HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

ユーザーが監査役。

2022-03-23 06:33:35 | Weblog
 先日、事務所の書棚を整理していると、10数年前にコムデギャルソンの監査部から送付されたビジネスレターが出てきた。書面作成の日付は平成22年10月1日、差出人には同社監査役の氏名が記されている。

 当時、コムデギャルソンの福岡店が事務所マンションの前に移転して数年が経っていただろうか、筆者が遅めの出勤をする時は開店準備中のスタッフが挨拶をしてくれた。だからではないが、過去に何度か購入したこともあったし、事務所前のショップを無視するわけにもいかない。そこで、シーズン初めの商品投入時には必ずショップを覗くようになった。

 ビジネスレターは、筆者が海外通販で購入した「PLAY」のポロシャツが「偽物」と疑われたので、コムデギャルソン本社に真贋を依頼し、法務セクションを務める監査部から回答されたものだ。文面の冒頭には、「貴方様よりの郵便物を拝受致しました。ご同封された商品は全く粗悪なコピー商品でした。ご参考までに簡単な比較表を同封致しました。ご笑覧ください」と、丁寧に記されていた。



 当時、PLAYはコムデギャルソンの中でも大ヒットアイテムになっていた。筆者も最初はショップで購入したが、5〜6年着たのでリピートしようと思っていた。福岡店のスタッフに在庫の有無を訊ねると、欠品状態で入荷の時期はわからないという。日本人はさる事ながら、その頃から増え始めた訪日中国人観光客が買い漁っていたのだ。そう言えば、福岡店でも中国人旅行者らしき母子が開店を待っている光景を何度か見かけたことがある。

 そこで、ネットでPLAYを探してみると、海外のセレクトショップを中心にラインナップされていたので購入した。もちろん、サイトの写真は本物を使っているだろうし、現物を確認するわけではないから、リスクは承知の上だ。もし、偽物をつかまされたら、その真贋証明とともにショップ側と返品交渉すればいいくらいの感覚だった。そしたら、案の定だった。

 PLAYの国内販売は2003年頃から始まった。回答にも書かれていたが、06年には正規ではない香港発の大量メール販売が発覚した。コムデギャルソンにとって、この種の案件は初めての経験でプロバイダーとの接触も試みたが、結局防止することはできなかったという。その後、対策として現地(海外)のフランチャイジーと協力してアクションを起こすということで、すでに交渉に入っているとのことだった。

 あれから10数年、コムデギャルソンだけに止まらず有名ブランドの偽物は減るどころか、増え続けている。企業側もいろいろと対策を講じているようだが、追いついていない。特にここ2年ほどはコロナ禍の影響で、ネット通販でブランドを売買するケースが増え、偽物と承知の上で輸入し転売する輩もいる。財務省発表のデータによると、2021年の税関による知的財産侵害品の輸入差止件数は2万8270件にも及ぶ。

 水際で一旦差し止められても、輸入した人物が「個人で使うために購入した」と言えば、合法と見なされて税関をすり抜ける。多くが法の網を掻い潜る確信犯の仕業だと言ってもいいだろう。税関が差し止めした何倍もの偽ブランドが堂々と国内に入り、流通しているのである。

 ブランド品は「意匠権」や「商標権」を有し、法律で保護されている。意匠とは主にデザインを指す。ブランド企業が長い歴史の中で培った伝統の技と絶え間ない努力で生み出したもので、商標はロゴ・マークとしてそれを証明するものだ。なのに、第三者がいとも簡単に模倣・偽造して、消費者を欺き収益を上げることが許されるはずもない。

 この秋までに施行される改正商標法では、海外の「事業者」が偽ブランド品を郵送などで日本国内に持ち込む行為を「知的財産の侵害」にあたると規定した。違反したものは10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処され、または懲役刑と罰金刑が並行して科される場合もある。企業のスタッフが商標権等の侵害を行っても、企業は3億円以下の罰金刑を受ける。だが、対象はあくまで輸出事業者、つまりビジネスとして行う側で、個人になると規制の対象にはならない。もちろん、海外の事業者を国内法で裁くのは容易ではない。

 一方、輸入者の中には個人を装って偽ブランドを買い付け、転売などで不当な利益を上げるものがいる。そのため、国は税関法を改正して個人での使用目的でも輸入の経緯や目的、輸入者の情報を確認できるように書類提出が義務付け、偽ブランド品の輸入と転売を防止する構えだ。しかし、これがどこまでの実効性を持つかはわからない。では、どうすれば、偽ブランドの国内流通に歯止めがかけられるのか。


刑法犯の認定、刑事処分、ネット事業者の告発

 まずは販・転売ができないようにすれば、個人だろうと個人を装った事業者だろうと、偽ブランドを製造したり買い付けたりしても無意味になる。仲卸というか、国内での「買い手」の存在を断つことが偽ブランド品が国内に入るのを防ぐ早道だ。販・転売をしているかどうか確かめるには、個人輸入を装っても収益を上げることが目的=業として行っているのだから、同じブランドの出品数量が多かったり、別のものでも販・転売の回数が増えてくるはずだ。

 流通ルートが実店舗なら発覚するリスクが高まるから、今ではほとんどがネット通販だと思われる。価格を吊り上げるオークションならヤフー、個人売買ならメルカリなどのサイトがメーンの販路だろう。こうしたサイトの運営事業者は現状でも違法な出品や転売などをチェックをしていると思うが、アカウント停止からもう一歩厳格な処分に踏み込むべきではないか。

 まずは会員登録を精査して同じ人物が複数のアカウントを持っていないかを確認する。その上で出品・販・転売が複数回(厳格にするなら2回目から)に及んでいる場合は、警告を発し従わない場合は登録禁止とする。もちろん、あの手この手で再度出品・販・転売を行うだろうことも想定し、会員情報をブラックリスト化してネット事業者間で共有してはどうだろうか。クレジット会社で行われている信用情報と同じような手法である。

 メジャーではない闇ルートの個人売買アプリもある。ここまでになると、衆人環視は難しいのでプロバイダーがチェックを厳格にするとか、警察のサイバー犯罪課が摘発に乗り出すしかない。それでも、限界があるので偽ブランド品の輸入・転売などを専門にチェックできるAIの1日も早い開発が待たれるところだ。

 ネット事業者が偽ブランドに流通の場を提供し、反社会的で違法な行為を締め出せずにいることは、やはり問題と言わざるを得ない。極論すれば、行政府もネット事業者の無作為は偽ブランド販売に加担していると判断する姿勢で、行政指導の項目に加えてもいいのではないか。

 一番の抑止効果は刑事処分に尽きる。刑法には「私文書偽造罪」がある。偽り名義の文書・図画(とが)または内容が偽りの文書・図画を作る行為とそれを使う行使は、それぞれ3ヶ月以上5年以下の懲役(拘禁)に処せられる。私文書には保険の申込書や会社名義の売買契約書、定期預金証書などが該当する。図画は絵柄、図案だけでなく写真や映像、未現像のフィルムなども含まれる。

 文書・図画が偽造され行使されるのは、相手側を騙して金品などを奪う詐欺目的、または不当な収益を上げることを前提にしたもの。だから、偽ブランド品の国内流通についても、私文書偽造・行使と同程度の違法性を認定し、処罰すべなのだ。




 これだけインターネットが消費者に浸透すれば、違法なビジネスがグローバル化するのは言うまでもない。なのに輸入した側、販・転売する側が個人だから、「(偽造品とは)知らなかった」「個人の自由は保障すべき」という観点で許していれば、野放し状態は永遠に続く。

 ネットリテラシーという言葉がある。今のネット社会では皆が様々な恩恵を受けているのだから、ルールを知らなかったは法的に善意ではなく、無知以外の何ものでもない。偽ブランドの流通が反社会的な行為であることを見れば、悪意(知っていること)があって然りと見做してもいいと考える。法的な善意・悪意は民法上での問題だが、他人を害する意思で用いられる場合もあるのだから、刑法にも規定が必要だ。

 もちろん、法律だけで抑止するのは限界がある。ヤフーやメルカリなど販・転売の場所を提供し、莫大な収益を上げている事業者は、もっと偽ブランドの流通に目を光らせなければならない。そして、ルール違反は積極的に刑事告発に踏み切ることだ。これには一般のネットユーザーの協力も不可欠になる。

 ちなみにコムデギャルソンの偽物については、本社監査部が真贋を証明したビジネスレター、比較表のコピーとそれら英語訳を販売先のセレクトショップ、クレジット会社の双方に送付した。当然、クレジット会社は「当社には非も過失もない」と言い張った。セレクトショップには「決済無効を了解してくれれば、公にはしない」旨を通知し、何とか店側に販売した商品が偽物であり、売買契約が無効であることを認めさせた。あとはクレジット会社にショップ側と交渉してもらい、数ヶ月の審査期間を経て当方の支払いは免除された。

 通販やオークションのサイトにはレビューがあるが、たまに「偽物をつかまされた」という書き込みを見かける。被害者が事後どんな対処をしたのかまではわからないが、泣き寝入りするケースも少なくないと思う。だが、被害にあった皆が声を上げないと、ネット事業者は動かないし、まして販・転売している輩が堪えるわけが無い。いくらやってもイタチごっこという意見もあるが、それでも一つ一つを潰していけばいい。正規のブランド流通を守るためにも、ユーザーこそが監査役たるべきなのである。
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