HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

守られるべき権利。

2020-11-18 06:57:18 | Weblog
 菅義偉政権が発足して2ヶ月が経過した。10月26日に招集された臨時国会は、政府が学術会議の会員候補6名を推薦から外した問題をめぐり、立憲民主党や共産党は質問責めを繰り返しとても立法府の体をなしていない。新型コロナウィルス感染では第3の波が押し寄せており、その拡大防止と克服可能な経済構造に転換すべく雇用対策や消費喚起は、行政府の最優先事項。補正予算の執行と重要課題の解決は待った無しなのに、全く持って呆れ返る。



 メディアが詳しく報道しないところもあるが毎回、国会では議員立法をはじめ、諮問会議や審議会でまとめられたいろんな「法案」が内閣から提出され、審議の上に成立していく。特にグローバル化が進む昨今では、国内法では対処できない様々な問題が懸案となっている。海外事業者が運営する「越境EC」による「模倣品(コピー商品)」の販売もそうだ。この問題は「商標法」が定めるところだが、グローバル化に対応した法整備も急務と言える。大学時代から使っている法律学小辞典を開いて、あれこれ考えてみた。

 商標とは、文字図形または記号、もしくはこれらを結合またはこれらと色彩の結合であり、業(ビジネス)として商品を生産し証明し、または譲渡する者がその商品について使用するものを指す。商標法では、指定商品は商標登録を受けた「商標」(ロゴやマークなど)を独占的・排他的に利用し得る権利=「商標権」が認められている。指定役務(サービス)についても同様に該当するが、ここでは触れない。

 平たく言えば、商品で使用し、またその証明を行うロゴやマークは登録しておけば、使用・証明者が独占して使うことができ、第三者に侵されることのない権利を有するのだ。アパレルやバッグは製造するだけならそれほど難しくない。そのため、ロゴやマークを商標登録することで、ブランドをコピー商品や偽物から守ろうというのが法の趣旨である。

 ただ、現行の商標法は「国内の事業者」を対象にしたもので、そちらが輸入・販売する商品が模倣品であれば、商標権の侵害にあたるが、「個人」が輸入する商品についてはこの限りではない。また、「海外の事業者」が国内の事業者に模倣品を直接販売したり、送り届けたりすることについても、商標権を侵害するかどうかには明確な定めがない。

 つまり、法の網の目を掻い潜れば、偽のブランドを個人輸入して、違法に販売することもできるし、業者が個人にアルバイト感覚で偽物を輸入させ、それを買い取って悪意のもとに転売することも可能だ。実際、越境ECが浸透した昨今では、個人や海外事業者の不正な販売が野放し状態で、商標権を持つ事業者にとっては権利侵害だけでなく、ビジネス自体が脅かされている。

 そこで、特許庁は越境ECなどを通じた模倣品の販売を取り締まるため、商標法改正の検討に入った。11月6日には業界関係者などからなる産業構造審議会・知的財産分科会の商標制度小委員会で方針案を提示。来年1、2月に他の制度改革案なども含めた報告書を承認し、改正法案を国会に提出する。

 また、同様の問題は特許権などとの関係でも生じるため、特許法、実用新案法、意匠法の改正も検討するという。小委員会は個人による輸入規制には慎重な検討が必要としているが、個人を活用する悪意の事業者も存在する。知らなかったことが免罪符になるようでは、模倣品の輸入や詐欺行為は取り締まれない。こちらも一歩踏み込んだ法規制は不可欠と思われる。

 一方、今年は新型コロナウィルスの感染拡大でマスクが品不足となり、買い占めや転売が横行した。以前はドラッグストアで1箱50枚400円程度だった不織布の使い捨てタイプが通販サイトでは一時3万円台まで高騰。SNSでは「バカな日本人は品薄でも正価で購入できると勘違いしている」などの書き込みがあったため、反論が相次いで炎上し、社会問題に発展した。

 政府は、マスクは感染防止のために国民のほとんどが必要とするとして、国民生活安定緊急措置法に基づき3月15日、マスクの転売禁止に踏み切った。対象は家庭用、医療用、産業用の衛生マスク。小売事業者(製造業者、卸売事業者、個人も含む)店舗フリーマーケット露天インターネット(SNS含む)等を通じ不特定または多数へ取得価格を超える価格で、直接販売することは禁止された。違反者には懲役1年以下もしくは百万円以下の罰金が課せられ、実際には逮捕者も出ている。

 国による転売禁止とアベノマスクの支給、アパレルメーカーなどがマスクの製造・販売に乗り出したことで、価格高騰や転売はものの2ヶ月程度で収束に向かった。現在では日本マスク工業会の認定品は、ほぼコロナ禍以前に近い価格に戻っている。また、いろんな業者が輸入した紛い物は不良在庫となってHCなどの店頭に山積みされているが、売れている気配はない。転売するものが「価格は市場が決める」という認識なら、「取引されない商品は値崩れする」という理屈も推して知るべしだ。


ネット事業者は転売にもルールを設けるべき



 マスク転売では時限的な法規制が実効力を発揮したわけだが、アパレルでは転売のための購入も相次いでおり、一般消費者が自分のために買えない状況になっている。11月13日、ユニクロが11年ぶりに復活させたジル・サンダーとのコラボ商品「+J」もそうだ。



 筆者が試しに当日13日のYahooオークションをチェックすると、発売開始の10時からわずか約2時間後の正午過ぎには、すでに+Jのアイテムが多数出品されていた。一例を挙げると、「オーバーサイズリブブルゾン」のブラック、Sサイズは定価12,900円が約12,000円アップの現在価格24,980円。即決価格は何と59,980円で、この価格で落札されると出品者は47,000円以上の利益を得ることになる。



 また、「ミドルゲージフルジップセーター」には、「瞬殺のジップニットでした」という説明がつき、定価6,990円が22,000円と3倍掛けを超えた。それより安い価格で出品されていた同アイテムの一つは、13日18時の時点で16%値下げの14,800円(即決価格15,000円)。転売目的で購入したものは寒空の下、早朝から並んだために強気の値付けをしたようだが、アイテムによってはなかなか入札もなく、当てが外れたケースもあるようだ。





 この日発売の+Jは「メルカリ」や「PayPayフリマ」にも多数出品されており、これらも転売目的で購入されたのは明らかだろう。ファッションアイテムのようなウォンツ商品は、マスクのように皆が必要とするものではないので、需要を見越して言い値をつけて転売したり、オークションで販売価格をつり上げたりすることは禁じられていない。

 一方で、お客の中にはジル・サンダー本体はあまりに高額(スーツは25万円以上)で購入できないが、同等のデザインやテイストがユニクロアップの価格で手に入るなら、欲しい人々も大勢いるはずだ。こうしたお客が自分のために商品を購入する正当に取引する権利が転売目的の購入によって阻害されている事実を許していいのかである。

 転売を行っているものの中には、出品の説明で「売れなかった場合は自身での着用を考えておりますので、値下げコメントはお控え下さい」「そのため取引キャンセルは禁止でお願いします」と書き込むなど、自分の不公正は棚に上げて身勝手極まりない輩もいる。現状では法規制がないために国家権力が介入することはできないにしても、転売が横行している事実を鑑みると、Yahoo、メルカリなどのネット事業者には責任の一端はある。
 
 ユニクロは今回の+Jについて予め転売もあり得ると想定していたようで、オンライン販売では「おひとり様1商品につき1点まで購入に制限させていただきます」と、表示していた。しかし、総数制限は店舗を含めて行っていないから、転売目的の人間がいろんなアイテムを多数購入したケースも考えられる。しかも、ネット、店舗ともあまりにお客のアクセスが集中したため、一般客の多くが購入できなかったことを、ユニクロ側はどう受け止めているかだ。

 オークションでは、ソフトの海賊版が価格をつり上げられて違法に販売されていることをYahoo側も認識し決済キャンセルを行うほか、不正な取引の監視を強化している。転売については、全てのネット事業者が一般消費者が正当に取引する権利を阻害する行為に直接関与しているわけではないにしても、転売する輩にそうした「場」を提供している責任はあるはずだ。

 これが企業のモラルやコンプライアンスに触れるとは言わないまでも、何らかのルールを持って規制すべき事象ではないのか。例えば、新商品が発売された当日から〇〇日間は取得価格を超える価格で販売またオークション出品は禁止(ネット事業者側がチェックして削除)にするとかだ。転売している多くがユニクロの公式サイトから+Jの写真を転用しているか、置き撮りしているので、チェックするのはそれほど難しくないと考える。

 ジル・サンダーとのコラボ商品とは言え、世界中のユニクロで販売されたマスプロダクトの+Jが「レアな価値」を持つかどうかは、半年や1年先にならないとわからない。だが、少なくともその期間ぐらいはネット事業者が転売やオークション出品を規制してもいいと考える。

 それでも、ネット事業者が自らの収益のために自主規制に乗り出さないのなら、国が一般消費者の権利保護の観点から何らかの法整備に乗り出さなければならないだろう。消費者庁はそのためのお役所でもあるべきだ。どんな制度設計が行われ、どんな法案が国会に提出され審議されるか。ご多分にもれず、野党はもちろん、ユニクロの柳生正社長は反対するかもしれない。でも、法学部卒としてはそれはそれで議論の行方を興味深く見ていきたい。

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