフィスビルは空室率が上昇。ホテルは訪日外国人観光客が減少し、商業施設は外出自粛で大打撃を受けている。オフィスビルやマンション、ホテル、商業施設ではテナントの入居や集客が見込めないことから、投資マネーが「物流施設の方が利回りが良い」と流れ込んでいるのだ。

 2020年の物流施設への投資額は、全国で過去最大の1兆4000億円にも及ぶ。不動産投資に対する割合も19年は19%だったものが、20年には31%に拡大。施設は商業や観光と違い、内装やアトラクションなどの設備が不要のため、初期投資が抑えられる。それに対して高いリターンがあれば、投資先として振り替えられていく。まさに物流バブルの様相だ。

 ECの大消費地では施設開発や賃料は、注文者の玄関先まで届ける「ラストワンマイル」への対応がカギを握るとも言われている。これは従来、物流拠点を集約して配送の部分を宅配事業者に委託する仕組みから、より注文者に近い場所に配送拠点を設けることで、最後の1マイルを縮めてサービスを強化することだ。

 ラストワンマイルに対応すれば、物流施設は人口密集地に近くて小規模なものになる。現に物流不動産大手のプロロジスが東京足立区に開発した「アーバン東京足立2」は、3階建てで延床面積約6400m2のコンパクトな施設だ。しかし、4トントラックが直接2階にアクセスできるスロープを併設し、フロアを分けて2社への賃貸を可能にした。首都圏の変化はそのまま福岡にも通じるだけに、状況を冷静に見ていかなければならない。

物流施設はOMOにも左右されるか?

 もっとも、首都圏では家賃相場にも変化が出始めている。一五不動産情報サービスが今年1月に実施したアンケートによると、半年後の物流施設の賃料水準の見通しでは「上昇」の回答が44.2%なのに対し、「横ばい」が52.6%で上回ったという。物流拠点の供給増加と物流需要の増加が均衡していくとの見方からだ。

 実際、1都3県で延床面積が3万3000m2以上の施設の実質賃料は、昨年10~12月で3.3平方メートルあたり4470円。同4~6月から横ばいという。今年から来年かけて物流施設の供給は過去最高を更新する見込みだから、ECを強化する通販企業や委託先配送会社の誘致競争の激化で、賃料が上がりにくい状況になっていく。



 ヤマト運輸の小口貨物取扱実績でも、昨年10月からは前年同月比10%を下回るなど鈍化傾向にある。物流施設の供給が盛んになればなるほど、逆に小口貨物の賃料には値下げ圧力となって跳ね返ってくるわけだ。しかも、アパレル業界ではオフライン(店舗)とオンライン(EC)の融合をさす「OMO」に軸足を移すべきと提唱され始めている。これから15物件も開発される福岡の施設賃料にどう影響するかも考えなければならない。

 ECは消費者に通販サイトで購入してもらうので人件費は抑えられるが、大手のアパレルやセレクトショップはブランド力を維持するために実店舗を抱えている。当然、店舗家賃などの固定費がかかるから、ECで注文し店舗受け取り、店舗出荷を行えば経費をカバーできるし、モールや倉庫の家賃も必要で無くなる。注文者にとっても商品を店で受け取れば、送料負担がないため、割安感が得られる。これがOMOのメリットだ。

 ZARAを運営するインディテックスは21年1月決算で、77%増の66億ユーロ(EC化率32.3%)とECが急激に伸び、EC比率も増大している。これは従来のような倉庫出荷から店舗の在庫を注文に応じて引き当て、店での受け取りや店からの出荷に全面的に切り替えたことによるものだ。

 倉庫から出荷して宅配に対応しようとすれば、関東や関西といった大都市圏に倉庫を開設しなければならない。そうなると、倉庫の賃料がかかるし商品在庫が分散してしまう。どの地域でどんな商品が数多く注文されるかはわからない。だから、全ての在庫を倉庫にストックすれば在庫の効率が悪くなり、ECによる物流コスト削減の利点が相殺される。これはデメリットでしかない。

 もちろん、OMOを進めて店での受け取りや店出荷を行えば、アパレル物流に大型施設は必要でないという単純な図式ではない。店での受け取りや店出荷は、EC専用の倉庫を抱えなくていいだけで店舗販売用の商品配送、返品(出荷)は続くわけだから、そうした商品の仕分けは配送事業者の物流施設が活用される。



 一方、OMOが進んでも自宅近くでの受け取りを望むお客もいる。注文者が当日や日時指定を選択するケースも少なくない。大都市圏ほど消費地や自宅に近いエリアに物流施設が求められるわけだ。つまり、ラストワンマイルに対応するには、郊外よりも地価が高い都市近郊で物流施設を置くことになり、賃料は高くなる。それは配送料に転嫁されていく。

 また、物流施設は入居する物流事業者の能力に左右される部分もある。例えば、容積率200%を目いっぱい使って4階建ての施設を作ったとする。だが、エリアニーズによっては3階建で十分という場合がある。4階建ての場合、トラックヤードが狭いとか、各階への荷捌きが面倒だといった問題も出てくる。施設開発にはこうした課題も潜んでいる。

 すでに開発事業者がロジスティックの知識がないまま施設を開発したことで、収益性の低い不良物件も出始めている。施設開発の市場で賃料の下落、空室率の上昇といったフェーズを迎えると、物件を手放さざるを得なくなることもあり得る。当然、そうした物件はファンドやリートに買い叩かれることも考えられる。

 もちろん、ECで購入されるのはアパレル以外の商品もある。注文者の中には配送料が割高でも構わない人々がいることも承知の上だ。果たして郊外で大型施設を運営するのがいいのか。都市部近郊の小型施設で消費者ニーズに対応するのか。不動産開発事業者がECの動向を見ながら、今後をどう読むかにかかっている。

 インターネットが普及してネット通販が消費生活に浸透し、メーカーや小売りはもとより、メディアまでもがECを礼賛しまくった。しかし、物流拠点の賃料は運送費で賄われるから、そのコストは荷主であるメーカーや小売り、ひいては商品を注文する消費者側が負担することになる。

 だが、賢くなった消費者は無駄なコストは払いたくない。ならば、メーカーや小売りはそれに対応できないと、ECに注力しても弊害を生むだけだ。それは物流会社の配送料や施設の賃料にも波及する。まさに風が吹かなければ、桶屋は儲からないのである。物流バブルはやがて弾けるとは言い過ぎだろうが、皮算用は程々にした方がいいのかもしれない。
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